表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

アジャパー天国

 仕事の帰り道だった。良い気分でフラフラ歩いていた僕は、橋から落ちてしまったらしい。

 あ、死んだな。という感じがあった。首の骨がゴリゴリと折れる音を聞いた。


 気がつけば僕は、どこかの村の路上に寝ていた。周囲には教科書でしか見たことがないような、とても低く感じる建物が並んでいた。僕が元いた都会では、決して目にできない光景だった。

 一体ここはどこなんだろう。あたりを見渡して、自分がどうも道路の上で寝ていたらしいことがわかる。

 この村では大通りなのだろうか? 数十人の人が行きかい、かなり混み合った通りだった。そのうち何人かが、倒れ込んでいる僕に気が付いて、僕の顔を覗き込んでいた。

 その連中のうち、おかしな服を着た女の子が、意を決したように話しかけてきた。

「だ、大丈夫ですか……? 意識はありますか?」

 メガネをかけて、髪を2つの三つ編みにしたその女の子は、おどおどした様子でそう言った。

「熱中症でしょうか? 水、飲みますか……?」

 彼女はそう言うと、持っていたカバンに手を突っ込んで透明の細長い容器に入った水を差し出した。

「あ、ああ……ありがとうございます」

 僕は素直に受け取ってそれを飲み下した……と思った。一秒後、胃の中のものが全て口から飛び出していた。

「これ! 滅菌水じゃないじゃないですか! 悪いですけど飲めないです」

「め、滅菌水……? すいません、わからないですが、ただのミネラルウォーターです。それは」

 彼女のくれた水はミネラルウォーターというらしい。中身を捨てて、僕はミネラルウォーターが入っていた容器を握りつぶした。

「あっ、ペットボトルはあっちにゴミ箱が……」

 彼女が言い終える前に、僕はその容器のゴミを異次元に飛ばした。いつもの通り、DD(ディメンション・ドライバ)を使って、だ。

「!?!?!?」

 女の子はわけのわからなそうな様子で息を飲む。……なんで驚いてるんだろ? DDなんて、もう化石みたいな技術なのに……。

「ペットボトルが……消え……? 消えた?」

 女の子は明らかに当惑していた。

「……僕、なにかやっちゃいました?」

 さすがにどんなに田舎でもDDを使えない場所があるとは思えない。僕は段々と、自分がとんでもない世界に流れ着いてしまったのでは無いかと気が付き始めた。

「?、?? う、うん。気のせいですよね。とにかく、大丈夫ですか? こんなとこで寝てたら危ないですよ。救急車、呼びましょうか?」

 さっと同じカバンから、彼女は小さな板を取り出した。その表面は光っており、彼女はなにやらなぞると、その板を耳に当てた。

「もしもし、怪我人がいまして……。はい、救急車をお願いします」

 彼女はその板に話しかけている。僕はあまりのことに身震いした。これは、あれだ。電話って奴だ。インプラント・トグルが開発されるはるか昔、250年前くらいまでは一般的だったと聞いたことがある。

 僕は、自分がとてつもなく文明レベルの低い世界にいることに、今さらながら気がついた。

 

 こうして、僕の異世界旅行が始まった。旅行と言うのが正しいと思う。歴史小説の世界に紛れ込んだようなものなんだから。

 とにかく僕は、この世界で生き抜かなければならない。周囲にいる原始人のような人達と共に。

 困ったなあ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ