3話/僕は女神様のことが大嫌いです
大変重要な書き間違いをしてしまいました。
残りの項目はあと4つ、勝てる確率は心情的にゼロパーセント、勝てる気がしない。
だけど、残りの項目はこれから生きていくのにかなり重要になりそうなものばかり、全てあのクソ女神に任せてはいられない。
ネタキャラになりたくない!
「で、君は私にどうやって勝つつもりなのかな?」
「ねえ、種目をジャンケンから他のものに変えてもいいかい?」
「…………他に面白いものがあるなら別にいいけど」
「分かった」
よし、これで第一目標はクリアだ。
このまま勝負を続けても負けは見えてる、というかジャンケンで僕の未来を決められたくはない。
さて、問題はここからだ。
一体どんなゲームならこの女に勝てるんだ?
この女神は神様を名乗るのだから心とか読んでくるかもしれないし、心理戦でも勝てる気がしない。
思いつない。
だったら、それ以外で勝負をつければいい。
「ねえ、馬鹿女神」
「なに?最底辺男。あ、ごめんなさいね、女の子だったね、リミアちゃん」
「一々僕を馬鹿にしないとと気が済まないのかい」
本当に僕のライフポイントは残り少ないよ。
「それでなに?」
「提案なんだけど、次の勝負に全ての項目を賭けないか?」
「ん?どういう事?」
「つまり、次の勝負で残った全ての項目をかけるんだ。勝った方がその全てを決められる。どうだい?」
「へぇ、勝てば一発逆転、負ければ一気にネタキャラへ。面白い提案じゃん、それでいいよ。それでどんなゲームをするの?」
「次の勝負は、君でも干渉の余地がない運ゲー、コイントスだよ」
「ぷふっ」
僕が提案を言い終わると同時にアリアは吹き出した。
これでも真面目にやっているのに。
「なんだよ」
「あー、いやいや、続けて」
「……今からするのはコイントスだ。女神、何かコインはないかい?」
「んー、まあいいか。あるわよ、ほら」
そう言ってどこから取り出したか分からないコインがこちらに投げられた。
コインには片面に“表”、もう片面に“裏”と刻まれていた。
分かりやすくて助かる。
「それじゃあ、ルールを説明するよ。まず投げる前に僕と君が表と裏、どちらかを選択する。そして投げたコインが地面に落ちて表を向いていた面を確認する。表だったら表を選んだ方が、裏なら裏を選んだやつが勝ちというわけさ」
ルールは簡単なものにしておいた。
あまり難しく考えても面倒だし、これって運ゲーだし、そんなに難しく考えずに簡単にした方がいい。
1通りの説明を終えるとアリアは手を挙げ質問をする。
「しっつもーん。それって誰が投げるの?コイントスが運が絡むゲームだとしても投げ方によっては自分の選択した面を表にできなくもないんだよ?」
「それは考えてある。投げる人はそこのバニーさんだ!」
「ひぇ、私ですか?」
ずっと端っこで呆然と立っていたバニーガールを指さすと、バニーガールは戸惑ったように狼狽えた。
「ああ、頼むよ。僕やこの阿呆が投げるわけにもいかないし、他に人がいないからね」
「あぅ、分かりました」
了承を得たことで僕はバニーガールにアリアから受け取ったコインを投げる。
バニーガールはオタオタと危なかしくコインを受け取った。
本当に彼女で大丈夫だろうか。
「じゃあ、コインの面を決めていくよ。そうだ、決めるのは君からでいいよ」
「私からでいいの?ま、リミアちゃんの考えは分からないけどいいわ。表よ」
「リミアちゃんはやめて欲しいな」
僕の精神が持たない。
「……じゃあ、僕は裏だな。バニーさんよろしくお願いします」
「は、はい!」
なあ、女神、地球にはこんな言葉があるんだが知っているか?
残り物には福がある。
「で、では、行きます。それ───」
一時の緊張が流れる中、バニーガールは手に持ったコインを指で弾き、空高く打ち上げた。
コインは数十の回転を続け、上げられたコインの勢いがなくなったと思うとコインは重力に引き寄せられ地面に落ちた。
3度のバウンドの後コインは地面で回転して動きを止める。
コインが表に向けていたのは“裏”だった。
僕の勝利だ。
「やったっ!!ざまあ見やがれだよ、この敗北女神。やっと、やっと一矢報いてやったよ!」
僕はこの勝利に震え、盛大にその場で喜んだ。
何よりも僕のことを散々馬鹿にして、散々陥れたこの女神に勝てたことが嬉しかったのだ。
運は僕の味方をしたのだ。
「それじゃあ、残りの項目を決めていきましょうか。手頃なのから、種族を決めましょうか。リミアちゃんの種族は何にしようかな〜。やっぱり女の子になったんだからうさ耳の獣人?サキュバス?ねね、リミアちゃん。希望はある?」
「へ?おやおやおや、突然の敗北に頭の何処かでも打ったかい、低脳女神。負けた君が何勝手に決めようとしてるんだよ」
突然、虚空からバインダーらしきものを取り出して僕の種族を決めようとするアリアに待ったの声をかける。
何をしているのだ、と。
負けたはずのお前がだ。
「はあ、何言ってるの?負けたのはリミアちゃんじゃない」
「え、いやいや勝ったのはどこからどう見ても僕じゃないか。第一見てみなよここに転がっているコインを、しっかりと“裏”を向けているじゃないか」
僕は床に落ちているコインを指さすが、アリアはその態度を変える様子がない。
「ねえ、私がどちらを指定したか覚えている?」
「ああ、覚えているさ。“表”でしょ?」
「そう、“表”よ。だから私の勝ちなの。だって今コインが表に向けている面は“表”なんだから」
僕は彼女の言っている言葉の意味を理解出来ない。
「何言ってるんだ。ほら、ここに書いてあるじゃないか“裏”って」
「ええ、書いてあるわね。書いてある、だけどそれは“表”じゃない。そうね、君にわかるように言ってあげる。その“表”に刻まれた“裏”の絵柄になんの意味があるの?」
「え、あ、いやでも」
何となくだ、何となく女神の言っている意味が分かってきたような。
つまりこいつは
「つまり、リミアちゃんは私から貰ったコインの絵柄を見て勝手に勘違いをしたわけ。そしてそこに転がっているコインは“表”だよ。分かった?」
「な、が、あぁ…………」
つまり僕は最後の最後に女神に出し抜かれて騙されたわけだ。
これじゃあ、どちらにしても僕の敗北は決まっているようなものだ。
例えば“表”の絵柄が出ていようと、そのままの意味として受け取ることが出来る。
つまり、この勝負は始まった時から終わっていたのだ。
「さあ、決めるわよ。ネタキャラになるかならないかは君の誠意に掛かっていると私は思うけど。どう?」
僕は無言で、ゆっくりとその場で土下座をした。
後ろに立つバニーガールがとても小さな声で「ごめんなさい」と言ったことに僕は気づかなかった。
そして、僕を嵌めた犯罪者はこの言葉を残す。
「やっぱり引くわよ土下座。それに女の子になったからかな?変な気分。これって背徳感かな、ぷふっ」
絶対にぶん殴ってやる!
◇
「何がいいかな♪」
「なるべく普通のにしてくれるかな、女紙様」
「生意気な事言ったからダーメ」
「謝るから頼むよ!」
僕と女神の2人は今、異世界で生きていく僕の種族を一緒に決めている真っ最中だ。
一緒にとは言っても仲良くではない。
女神が楽しそうに僕の種族をネタキャラにしようとするのを、僕が必死に止めているだけだ。
見方によれば話し合いのように取れなくもないが、断じて違うとここに誓おう。
「もう、そこまで言うのならリミアちゃんが決めていいよ」
「ほ、ほんとかい?」
やばい、目の前の見た目だけ女神が心まで美しく見える。
「本当よ、ほらここに載ってる種族の中から選んで。一応、クレシアンで存在している種族は全部乗っている筈だけど、何か注文したいなら少しくらいは聞くよ」
そう言って本当にアリアは種族名簿の載るバインダーを手渡してきた。
今まで馬鹿言ってすいませんでした!
「うぉ、流石に多いな」
受け取ったバインダーを覗くと、多種多様の種族が載っていた。
ありきたりなエルフやドワーフから珍しい種族まで、さらには魔物まで載っている始末だ。
一体誰が、スライムやオークなどになりたがるのだろうか。
しばらく見ていると、一つの種族の名前に目が止まる。
・龍族
龍が人となった姿、人形生物の上位種。
強そうな名前で、かっこよさそうだからだ。
「ねえ、女神。この種族はどういうものなんだい?」
「え、龍族?ああ、あの希少種族ね」
「希少種族?それって少ないみたいな意味かな?」
「そうよ、龍族はクレシアンに3体しかいない種族なのよ」
少ないの所の話じゃないよ!
一桁切ってるって時点で滅亡してしまうだろ。
「何でそんなに少ないんだ?」
「それは龍族が子孫を中々残さないからよ。まず、龍族は寿命が永遠に近いからそういう気にはならないし、欲求が何より少ない。それに加えて龍族は無駄に強いから自分よりも強い相手じゃないと交配はしないって言うのよ」
随分と我儘な種族だな。
それに欲求が少ないとか賢者ですか?
「それじゃあ、龍族同士で子供を作ればいいじゃないか」
「それが作れないのよ。龍族同士で子供を作ると、産まれる前に死んじゃうんだって。原因は龍族の高過ぎる能力故なんて言うから救えないのよ」
「救え無さすぎでしょ。まあ、なるだけなら関係ないか。女神、僕を龍族にしてくれ」
「分かったわ。じゃあ今から龍族にするから動かないでね。ちちんぷいぷいのぷいー!」
アリアが適当な呪文を唱えると僕の周りに白い靄が現れた。
靄は私を包んだ瞬間、体の奥から暑いものが湧き上がり、力が漲ってくる。
さらに体の方も変化していく。
丁度良い大きさになっていた胸は控えめなものになり、身長がさらに縮んだ。155センチくらいだろうか?
更に目は金色に光り、八重歯が牙を向く。
「おお、どんどん変わって───え?」
体の変化が終わると今度は僕の体を包んでいた靄が変化した。
神秘的でとても透き通っていた白い靄は、禍々しい黒い霧と化していた。
更に、アリアを見ている時にこみ上げてくる負の感情と共に、力も湧き出てくる。
「女神、僕って本当に龍族かな?」
「え、ちゃんと龍族よ。ただ龍族の前にちょこっと“邪”の文字が付くだけよ」
それって邪龍族って呼ぶんじゃないのか?
「おい蛇足女神、邪龍族はどんな種族なんだ?バインダーには載ってないんだけど」
僕はバインダーをバンバンと叩きながらアリアを睨みつける。
禍々しい気配も合わさり、それなりに凄い睨みになっているのだが、アリアは気にしない。
「邪龍族っていうのは、簡単に言うと魔族と龍族のハーフよ。バインダーに載ってないのはクレシアンに一体しか存在していなかったからよ。今はもう死んじゃったわ」
「それで、それだけで終わるような話じゃないよね?君が勝手に変えたんだ、それなりに面白い話があるんじゃないのかい?」
「そうなんだよ!邪龍族はその禍々しい気配を常に周りに放っているから、敏感な感覚を持つ動物や獣人族に嫌われちゃうのよ。逆に魔物には凄く好かれるみたい」
「…………そのただ1人の邪龍族はどうなった?」
「その邪龍族は名前をマルスと言ってね。どこで生まれたと思う?獣人族が多く住んでる国に生まれたのよ。その瞬間からボッチになっちゃってさ、それで何とか周りからの信頼を得ようと事件が起こる度に獣人達を助けたのよ。頑張ったよね」
おお、可哀想だな環境と産まれだが、周りからの信頼を得る為に人助けは凄く好印象だ。
「だけど、獣人族の誰かがこう考えたらしいわ。“悪いことが起きるのはあの邪龍族のせいじゃないのか?”ってね」
「は?」
「それからマルスの印象はどんどん悪くなっていってさ、それも超高速で。そしていつの間にか魔王認定されて勇者ってのに討伐されたのよ。どう?凄いでしょ!」
「完全にネタ種族じゃないか!ふざけないでよ、なんだよマルス滅茶苦茶可哀想だろうが、救わられなさ過ぎだろ。親は何してたんだよ」
「えっと……母親は息子のマルスが獣人族に避けられているって聞いて反狂乱に怒って、父親がそれを監禁して止めたらしいね」
監禁してって、どんな怒り方してたんだよ。
「それで、マルスの死が母親に伝えられた瞬間、とうとう怒り狂って父親を殺して牢獄から出ちゃったの」
え、殺したの?
好きな人を?どれだけ息子愛してたんだよ。それに、父親も母親を閉じ込めすぎだろ。
「それで最後はどうなったんだ?」
「最後は母親がその獣人族の国を滅ぼしてお終い。滅ぼすのに1時間は掛からなかったんだって、凄いね」
「凄くないよ!変えてくれよ、龍族に。じゃないと、僕までボッチに…………」
やばい、泣けてきた。
これもう怒っていいよね?誰も怒らないよね?だって、もう目の前の女神が嫌過ぎて腕が痙攣してるんだから。
もう限界だった僕は、唸った。
「嘘つき……」
「え?」
それは僕の口から出た我慢がきかなかった言葉だ。もう、僕は我慢の限界だったのだ。
「嘘つき嘘つき、嘘つき女が!君はそんなに楽しいのか?え?僕は全く楽しくないよ、もう僕は異世界になんて行かない。君がどれだけ僕を行かせよう、例え行ったとしても3秒で自害してやる」
「え、あぅ」
突然のヒステリー化してしまった僕を見て、アリアは見てわかるくらいに動揺していた。それをいい様と思う反面、少し可哀想だなと感じてしまうのはあれだね。
「あのね……」
「君の言葉なんて聞きたくないよ嘘つき」
アリアが何か弁明に近い言葉を並べようとするが僕はそれを受け入れない。散々こちらが苦しめられたのだ、あちらも苦しんでそれなりの返しをしてもらわなくては割に合わない。
「ご、ごめんなさい。つい楽しくって……だから、許してもらえるか分からないけど後の項目は全て君の意にそうようにするよ」
「何をしてくれるの?」
「まず、君のステータスは私の権限で魔力を大きく増やすよ。魔力はあちらの世界ではかなり役に立つと思うから絶対に損は無いよ」
「それで?」
それだけではまだ、僕の心は許さない。髪の毛並みに小さい僕の心はもう限界までに来ていたのだから。
「そ、それと君に与えるスキルを二つ。一つは“最適化”、もう一つは“技能創造”をあげる」
アリア曰く、この二つの能力はかなり使えるそうだ。最適化は物事の最適を、そして技能創造はクレシアンでは想像だにしないほど使えるそうだ。なんでもクレシアンは技能が全ての世界で、それを生み出せる能力はまさにチートだ。
「これで、許してくれる?」
まあ、ここまでしてもらって逆にねだったり、泣きべそをかくのは大嫌いな女神と同じになるだろう。
僕は表情から怒りを下ろし、和らげる。
「あぁ、もう許すよ。流石にここまでしてもらって怒るのも馬鹿らしいからね。さ、これで全部終わったのなら異世界なりに送ってよ」
僕は許しますと両手を上げ、異世界に行ってやると告げた。もうこれ以上ここには居たくないし、異世界も何だかんだで少し楽しみだったりする。
僕は現金な男だ、今は女の子だが。
「うん、じゃあここに転送用の門を作るから後ろに5歩下がって」
「分かった。1、2、3…………」
アリアに言われたとおりにゆっくりと後ろに歩き、5歩目で足を滑らせた。5歩目の場所に足場が無くなっていたからだ。
軽い浮遊感の中、僕は急いで後ろを振り向くとそこには大きな穴が開いていた。穴というより門の形に近い、そんなものだ。そして目の前を振り向くと、最悪の女神が、最高の哄笑を露わにしていた。
「あ、ごっめーん、異世界の門そっに作ってたよ。だけどいいよね?どっち道行けるんだから。あ、そうそう、背中から異世界に落ちた人って人里の近くには落ちないようになっているんだよね。だから、私がなるべく安全な場所に送ってあげる」
「っ!このくそ女がぁぁぁぁみぃぃ!」
消えゆく視界の中、僕は喉が潰れるほど声を張り上げた。僕は思わぬ形で異世界に転移されてしまったのだから。
◇
「ここは?」
目の前を見渡すと綺麗な海が広がっていた。
海水はとても綺麗で、透明度も高い。
更に後ろを振り向くと、深い森と断崖絶壁が見えた。
どうやら、異世界には無事に送られたらしい。
だが、人の気配を全く感じない。
僕は周りをグルグルと見渡しながらそんな事を考えていると、見計らったように天から不思議な声が聞こえてきた。
『愛しのリミア様へ。無事異世界に辿り着きましたか?足元には必要な服と武器、それから私が書いた説明書を置いてますので確認してくださいね』
僕は足元を見る。
確かに砂浜の上にアタッシュケースのようなものが置かれていた。
怪しいと付け足しておくが。
声はそれだけでは終わらなかった。
寧ろ、ここからが本題なのだと。
『あーそれから。リミアちゃんがいきなり街中に裸で転送されたら大変なのと、面白そうだから無人島に転送しちゃいました。これから無人島を出る為に苦労をすると思いますが頑張ってね愛しのリミアちゃん。あなたの最愛の相手アリア様より』
僕はそこで深く、深くため息をつく。
どうやら僕は女神の娯楽に巻き込まれて無人島に異世界転移したようです。
誤字脱字や、訂正箇所がありましたら感想にてお願い致します。
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