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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
16/52

おまけ:救われる怖さ

アルフ一行はすんなり町に着いた。

アルフに都合が良過ぎて、本当は行き先が分かっているのでは無いかと疑うベルタ。


アルフ「早速浮き輪を買っておこう」

ベルタ「そうね・・・」


上機嫌のアルフに対して不安げなベルタ。

両者が町に入る時の、いつもの雰囲気とは真逆である。


マアマを背負っているお陰で、町人の視線がベルタに釘漬けになっているのである。

ガルマはフードを被っているので、近づいて正面から見ない限りは目立たない。

だがマアマは派手に発光し、オーラを纏っているので遠目にも非常に目立つ。

かと言って何かに包んで隠してしまうのも可哀想な気がする。

そこでベルタは懸念しながらも、いつものようにマアマを背負ったまま町に入っていた。


ガルマが察してマアマにこっそり告げる。

ガルマ「マアマよ。オーラを不可視化してやるがよい」


マアマにはその意図が掴めなかったが、ベルタの様子を見て直ぐに察する。

マアマ「あい」


マアマは発光とオーラを不可視化した。

モーニングスターの外観は、マアマが宿る前の状態に戻った。

オリハルコンとしての輝きのみを放っている。


人は普通、武器の見た目が派手になると喜ぶのだ。

それ故マアマは、ベルタが嫌がるとは思ってもみなかったのだ。

ベルタとの付き合いはマアマよりも長いガルマの功である。


突然光を失ったモーニングスターを見てベルタが慌てる。

ベルタ「え?マアマさん?マアマさんが消えちゃった!?」

マアマ「大丈夫ー」


マアマの反応で座り込んで安心するベルタ。

ベルタ「びっくりしたぁ。そうか、見た目も物質だから制御できるのですね」

マアマ「あはははは」

ベルタ「ありがとうございます。この先どうしようかと悩んでました」

マアマ「べるたー。いいこー」


ベルタの不安が解消されたようで喜ぶマアマ。

だがアルフは不満そうだ。


アルフ「武器は盗賊避けとして、威嚇する為の見た目が欲しかったんだろ。光ってた方がいいと思うけどな」

ベルタ「その通りなんだけど。威嚇を通り越して目立ち過ぎだったのよ。注目浴びてたわよ」

アルフ「あー確かに。目立つと逆に狙われる理由にもなるか」



一段落したので買い物を始める。

既に顔を覚えられているので、この町に滞在中の注目は避けられないようだ。

萎縮する店員に申し訳無い思いで接するベルタ。


アルフは無頓着に買い物を進める。

アルフ「魚置き場には、この浮き輪。俺が乗って釣るのには、このビーチマット。それから・・・」

ベルタ「とりあえずそんなもんでいいでしょ。店員さん、これでお幾らですか」


店員は顔を伏せたまま震えながら答える。

店員「献上致します。どうぞ御自由にお持ち下さい」


ベルタは、そこまで怯えるような事か?と疑問に思う。

実際、町人が怯えているのはマアマによる外観のせいでは無かった。

一つには、ベルタに注目したせいで、傍に立つガルマの存在にも気付いたせいだ。

もう一つには、ベルタがやばすぎる噂の主である事に気付いた者が居たからだ。


怯える原因はさておき、無料で貰っていく訳にもいかない。

ベルタは値札を確認して代金を置いていく。


ベルタ「値札の代金分、置いていきますね」

店員「ははぁ」

アルフ「ベルタは律儀だな」

ベルタ「何言ってんのよ。当たり前でしょ」


用件を済ませたら直ぐに町を出ようと思うベルタだった。



そんなベルタを観察していた男が路地裏の暗闇へこっそりと走りこむ。

「どうだ?」

「あんな材質見た事ねぇ。超レア品なのは確かだ。確信はねぇが、恐らくはオリハルコンてやつだろう」

「あんなガキが持ち歩くもんじゃねぇよな」

「竜人が拾ったのをくれてやったんじゃねぇか」

「そんな所だろう。竜人にはどんなお宝もゴミと一緒だろうしな」

「粛清しにきたって感じでもねぇな」

「あぁ。だったらやるしかねぇだろ」

「万に一つも逃したくねぇ獲物だ。人を集めるぞ」

「金に糸目はつけてられねぇ。何日でも町を包囲できるだけ集めねぇとな」

「ただ、ベルタって名前。何か聞き覚えがあるんだよなぁ。何だったかなぁ」

「あんなガキが有名な訳ねぇだろ。似た名前の別人が居るだけじゃねぇのか」

「それもそうか」

男達はどこかへ走り去った。



アルフ一行は買い物を終える。


早速町を出ようとするベルタ。

ベルタ「さぁ行きましょうか」


アルフは誤解している。

アルフ「おぉ。飯の美味そうな宿がいいな」


ベルタは明確に旅の再開を促す。

ベルタ「この町は泊まらなくていいんじゃない?さっさと次へ行きましょう」


ベルタの言動を意外に思うアルフ。

アルフ「おぉ?ベッドが恋しくないのか。ベルタらしくねぇな」


仕方ないでしょという素振りで説明するベルタ。

ベルタ「そりゃ恋しいけどさ。この町では注目浴び過ぎてて居ずらいのよ」


理解はするが宿の飯が気になって再考を求めるアルフ。

アルフ「あとは飯食って寝るだけだろ?そこまで気にすんなよ。もう日が暮れるぜ」


ベルタもアルフの言う事は尤もだと納得する。

ベルタ「そうよねぇ。気は進まないけど、宿の方には耐えて頂きましょうか」

アルフ「そうそう。あっちも商売なんだから気にする事はねぇ」

ベルタ「無料奉仕しようとする事を商売とは呼ばないと思うけどね・・・」


アルフ一行は宿で一夜を過ごし、明朝早々に町を出た。



アルフ一行が町を出て、少し進んだ所で大勢の人影が待ち構えているのが見えた。


「待ちな」


盗賊団が道を防ぐ。

目の前だけでも百人は居ようか。


即座に瞬間帰還器を使って町へ戻ろうとするアルフ一行。


盗賊「おっと。逃げてもムダだぜ。町は包囲してある。出てくるまで何日でも待ち伏せるぜ」

一晩の間に集めて配置したようだ。眠そうな連中も多い。


瞬間帰還器の飛び先は最後に通った拠点か、最寄の拠点か、登録済みの一箇所のみ。

次の行き先を登録していない限りは結局この道を通らねばならない。

行き先が分かっていれば登録済みの瞬間帰還器を購入する手もあるが、アルフ一行は行き先不明なのである。


アルフ一行が行き先不明の旅をしている事は、盗賊には知る由も無い。

瞬間帰還器の購入対策を考えていないのは、単に盗賊がマヌケなだけであった。

しかしアルフ一行にとっては有効打となっていた。

この人数では盗賊避けの罠アイテムでは処理しきれないだろう。


アルフは平然と告げる。

アルフ「逃げてから警備兵を連れてくるぜ」


そのくらい考えてあると言わんばかりに盗賊が答える。

盗賊「へへ。警備兵がどこまで追ってくるかね。俺達は安全な場所まで離れて待ち構えるだけさ」


ベルタはガルマの陰に隠れながら尋ねる。

ベルタ「ガルマさんが一緒なのに怖く無いのですか」


盗賊は余裕で答える。

盗賊「竜人様が粛清に来てたなら、とっくに町は消えてるさ。今俺達が無事って事は、その気が無いって事さ」


ただのマヌケかと思いきや、ある意味町人達よりも竜人について理解をしている模様。

でもだからと言って、その連れを襲うかと正気を疑うベルタ。

ベルタ「ガルマさんは、あたし達の旅に同伴してくれているのですよ」


盗賊は首を振りながら答える。

盗賊「お前らが勝手に付いてるだけだろ。竜人様が人を護る訳ねぇ。人同士のいざこざなんざ気にしねぇよ」


ガルマは頷き、盗賊の言葉に理解を示す。

ガルマ「確かに。我が護る理由は無いな」


ガルマの意外な態度に慌てるベルタ。

ベルタ「ガルマさん?これも自力で乗り越えるべき苦難なのですか?」


ガルマはこっそりベルタに忠告する。

ガルマ「我は以前、マアマに手を出すなと言ったであろう。ベルタの護りは罠アイテムに任せよと」

ベルタ「はい。ですが罠アイテムで対処できる人数では」


ベルタの反論を遮ってガルマが続ける。

ガルマ「もしここで我が手を出したら、この先はマアマの抑えが効かぬぞ」

ベルタ「ひ」


一瞬で青ざめるベルタ。

それだけは何としても避けねばならない。

恐らくはベルタに危害が及ぶとみなせば無条件に何でも消滅させる事になるであろう。

悪意の有無などマアマには関係無い。

よろけた人がベルタにぶつかりそうになっただけでも、ベルタが気付く前に消される事になりかねない。


恐怖にひきつるベルタの顔を見て、恐怖の原因を勘違いする盗賊。

盗賊「ほらな。竜人様は助けてなんてくれねぇだろ。観念しな嬢ちゃん」


あのおぞましいまでの、ベルタの噂を知らぬとは・・・と哀れむように盗賊を見つめるガルマ。


自力で何とかするしかないと覚悟を決めるベルタ。

ベルタ「何が目的ですか」


盗賊はベルタが背負うモーニングスターに視線を移す。

盗賊「町で見たぜ。派手に輝くモーニングスター。今はあんまり光ってねぇが、それオリハルコンてやつだろ」


アルフが感心する。

アルフ「なるほど。ベルタの懸念通りになったな。やっぱ光らせるのはよくねぇか」


ベルタはマアマを抱きしめ、毅然と答える。

ベルタ「この子は譲れませんよ」


盗賊は動じずにベルタを諌めようとする。

盗賊「そいつはお嬢ちゃんが持ち歩くような代物じゃねぇんだよ」


全くその通りだと同意するベルタ。

何で、ただの村娘のあたしが、こんな事になったのかと改めて思う。

ベルタ「それはあたしも自覚してますけど」


少し拍子抜けした感じの盗賊。

盗賊「だったら話は早ぇ。こっちによこしな。俺達全員が当分は遊んで暮らせる代物だ。絶対に頂く」


盗賊はベルタがモーニングスターを差し出すのを待っているようだ。

余裕なのだろうが、襲って来ない者をベルタから攻撃する気にもならない。


対応策がまとまらないベルタが嘆く。

ベルタ「困っちゃったな」


だが考える必要など無いとばかりにアルフが答える。

アルフ「ぶっとばせばいいんじゃねぇの」


やれやれとばかりに答えるベルタ。

ベルタ「あんたを殴るのとは訳が違うのよ」


アルフは納得がいかない。

アルフ「俺は殴るのに盗賊は殴らないのかよ。俺の扱い酷くね」


状況が違う事を説明するベルタ。

ベルタ「この人達は本気なのよ。一方的に殴らせてくれる訳ないじゃない」


一層納得出来ないアルフ。

アルフ「俺は一方的に殴らせなきゃいけないのかよ」


詰まったところでマアマが介入を提案する。

マアマ「あそぶー」


マアマのお手並み拝見とばかりにガルマは注目する。


だがベルタは、襲ってきた盗賊の身ですら案ずる。

犯罪者とは言え、危害を加えずに物だけ盗ろうする相手に、マアマの神罰はあまりに重過ぎると感じるのだ。

ベルタ「マアマさん・・・助けては欲しいけど、盗賊でも消しちゃったりはしたくないのよ」


いつもの如く一言で了承するマアマ。

マアマ「大丈夫ー」


マアマの一言では、一抹の不安を拭えぬベルタを、アルフがフォローする。

アルフ「いつもの狩りみたいに、結果をイメージすりゃいいんじゃねぇの」


アルフの一言でピンとくるベルタ。

ベルタ「結果かぁ。みんなおとなしく警備兵に捕まってくれればいいんだけど」

マアマ「おっけー」


何となく思いついた理想的な結末を、即時に肯定するマアマに驚くベルタ。

ベルタ「え?そんな適当でいいの?本当に?」

マアマ「どっかーん」


ベルタ達が話し終えるのを見計らって、盗賊が歩み寄ってくる。


盗賊「覚悟は決まったか?俺達が欲しいのはその武器だけだ。素直に寄こせばあとは見逃してやるよ」


盗賊にしては紳士的な態度と言えなくもない。

根が悪い人達では無いのだろうなと更生を願いつつ、ベルタは申し訳無さそうに一言告げる。


ベルタ「観念して更生してくださいね」

盗賊「へ」


ベルタは盗賊達の行く末をイメージしながらマアマを振りかぶり、大きく一振りする。


盗賊「バカかお前は。そんなもん振り回して。俺達全員を相手にする気か」


盗賊は意に介さず、笑いながらベルタに近づこうとする。

だが体が動かない。


盗賊「な?どうなってんだ。身体が動かねぇぞ」


続けて盗賊とベルタの間に大勢の警備兵が現れる。


アルフ「なぁる。町から警備兵を魚みたいに釣ったのか。こりゃ大物だわ」

マアマ「あはははは」

警備兵「な?ここはどこだ?」


混乱し、状況を確認しようとする警備兵達。


一瞬呆気に取られたベルタだが、イメージ通りの状況なので即座に正気を取り戻し、警備兵に助けを求める。


ベルタ「そこの盗賊団に襲われています。助けて下さい」

警備兵「何?」


ベルタの訴えを聞いて盗賊達の顔を見る警備兵。

警備兵「あぁ!貴様ら、指名手配中の盗賊団!そこを動くな」


混乱していた警備兵が状況を認識し、一斉に盗賊団を取り押さえていく。


盗賊は抵抗はおろか逃げようともしない。

盗賊「動きたくても動けねぇんだよ!」


あっという間に無抵抗の盗賊団は一掃された。


ガルマは面白そうに頷きながら呟く。

ガルマ「このような者共でも導く手はあるものだな」


張り詰めた緊張が解けてへたり込むベルタ。

ベルタ「あぁ・・・怖かった。マアマさんありがとう」

マアマ「べるたー。よしよしー」


一段落した所で警備兵がベルタに報告にくる。

警備兵「盗賊退治に御協力頂き感謝します」

ベルタ「いえ、こちらこそ助けて頂いてありがとうございます」


警備兵は、唯一事情を知っていそうなベルタ達に現状の説明を求める。

警備兵「ところで、我々は何故ここに居るのでしょう?町に居た筈なのですが。何か御存知ですか?」

ベルタ「はい。その、それはですね・・・」


素直に話すとややこしくなりそうで、目線でガルマに助けを求めるベルタ。

その目線で警備兵はガルマの存在を確認する。


警備兵「これは竜人様。なるほど、人の所業は人で解決せよとの御采配ですね。お心遣い感謝します」


警備兵は勝手に納得し、一礼して去っていった。


ベルタはガルマに謝罪する。

ベルタ「すいません。ガルマさんのせいにしちゃったみたいで」


ガルマはいつもの事と気にかけても居ない。

ガルマ「良い。我を理解しておる人など居らぬ。勝手に勘違いさせておけ」

ベルタ「・・・そうですね」


寂しい言葉だなと思うベルタ。

自分なら理解していると言いたい。

だが本当に理解出来ていたなら大願は成就している。

現状では全く理解出来ていないのであろうという事をベルタは自覚していた。


ベルタ「でも、あたしは、少しでも理解したいと思います・・・」

マアマ「べるたー。いいこー」

ガルマ「うむ。期待しておるぞ」

アルフ「俺もー」


アルフの相槌だけは華麗にスルーされた。



アルフ一行は旅を再開した。


捕まった盗賊達は全員更生したらしい。

本気で更生するまで身体が動かないままだったのだ。

その過程で、彼等はベルタを崇める敬虔な信徒になったそうだ。


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