6話/無人島生活 ⒊
と、登録者が増えている(驚愕)
ありがとうございます!
徹夜をしたその日、4日目の昼に起きたリミアはその後、剣を片手に無人島の森に来ていた。魔法の特訓と今晩のご飯の調達のためだ。
「それにしても、まだ何があるかは分からないんだよね」
夜ご飯の調達は森と川と海で行うようにしているが、それでもまだ安定して物がとれた試しがなかった。
理由は二つ。
一つはリミアの体質のせいだという事だ。リミアが女神アリアから与えられた種族は龍族の中でも悪鬼とされている邪龍族、そしてその種族が纏う独特の気配と魔力は他種族が忌み嫌うそうな。特に動物や気配に敏感な生き物は全く近寄ろうとはせず、魚釣りをすれば餌にすら掛からず、狩りをすれば獲物が近づいてこないのだ。
二つ目はリミアが日本人だったというべきだろう。日本人、つまり日本に住む一般人は狩りとは無縁の生き物である。狩りをするとしてもりんご刈りが精々だろうか。狩りという事を知らないリミアは弓が使えないあまりに気配のせいで遠くにいる獲物を狙えず、魚釣りの経験が無いために餌を付けるという必要性が分からず餌をつけない始末。最後には採ったキノコの毒性も見抜けず一命を失うところだった。
「だけど、今回は違うよ。なんてたって僕には技能がある!」
固有スキル“技能創造”でリミアは解決策を模索した。結果として気配と魔力の消去、狩りという手段を身につけることが出来たのだ。
まず、気配と魔力は“遮断”の技能で抑えることが出来るようになった。レベルがまだ足りない為、集中をしてリミアを見ることが出来ればその遮断を超えて気配を感じ取ることが出来るが、何も気づいてはいない動物には不可能だろう。
次に狩りの手段、技術を身につけた。技術とは言ってもその知識や経験ではなく、手段という言葉通りのことだ。それは弓術と魔法だ。この二つは知っての通り、遠距離から獲物を仕留めることが出来る技能だ。弓は木と“物質創造”で作り出した糸で、矢は木と鉄で作り上げた。これを作るにも手先の器用さだけでは足りなかった為、それに精通している技能を身につけ作り上げた。その技能とは常時スキル“鍛冶”である。
この世界の弓術は日本とは違い、その“弓術”という技能を持っているだけで遠距離にいる獲物が何となく見えるようになった。それともう一つ、弓に魔力を纏わせることで威力を上げることが可能となった。魔力を纏わせるのは“気技”という技能と同じことなのだが、それはまた別の機会に。
試しに、10メートル上空を優雅にお散歩中の鳥を狙ってみることにした。狙いは鳥の右翼、魔力で矢を纏い速度と火力を上げ、技能補正の掛かったその目で獲物を捉える。
(今だ!)
鳥が一定の滞空に移った瞬間にその手を離し矢を放った。魔力を纏ったその矢は音速に迫る早さを見せ、その鳥に直撃。そして翼とそこから体に繋がる肩の部分を粉砕して塵と化した。
予想外の威力だ。
「うわ、グロい。それに血が…………」
上空から雨のように降り注ぐ血でメイド服を濡らしながら、鳥が落ちた場所へと向かう。
落ちた鳥は、その苦痛のあまり痙攣を起こし、瞳孔が開きかけていた。死ぬ寸前のようだ。先程から「グワッ、ァガ?」みたいな声をずっと出している。リミアは少し嘔吐感を堪え鳥の首に鉄の剣を置いた。
「ごめんね、鳥さん」
そして、力を込めてその剣を振った───
◇
次は魔法を使う事にした。
先程の鳥の死体は“無限収納”の中に放り込み、血は土の中に埋めていった。血は土の肥料になるそうだ。
時々蘇る鳥の死相を振り払い次の獲物を探すべく、リミアは“索敵”の技能を発動する。
(いるかな?)
“索敵”はいうなれば、使用者を中心とした範囲内に存在する獲物を察知することが出来る技能だ。範囲はレベルによってその広さを変えるが、それの有用性は実に高かった。
リミアの範囲は約15メートル弱、この中に入った獲物を端から察知していく。例え木の中、土の中、空の上に隠れよう逃げようともその範囲にいる限りはリミアには筒抜けになってしまう。
(何かがいる!2体か)
距離にして14メートル先、右斜め前方にその獲物を2体ほど察知する。リミアは自然と呼吸の回数を減らし、緊張を纏ってその獲物に近づいていく。残り5メートルを切ったところで、獲物を視認することが出来た。
(あれは、猪か?……それにしては青いな)
2体の獲物はどちらも紺藍色の毛皮を纏い、30センチ近くの巨大な牙を咥えた猪だった。地球の猪とはだいぶ異なる外見だが、ここは異世界、これが普通かもしれないとリミアは割り切るように首を横に振る。
(よし、じゃあ魔法を使っていこうか)
2体の猪を狩るのに使うのは魔法だ。
魔法とはこの世界にある力の一つで、種類も多種多様に存在し、この世界の現象に干渉できる力だそうだ。この世界で有名なのは四代系統の火土水風の魔法や、法外系統である光魔法と闇魔法、聖恵系統の回復魔法の7つなのだ。
だが、リミアはその他に氷魔法をや雷魔法、嵐魔法などの災害系統や、空間魔法や召喚魔法、付与魔法、重力魔法、錬金魔法などの界外系統の魔法まで使える。いや、作ってしまっていた。本人はその事の重大さには全く持って気づいてなどいないが。
今回使うのは一番地味で、しかし確実性のある土魔法である。リミアはそっと手を地面に起き魔法を発動した。
(土魔法“地の杭”!)
地面に流し込んだ魔力は青猪の足元にある地面に魔法として発動される。現れたのは地面から這い出た太い杭が2本、青猪の腹部を貫いていた。
青猪は何故自身が地面から生え出た突起物に貫かれ宙に浮いているのか理解することも出来ず、痛みに失神しながらその命を落とした。
僅か5秒の出来事である。
そして、それを起こした本人は予想外の魔法の威力と、青猪の死に様に腰を抜かしていた。
「な、なんでこんなに強いの?」
事実は、リミアの魔力の膨大さによる所が大きかったりする。リミアは女神アリアから特典ということで多量の魔力を受け取っていた。その量はこの世界で1桁の実力者に入れるだけの量だ。
リミアが持つレベルが低い土魔法は本来、それ程の威力は出せず青猪の足を貫ければ上々だったのだ。が、膨大の魔力がその魔法を押し上げて押し上げて腹を突き破ってしまったわけだ。
「これがこの世界の普通なのか?」
だが、リミアはその事に露ほども、埃の欠片すらも気づくことが出来なかった。
出来るはずも無かったのである。
余談なのだが、魔法は魔錬杖というものを媒介として使うことによってその威力を上げることがそれ後に見持って知ることになる。
◇
「ただ、いま」
色々と精神を疲労した狩りはその後4時間にも及び、魔法を駆使して獲物を狩っていった。その結果として青猪を4体、金の毛皮を纏った金猪を1体、射殺した鳥を2体と大量の成果を残していた。
猪や鳥を殺す度に吐き気と嫌悪感に襲われ、その場で膝を抱えることが何度かあったが、その度に立ち直り獲物を狩ることが出来たのだ。
他にも山菜や、“鑑定”や“解析”という物を識別する技能のお陰により、毒ではないキノコも採取することが出来た。これが一番に嬉しかったりもした。
収穫した物は端から“無限収納”に入れていき、無事に我が家である海の家に辿り着くことが出来た。
「じゃあ、作るか」
家に帰ってすぐに夜ご飯の支度をすることにするリミア。まずは使う食材と保存用に分け、使うものはそのまま持ち、使わないものは昨日作った冷凍庫なる倉庫に冷凍してしまう事にした。これによって狩りに出らづとも食料の心配をしなくても済むようになる。
次にキッチンに移動する。
リミアの作った海の家は、地球にある海の家とほぼ同じだ。何故か、客が一人もこないのにフードコートなる食事が出来るコーナーを作ってしまったのだ。そこには10個のテーブルに、40+αの椅子が並べられ、完全に海の家と化していたのだ。
改めて言おう、人など来ないのにだ。
これは深夜テンションによるものが大きいが、今後使うことを祈ってそのまま放置する方向で自己完結してしまったリミアである。
「さて、気を取り直して調理だ」
今日の献立は猪の肉を山菜で巻いた肉巻きのようなものだ。
《常時スキル“解体”の作成に成功しました》
久しぶりにこの声を聞き終え、無限収納に入れておいた青猪を一頭取り出して解体していく。解体の経験が全くの皆無な為の“解体”の技能だ。
青猪の首を落とし、胴体を持って血を抜いていく。その後は腹を捌いて内蔵を取り出していく。普通なら猪の肉は臭みが酷いらしいのだが、殺してすぐに“無限収納”に入れた為に、状態が維持され臭みがあまり出なかった。その事に若干の嬉しさを交え、肉の鮮度が落ちないように素早く捌いていく。
今回使うのは胸周辺の部位だけで、他の肉は一旦“無限収納”に入れて、この後に冷凍庫に入れておく。調理に使う肉は“物質創造”で作った調味料で味付けをして、海の家にある定番の鉄板で焼いていく。
焦げが付かないように気を付け、いい感じに焼けてきたら、山菜を巻いて出来上がりだ。
「うぉ、意外と美味しそう」
予想以上の出来に感嘆と涎を漏らしたリミアはすぐに皿の上に乗せて実食に移る。食べる場所は勿論、誰もいないフードコートでだ。
「いただきます」
女になっても、人間ではなくなっても、この習慣は止めることはしなかった。これは、日本で一番大切な習慣だと母が言っていたのだから。
「よし、食べようか」
合わせた手を下ろし、フォークとナイフで肉巻きを切り開ける。すると、中から肉汁が溢れ出し、立ち昇る匂いは鼻を魅了した。リミアは一切の手を止めず一口、それを頬張った。
何回かの咀嚼、そしてそれを喉に通して一旦手に持つフォークとナイフをテーブルに置いた。
溢れ出てきたのだ。
「美味しぃよぅ…………」
異世界に来て初めての、普通の食事に涙を流していた。今まで日本にいた頃はご飯を食べても涙を流すようなことは一度たりとも無かった。あったとすれば、大好きなナナの手料理を食べた時くらいだ。
今日リミアは食事を食べられるという事に、そして今まで溜め込んできた物を吐き出すように嗚咽混じりに涙を流していた。
「うぅ、あむ、くむ……」
涙を拭いて、食事を進めていくが溢れ出る涙を止められなかった。無人島に来て4日目の晩御飯はそんな食事だった。
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矛盾点を無くしていくために、ちょくちょくと直させていただきます。大幅な変更は絶対にしませんが、少しだけ内容が変化するかもしれませんが、ごめんなさい。
登録者が増え、感想も頂いた幸せ者です。これなら明日は2本くらい出せそうな…………
出しましょう