おまけ:無料ほど怖いバーベキュー
アルフ一行の荷物は、ほぼ全部をベルタが担いでいる。
ベルタに押し付けている訳ではない。
幼い頃から率先して力仕事をこなしていたベルタは、荷物があると無意識に集めて担ぐのだ。
先導するアルフが何気なくベルタの方を振り向いて話しかける。
アルフ「なぁベルタ」
ベルタ「ん?」
アルフ「太った?」
平和な日常は突然終わりを告げようとしていた。ベルタの声質が変わる。
ベルタ「・・・あら。今日ってアルフの命日だったんだ」
予想外のベルタの反応で、言葉の使い方を誤ったと察したアルフは、慌てて言い訳する。
アルフ「え、あれ。太った・・・じゃなくて大きくなったと言うべきだった?」
幸い誤解はすぐに解けたようだ。怪訝そうな顔をしながら問い返すベルタ。
ベルタ「成長してるって事?」
アルフ「そう、それ。だから怒るなよ」
自分の身体を見て少し考えるベルタ。
ベルタ「自分じゃ分からないわね」
傍観していたガルマがフォローを入れる。
ガルマ「お主達は成長期だ。目に見えて育つであろうな」
アルフが安心して話を続ける。
アルフ「やっぱな。荷物が増えてるせいで、そう見えるだけかとも思ったけど。ベルタもでかくなったんだな」
ベルタ「荷物増やしたの?」
アルフ「道中で拾ったのを色々持ち歩いてるじゃん」
ベルタ「言われてみれば。売れそうなのとか保存食になりそうなのとか、結構拾ってるわね」
ベルタの背負う荷は、見るのが恐ろしい程に積み上がっていた。
だが屈強な足腰とバランス感覚のベルタには苦にもならないようである。
アルフは言い辛そうにうつむいて話を続ける。
アルフ「俺思うんだけどさ」
ベルタ「何よ。もったいつけて」
アルフ「いや。また怒られそうな気がしてさ」
ベルタ「はぁ。よっぽど酷くない限りは落ち着いて聞いてあげるわよ」
アルフ「おぉ。多分だけど、そのまま宿屋入ったら床抜けるぞ」
ベルタ「え?」
アルフ「だってほら。足跡」
ベルタの足跡は、足跡と呼ぶには深過ぎるものだった。
荷馬車の跡も残らぬ程に固く舗装された街道に、ベルタの足跡はくっきりと刻まれていた。
自分の足跡を見て驚嘆するベルタ。
ベルタ「えー」
見かねたアルフが提案する。
アルフ「必要な物以外は処分した方がいいんじゃね?」
ベルタ「なんか引っかかって歩きにくいなとは思ってたけど・・・そんなに重くなってたんだ」
アルフ「俺がそれ背負ったら、そのまま昇天すると思うぞ」
ベルタ「ガルマさんの加護のお陰で凄く楽だから気付かなかったのね。でも処分する物なんてあるかな」
アルフ「俺が持てない物は重すぎるから捨てればいいんじゃね」
ベルタ「それじゃ携帯品しか残らないじゃない」
一瞬ベルタの言葉が理解出来ずに戸惑うアルフ。
アルフ「え?旅で携帯するんだから、携帯品だけでよくね?俺おかしい?」
ベルタ「道中で水や食料が切れたらどうするのよ。携帯食料なんてすぐ尽きるわよ」
ベルタの言う事は理に適っているようでいて、何かおかしいとアルフは思う。
アルフ「・・・ちなみに水って今どれくらいあるんだ」
ベルタ「滝で補給したから500リットルくらいは残ってるかしら」
アルフは自分が正しいと確信した。
アルフ「俺、やっぱベルタよりかわいい奴なんて居ないと思うぞ」
アルフの言う事は参考にならないので、ガルマを見るベルタ。
ガルマは空気を読んで目を逸らした。
自分の言動がおかしいと察するベルタ。
ベルタ「えー?だって、次の町まで、どれだけ掛かるか分かんないのよ」
無知な俺でも程度は分かるぜと言わんばかりに、アルフはベルタに提案する。
アルフ「他の旅人を参考にしようぜ」
ベルタ「あんたのせいで参考にならないんでしょ!他の旅人はちゃんと行き先決めてるわよ」
アルフの提案は即座に却下された。
アルフ「おぉ!それもそうだ」
ベルタ「どうすんのよ」
アルフは考える。だがアルフは能天気なのである。
アルフ「んじゃ、運ぶ量は遠出する旅人にあわせて、不足したら現地調達、枯渇したら帰還でどうよ」
ベルタ「はぁ。枯渇するまで進んでから、戻ってやり直すのが前提なのね」
アルフ「今までの旅と同じ感じなら大丈夫だと思うけどな。道なら町あるし、森なら狩れるし」
ベルタ「・・・それもそうね。じゃぁ靴が地面にめり込まない程度には減らしましょうか」
ベルタを納得させたと思った直後に、理解し難い言葉を聞いて戸惑うアルフ。
アルフ「お、おぉ・・・めり込む手前までは運ぶんだな、やっぱ」
ベルタ「そりゃ持てる分は持った方が無難でしょ」
それはそうだが、やはり程度がおかしいと思うアルフ。問題提起をしてみる。
アルフ「走って逃げたい時とか困らねぇか」
ベルタ「これ背負ってても、アルフよりは速く走れると思うわよ」
事実である。でも俺より速ければ十分という訳でもないだろと思うアルフ。
アルフ「そん時は荷物捨てて俺を背負ってくれよ」
ベルタ「あんたも少し背負って鍛えたら?」
言われてみれば。ベルタを気にする前に自分の足が怪しいと理解するアルフ。
アルフ「おぉ。ベルタが成長してるのなら俺も成長する筈か。よし少しくれ」
ベルタ「じゃぁ水100リットルのタンク一つ持ってみる?」
ベルタに「少し」という曖昧な表現は命に関わるとアルフは学んだ。
アルフ「10リットルからで頼む」
ベルタ「10kgなら大地の肉の一袋でいいわね」
足を止めて一旦荷を降ろそうとするベルタ。
そのベルタの荷を見上げるアルフ。
アルフは神妙にベルタに話しかける。
アルフ「ベルタ」
ベルタ「何よ」
アルフ「燃えてるか?」
ベルタ「何よ突然。暑いけど別に燃えるような事なんてないわよ」
アルフ「でも煙出てるぞ」
ベルタ「ちょ?」
背負った水のタンクがレンズとなって荷を熱していた。
アルフは感心したように呟く。
アルフ「着火魔法を覚える代わりに水でレンズ作ってたのか」
ベルタは荷を崩しながら否定する。
ベルタ「んな訳無いでしょ。タンクは陽が当たらないようにしないとダメか」
アルフとしては手ぶらでも良いくらいに何も考えていないのでベルタに提案する。
アルフ「とりあえず水とか捨てて減らそうぜ」
だがベルタには捨てる気は無いようだ。
ベルタ「捨てるなんて勿体無い事しちゃだめよ」
アルフ「じゃどうすんだよ」
ベルタ「ここで何か料理して、通りがかった旅人に配りましょうか」
料理。それはアルフにとって脊椎反射で肯定する言葉である。
アルフ「おぉ。俺の分からな」
ベルタ「分かってるわよ。減らすのが目的なんだから好きなだけ食べなさい」
アルフ「おっしゃぁ」
ベルタが鍋を作りながらバーベキューの下ごしらえをする。
アルフはバーベキューを焼いて食べながら客寄せを始めた。
ガルマは黙って姿を消す。自分が居ては人が寄って来ぬからだ。
アルフ「腹減ってる奴いねぇか!飯と水を配ってるぜ」
通りがかった旅人が、料理の臭いとアルフの掛け声に反応する。
子連れの旅人「あら良い香り。お幾らですか」
対価を聞かれて戸惑うアルフ。値段を決めてなかった。
料理を配ると決めたのはベルタだから、値付けもベルタに任せようとアルフは問いかける。
アルフ「ベルタ、これ幾らにするんだ」
ベルタ「荷減らしが目的なんだから無料でいいわよ。下手に値段つけて残っても困るでしょ」
それもそうだなと納得するアルフ。
アルフ「わかったぜ。お客さん、聞いての通り無料だ。好きなだけ食ってくれ」
子連れの旅人「え。無料って逆に怖いんだけどね」
アルフ「捨てると勿体無いってうるさくてさ。だから食ってくれるだけで助かる!」
子連れの旅人「ふふ、妙な理由ね。でも折角だから頂くわ」
一人に配ると他の客も足が向くようである。
夫婦ぽい旅人「可愛いシェフさんね。まさか貴方達二人だけでやってるの?」
問われて周囲を確認するアルフ。
アルフ「あれ?今見えないけどガルマさんも居るぜ」
アルフの言葉で、子供だけの営業では無さそうだと安心した様子の旅人。
夫婦ぽい旅人「そう、なら良かった。私達も少し頂こうかしら」
アルフ「二人で休むなら、そこに出してる簡易テントを使ってくれていいぜ」
夫婦ぽい旅人「ありがとう。遠慮なくお邪魔させていただくわ」
アルフ「おぉ。たっぷり食べていってくれい」
それなりに人通りのある街道だったお陰で、料理はペース良く捌けて行った。
集まっている客を分けるように、アルフに近づく二人組みの男が現れた。
その内の一人が大声でアルフに怒鳴りつける。
ガラの悪い男A「こらこら、何勝手に商売してんだ」
アルフ「商売なんかしてねぇぞ」
平然と即答するアルフ。
拍子抜けしながらも威嚇しながら問い返す男。
ガラの悪い男A「あぁ?飯作って売ってれば立派に商売だろうが」
アルフ「売ってねぇぞ。配ってんだ」
ガラの悪い男A「何だと。何でそんな事してんだ」
アルフ「荷減らしだ」
ガラの悪い男は対応に困ったのか、連れのもう一人に話しかける。
ガラの悪い男A「訳分かんねぇな。見たところまだガキだし。どうしやす?」
ガラの悪い男B「ここで腹膨らませると、町の店の売り上げに影響するからな。放ってはおけん」
怒鳴り声を耳にしたベルタが、心配して様子を見に来た。
ベルタ「アルフ、どうかしたの?」
アルフ「ベルタ?いや別に何もねぇぞ。俺達が商売してると勘違いした人が居ただけだ」
ベルタ「そう?ならいいんだけど」
背を向けて戻るベルタを見て、何かを思い出すガラの悪い男B。
ガラの悪い男B「ベルタ・・・だと?」
アルフ一行が森を彷徨っている間に、武器屋からの噂は広く知れ渡っていたのだ。
慌てて周囲を見回すが竜人の姿は見えない。
だが常人離れした体格の娘と、背負ったモーニングスターは噂に合致する。
そして子供二人で運べる訳が無い量の、積み上げられた荷。
ガラの悪い男Bは、今までに何度も危険を乗り越えていた。その経験に基づく勘が最大の警鐘を打ち鳴らす。
それに気付かず、再びアルフに怒鳴り始めるガラの悪い男A。
ガラの悪い男A「『いや別に何もねぇぞ』じゃねぇんだよ。ここでこんなもん売られるとな、」
その肩を掴んで止めるガラの悪い男B。
ガラの悪い男B「待て」
ガラの悪い男A「どうしやした」
ガラの悪い男B「ここはもういい。行くぞ」
ガラの悪い男A「えぇ?放ってはおけんて言ったじゃないですか」
ガラの悪い男B「俺は西瓜みたいに割られるのは御免だ」
ガラの悪い男A「はぁ?」
突然脈絡の無い言動を始めた連れに、戸惑うガラの悪い男A。
だが深刻な状況になっているであろう事は、雰囲気で察する事が出来た。
立ち去ろうとするガラの悪い男達に声をかけるアルフ。
アルフ「兄ちゃん達も少しは食っていってくれよ~」
ガラの悪い男B「あ、あぁ。串一本づつ貰っておこう」
ガラの悪い男A「なんか分かんないすけど・・・これ結構美味いですね」
アルフ「ありがと~」
足早に去るガラの悪い男達。ガラの悪い男Bは切羽詰った様子だ。
ガラの悪い男B「竜人が居なかったのが救いだった」
ガラの悪い男A「どうしたんすか?何をそんなに急いでるんです」
ガラの悪い男B「命拾いしたんだよ俺達は。一歩間違えれば、俺達がこの串の肉になってる所だった」
ガラの悪い男A「ぶ!これ、そういう肉なんすか?食っちゃいましたよ」
ガラの悪い男B「いいか、あいつらの顔は覚えておけ。今後絶対に手を出すな」
ガラの悪い男A「へぇ。そんなやばそうには見えなかったっすけどねぇ。でも、だからこそ無料なんすね」
この二人は、ベルタの噂をさらに怪しくするきっかけとなった。
だが当のベルタには知る由も無かった。
無事に配布も終わりかけた頃、いつの間にかベルタの前に一人の旅人が立っていた。
フードを被った旅人「凄い量の荷ですね。配布の為に運んでおられるのですか?」
ベルタ「いえ、貯めこみ過ぎちゃっただけなんです」
フードを被った旅人「ここまで貯めこむような理由でも、おありなのですか?」
ベルタ「故あって、行き先の分からない旅をしておりまして。必要量を想定出来ないのです」
フードを被った旅人「なるほど。それは難儀ですね・・・」
ベルタ「残り物ですけど、よろしかったら一杯いかがですか?」
フードを被った旅人「ありがたく頂きましょう」
フードを被った旅人は少し離れた場所に移動して座る。
ベルタに貰った一杯を食した後で、瞑想のようなものを始めた。
だが近くで食休みする者が増えており、誰の目にもとまるものではなかった。
姿を消したまま見ていたガルマを除いては。
ガルマ「全く・・・アルフは偶然の吸引機なのか」
フードを被った旅人は瞑想のようなものを終えると、ベルタの傍らに何かを置く。
そして姿を消したままのガルマの方を向いて、一礼してから黙って去って行った。
配布を終えて一息つくアルフとベルタ。
ベルタ「かなり減らせたわね」
アルフ「水と食料は減ったけど、何か色々増えてねぇか」
見るとベルタの傍に見慣れない品々が置かれている。
ベルタ「え。何これ」
姿を現したガルマが答える。
ガルマ「礼だと称して置いて行った者共が居たな」
ベルタ「えー。荷を減らすのが目的だったのに」
旅で役立ちそうな物、売れば価値有りそうな物が目立つ中で、ゴミと間違えそうな巻物を見つけるアルフ。
それはフードを被った旅人が置いていった品だった。
アルフ「何だこの紙きれ」
ガルマ「それは封術紙だな。念ずるだけで封じられた魔法を行使出来るだろう」
魔法は怖いという先入観をもったベルタが反応する。
ベルタ「魔法って、それ危なくないですか」
ガルマ「封術紙は誰でも扱えるようにフェールセーフが考慮されておる。安心して使えよう」
アルフは興味を持った。魔法といえば爆裂系かと期待に胸を膨らませつつ問う。
アルフ「どんな魔法が封じられてるんだ」
ガルマ「これは水の生成だが・・・1リットルを1万回だと?普通は1枚で1回なのだがな」
残念に思いつつも、水運搬問題を解決出来そうで素直に喜ぶアルフ。
アルフ「おぉ。これなら俺でも運べるし、レンズになる心配も無いな」
一方ベルタは封術紙の価値が気に掛かる。
魔法は秘匿されており、封術紙の存在すら聞いた事が無い。
食事の対価として受け取って良いものなのだろうかと。
水1万リットルを紙切れ1枚で運べる便利アイテムが、1食分の価値とは到底考えられない。
ベルタ「それって無茶苦茶高価そうな気がするんですけど」
ガルマは遠回しに価値を答える。
ガルマ「一般に流通してはおらぬだろうな。お主の荷を見かねて作ってくれたのであろう」
アルフ「かっけー」
ベルタ「そんな簡単に作れるものなのですか」
ベルタの問いに渋々答えるガルマ。
ガルマ「魔法自体は低位だが、あの短時間で1枚に1万回の魔法を封じるとなると相当の術者であろう」
ベルタ「1枚で1万回というのは、そんなに難しいのですか」
ガルマ「1枚に1回封じるのは並の術者であれば容易だ。だが2回でも封じられる者はそうは居らぬ」
ベルタ「聞いちゃいけない事を聞いてしまった気がするんですけど・・・これ使っちゃっていいんですかね」
やはりベルタならそう言うであろうな。分かっていたからこそガルマは価値の具体化を避けようとしていた。
ガルマ「お主が使わねば、提供者は報われぬであろうな」
ガルマの言葉から、価値あるからこそ自分で使うべき物であると理解して頷くベルタ。
ベルタ「凄い人に偶然出会うものなんですねぇ」
稀にしか見られぬ程の高位の術者であり、姿を隠したガルマにすら気付いた者。
恐らくはベルタに何かを見出して助力したのであろうとガルマは考える。
ガルマ「恐らくは先方も、そう思ったのであろうな」
ベルタ「え?」
ガルマ「一番分かっているつもりで、一番分かっていないのは、己自身の事。という事だ」
ベルタ「ガルマさんも、って事ですか?」
ガルマ「その通りだ。我も例外では無い」
ベルタ「あたしにはガルマさんの言う事の方が分からないと思います」
ガルマ「今はそれでよい」
相変わらずガルマの言う事は分かるようで分からないと思うベルタであった。
旅を再開するに当たり、中断の発端となった荷物の問題解決を図るアルフ。
アルフ「とりあえず水は水筒だけにして、他も携帯品だけにしようぜ」
ベルタ「えー。水が楽になった分、食料とか持てるわよ」
やはりそうきたか。アルフの想定した返答であった。
アルフ「もしさ。お前が転んだりしたら、巻き込まれた人はどうなると思う?」
ベルタ「え」
アルフは考えていた。俺は荷を減らしたいと思っている。それは何故だと。
アルフ「ベルタが転ぶ所とか見た事ねぇけどな。荷崩れは村でもやらかしてたろ」
ベルタ「それは。確かに人が通る場所では危ないわね」
ここだとばかりに、つっこむアルフ。
アルフ「俺が常に危ない」
ベルタ「あんたはいつも先導してるでしょ」
あっさり返されたが引くわけにはいかない。
アルフ「子供だってすぐ近くを通るし。見てて結構怖いぞ」
ベルタ「分かったわよ。荷崩れしない程度となるとリュック一つに入る程度か」
アルフ「うんうん」
能天気返上とばかりに、ようやくベルタを納得させて安堵するアルフを、衝撃の一言が襲う。
ベルタ「荷馬車くらいの大きさのリュックを買わないとね」
二の句が繋げないアルフであった。
確かに、荷馬車はよく壊れるが、ベルタが壊れた事は無い。
同じ荷を町中で運ぶなら、荷馬車よりベルタの方が安全と言えるだろう。
でも荷馬車より安全ならいいって問題か?
というか荷馬車くらいの大きさのリュックなんてあるのか?
アルフには、そんなリュックが存在しない事を祈るしか無かった。
その頃、フードを被った旅人は別の封術紙を手にして思いに耽っていた。
ベルタに渡そうと思っていた本命はこちらであった。
空間結合の魔法であり、どこからでも倉庫に繋げるので、荷を持ち歩く必要すら無くなるものであった。
これは荷の出し入れだけでなく、人が任意の場所へ移動する事も可能になる。
便利な反面、使い方を誤れば大きな危険を生み出す。
それ故に渡すのを躊躇ったという事もあるが、何より問題なのは竜人の存在である。
竜人が付いていながら何故旅などしているのか。
その気になれば空間結合どころの話では無い。この世界の別空間どころか、別世界へも容易に行けるだろう。
敢えて歩く事を選択していると考えざるを得ない。
ベルタが進化の縁に居る事は見て分かった。
つまり、進化の試練に竜人が付いているという事なのだろう。
恐らくは破滅を繰り返す人の世界を彼女が救うのであろうと。
なれば試練の邪魔にならぬ程度の支援は出来ぬだろうか。
そう考えた結果が水の生成魔法であった。
だが今、再び迷っていた。何故私は彼女に出会ったのか。果たすべき役割が有ったのでは無いのか。
竜人はただ見ているだけで、私には何も干渉しようとはしていなかった。
これを渡しても良かったのか?渡すべきだったのか?
フードを被った旅人には、ガルマがベルタでは無くアルフを見ているとは思いも寄らなかったのであった。
彼もまた進化を目指して研鑽を積むエルフであり、ガルマよりも先にベルタの資質を見抜いたのだが、
結局ガルマがアルフを見ていたお陰で勘違いしたままの別れとなり、葛藤を続けるのであった。




