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女神の娯楽に巻き込まれて  作者: 下記の種
2章→無人島編
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15話/強くなりたい

 今後のことについて話し合った2人は、無人島の地中に眠る迷宮について論点を向けた。あの日、魔法の暴発をしてしまったが為に生まれた穴から落ちた迷宮。危険な為にそこを埋めようと考え、2人は次の日その穴の場所へと向かった。


「深いね」


「深い、ですね」


 2人が覗き込んだ穴は迷宮に繋がっており、深さはそこが見えないほどだった。以前、大震災を経験した日本の被災地に向かったことがあるリミア。そこで見た陥没地帯はこれより範囲は広かったが、底はこれの4分の1程度だった。恐らく図っても何10キロはあるだろう、と考える。


「これは……下手に穴を埋めない方がいいね」


「……それはどういう?」


 リミアの思案に、不思議そうに聞き返すセラ。


「もしも、ここをある程度の深さまで土で固めて地面を作ったとしても、また少しの衝撃で壊れてしまうかもしれない」


「それは、そうですね」


 どういう原理かは分からないが、陥没した場所は穴を埋めても簡単に崩れてしまう場合があるだとか。その為、土魔法で埋めても下に空間があるのなら簡単に崩れ落ちるだろう。


「だとすれば、思いつくのは……柵を立てる程度だね」


「それが最善だと思われます」


「じゃあ、始めよっか」


 半径20mはあるその穴の周りに柵を張る事に決めたリミアは早速作業に取り掛かる。

 周りの木をセラに切ってもらい、それを錬金魔法と重力魔法、そして風魔法で切っては立てて、切っては立てての繰り返しだった。技能を多用した作業だったので5分も掛からずすぐに終わらせることが出来た。


「終わった。じゃあ次に行こうか」


「はい」


 作業の終わった2人は次の目的地を探るべく、森の中の更に奥へと進んでいく。


 2人が森に入った目的は主に二つだ。一つは迷宮に通づる穴の対処。これは、柵を張ることで解決した。そして、もう一つはその迷宮の本当の入口を探すことだ。


 迷宮はリミア達が落ちた穴とは違い、別の入口が存在する。寧ろ穴があるのが例外であり、迷宮に入るにはその入口を探すのが通例だそうだ。入口は迷宮の第一階層に繋がっており、いきなり最下層に落ちるなんて事は百が一にも無いとのことだ。


「やっぱり、レベルが上がると範囲も広がるな。いっぱい魔物がいて気持ちが悪い」


 リミアの“索敵”の技能はレベルが上がり、その索敵範囲も広がっていた。以前はそれほども無かったのだが、今では迷宮の1層まで見れるようになり、魔物がゴロゴロといるのでその数に思わず酔いそうになる。


「……見つけた、その右斜め前の奥」


 リミアが苦手とする“索敵”をわざわざ使っていたのは迷宮の入口を探るためだ。セラでもいいような気はするのだが、セラのレベルではその範囲が狭まるという。その為に早く探すのならリミアとなったわけだ。


 森の奥、リミアの指を指したその先には立派な作りとなった入口があった。それだけが立派で他は簡単なものとなっていたので、あまり感動は抱けなかったが。


「見つけましたけど、どうしますかリミア様?」


 その言葉に少し考える。


「少し気になるけど……やっぱりまだ迷宮には入りたくないかな」


 目を閉ざせば幻聴のように聞こえてなくるあの化物の叫び声。それを覚える度に体が少し震え、迷宮に入ることを躊躇わせた。もう一度、迷宮に入ればあの化物と出会うかもしれない、そう考えると体が震えるのだ。


 リミアが覚えたのは恐怖、それも乗り越えるのには時間がかかる、そういうものだった。


「では、戻りましょうか?」


「うん、そうだね」


 何となくリミアの意を察したセラはそう提案を掲げ、リミアはその優しさに甘えるように帰ることを口にした。その帰り道に会話は殆ど湧かなかった。







「強く、なるですか?」


 セラは首を傾げそう聞き返す。リミアはそれを見て肯定と首を縦に振った。


「そういう事。今後の目標は僕が強くなる事だ。もう二度と、あの時のようになりたくはないからね」


 リミアとセラの2人は海の家に戻った後、昼食を間にリミアの“やりたい事”を話していた。今後については昨晩も暑く語ったのだが、それでも強くなることについては悩んでいた。

 強くなる、今までは考えたことは1度や2度はあったが、それを実行する気にはなれなかった。それでも昨日の死の恐怖を味あった後ではそんな流暢なことも言っていられなくなった。


 そして決意した、強くなると。


「お願いだ、僕は強くなってセラを守れるようになりたいんだ。だから、手伝ってほしい」


 リミアはその場で手を付き頭を下げる。男として、今は女だが情けない姿を見せていると自分でも思っている。だけど今のリミアは、そんな小さな恥を捨てられる程に覚悟はできていた。


 そして、セラの返答は一言。


「お断り致します」


「……はぇ?」


 予想外の返答に間抜けな声が漏れる。何度見かを繰り返し、不可解な返答の真意を見抜こうとするリミアだが、残念、そんな能力を持ってはいなかった。


 早くも負けを認めたリミアは直接聞いてみることにした。


「どうしてダメなの?」


 その言葉にセラは目を閉じ淡々と答えていく。


「リミア様は確かに賢く、強く、健気で、優しいお方です」


 素直に褒められると嬉しいな、と乙女チックに頬を染めるリミアだが、次の言葉がそれを落とした。


「ですが、リミア様はそれに比例するように無茶をする方です。先日の件はそれのいい例でしょう。そして今回、リミア様がもしこれ以上強くなってしまった場合、これまで以上の無茶をしてしまう可能性が高いのです。ですから反対をするのです、リミア様が強くなる事を」


 その言葉はリミアの胸を軽く、だが深く撫でた。反論をする気が起きない、いや出来るわけがなかった。言っていることは全て真実であり、全てが今一番に心に刺さる言葉なのだか。


 暫くの沈黙の中、セラは食後のお茶で舌を濡らし、リミアは俯きながら深く考えていた。すると、セラは不意に口を開く。


「私はリミア様が強くなる事を否定しました」


「……」


「ですが現状を変える、という提案に反対してはいません」


「……え?」


 俯いていた顔を上げる。


「確かに今回の事でも私は色々と思案しました。リミア様自身を強くする、という考えが浮かばなかったというのも嘘になるくらいには」


「だったら……」


「ですが、もう一つそれ以上に現実的な案を思いついたからこそ、リミア様の提案を跳ね除けたのです」


「現実的な……案?」


 セラは小さく頷くと、席を立ちそっとリミアの額に手を当てた。そこから流れ出すのは複雑な情報、だがそれだけでセラが何をしたいのか伝わってくる。


「リミア様が強くなる必要はありません」


 セラは高らかに。


「リミア様を守れる従者を増やせばいいのです」


 セラは額から指を引く。

 額から流れ出た情報は召喚という魔法についてだった。そして、セラの案とは即ち──


「リミア様の従者を、召喚魔法で呼び出しましょう」


 召喚魔法で戦える者を呼び出すことだった。



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