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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
19/52

おまけ:この峡谷渡るべからず

アルフ一行は林の中を歩いていた。

整備されている訳では無いが、比較的安全な歩き易い林だ。


ベルタは上機嫌で呟く。

ベルタ「考えようによっては、呼ばれてる方へ向うというのは、迷う心配が無くて良いわね」

アルフ「おう。途中に崖や海があるかもしれねぇけどな」


アルフの一言で思い返し、気が滅入るベルタ。

ベルタ「そうだったわね。温泉も溶岩湖だった可能性があった訳だし」



しばらく進むとすぐに林は終わり、見晴らしの良過ぎる場所に出た。

見事にフラグを立てたアルフ一行は、切り立った深い峡谷の崖っ縁に立っていた。


アルフ「おー。絶景」

ベルタ「何よ。行き止まりじゃないのよ」


見渡せる範囲には渡れそうな場所は無い。


アルフ「いや。峡谷の向こう側から呼ばれている」


アルフは事も無げに言う。

しかし、何とか底は見えるという程度の、とてつも無く深い峡谷である。


ベルタ「どうやって行くのよ。ここ降りて登るとか、あんたの体力じゃムリだと思うわよ」

アルフ「ジャンプして何とかなる距離じゃねぇしな」


ジャンプと聞いてピンとくるベルタ。


ベルタ「あたしがアルフをぶん投げるから、ロープ持って飛んでみる?」


何の冗談かと怪訝そうな顔で拒否するアルフ。


アルフ「すぐに俺を殺そうとするなよ。呼ばれているのは俺だから、俺だけでも行ける方法がある筈だ」


アルフは峡谷を渡る方法があると信じているようだ。


ベルタ「へぇ。何から呼ばれてるかも分からないのに、呼び主を信じているのね」


アルフは少し考え(た振りをし)て呟く。


アルフ「よし」

ベルタ「峡谷を越える方法が分かったの?」

アルフ「飯にしよう」


そんな所だろうと思いつつも同意するベルタ。


ベルタ「・・・そうね。ただ考えているよりは食事を済ませておきましょうか」


ズッバーン


食事にしようと決めた直後に、聞き覚えの無い凄まじい音が響く。


ベルタ「きゃぁああ」

アルフ「なんだありゃ。水鉄砲?」


近くの岩の裂け目から大量のお湯が噴出しているようだ。


ガルマ「間欠泉だな」

アルフ「吹き上げた水が丁度峡谷を跨いでるな」


アルフの目線を見れば、言いたい事は分かる。

だが正気とは思えないベルタ。


ベルタ「え?まさかあれに飛び込む気?」

アルフ「他に手が無さそうだしなぁ」


思った通りである。

何とか思いとどまらせようと画策するベルタ。


ベルタ「間欠泉て、すっごい熱湯じゃなかったっけ」

アルフ「知らん」

ガルマ「かなり深い所から噴出しているようだ。地表に出る時点では40度程度まで下がっておるな」

アルフ「おー。丁度いい湯だな」


ガルマのいつもの有り難いフォローもここでは逆効果である。

止めなきゃダメでしょと心の中で叫びながら危険性を訴えるベルタ。


ベルタ「で、でも。あんな勢いで飛ばされたら地面に叩きつけられて危険じゃない」

アルフ「知らん」

ガルマ「向かいは池が出来ておるようだ」

アルフ「おー。間欠泉が続いてれば勝手に池になるって訳か」


何でも見通せるというのは、こういう時に厄介である。

お願いだから邪魔しないでと心の中で祈りながら、さらに危険性を訴えるベルタ。


ベルタ「でもぉ!途中で落ちる可能性とか無いの?勢いの弱い時とかもあるんじゃないの」

アルフ「知らん」

ガルマ「それは十分ありえるな」

アルフ「おー。そん時はそん時だな」


ようやくガルマが危険を認めたのにスルーするアルフ。


ベルタ「納得できる訳無いでしょ!」


切れたベルタにアルフはたじろぐ。


アルフ「お、おぉ。んじゃベルタのロープ案を使おうぜ」

ベルタ「へ」


ロープは先にアルフが飛んだ後に、ベルタが渡る為の案なので、意味が分からないベルタ。


アルフ「ロープの片方を俺達に繋いで、もう片方を大木に繋いでおく。それなら落ちても途中で止まるだろ」


要は命綱を付けようという案だった。

だがベルタには間欠泉を使うメリットが分からない。


ベルタ「それならあたしがアルフを投げてもいいじゃない」

アルフ「どんだけ俺を投げたいんだよお前は。間欠泉の方が、丁度池に落ちる可能性は高いと思うぜ」


言われてみれば、その通りである。

ベルタが投げれば確実に峡谷を越える事は出来ようが、コントロールは心もとない。

下手すればアルフは、ミンチか百舌の早贄のようになりかねない。

理解したベルタは渋々了承する。


ベルタ「分かったわよ。やればいいんでしょ」


危険性を主張しながらもマアマに頼らぬベルタを見て、考えあぐねるガルマ。

これは苦難を自力で乗り越えようとする挑戦の意志なのか、それとも脳筋のせいなのかと。


命綱を縛り付けて準備するベルタ。

間欠泉が噴出す直前の蒸気を確認するアルフ。


アルフ「んじゃいくぜい!」

ベルタ「大猪より怖いわよこれ。あんた、よく平気よね」


ベルタはタイミングを見計らってアルフを背中から抱き上げる。

そのまま吹き上げる間欠泉に目を閉じて飛び込む。


アルフ「ひゃっほー」

ベルタ「きゃぁあああああ」


猛烈な勢いで吹き上げられるアルフとベルタ。

無事に届いてくれと、ひたすら祈るベルタに叫ぶアルフ。


アルフ「ベルター!目開けろー」

ベルタ「ムリムリムリー」

アルフ「開けないとやばいぞー」

ベルタ「え!?」


驚いて目を見開くベルタ。

水しぶきの向こうに見えたのは、幻想的な美しい峡谷の上に現れた丸い虹だった。

思わず驚嘆の歓声をあげるベルタ。


ベルタ「うわぁあああ。きっれー」

アルフ「な。見逃したらやばいだろ」


だが感動の光景は一瞬。

直ぐに目前に池が迫る。


ベルタ「いぃやぁあああああ」

アルフ「着水!」


ざっばぁああああん


かなり衝撃はあったものの、二人共無傷で峡谷を渡る事が出来た。

怒り心頭で平泳ぎで岸へ向うベルタと、笑いながら背泳ぎで付いていくアルフ。


ベルタ「絶対に、こんなの旅じゃないわよ。冒険よ。探検よ。あたしは旅がしたいのよ!」

アルフ「おぉ。普通の旅じゃ見れない、最高の光景だったな」


同じ経験をしても、感想は正反対のアルフとベルタであった。


上陸したベルタは、命綱のロープを大木に縛り付ける。


アルフ「何やってんだ」

ベルタ「間欠泉は一方通行でしょ。帰りに備えてロープを張っておかないと」


ベルタの答えを聞いたアルフは不思議そうに呟く。


アルフ「帰りもここを歩きたいのか。俺は瞬間帰還器を使うつもりだったぜ」

ベルタ「・・・それもそうね」


ガルマは確信した。

ベルタがマアマに頼らずに間欠泉を使ったのは、脳筋のせいであると。


脳筋はベルタを苦難へ向わせる事に役立っている。

だが自力だけでは対処できない苦難に遭遇した時にはどうなるのか。

周囲を活用出来ずに克服出来ない可能性が高いだろう。


どう助言したものか、とガルマは考える。

ここはマアマに・・・おや?


アルフ「あれ?マアマは?」

ベルタ「え?」


背中に背負っている筈のマアマが居ない。

顔面蒼白になるベルタ。


ベルタ「いやぁあああああ!マアマさん、落としちゃった!?」

マアマ「あい」

ベルタ「・・・へ?」


崖下に落としたと思ったマアマは、ベルタの背に戻っていた。

何が起こったのか理解出来ずに混乱するベルタ。


いい加減に理解しろと言わんばかりにガルマは説明する。


ガルマ「マアマにとっては、この世界の上ならどこでも一緒だと言ったであろう」

ベルタ「へ」

ガルマ「どこに居ようが、お主が呼べば戻るであろう」


峡谷の深さを再確認するベルタ。


ベルタ「呼べばって。峡谷の下まで、あたしの声が届いたのですか」

ガルマ「全ての物質を統括しておると言ったであろう。音は物質の振動だ。全ての音をマアマは把握している」


理屈で説明されてもベルタには感覚的に理解出来ない。


ベルタ「もう訳が分かんな過ぎです。でも良かった~」

マアマ「あはははは」


説明はしたものの、マアマが落ちた理由については分からないガルマ。

マアマが落とされるという事態はありえない。

峡谷の下に何かが有るとしても、マアマなら落ちずにどうにでも処理出来る。

明らかに自ら意図的に、落ちる必要が無いのに落ちたのだ。

ただの遊びか?

或いは・・・マアマの存在のアピールにより、周囲の活用をベルタに促したのか。


答えはその両方だった。

大願の手前、ベルタが自力で為そうとする事に口を出す気は無いが、あまりにもマアマを頼ってくれない。

ベルタを気に入ってはいるが、遊ぶ機会が少な過ぎて不満なのであった。


ベルタ「よぉし。これに懲りて今後はちゃんとマアマさんを」

ガルマ「お」

ベルタ「腰紐に縛り付けておきましょう」


一瞬、流石はマアマと感心したガルマだったが、ベルタの脳筋は筋金入りだった。


ガルマ「・・・脳筋とは手強いものだな」

マアマ「つよすぎー」

ベルタ「は?」



池の周囲は密林になっていた。

雰囲気がおかしい事にアルフが気付く。


アルフ「密林なのに、獣が襲ってくる気配がねぇな?」

ベルタ「そうね。居ない訳じゃないとは思うけど見当たらないわね」


アルフは間欠泉のせいで食事をしていない。

差し迫った危険が無いなら飯を食うべきだと考えていた。


アルフ「こんだけ茂っていると飯食う場所もねぇな。お」


木々の途絶えた空間がアルフの目に入った。

広場になっていそうだと考えて先導する。


アルフ「こっちで飯食えそうだぞ。うぉ?」


アルフが砂に足を捉われて倒れる。

そのまま砂に飲み込まれながら流されて行くようだ。


ベルタ「アルフ!何これ流砂?」

ガルマ「蟻地獄だな」


ベルタにはピンとこない。

本来蟻地獄とは、人の足で踏み潰してしまう程に小さいものである。


ベルタ「蟻地獄って。蟻を捕まえる罠を仕掛ける、小さい虫の事ですか?」

ガルマ「ここのは大きいようだな」


ベルタは危険を察する。

アルフが運ばれて行く先に虫が見える事を確認する。


ベルタ「とにかく中央に居る虫を潰せばいいんですね」


ベルタは近くの大岩を持ち上げて、虫にめがけてぶん投げる。

大岩はアルフの上を越えて虫を押し潰した。


アルフ「うぉぉ。大岩に潰されて死ぬかと思った」

ベルタ「投げなきゃ、あんた食べられてたわよ。蟻地獄の毒って猛毒らしいわよ」

アルフ「お、おぉ。サンキュー。獣の気配が無いと思ったら、こんなのがうじゃうじゃ居るのかね」


アルフとベルタは安堵して一息ついている。

しかし、あまりに運任せの対応だ。

手元が狂えば潰れていたのはアルフなのだ。


脳筋とは自力では改善できぬのか。

ガルマは諦めて助言する。


ガルマ「ベルタよ。もし近くに大岩が無かったら、どうするつもりだったのだ」

ベルタ「え。小石でも何でも投げて」

ガルマ「それが効かなかったらアルフはどうなっていた」

ベルタ「・・・」


ベルタに問題点を自覚させる事は出来た。

続けて、過去のベルタの誓いを指摘するガルマ。


ガルマ「周囲の力を借りる事にも配慮する。お主が自ら誓った言葉だ。急を要する時ほど意識せよ」

ベルタ「そっか。マアマさんが居るんですよね。ダメだなあたし。全然成長しないや」


ベルタはようやくマアマの活用を意識した。

だがマアマに依存し過ぎると堕落する事になる。

ガルマは程度をフォローする。


ガルマ「ギリギリまで自力で挑戦する事は望ましい。だが間に合わぬ可能性がある時にはこだわるな」

ベルタ「はい。こだわりは無いと思うのですが、気が回らないんですよね。とにかく何とかしなくっちゃって」


まさにその通りなのだろうなと、今までのベルタの挙動を思い返すガルマ。


ガルマ「うむ。常に意識する事でクセを付けるしか無かろうな」

ベルタ「はい。最終的に自分でやるにしても、まずは使える手を全て考えるべきという事ですね」


ようやくベルタの脳筋問題が進展しそうである。

マアマも喜んで応援する。


マアマ「べるたー。がんばれー」

ベルタ「ありがとマアマさん。いざという時はお願いします」

マアマ「おいらにまかせろー」

ベルタ「とりあえず。マアマさんを背負うのをやめて、持ち歩くようにする事で、意識を向けてみましょうか」

マアマ「わーい」


早速ベルタはマアマを手に持つ。

密林の先を見据えて行動を決める。


ベルタ「とりあえずこの密林は危険ですね。早く抜けましょうか」


もう見落とさないとベルタは気負う。

そんなベルタに、早速アルフが指摘を入れる。


アルフ「いや。それは違うぞベルタ」

ベルタ「え。またあたし何か見落としてる?」


アルフは得意満面に勿体付ける。


アルフ「おぉ。今一番優先すべきは」

ベルタ「すべきは?」

アルフ「飯だ」


脱力しつつも納得するベルタ。

アルフならそんな所だろうと。


ベルタ「そうね。間違ってはいないわね。この大岩の上なら周囲も見張れるし、ここで食べましょうか」


一行は周囲を警戒しながら食事を始める。


ベルタ「蟻地獄の周囲に死骸が幾つか見えるんだけど。あれって獣じゃなくて大きな虫?」

アルフ「蟻地獄がでかいなら、他の虫もでかいのかもな」


ぞっとしながらも尤もだと思うベルタ。


ベルタ「大きな虫の密林かぁ。聞いた事は無いけど。あってもおかしくは無いわね」

アルフ「主が居るとしたら虫なのかな。蜘蛛とか蠍とか。そういや大蛇が主の森もあったな」


ベルタも大蛇を思い出して比べる。


ベルタ「あの森は、主以外は普通に見えたけどね」

アルフ「あそこの獣は美味かったな。虫がでかくなっても美味くは無さそうだ。ここに用はねぇな」



「よもや、このような所へ竜人様がいらっしゃろうとは」


突然聞きなれない声が響く。

まさか密林の主の話をしていたから当人がやってきた?と焦るベルタ。

だがそれにしては人の言葉だ。


ベルタ「だ、だれ?」


周囲には誰も見当たらない。

と思ったら上から小人がゆっくり降りてきた。

仕組みは分からないが浮いているのだ。


小人「ようこそ我が領域へ。私はここで、魔道と生命について研究をしておる者です」

ガルマ「ホムンクルスか」


小人は人の子供に見える。

だが、人の身体では無いらしい。


小人「はい。人の体はあまりに寿命が短い故、このような姿で応じる他ありませんでした。お赦し頂きたい」

ベルタ「失礼ながら子供に見えるのですけど。もしかして、とっても御年配なのですか?」


小人の話振りから年配者だと察したベルタは尋ねる。

照れたように小人が答える。


小人「竜人様の前で申し上げるのは恥ずかしい程度ですが。既に千年程は生きております」

アルフ「何でこんな危ない場所に住んでるんだ」


アルフは相手が誰であろうと、殆ど区別をしない対応をする。

子供だろうと年配だろうと竜人だろうとだ。


小人「魔道は禁忌となっておる故です。人目につかず広大な場所を求めた結果、ここに辿り着いたのです」

ベルタ「やはり魔法を極めるのは大変なのですね。研究機関などは無いのですか」


一つの高位魔法に百年を思い出していたベルタ。


小人「ありますとも。ただ私には、本や設備に埋もれた生活は合わなかったのです」

ガルマ「ほぉ。学ぶよりも拓く事を選んだか」


ガルマは小人の答えに感心した様子。


小人「稚拙なれど。人が前に進む上で必要であるとの考えに至りました」

ガルマ「今の世界の人は好ましい傾向が多い。我は嬉しく思う」


ガルマの言葉に小人が反応する。


小人「既に滅ぼされた世界が在る事は承知しております。同じ過ちは繰り返さぬ所存でございます」

ガルマ「千年も生きておれば他の者に聞く機会もあったか」


小人は竜に連なる者と遭遇していたようだ。


小人「数々の貴重な助言を頂きました」

ガルマ「ならば我から言う事は無さそうだな」


小人の態度から、先人の教えが十分且つ正しく伝わっているとガルマは認識した。


小人「まずは先に頂いた助言を活かしたいと考えております。ところで、こちらへはどのような御用向きで?」


小人がここに現れたのは、アルフ一行が自分に会いに来たのだと思ったからであった。

ところが話をしてみた感じ、どうも様子が違うと気付いて目的を確認する事にした。


アルフ「あっちから呼ばれててさ。何があるかは知らねぇけど」


アルフの指す方を見て、何か思う事がありそうな小人。


小人「あちら・・・ですか」

ベルタ「何か問題でも?」


ベルタの問いかけに、小人は申し訳無さそうに答える。


小人「この密林を抜けた先であれば問題無いのですが。密林の中は私めの研究成果で、虫が危険な状態でして」

アルフ「ぶ。この蟻地獄も研究成果だったのかよ」


アルフの反応で、既に虫と遭遇していた事に気付く小人。


小人「おや。これは失礼しました。既に御迷惑をおかけしてしまっておりましたか」

ガルマ「気にするな。我らが勝手に踏み入ったのだ」


小人はガルマの言葉に礼を返す。

そして懐から石のような物を取り出してベルタに渡す。


小人「は。竜人様が御一緒なら心配する事は無いと思いますが・・・一応これをお渡ししておきましょう」

ベルタ「わぁ綺麗ですね。何かの宝石ですか?」


石のような物は半透明で美しく、内部に動く模様が透けて見える。


小人「私の研究成果の一つ、虫避けの魔アイテムです。虫が寄ってこなくなり、近づけば行動不能になります」

アルフ「おぉ。また蟻地獄に落ちても安心てことか」


喜ぶアルフを見て、ここで何が起こったのかを察する小人。


小人「これ以上、御迷惑をおかけしたくはありません。お持ち頂けると嬉しく思います」

ベルタ「凄く助かります。ありがとうございます」


他に出来そうな事は無いと判断した小人は去る事にする。


小人「では。私めへの用件では無かったようですので、これにて失礼させて頂きます。良い旅路を」

ガルマ「うむ」

ベルタ「研究がんばって下さい」


小人は再び浮き上がり消えていった。



ベルタは小人を見送って呟く。

このような危険な場所に篭ってでも研究に打ち込む姿勢に興味が湧いていた。


ベルタ「魔道と生命の研究と言っておられましたね」

ガルマ「恐らくは人の延命が目的であろうな。進化を目指すには、あまりにも時間が足りぬと考えたのだろう」


小人当人は既に千年以上生きている。

それはつまり、と察するベルタ。


ベルタ「自分の為じゃなくて、他の人の進化の為に頑張っておられるという事ですか」

ガルマ「辛く哀しい生き様だ。だが己で選択した道に悔いはあるまい」


誰も居なさそうな場所で千年以上も研究を続けている。

それは確かに、辛く哀しい事だろうとベルタは思う。


ベルタ「そうですね。でも人の寿命が延びれば、進化出来る確率も増えるのでしょうね」

ガルマ「それなら最初から人の寿命を長く設定しておる」


ガルマは、応援しているかのように見えた研究を否定する。


ベルタ「え。長生きしてもダメなのですか」

ガルマ「バランスの問題だ。短過ぎても無論ダメだが、長くすると何でも先送りにしようとする」


ならばガルマは、なぜ小人に教えてやらなかったのだろう。


ベルタ「では、あの方の研究は無意味なのでしょうか」

ガルマ「人の進化という点に於いてはそうだ。だが、あやつ自身の成長に関しては大きな意味がある」


ベルタは、小人が研究を成した時の気持ちを察する。

そしてガルマの言葉を反芻する。


ベルタ「辛く哀しいとは、そういう意味でもあったのですね」



食事を終えたアルフ一行は密林の中を進む。

見るからに危険そうな巨大蜂なども見かけた。

だが、虫避けの魔アイテムの効果は絶大で、全く寄って来なかった。


アルフ一行は密林を抜けた先で、再び切り立った深い峡谷の崖っ縁に立っていた。

が、傍らに半透明の美しく大きな橋がかかっていた。


アルフ「なんだこの透けた橋は。渡って大丈夫なのかこれ」

ガルマ「さっきのホムンクルスが、我らが抜けるまで橋を出しておくと言っておる」


アルフは感心しながら足で橋をつつく。

安全性を確認しているのだ。


アルフ「すっげー。これも魔道ってやつの成果か」

ガルマ「この密林は峡谷に囲まれておる故、普段は人や虫が出入りせぬように橋を外しておるらしい」


ガルマの説明を聞いたベルタが、怪しいオーラを纏いながら問う。


ベルタ「密林が峡谷に囲まれてるって事は・・・迂回すれば峡谷を越えずに橋の先まで来れたって事ですか?」


ガルマはベルタの気配に恐ろしいものを感じながら肯定する。


ガルマ「そうなるな」


今のベルタは常時マアマを手にしている。

今迄とは、やばさの桁が幾つも違うのだ。

ガルマですら警戒するほどにだ。


ベルタ「アールーフー」


尋常でないベルタの迫力に、アルフは必死で保身を図る。

ベルタの怒りの原因と大きさはアルフにも理解出来ていた。

間欠泉では命の危険を冒し、マアマまで失いかけたのだ。

それは迂回すれば回避出来ていた事なのだ。


アルフ「え。いや、まてよ。俺にだって、迂回出来るかなんて分からなかったんだしさ」


アルフの言い訳を遮るようにベルタが叫ぶ。

もし僅かでも攻撃の意志があれば、マアマが全てを破壊しかねない程の怒りを漲らせて。


ベルタ「あんたの呼び主に言ってやりなさいよ。迂回路くらい示せって!」

アルフ「はい!」


アルフは反射的に直立不動の姿勢をとり、今迄に使った事も無い言葉で返答していた。


ガルマは考えさせられた。

もう少し成長するまで、ベルタは脳筋のまま放っておくべきだったかなと。


ベルタはアルフの反応で正気を取り戻す。

ベルタ「あ、ごめん。怒り過ぎよね。あたしが勝手についてきてるのに」


ベルタの怒りを見たアルフは、本気で反省していた。

ベルタが旅に同行を決めた時に、今回のようなケースは考えていた筈だった。

死んだらその時なんて考えは捨てなければ、と意識していた筈だったのだ。

それがどうして、あんな軽はずみな言動をしてしまったのか。


アルフ「いや俺が悪かった。流石に考え無さ過ぎだったな。凄い力ばかり見てきて麻痺してたのかもしれん」


ベルタは気付いた。

アルフが本気で反省している事に。

そして失敗の原因についても、ベルタにも過失がある事に。


ベルタ「あはは・・・そうね。あたしがマアマさんにお願いしていれば、無茶もしなくて済んだのよね」


一段落した所で、アルフはもう一つの後悔を清算しようと決めた。

ベルタが旅に同行を決めた時の、アルフの言い訳を。


アルフ「反省ついでにもう一つ。勝手についてきてるって言葉はもうやめようぜ」

ベルタ「え」

アルフ「本当は俺だって同行を頼みたかったんだ。でもそんな無茶を頼める筋合いも無かっただけだからさ」


ベルタはアルフの本音を聞けて安堵する。


ベルタ「うん。一緒に旅を続けよう。アルフ」

アルフ「おお。改めて頼むぜベルタ。呼ばれる方向については祈るしかねぇけどな・・・」



アルフ一行は峡谷を渡り密林を後にした。


ガルマは、今後の関与をどうすべきかと考えていた。

元々の表向きの理由は、子供だけの旅が不安だからと申し込まれた同行であり、受けた以上は護るのが筋だ。

だが当時とはあまりにも状況が変わっているのだ。

護るどころか、苦難を与える方が難しい程に。

これはもしや我への試練なのかと疑問すら湧いてきていた。


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