プロローグ2
4月までは、2日に1回は更新したい。
頑張ります。
目を開けたら、なんだか天井が高かった。あと、ベッドがふかふかで気持ちがいい。
「なんという気持ち良さ。これは二度寝するしかないな」
「ありがとうございます。ですが二度寝はなさらない方がよろしいかと」
何か返ってくるとは思わず、びっくりした。どれくらいびっくりしたかというと、二度寝する気が一気に無くなったくらいかな。
声がした方を見るとスーツのような、燕尾服っていうのかな、実際に見たことがないが、そんな感じの服を来た初老の執事がいた。すごく本格的だ、とりあえず見た目は。
「私、ユキト様に仕えております執事でございます。まず始めにお名前をお伺いしたいのですが」
「橋本真幸です。あ、あの、執事さんも日本語が話せるんですか?」
「いえ、私はごく普通の大陸共通言語を話しております。右手にはめさせて頂いた指輪の魔術具にて、通訳されている状態です。話す言葉を相手が理解できる言語に直し、相手が話す言葉を自分が理解できる言語に直す、そういった魔術具でございます。高価なもの故、無くさぬようお気をつけください」
二度寝に釘を刺し、俺が起きたことをユキトという執事さんのご主人様に知らせに執事さんは部屋から出て行った。
にしてもなるほど、どうやら橋で日本語を話していたあの厳ついおっさん、この魔術具を持っていたのかもしれない。
そうだ、あのおっさんだ、あの後どうなったんだ。ファイアーボールを河に投げ入れて、大爆発を起こしてその後気を失うまで、しっかり記憶にある。気を失う前に縛られていたので、おそらく牢屋みたいなところに放り込まれるものだと思っていた。実際には縄は解かれ、ふかふかのベッドでお目覚めだ。
この状況で考えられる可能性は一つ。貴族様が強力な魔法使いを囲うために、俺をおっさんから取り上げた、といったところか。
「魔法チート万歳!」
「ふむ、聞いた限りでは、お前のそれは魔法チートというものではなさそうだがな。先に本契約だ。服を脱いで背をこちらに向けよ」
本日二度目のびっくりである。考え事をしていると周りが見えなくなるのは悪い癖だ。
声がした方を見ると、執事さんともう一人、俺と同い年くらいに見える少年がいた。金髪に鋭い眼、顔つきがどことなくあの厳ついおっさんに似ている。纏っている服装は、騎士っぽい人たちが来る前に、俺に剣を向けてきた人たちに似ていた。黒の上下に赤いコートを纏っている彼のほうが派手さが上だが。
「おい、聞こえなかったか、服を脱いで背をこちらに向けよ」
何故そんなことを、と思いつつベッドの上で服を脱いで言われた通り背を向けた。
「言われたとおり脱ぎましたよー。これから何するんですか。あとあなた誰―――ッ!!」
思ったことをそのまま口にしていると、言い切る前に全身に痛みが走る。堪えきれずに思わず前に倒れた。
体の中を魔力が通っていったような気がした。橋で自分の中に感じた、自分の魔力ではなかったので断定はできない。しかし、体の中を通る感覚は似ていた。
「無事に本契約が完了したようだな」
いつの間にかベッドの横に来ていた彼が言った。何が何だかわからない、といいたいところだが、何となく想像できてしまった。奴隷―――そんな言葉が思い浮かんだ。
「さて、何か言っていたな。何をするのか、だったか。今行なったのは奴隷契約の主人の設定だ。誰か、についてだが俺はユキト。ユキト・トリフトだ。トリフト家の三男だ。他にも質問があれば答えよう」
やはり奴隷契約だった。痛みやらショックやらで今にも意識を手放してしまいそうだ。しかし、今後の自分の行く末についてだ。どうやらきちんと教えてくれるようなのでしっかり聞いておかないと、後で自分が困りそうだ。
「いろいろ聞きたいことがある、あ、あります」
「言葉使いはそのままでいい」
「あ、はい…まずは俺の現状について、橋で意識を失ってからどういう経緯でユキトの奴隷になったんだ?」
「お前、マサキだったか。マサキは今回の騒動の賠償金として金貨8000枚の支払い。支払えない場合は下級奴隷落ちということになった。今すぐ支払う事ができるならばすぐに奴隷から開放される。それが無理な場合は今後、金貨1万6000枚稼げば開放される」
一通り質問をすると、ユキトは「整理するのに時間もいるだろう。朝食までまだ少し時間がある。朝食まで一人で整理するといい」と執事と一緒に部屋を出て行った。その後少し放心してしまったが、すぐに頭の中を整理する。
何故奴隷になったのか―――ファイアーボールによって起こった爆発。それによって桟橋、舟、家屋などに被害が及んだ。また、この街の法律で一定以上の威力を持つ魔術の使用が制限されている。これらの理由で賠償金が金貨8000枚。しかし、払うことができなかったので奴隷に落とされた。身分は下級奴隷らしい。
「正直、自業自得だな…」
下級奴隷とは―――借金や賠償金が払えない者が奴隷身分に落ちる場合、下級奴隷になって奴隷商で販売される。人権は保障されており、借金や賠償金の額の二倍を稼ぐことができれば開放される。二倍の理
由は奴隷の稼いだ金の半分が主人の物になるからだ。なので俺の場合は金貨1万6000枚。
「金貨1枚がだいたい10万円だそうで…」
この国について―――ここはラントヴァッサ王国という国で、王家が一番権力を持っている。その次に権力を持っているのが一等爵の【トリフト家】【ルーデンドルフ家】【ヴォワール家】【グーリエ家】で、領地は大きく分けるとこの四家プラス王家の合計五つの領地がある。ただ、それぞれの領地の中に二等爵、三等爵の領地があるらしい。
「日本でいうと一等爵が県知事で、二等爵や三等爵が市長か」
トリフト家及びユキトについて―――現在はユキトの父が当主で、ユキトは第二夫人の長男。兄二人と姉一人がいて、ユキト以外は全員第一夫人の子供だが仲はいいらしい。兄二人はそれぞれ、上の兄が一等爵を次いで領主に、下の兄が三等爵として分家を立てる。ユキトも爵位は一番下だが準騎士爵で分家を立てることができるが、ユキトは分家を立ち上げることはせず、冒険者になるようだ。ユキトは剣に自信があるらしく、そのため魔術師を探しているところだったらしい。
「ユキトは基本的に前衛、俺が後衛。金を稼ぐチャンスではあるが、命がけ。ここら辺はよくある設定だな」
魔法及び冒険者について―――魔法チート! とはしゃいでいたが、あのファイアーボールくらいの威力の魔術は二等級冒険者なら誰でも撃てて、三等級冒険者や四等級冒険者でも撃てる人はいる感じらしい。ちなみに魔法がいわゆるチート。過去にいた勇者が扱ったとか。魔術はある程度の才能を持つ人が、ある程度訓練すれば使えるようになるらしい。ただ、一等級冒険者の魔術は勇者の魔法に勝るとも劣らないものがあるとか。ちなみに一等級冒険者は八人のみの序列制で、世間一般では二等冒険者が冒険者のトップとなっている。逆に一番下は八等級冒険者。
「俺も訓練すれば二等級冒険者になることは可能らしいが…訓練嫌だなぁ」
グゥ~~~
訓練が嫌だと言った瞬間に腹が鳴った。まるで俺の腹もそれに同意しているようだ。
腹が鳴って気づいたが、少し良い臭いが漂ってきている。そろそろこの世界に来て初のご飯だと思うと少し楽しみになってくる。
グゥ~~~
もう一度腹がなると同時に
トントントン
と、扉を叩く音がした。