最初の出会い
初投稿です。
序章でバランスブレイクして本章で尻すぼみになりますが書きたいのは本章の方です。
同好の士が居ると嬉しいのですが・・・
アルフは道沿いの花畑に寝転がっていた。目を開くと美しく壮大な星空が広がっている。
そこは星空を楽しむには一等地と言えるだろう。だがアルフは星空から周囲に視界を移す。
アルフ「ここ・・・どこ?」
ここがどこなのか分からない。それどころか、今まで自分が何をしていたのかも思い出せない。
アルフ「まぁいいか」
腹は減ってるが地平の先まで平原が広がっており行くアテも無いのでそのまま空を見上げた・・・
「うわー!子供が死んでる!!」
大声で目覚めたアルフは上体を起こす。いつの間にか寝ていたようだ。既に陽は昇っていた。
男「うわー!死体が起きた!!」
女「最初から生きてたんでしょバカ親父!」
父娘らしい二人がどつき漫才をしていた。
娘らしき方が近づいてきたが・・・娘?獣人?寝ぼけた眼に映る逆光で陰になった姿は人と呼ぶよりゴリラであった。
女「あんた見ない顔だけどこんな所に一人で何をしてるの?」
アルフ「うん、それだ」
女「え?」
アルフ「俺もそれを知りたかったんだ」
女「バカ言ってないで。・・・まさか本当にバカじゃないでしょうね?」
アルフ「う~ん、何も思い出せないからそうかもな」
男「何があったかはしらんがとりあえずうちに来い。こんな所に子供一人放ってはいけん」
アルフ「行く行く、何か食わせてくれ」
女「・・・あんた本当に何も思い出せないの?悲壮感とか緊迫感みたいなのが全然無いんだけど」
アルフ「ひそーかん?難しい言葉は思い出せないぽい」
女「うらやましいくらいおめでたい子ね。あたしはベルタよ。自分の名前は思い出せる?」
アルフ「おぉ名前は覚えてるな。アルフだ。多分俺の名だ。よろしくな」
ベルタ「多分かい!」
アルフは荷馬車に同乗させてもらいベルタと共に村へ向う。
ベルタは考えていた。何も覚えて居ないというアルフに何を話しかければ良いのか。記憶をとりもどすきっかけになりそうな話題は無いか。
ふとアルフを見るとじっと空の一点を凝視していた。
ベルタ「何見てるの?」
アルフ「あの雲・・・あれを見てると思い出すんだ」
ベルタ「え、何か思い出したの?」
アルフ「うん、あれは大根の形だ」
ベルタは真剣に考えるのがバカらしくなった。困難に陥っている筈の当人に全く自覚が見られないのである。
ベルタ「あんたさぁ、まじめに思い出さないと。今後どうやって生きていくのさ」
アルフ「ベルタんちで飯を食う」
ベルタ「その後よ!」
アルフ「旅に出る」
ベルタ「え?」
ようやくまともと言えなくも無い返事が突然飛び出した。だが記憶も無い子が一人旅なんて現実的では無い。
ベルタ「あんた自分の歳分かる?あたしと同じくらいだし精々十五ってところでしょ。一人で旅なんてできっこないよ」
内心衝撃を受けるが顔に出さないアルフ。同じくらい?大人と子供以上の体格の差があるぞ。いや猛獣と人の差と言うべきか。
アルフ「さっきベルタ達に起こされるまで夢を見てたんだ。旅でいろいろ見ればいろいろ思い出す夢だった」
ベルタ「夢で何か思い出したの?」
アルフ「おぉ!思い出した!起きた時に忘れたけどな」
成り立ちそうで成り立たない会話に挫けそうになるが懸命に気を取り直すベルタ。
ベルタ「旅かぁ。あたしも行って見たいとは思ってたけど強盗やら獣やら危険も一杯だし。本気ならまずは村で働きながら体鍛えたら?」
アルフ「本気本気」
本気という言葉の意味が分かって無さそうだなと察するベルタ。今日以上に疲れた日は無い。
村役場でアルフの身元調査を依頼して結果が出るまでベルタの親が面倒を見ることになった。
ベルタ「あんたって特徴無さ過ぎよね。どこにでも売ってそうな服だしどこにでも居そうな外見だし。まるで正体隠そうとしてるみたいよ」
アルフ「隠すといいことあるのか」
ベルタ「こっちが聞きたいわよ」
アルフ「俺が隠そうとした訳じゃないと思うぞ」
ベルタ「・・・期待してないけど一応聞くわ。何か思い出したの?」
アルフ「思い出した訳じゃない。ただ、隠すなんて面倒な事を俺が考える訳無い!」
ベルタ「はぁ、それもそうね」
ベルタにはアルフが記憶喪失のフリをしているかもという懸念があったが既に晴れていた。出来るとは思えない能天気な性格であった。
ベルタはアルフを家に案内して仕事の分担を決める。
ベルタ「まずは覚えないと始まらないからあたしの手伝いからね」
アルフ「まかせとけ」
ベルタ「これを納屋まで運びましょう」
ベルタは荷馬車から荷を一つ持って先導する。
アルフ「ベルタ待て 俺に持てる荷が無い」
ベルタ「え?何か宗教とかしきたりでも思い出したの?」
アルフ「いや、どれも重すぎて持ちあがらねー」
ベルタ「男のクセに何の冗談・・・」
よく見ると確かにアルフは力仕事をした事が無いような情け無い体格をしていた。
ベルタ「あんたの正体にどんどん興味が涌いてくるわ。力仕事もできないとかどこぞの王子様ですかね!」
アルフ「王子ってこんな服着てるのか」
ベルタ「んな訳無いわよね、本当に何なのよあんたわ。じゃぁ帳簿の整理を先にやっててもらうわ」
アルフ「それはムリだな。字が読めん!」
ベルタ「・・・」
アルフ「いやマジだって。字も忘れてるのかな?」
ベルタ「もういいわ、掃除とか洗濯の方を手伝ってあげて」
アルフ「おう行ってくるぜ」
今までどうやって生きてきたのだろうとベルタは不思議に思う。まるで簡単な言葉だけ学んだ状態で産み落とされたばかりの様なアルフ。
そう思うと母性本能のようのものが涌いてきた。せめて旅立つ前に最低限の知識と体力を叩き込んであげたいと。
ベルタはいつの間にか無意識に馬用の鞭を手に握り締めていた。
ベルタの家で冬を越したアルフだが身元は分からないままだった。
ベルタが字を教えながら本を読み、家事手伝いとトレーニングを半年程続ける事でアルフもほんの少しだけ知識と体力を得た。
ベルタ「アルフ朝よ~って何してんのあんた」
ベルタがアルフを起こしに来るとアルフは既に起きていて釣竿や網等、アルフのおもちゃらしき物が散らばっていた。
アルフ「おぉ、今日旅に出るから準備してたんだ」
アルフもここでの生活に馴染んだかなと思っていた矢先、旅の事等すっかり忘れていたベルタは突然すぎて混乱する。
ベルタ「え?旅?今日?突然?確かに出会った時に言ってたけどもう忘れたと思ってたわ」
アルフ「おぉ、それは俺も忘れてたぜ。今日出る事にしたのはさっき呼ばれたからだ」
ベルタ「呼ばれたって誰によ」
アルフ「あっち」
アルフは何も無い空を指差した。
ベルタ「あんたねぇ、この半年の記憶まで失くしてないでしょうね。相手に分かるように説明しないと説明の意味が無いと言ったでしょ」
アルフはしばらく考えこんで答える。
アルフ「教えてもらった知識じゃどう説明すればいいのか分からん。ただ夢を見た時と同じで行かなきゃいけない気がする」
ベルタ「今日行かないとダメなの?」
アルフ「うん、なんか急げってベルタみたいに怒ってるかも」
ベルタ「なんで怒ってたらあたしなのよ!」
ほら怒ってると言わんばかりにアルフはベルタを見るが口には出せない。
ベルタ「とりあえず親父に相談してみるわ。あんたも朝食は食べるでしょ」
こいつ旅の間の食事とか考えてるのかと思いながらベルタは父親に相談した。
人の良いベルタの父はアルフの引き取り人が現れるかアルフが成人するまで保護してやろうと思っていた。
だがアルフが自分の意思で旅立つと言うなら引き止める権限は無い。赤の他人でしか無いのだから。
ベルタ「アルフ、食事とか襲われた時の対処はちゃんと考えてる?あんたが半年稼いだ程度じゃ路銀もすぐ尽きるわよ」
食事の手が止まるアルフ
アルフ「そうか!村の外では助けてもらえないのか」
ベルタ「当たり前でしょ!」
アルフ「・・・正直どうすればいいかわかんない、でもわかんないからこそ勉強になるんじゃないかな」
ベルタ「勉強になる前に死んじゃうわよ!」
アルフ「村に居ても死ぬ時は死ぬんじゃね」
ベルタ「へりくつばっかり!」
突如怒ったベルタは部屋を出て行った。
アルフは考える、ベルタの言う通り村の外は危険に満ちているであろう事を。
まして自分はあまりにも無知である。戦った事も無い。可能な限り先を見据えて行動しなければと。
勿論それは能天気なアルフには不可能な所業だが当人に自覚は無い。決意を新たに気持ちを引き締めたつもりでアルフは旅立つ。
ベルタは父親を説得していた。
ベルタ「どうして無理矢理にでもアルフを止めないのよ。死んじゃうわよ」
ベルタの父親「俺だって止めたいさ。でも俺はあいつの親じゃねぇ。止める権利ってやつが無いんだよ」
ベルタ「見殺しにするって言うの?」
ベルタの父親「誰か同伴させてやりたいとは思うが小さな村だし。そもそも旅したいってガキが出る度にわがまま聞けるわけないだろ」
ベルタの目が輝く。
ベルタ「親父!たまには良い事言うじゃん」
ベルタの父親「何言ってんだお前は」
ベルタ「あたしがアルフに付いていく」
ベルタの父親「あほう!子供一人が二人になった所で死体が一つ増えるだけだ!」
ベルタ「あたし村で一番強いよ?他の大人よりマシじゃない」
ベルタの父親「お前の強さは筋力だけだろうが。戦った事も無いクセに話にならん」
ベルタ「うん、戦うなんて出来ないと思うよ。でもアルフはほっとけないしあたしも旅してみたいとは思ってたんだ。行くなら今しかない」
ベルタの父親「俺はお前の親だ。お前に対しては保護する権利と義務がある。縛り付けてでも行かせる訳には行かない」
ロープを手にしベルタを抑えようとする父親。だが次の瞬間自分の過ちに気付き言葉でベルタを諌めようとする。
ベルタの父親「あ、いや縛ると言うのは言葉のあやで・・・」
ベルタの口調が変わっていた。
ベルタ「親なら・・・かよわい娘を縛り付ける権利もあるのかしら?」
ベルタが村で一番強いというのは事実であった。小さな村なので男手も足りず幼い頃から力仕事を手伝っていた。
皆の役に立てるのが嬉しくてきつい仕事を率先して引き受け、肉付きの良い体質や蛋白質豊富な食材に恵まれた生活をしていたなどの
好条件に恵まれ、村一番どころか人間離れした筋力に達していた。人ではあるが初見でアルフが獣人だと思ったのも当然だった。
パンプアップして凄まじい迫力でロープを持って父親に近づく。萎縮して身動きもできない父親は思う、俺の娘こんなだっけ・・・
ベルタ「親父ごめんね。あたしも無茶だと分かってるんだけど、行かないとずっと後悔すると思うんだ」
ベルタの父親「あぁもう分かった分かった。娘も抑えられないんじゃ親失格だ。旅用具なら倉庫にあるやつ全部もってけ」
ベルタ「うん、ありがと親父。さっさとあいつの記憶戻して帰って来るよ」
礼を言って去ろうとするベルタ
ベルタの父親「おい、ちょっとまて、許可してるんだからロープ解いていけよ」
ベルタ「え?あぁ娘を止められなかった理由が欲しいでしょ?だからそのままにしとく」
ベルタの父親「いや娘に縛られたから止められなかったなんて恥ずかしい言い訳したくないから、おい、ちょっとまてって!」
半年程の思い出しか無い村。気がかりは熱心に世話してくれたベルタくらいか。記憶が戻ったら礼を言いに来ないと。怒られるだろうけど。
そんな事を考えながら歩くアルフに突進する猛獣・・・もといベルタ。
ベルタ「追いついた!あたしもついていく!」
状況が把握出来ないで呆然とするアルフ。冷静になって考えを巡らす。
ベルタはさっき怒って去ったきりで仲直りもしていない。
加えてベルタの親が完全無知ともいえるアルフの一人旅に同行させるのはありえない。
アルフ「旅に出る前にお前の親に殺されるっちゅうの」
ベルタ「それは大丈夫、縛り付けてきたから追って来れないよ」
アルフ「全然大丈夫じゃねぇよ。俺より非常識とかありえねぇ」
ベルタ「大丈夫大丈夫、ちゃんと許可もらってあるから」
アルフ「なら縛り付けなくてもいいじゃん」
ベルタ「親父の立場を考えた娘心ってのがあるのよ」
縛るのが娘心?それはさておきアルフとしては知識豊富なベルタが居れば心強いのは確かである。親を縛り付ける程の腕力面でも。
しかし気楽な旅では無くなる。死んだらその時なんて考えは捨てなければならなくなる。
アルフ「あのな、旅って気楽に言うけど死と隣り合わせなんだぜ?そんな気楽に同行するもんじゃねぇよ」
ベルタ「それ先にあたしが言ったわよね?村に居ても死ぬ時は死ぬんでしょ」
自分で言った言葉ではあるが他人に言われると重さが違うように感じる。ベルタの怒った理由が少し分かったような。
アルフ「でも外の方が危険なのは確かだぜ」
ベルタ「分かってる。だから今まで諦めてたの。でもあたしもずっと世界を見て周りたいとは思ってたんだ。丁度良い機会じゃない」
アルフは考え抜いた末、責任逃れする事にした。
アルフ「俺としては許可を出せる立場に無い。勝手に付いてきても止められないだけだ」
ベルタ「はいはい」