プロローグ
はじめまして。
完結できるようガンバリマス。
いまどき異世界転移・転生なんてありふれているだろ? って言っても現実に、ではなく、アニメやマンガ、ライトノベルなどのフィクションでだ。
たとえば、事故に巻き込まれて女神様とこんにちは。チートスキルを貰って異世界転移。
たとえば、気付いたら異世界で赤ん坊。リバーシや調味料でお金稼いだり、知識チートで成り上がり。
たとえば、勇者召喚に巻き込まれて異世界転移。実は勇者なんて目じゃないほどの、強力なチートスキル所持してのんびり気ままに異世界巡り。
その他、多種多様な異世界モノのフィクション作品なんて現代日本にありふれている。ありふれていると言っても、オタクという人種に限られた話かもしれないが。
正直に言おう、現在俺は非常に、ひじょーに困惑している。なぜかというと、それはどうやら俺が異世界転移をしちゃった様だからだ。
しちゃった様だ、なんて軽く言っているが内心はそんなに軽くない。
そう、非常に、ひじょーに困惑しているのだ。たぶん。
なんていったって、気付いたらいつの間にか異世界転移だ。興奮…ゲフンゲフン、困惑するのはしょうがない。
それに女神様にだって会っていない!
「あのー、俺のチートスキルなんっすか!?」
そう叫んでも返答はあるはずもなく、代わりに回りから視線を感じる。どうやら異世界でも、いきなり叫び出すと周りに注目されるようだ。
すぐに興味を失ったのだろう、視線は徐々に感じなくなり、何かトラブルが起こることはなかった。そのことに少しほっとした俺は、現状を確認する。
「装備品はウニクロで買ったシンプルなシャツ、パーカー、ジーパン、パンツ、靴下。靴はアジダスのランニングシューズで、登山用だが最近学生に人気な大容量のリュック。ポケットにスマホと財布。腕にはTHE-SHOCK」
周りからそこそこ…いや、かなり浮いている。知っていたがウニクロでも異世界では浮くんだね!
「リュックの中は、と。えーっと、水筒、筆記用具、メモ帳、充電器二個、カロリーメーター三箱、正午ティー半分、空のペットボトル一個」
うむ、どうすればいいんだ、この装備で。
「現在地はなんかめっちゃ大きい石造りの橋の上。車っぽいナニカが走っていて、それが片側二車線の合計四車線。歩道も両側に広めなのが通っている。目の前を通るのは普通の人っぽい人が大多数。たまにエルフっぽい人、ドワーフっぽい人、獣人っぽい人を見かける」
エルフは耳長いし、ドワーフはちっちゃいおっさん!
なんか異世界っぽい!
「あとは魔法があるのかないのか、だけど…」
さっきから前を通っていく車っぽいナニカ。それからエンジン音やモーター音が全く聞こえてこないのだ。きっと動力は魔法的なものである、と思う。
「なんかさっきちょっと車っぽいナニカがキラキラしてたし。きっとあれが魔力!」
高校生男子をなめてはいけない、想像、空想、妄想、そういったものは大の得意だ。
「さあ俺よ、魔力を感じるのだ!」
異世界転移で魔法を使う方法はだいたい三パターンある。
一つ目は、自分で生成している魔力を使うパターン。このパターンが現状、一番俺が魔法を使える可能性があるパターン。
二つ目は、空気中に漂っている魔力を使うパターン。これは自分一人では感じることが難しいと思われるが、このパターンでも俺が魔法を使える可能性がある。
三つ目は、スキルやチート制というパターン。このパターンは現状、俺の魔法施行が不可能なパターン。スキルの有無がわからないし、女神様とかにも会っていないから、おそらくチートは持っていないし、持っていたとしてもどういうものかわからなければ使えないだろう。
あとパターンに関係なく、イメージ力は大切だったりする。
一つ目のパターンだといいな、と思いながら、まずは一つ目のパターンを想像して目を閉じる。
「自分の中にある魔力…よくあるのは、心臓から生まれる魔力が血を媒介に全身を巡る…」
どれくらい目を閉じていたかはわからないが、不意に魔力を感じられた気がした。次第に今まで無かった感覚が、それを魔力だと強く認識させる。
「そうそう、これこれ、異世界転移っていうならやっぱり魔法ぐらい使えるようにならないとな!」
自分に魔力があることがわかり、一気にテンションが上がる。もしこれが魔力じゃなかったら三日ほど寝込みそう。まあ、そこら辺は置いといて、魔法だ魔法!
失敗しても失うものは無い。最初はやはり、初級魔法っぽいファイアーボールだな、そう思い、憧れだった魔法をイメージする。
右手の手のひらを天に掲げ、まずは、自分の心臓から生まれる魔力が血に乗って自分の手のひらに集まるイメージをする。すると手のひらにうっすらと魔力が集まってきたような気がする。次に、手の先に火の玉をイメージする。それと同時にそういえば火って可燃ガスとか酸素があった方がいいんだっけ、と思い、それらもイメージする。
「なんかいける気がする!」
テンションはかつて無いほど高く、失敗する未来は一切見えず、声高らかに叫ぶ。
「ファイアーーボーーールッ!!!」
俺の叫びと同時に手のひらの少し上に蒼い炎の玉がうまれ、周りからは悲鳴や叫び声が上がる。
周りの悲鳴により、ようやく俺はかなりヤバイ状況だと自覚した。
ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。集中したら周りが一切見えなくなる俺のバカ野郎! これどうするんだよ、とりあえず消えろ、消えろ! 消えないーーーー!!
「ーーーーーー!!!」
「ーーーーーー!」
なんとか出してしまったファイアーボールを消そうとしていると、なにか怒鳴り声を上げた二人組の男が、剣をこちらに向けていることに気がついた。
男二人は俺に何か言っているようだが、通じない。こういう異世界転移にはどんな不幸な転移でも、翻訳スキルくらいはあるよね! と頭を抱えたくなる。
現状は限りなくヤバイ。手のひらの先にはゴゥゴゥ、と唸りを上げている、消えない蒼い炎の玉。こちらに叫びながら剣を向けている男二人。そして言葉が通じない。
どうしたもんか、と悩んでいると状況が動いた。そう、異世界お馴染みの騎士っぽい人たちが来て、完全に包囲されてしまった。
そして包囲している騎士っぽい人達から一人金髪の厳ついおじさんが進み出てきた。包囲している騎士っぽい人達が止めようとしてるところを見ると、隊長とか班長っぽい人かな。
「おい小僧! 何が目的だ!」
「おっさん、日本語話せんの!?」
「!?」
日本語でいきなり話しかけられ、とっさに言葉を返してしまったことを若干だが後悔してしまった。
厳ついおじさんの、元から鋭かった眼がさらに鋭くなり、ゆらゆらとオーラの様なものが出始めた。
「す、すみません! あの、質問よろしいでしょうか」
「なんだ」
どうやらすぐに切り捨てられることは無さそうだ。少し安心したが、言葉に気を付けないと首と胴がさよならバイバイしてしまいそうだ。
「これの消し方教えてください」
途端、さらに厳ついおじさんが厳つくなった。
「なぜ消し方も知らぬ魔術をこのような街中で使ったのだ!? 自分で出した魔術の消し方など本人以外が知るわけ無かろう!」
あ、詰んだ。消し方不明、厳ついおじさんは厳つさが天限突破。
「消し方わからないんで河に投げていいでしょうか」
「やむを得ん、許可する。が、河以外の場所に投げようとした場合は切る!」
許可が出たので、ようやく出してしまった蒼い炎の玉をポイっと河に投げ入れる。思いっきり投げたわけではないが、そこそこの速さで少し離れた水面に着弾。その瞬間、轟音と共に大爆発が起こった。
その爆発に腰を抜かしたが、それは俺だけではなかった。周りにいた騎士っぽい人達も腰を抜かしていた。例外は俺に話しかけてきた厳ついおじさんだ。このおじさんだけは少し顔をひきつらせながらもこちらに寄ってきた。
「小僧、おとなしく縄につくか、抵抗するか、どっちだ」
「おとなしくお縄につきますので、切らないでください」
両手をあげて降参のポーズをしていると、いつの間にか厳ついおじさんの手にあったベルトの様な物を首に巻かれ、両手を縄で縛られる。
首のベルトはおそらく、魔法を使えなくするような道具かな。
「立て」
「すみません、腰が抜けて立てないです…」
という返事と共に意識が遠退いた。魔法の反動なのか、緊張状態からの解放なのか、両方か。どっちにしろもう無理。
次目を開けたら刑務所みたいな所かな…そう思いながら、俺は意識を手放した。