トリフト領にて2
ユキトに連れられ冒険者ギルドにやってきた。大まかな内装は扉の正面にカウンター、右手にカフェと二階に続く階段、左手に掲示板と地下に続く階段、という感じだ。
俺の冒険者ギルドへのイメージは初心者に優しくない、だ。ゴロツキみたいなやつらが低レベル層で足踏みしていて新人を見つける度に絡みに行く。そういうやつらが結構いるのではないだろうかと思っていた。
しかし、実際には見た目ゴロツキの様なやつはいるもののこちらへは無関心だった。ゴロツキの様なやつらや、掲示板の近くで固まって談笑しているやつら、カフェスペースの様な場所で一人腕を組んで目を瞑っているやつを含め、誰も俺たちを気にしていなかった。
さあこい冒険者の洗礼! と勝手に覚悟していたのに拍子抜けだ。もちろん、トラブルなんて起きないに越したことはないのだが。
「失礼、登録をお願いしたいのだが」
勝手に抱いていたイメージがブレイクされている俺を置いてユキトはすでにカウンターの方に行っていた。
そのカウンターの向こうにはイメージ通りの受付嬢がいたので少し安心。
「ユキト様ですね、お待ちしておりました」
どうやら本日、ユキトが登録に来ることが通達されていたらしい。受付嬢がユキトの名を出した瞬間、場の緊張感が上がった気がした。
ギルドに入ったとき、全く注目されなかった理由も何となく察せられる。
「様はつけなくていい、今日からはただのユキトだ」
「わかりました、ではユキトさんとお呼びさせていただきます。本日登録されるのはユキトさんお一人ですか?」
「いや、二人だ。」
「かしこまりました、ではこちらの書類にご記入をお願いします」
冒険者ギルドを見渡していると、トントンと話が進んでいる様だったので慌ててユキトに近寄る。
ユキトが記入している用紙を覗き見る。
・名前
・年齢
・種族
・希望職業
・得意武器
・優遇処置
・備考
そこにはこのような項目があった。
どうやらこの指輪、会話だけでなく文字も大丈夫なようだ。異世界すごい。
何と書いてあるかわかったので、自分の分を書こうと書類に手を伸ばす。
「代筆するので待て、書くまでは対応していない」
するとこんな言葉が飛んできた。さっき思った異世界すごいは取り消そう。
そんなに項目は無かったので、少し待つとユキトは二枚の書類を書き上げて受付嬢に渡した。
俺の種族は人間族で希望職業は魔術師、得意武器は無しと書かれていた。あと優遇処置の欄に八等冒険者免除希望と書かれていた。
「ユキトさんは貴族優遇無しとありますが、一度登録されますと変更は不可能ですがよろしいでしょうか?」
書類のチェックを終わらせたらしい受付嬢が確認してきた。
「問題ない、そのまま手続きを頼む」
「かしこまりました、それでは戦闘技能での優遇処置について説明させていただきます。地下にて戦闘技能テストを受けていただき、試験管からの評価が優秀ならば六等級冒険者に、評価が可ならば七等級冒険者に、不可ならば八等級冒険者になります。ユキトさんのは試験管との手合わせ、マサキさんは魔術の威力と精度の確認という試験内容になります。こちらで書類の手続きをしていますので、お二人は地下へ移動をお願いします」
そう言われ俺とユキトは地下へと向かった。
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地下はサッカースタジアム程の広さがあった。普段は訓練場として使われているらしい。
「来たか」
地下に降りるとひょろっとしたおっさんがいた。とても強そうには見えないが、俺たちの戦闘技能テストの試験監督らしい。
「ユキトだ、よろしくお願いする」
「マサキです、よろしくお願いします」
ユキトに合わせてとりあえず挨拶をしておく。
「ギルだ、さっそくだがまずはユキト君の戦闘技能テストを行なおう」
「わかりました」
ギルさんに連れられて階段から少し離れた場所に移動した。そこには様々な武器を模した、木で作られた武器が籠に入っていた。
「今回の試験はここにある武器を使ってもらう、好きな物を選んでくれ」
そう言われてユキトが選んだのは片手用直剣の様な木剣だった。また、試験管のギルさんもユキトと同じ片手用直剣の様な木剣だった。
武器を選んだらすぐにテストが始まった。お互いに礼をして、二人は5メートル程離れた場所で剣を構える。
開始の合図を頼まれたので、二人が剣を中段に構えるのを見て開始を告げる。
「始めッ!」
その言葉と共に、バシッという音が響き、少し離れたところでギルさんの木剣が落ちる音が響いた。
何が起こったのかわからなかった。
開始の合図を送った瞬間にユキトが消えて、ギルさんの胴に木剣を叩きつけていた。そしてその結果を見てから、ギルさんが持っていた木剣がギルさんから少し離れた場所に落ちた音を聞いた。
「さすがだな、やはり私程度では相手にならなかったか。文句無しに評価は優秀だ」
何も無かったように評価が告げられたが、ユキトの打ち込みはなかなかに良い音がしていたので少し心配になる。
「結構良い音がしましたが大丈夫ですか?」
「ああ、これくらいなら大丈夫だ。真剣で切られた訳でもないからな。さて、次はマサキ君の番だ。少し準備するからここで待っていてくれ」
そう言って、木剣等があった場所から的の様なものを三つ持ってギルさんは離れていった。だいたいここから25メートル程離れた場所にギルさんは的を立て始める。
「なあユキト、一回しか魔術使ったこと無いんだけど、俺」
「橋の上で使ったという魔術は使えるだろう、それでいい。それを真ん中の的に向かって投げれば大丈夫だ」
自信は無いが、やるしかない。
橋の上でやった様に自分の生み出す魔力に意識を向ける。
気づいたらギルさんが戻ってきていた。
「さて、マサキ君はここからあの三つの的を魔術で狙ってくれ。タイミングはマサキ君が好きなタイミングで大丈夫だ」
さて戦闘技能テストが始まったわけだが、俺もバシッと決めたいものだ。
そう思いながら橋の上でやった様に、魔力が自分の手のひらに集まるイメージをする。そして手のひらに魔力が集まるのを感じると次は火の玉のイメージだ。そしてそのイメージが固まると共に叫ぶ。
「ファイアーボールッ!!!」
するとやはり、前回の様な蒼い炎の玉が俺の手のひらの少し上に現れる。それを三つある的の真ん中めがけて投げた。それが狙い通り、綺麗に真ん中に置かれた的に着弾して爆発が起こり、辺りを煙が包む。
煙が晴れるとそこにはクレーターができており三つの的は跡形もなく姿を消していた。