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ワイがアホやってん

 救急車の乗り心地は、最悪だった。


 いや、乗り心地がどうこうという話ではない。振動が多い。減速が荒い。車内のモニターは分離している。救命器具らしき原始的なデバイスは個別に配置され、統合制御もない。そもそも搬送そのものが遅い。原始人どもが石斧で僕を治療しようとしている。

 僕は担架に寝かされたまま青ざめていた。

「大丈夫ですか? 吐き気、あります?」

 若い救急隊員が声をかけてくる。悪い人物ではないのだろう。むしろ真面目だ。だからこそ、余計に怖い。真面目な人間が、この程度の装備で人命を扱っている。

「あなた達……本気でこの方式が最適だと思ってるんですか?」

「え?」

「いえ、なんでもないです」

 説明したところで伝わらない。僕は目を閉じた。体内の生体補助系が、この環境の雑菌密度に悲鳴を上げている。熱が出そうだ。最悪だ。こんな世界で長く生きられる気がしない。

 病院に運ばれてからも、驚愕は続いた。受付、問診、採血、画像診断。全部が遅い。情報が分散している。患者ごとに個別入力? 端末は外付け? しかも医師と看護師の間で伝達が音声? 信じられない。こんなもの、事故の温床だ。

 処置室のカーテン越しに、低い呻き声が聞こえた。

 年配の男が運ばれてきたらしい。呼吸は浅い。皮膚は灰色がかっている。会話は断片的。医師は別の疾患を疑っていたようだが、違う。僕は耳障りな心電図音を聞きながら、思わず上体を起こした。

「その人、敗血症です」

 処置室の空気が止まった。

「……は?」

 白衣の男が振り向く。若い医師だ。目の下に濃い隈がある。

「皮膚温のムラ、呼吸数、意識混濁、末梢循環不全。原因は感染性ショックのはずです。たぶん腹腔内か尿路。抗菌薬の選定を外したら死にます」

 僕の頭にインプラントされている生体モニタリングAI(BMAI)が言った警告をそのまま読み上げているだけのだが、周囲の人間がにわかにざわつき始めた。

 言い終わるより早く、看護師が「先生」と声を上げた。モニター数値が急に悪化したらしい。医師は舌打ちのような息を漏らし、すぐに指示を飛ばした。数人が一気に動く。


 数分後、別の医師が僕のベッドの前に立った。年配で、眼鏡の奥の目が異様に鋭い。

「君、何者だ?」

 僕は答えに少し困ってから、正直に言った。

「旅人、みたいなものです」

「そういう冗談を言っている場合じゃない」

「僕も本気です」

 医師は眉をひそめた。だが、怒鳴りはしなかった。きっとさっきの患者の状態が、本当に当たっていたのだろう。

 カーテンの隙間から、あの女の子――道端で僕に水を差し出した眼鏡の子が、心配そうにこちらを見ていた。

 彼女は僕と目が合うと、ぺこりと頭を下げた。

 奇妙な世界だ。低文明で、遅くて、危険で、それなのに、どういうわけか人が人の顔をしている。


 それが少しだけ、不思議だった。

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