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あたしのせいじゃなーい  作者: わかいんだー
本章~ファンタジックな旅の日常~
14/52

おまけ:ガルマ覚醒

アルフ一行は、山中なれど盆地で見晴らしの良い場所を歩いていた。

広大な花畑の様相で空気も景色も良い。


ベルタはこの場所が気に入ったようだ。

ベルタ「こういう場所は一日中寝っころがって居たくなるわね」


一方でアルフは微妙な様子。

アルフ「でも肉が来ねぇな」


肉にしか興味を示さぬアルフに呆れるベルタ。

ベルタ「肉肉肉って。動物とか獣って言いなさいよ」

アルフ「お?おお。食えない動物はどうでもいいからなぁ」


既に陽は高く昇っていた。

ベルタ「そう言えばお昼が近いけど・・・携帯食料だけになりそうかな」

マアマ「あそぶー」


移動中はマアマを放置状態だったのを思い出すベルタ。

ベルタ「はいはい。ここなら壊れて困る物も無さそうだし存分に遊べるかも」

マアマ「ごはんー」


マアマから予想外の要望に戸惑うベルタ。

ベルタ「へ?マアマさんは食べられないんじゃないの」

マアマ「鳥一杯ー」


アルフが空を見上げる。

アルフ「あぁ~。群れ成して飛んではいるな。やっぱ弓を使えたらなぁ」


エア弓で鳥を狙う振りをするアルフ。

ベルタ「そうねぇ。さすがにあれじゃ遊ぼうにも殴りにいけないわ」

マアマ「あそぶー」


傍観していたガルマがため息を付く。

ガルマ「温泉の天井を破壊した時は、武器が届く位置から殴ったのか?」


はたと思い出すベルタ。

ベルタ「え?・・・あ、そうか。マアマさんは遠くでも狙えるのか」


ガルマは呆れて呟く。

ガルマ「お主の着想は素晴らしいと感心しておったのに。こんな事に気付かぬとは、分からぬな」


アルフは当然とばかりに答える。

アルフ「ベルタは脳筋だからな。何でも自分の力でやれる事で考えてるぞ」


ガルマは納得する。

ガルマ「それは素晴らしい事だ。だがその上で周囲の活用も考えるべきだな」


ベルタは忠告を受け入れる。

ベルタ「そうですね。マアマさんとの遊びも兼ねて、日課で毎日狩るのは良いかもしれませんね」


ガルマはベルタの理解度が不満のようだ。

ガルマ「お主は未だマアマの力を過小評価しておるようだな」


ベルタは素直に指摘を認める。

ベルタ「何でも出来ちゃうのは屋根復元で痛感しましたけど。何がやれるかまでは思い至りませんね」


ガルマはベルタにアドバイスを試みる。

ガルマ「全ての物質はマアマの手の内にあるも同然だ。お主が明確にイメージ出来るなら何でも出来よう」


普通は誰でも喜びそうな指摘に対し、不安そうなベルタ。

ベルタ「何でも・・・ですか」


ガルマは周囲の景色に視線を移し、具体例を挙げて続ける。

ガルマ「視界にある木々を黄金に変える事も、夜空に輝く星々を打ち砕く事も」

アルフ「すっげぇ」

マアマ「ガルマー」



何か哀しそうなマアマの声でガルマが異変に気付く。

ベルタが目に涙を浮かべ、微かに身を震わせながら、ガルマを凝視している。


ガルマは驚いて問う。

ガルマ「ベルタよ、どうした」


ベルタは唇を震わせながら、声を絞り出すように答える。

ベルタ「あたしには・・・もう望みが無いのでしょうか」


ベルタの涙が零れ落ちる。

望みが無い?

ガルマは直ぐに察して動揺する。

この我が何という失態を。


ガルマ「ベルタよ。深読みし過ぎだ。マアマの力の説明に意識が寄り過ぎての失言に過ぎぬ。許せ」

ベルタ「本当に・・・」

ガルマ「お主の懸念通りだとすれば、我がここで失言を認める訳があるまい」

ガルマ「・・・はい」

ガルマ「こういう所は恐ろしい程に気が回る。お主は優れてはおるが、バランスが偏り過ぎておるな」

ベルタ「申し訳ありません。周囲の力を借りる事にも配慮するよう、気をつけます」


ガルマとベルタのやり取りを理解出来ないアルフ。

アルフ「さっぱり分かんねぇな。ベルタは何で泣いたんだ」


ベルタが答える。

ベルタ「あたしはもう進化の可能性が無いって、見限られちゃったのかと思ったら涙出てきちゃった」


聞いても理解出来ないアルフ。

アルフ「そんな事は言ってなかったぞ?マアマの力がすげーって話だった」


ベルタは説明を加える。

ベルタ「あたし達は苦難を乗り越える事で成長するの。でもその苦難を取り除け、諦めろと言われたみたいで」


アルフも理解に至る。

アルフ「あー。何でも黄金に出来るってやつか。でもベルタなら大丈夫と思ったから言ったんじゃねぇの」


今度はベルタがアルフの言葉を理解出来ない。

ベルタ「え?」


アルフは思ったままを話す。

アルフ「頼まれなくても勝手に荷物集めて運ぶような奴がさ。楽な道を選ぶ訳ねぇじゃん」


ベルタが笑う。救いになったようだ。

ベルタ「あはは。そうだといいな・・・」



その通りだ。ガルマは痛感する。

人が苦難を乗り越えて成長し、いずれ大願を果たす事こそが本来の目的。

それなのにあろう事か、ベルタを堕落へ導くような失言をしてしまった。

竜に連なる者として、自らの存在意義の否定とも言える。

ありえない事だ。

一体我に何が起きているのだ。


ガルマはアルフの言葉を元に考える。

相手がベルタであるが故に、無意識にも大丈夫だと思い、注意が削がれていたと?

確かに人は最も大願に近くはある。

だが現時点では、竜に連なる者から見れば他の動物と大差無い状態だ。

なのに、この我が、ただの人に過ぎないベルタに信頼を置いて居たと言うのか・・・・


しばらく葛藤した後、ガルマは思い至る。

既に、ただの人、とは言えぬか。

物理のみとは言え、神にも匹敵する力であるマアマを手にしながらも、その力に溺れぬ者。

そのような、理想でしか無かった強い意志を持つ者が、現実に目の前に現れたのだ。

無意識に信じていたとしてもおかしくは無い、か。



アルフはぶれない。飯は全てに優先する。

アルフ「そんな事よりさ、鳥狙おうぜ鳥」

マアマ「あそぶー」


ベルタも応じる。

ベルタ「そうね。お腹が空いてるから後ろ向きに考えちゃうのかも」


目標を決めるアルフ。

アルフ「とりあえず、あそこに飛んでる群れをまとめて焼き鳥にしようぜ」

マアマ「どかーん」


ベルタも確認して身構える。

ベルタ「まとめて焼き鳥ね。やってやろうじゃない。マアマさんいくわよ」


ベルタが鳥の群れめがけて一振りすると、鳥の群れが消えた。

アルフ「消えた」

ベルタ「え?消しちゃったの?」

マアマ「ジュージュー」


ボトボトボトッ

何かが目の前に振ってきて反射的に飛び下がるアルフとベルタ。

アルフ「うぉ?」

ベルタ「きゃ」


それはこんがり焼けた鳥の群れであった。

アルフ「おぉ!焼き鳥が降って来た。このまま食えそうだぞ」

ベルタ「あはは・・・。もう本当に何でもありね」

マアマ「あははははは」


塩をかけてそのまま、かぶりつくアルフ。

ベルタ「ちょっと。幾ら焼いてるからって羽くらいは毟ってから食べないと」

アルフ「毟ってあるぞ?」

ベルタ「へ?」


よく見ると、ただ焼いてるだけでは無く、内臓などを取り除いた上で血抜きも終えていた。

ベルタ「マアマさん、食べられないのに調理まで出来ちゃうのね・・・」

マアマ「えへん」

ベルタ「理屈じゃなさそうね。ガルマさんの言った通り、あたしのイメージをそのまま具現化しちゃうのか」

マアマ「あははははは」


便利さは危険度の高さをも意味する。

ベルタ「遊ぶ時は集中して、余計な事は考えないようにしないとダメね」

マアマ「大丈夫ー」

ベルタ「うん。信じてるよ。いい子いい子」

マアマ「べるたー」


ベルタがマアマを可愛がってる間に、アルフは焼き鳥を全て食べ尽くす。

アルフ「お代わり!」

ベルタ「え。あんた、あれだけの量を一人で食べちゃったの」

アルフ「いやぁ絶妙の焼き加減て言うの?幾らでも食える感じだったぞ。鳥は肉が少ないしな」


アルフはコップの水を飲み干しながら絶賛する。

それを見てベルタはふと閃く。

アルフに向けてマアマを一振り。


アルフ「え?うそ」

そんなに鳥肉を全部食われたのが悔しいのか?

だからってマアマで殴るか?

などと、信じられない思いで理不尽な攻撃を受けるアルフ。


だがダメージが来ない。


ベルタ「マアマさん、すごーい。これで封術紙の残り回数も、いざという時に備えて温存出来るわね」

マアマ「えっへん」

アルフ「へ?何したんだ」

ベルタ「あんたのコップに水を注いであげたのよ」


アルフが手にしたコップには、飲み干した筈の水が満ちていた。

大気の湿気から飲み水を作ったのだ。

土から鳥肉を作るような芸当も容易だが、そこまでは思い至らないようである。


アルフ「おぉ。すげぇ」

ベルタ「行き先不明の旅も、これで随分楽になりそうね」


感心しつつも警告するアルフ。

アルフ「でも俺に向ってマアマを使うのは勘弁してくれ。マジで怖いぞ」

ベルタ「あ、ごめん。そりゃそうよね」

マアマ「あははははは」


ベルタは狩りを再開する。

ベルタ「じゃぁあたしとガルマさんの分のお肉いくわよー」

マアマ「どかーん」

アルフ「俺のお代わりも忘れないでくれ」


ベルタの一振りで、前回同様に焼き鳥が降る。

今度はベルタもすぐに焼き鳥に手を伸ばす。


ベルタ「ん~!おいっしい!アルフの言う通りね。絶妙な焼き具合よマアマさん」

マアマ「えっへん」

ベルタ「ガルマさ~ん。すっごく美味しいですよ。一緒に食べましょうよ」


ベルタは考え事をしているように見えるガルマに声をかける。


ガルマ「うむ。頂くとしよう」


ガルマは今後のベルタへの対応を考えていた。

期待を持てるのであれば尚の事、進化を阻害するような言動には一層気をつけねばならない。

難儀だなと思いつつも顔は笑っていた。人には区別出来ぬ表情ではあったが。



食事を終え一服する一行。

ベルタ「ふ~、お腹一杯。ちょっとお昼寝したくなるわね。アルフ、今から急ぐの?」


アルフは既に寝息を立てていた。


ベルタ「先に寝てんじゃないわよ。まぁ丁度いいか。ガルマさん、少しお昼寝でお願いします」

ガルマ「よかろう」

マアマ「おやすみ~」


ベルタもすぐに寝息を立て始めた。

まさにお昼寝日和であった。


マアマとガルマは静かに話す。

マアマ「ガルマー」

ガルマ「うむ。心配をかけて済まなかった」

マアマ「もう創り直さなくていいのかなー」

ガルマ「導き無しで起こされたのは、そういう事なのかもしれぬな。アルフを導く力の思惑次第か」

マアマ「えへへー」

ガルマ「ん?」

マアマ「ガルマといっしょー」

ガルマ「そうだな。お主が人の手に在りながら、敵対しておらぬとは前代未聞だな」

マアマ「ずっといっしょー」

ガルマ「うむ。そう在りたいと我も切に思う」

マアマ「大丈夫ー」


二時間程でアルフとベルタは昼寝から目覚めた。


ベルタ「ん~気持ちよかったぁ」

アルフ「ぎゃはははは」

ベルタ「ん?」

アルフ「ベルタの顔、泥だらけだぞ」


言われてみれば、アルフも服や手足も泥だらけである。


ベルタ「あちゃぁ。うっかり地べたに寝ちゃったわね」

アルフ「面白いからいいんじゃね」

ベルタ「何言ってんのよ。濡れタオル作るから、身体くらいは拭いておきましょう」

マアマ「あそぶー」

ベルタ「そうか。マアマさんが居たっけ」


ベルタの一振りで、アルフもベルタも風呂上りのように綺麗になる。


マアマ「あはははは」

ベルタ「本当に怖いくらい便利ね」

アルフ「神様みたいなもんだしな」


アルフの一言が胸に突き刺さるベルタ。

ベルタ「そうよね。本当に創造主なのよね。実感涌かないけど。あたしは何て畏れ多い事してんのよ」


マアマの扱いを反省するベルタをアルフがフォローする。

アルフ「マアマがやりたがってる時は気にしなくていいと思うぞ」

ベルタ「・・・そうね。マアマさんに満足してもらえるような遊びは必要だしね」


マアマへの依存をどの程度自制するか、ベルタには当面の最大の課題となった。



旅を再開しようとする一行。

アルフ「次は魚を食いたいな」


慣れていても呆れるベルタ。

ベルタ「お昼寝の前に食事したばかりでしょ」

アルフ「今じゃなくて夕飯」


期待はしていないが一応確認するベルタ。

ベルタ「それまでに水場があればいいんだけどね」

アルフ「んじゃ出発するか」

ベルタ「この先に川か湖でもあるの?」

アルフ「そんなの俺が知ってる訳ねぇだろ」


分かってはいたがお約束なのでつっこむベルタ。

ベルタ「じゃぁ魚を食べたいなんて、わがまま言わないでよ」

アルフ「それなんだけどさ。あれ、何に見える?」


アルフが指す方を見ると、魚が一匹泳いでいた。

空中を。


ベルタ「・・・魚」

アルフ「だよな」


自然に受け入れるなよ、とばかりにつっこむベルタ。

ベルタ「なんで魚が宙を泳いでるのよ!」

アルフ「俺に言うなよ。またマアマが何かしたとか?」

マアマ「しらなーい」


その魚を目掛けて、滑空を始めた鳥が一羽。

鳥が魚を捕らえた瞬間、魚から網が飛び出して鳥を捕獲する。


アルフ「おぉ」

ベルタ「何よ!あの魚おかしすぎるわよ」


物陰から出てきた人が網から鳥を捕獲し、魚は再び泳ぎだした。


アルフ「魚で鳥を釣ってるのか。新型の罠アイテムか?」

ベルタ「発想は良いかも知れないけど、水場でやるべきじゃないのあれ。シュール過ぎるわよ」


ベルタの一言でガルマは思う。

今、この世界で最もシュールな存在は、お主達だと思うぞと。


この時、ガルマは無自覚ながら、人の文明が生み出した究極の交渉術である、つっこみに覚醒していた。

ベルタへの理解を深めた成果かもしれない。



アルフ一行は盆地を後にした。

ガルマの覚醒は誰にも知られる事は無かった。

大願成就した暁には、きっと役立つ事であろう。


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