14話/目覚めた日
「生きてた」
リミアが目を覚ましたのは海の家の自室、柔らかい布団の上だった。体感温度では分からないが、窓から見える日の位置から昼頃かなと考える。
部屋の中には誰もいず、布団の中のリミアは服を着てはいなかった。魔力はほとんど元通りで、何より景色が綺麗に見えていた。
「目が……見えてるんだよね」
左手を布団から出し、そっと瞼の上にのせる。記憶力は悪くは無い、トラウマだろうが忘れることは無いだろう。そう、リミアは迷宮という場所でサイクロプスという化物に襲われて目を、視力を奪われた筈だった。
「傷すらないなんてね」
そっと瞼に乗せていた指を横に流し、顔の肌を触っていく。柔らかく、とても気持ちのいい肌、傷は一つも残ってなどいなかった。
次は右腕を持ち上げる。腕の付け根から斬られもう諦めていた腕が生えてきている。感覚も以前とは変わりなく、痛みすらない。刻まれ粉々になった足ですら治ってしまっていた。気になってお腹を摩ると、肌とは違い何かを巻かれている感触があった。お腹には包帯が巻かれていた。
「夢じゃ無かったんだよね」
包帯を触り、迷宮での出来事が夢ではないことを確認する。傷が余りにも残っていない為、夢なのでは?なんて考えては見たものの、やはり傷は残っていた。残っていてくれたのだ。
───あれ、もう一つ柔らかい感触が……
布団の中をまさぐっていると、左手が妙に柔らかく、膨らんだものを掴んだ。掴んで放してを繰り返し、それが何なのかを調べていく。これは、胸だろうか?しかし、自分の胸を触っている訳では無い。では、誰の?
「う、ぅん、ぁ……」
「────」
布団の中から声が漏れでる。リミアは身長に布団を捲り、その中にいる侵入者の顔を見た。というか、セラだった。何故かリミアの布団の中にセラが潜り込んで、リミアはセラの胸を触っていた。
もみゅもみゅ
だが、まだ放そうとはしない。ここでリミアはふと疑問に思うわけだ。あまり、何も感じないのだと。
(これは、男の子だったら最高のシュチュで、息子が元気になるパターンだよな?でも、興奮もしないし、百合にすら目覚めない?というか、柔らかいだけ)
散々柔らかい感触を堪能したリミアは、その手を放した。少し名残惜しい気もしたのだが、いつまでも人の胸をもみゅもみゅする訳にもいかないだろう。放す瞬間、セラの表情が切なそうにしたのにリミアは気付かなかったりする。
(さて、どうしたものか)
隣に眠るセラ(裸)を見ながらそう考える。ここで起こすのもありなのだが、それはそれで可哀想である。何故なら存外気持ちよさそうに眠っているのだから。こう、揺すったりしても起きなさそうに。
そうやって、セラの顔を覗いていたリミアの視界に異変が起きる。セラを見ていると目の前に文字が浮かび上がってきた。それは整理されステータスのそれとなる。
name/セラ・ハーベスト
種族 /半龍族
職業 /メイド
称号 /メイド長
◆Lv. 010
◆abirithi
筋力―36’000(+1’000)
俊敏―49’100(+1’000)
防御―44’500(+1’000)
技巧―305(+10)
魔力―5’025’000(+5’000’000)
◆skill
《normal》
・火魔法 Lv.1 ・水魔法 Lv.1 ・風魔法 Lv.2
・土魔法 Lv.1 ・氷魔法 Lv.1 ・雷魔法 Lv.1
・光魔法 Lv.1 ・闇魔法 Lv.1 ・回復魔法 Lv.5
・錬金魔法 Lv.3 ・空間魔法 Lv.2 ・召喚魔法 Lv.1
・付与魔法 Lv.1 ・重力魔法 Lv.1 ・復元魔法 Lv.3
・気技 Lv.2 ・解毒 Lv.1 ・剣術 Lv.2
・暗技 Lv.1 ・弓術 Lv.1 ・暗歩 Lv.1
・投擲 Lv.1 ・鑑定 Lv.1 ・索敵 Lv.4
・遮断 Lv.3 ・鍛冶 Lv.2 ・結界 Lv.2
・裁縫 Lv.2 ・建築 Lv.2 ・料理 Lv.3
・解体 Lv.1
《passive》
・魔力上昇(極大)・筋力上昇(小)
・俊敏上昇(小)・防御上昇(小)
・技巧上昇(小)・状態耐性(小)
・破壊不可(小)・汚染不可(小)
・腐敗不可(小) ・全属性耐性(少)
・退化不可(小)・感染不可(小)
・無詠唱 ・再生
《unique》
・憑依
・以心伝心
(あれ……もの凄い上がってる。というか知らない技能まで覚えてる)
セラを見ただけで突然現れたステータスに困惑するリミア。そして、そのステータスの内容を見て更に困惑を大きくした。何故、突然ステータスが現れたのか?と考えた。そして、見たからなったのでは?と考えて自分の手を凝視することにした。すると、予想通りにリミアの目の前にリミア自身のステータスが現れた。
name/ミリア・ハーベスト
種族 /邪龍族
職業 /魔剣士
称号 /踏破者
◆Lv. 021
◆abirithi
筋力―72’000(+5’000)
俊敏―120’200(+5’000)
防御―89’000(+5’000)
技巧―620(+50)
魔力―10’050’000(+10’000’000)
◆skill
《normal》
・火魔法 Lv.3 ・水魔法 Lv.2 ・風魔法 Lv.4
・土魔法 Lv.3 ・氷魔法 Lv.2 ・雷魔法 Lv.1
・光魔法 Lv.2 ・闇魔法 Lv.2 ・回復魔法 Lv.10
・錬金魔法 Lv.6 ・空間魔法 Lv.4 ・召喚魔法 Lv.1
・付与魔法 Lv.3 ・重力魔法 Lv.1 ・復元魔法 Lv.6
・気技 Lv.5 ・解毒 Lv.1 ・暗技 Lv.1
・暗歩 Lv.2 ・剣術 Lv.4 ・弓術 Lv.2
・投擲 Lv.2 ・鑑定 Lv.3 ・索敵 Lv.8
・遮断 Lv.7 ・鍛冶 Lv.2 ・結界 Lv.5
・裁縫 Lv.3 ・建築 Lv.4 ・料理 Lv.6
・解体 Lv.2
《passive》
・魔力上昇(女神)・筋力上昇(中)
・俊敏上昇(中) ・防御上昇(中)
・技巧上昇(中) ・全属性耐性(小)
・状態耐性(中) ・破壊不可(小)
・汚染不可(中) ・腐敗不可(中)
・退化不可(中) ・感染不可(中)
・技能成長 ・無詠唱
・再生
《unique》
・技能創造・物質創造・魔眼創造
・最適化・脳内設定・色欲
(やっぱり出た……けど、何でこんなに増えてるんだろ?)
予想通りに出たステータスを眺めながら自分の増えた技能とアビリティに戸惑う。アビリティの上昇具合も大概だが、その他にも作った覚えのない技能が盛り沢山だ。恐らく犯人は思い当たるのだが、それはまた後ででいいだろう。
くぅぅ…………
リミアの包帯の下から可愛い音がなる。少し赤面しながらお腹を抑え、寝ているセラを起こさないように布団から出て、海の家のフードコートに向かった。
「あぁ、帰ってきたって気がするな……」
フードコートを見回り、木で出来たテーブルを撫でる。今までそこまで気にしたことなどなかったが、今になってはここが“自分の家”だと思ってしまう。その事にリミアは頬を緩ませた。
「お腹空いたし、何か作ろうかな?」
“無限収納”から食材を取り出し、調理をしていく。主に使うのは金猪の肉と、迷宮に行く前に収穫した米を使ったものだ。その他に“物質創造”で作り上げた調味料と、それらで作ったタレを使う。作る料理は丼物だ。
「ふぅふぅうん♪」
鼻歌を歌いながらフライパンを振っていく。流石に裸で料理をするわけにもいかず、先日に作ったエプロンを着用して料理をしていた。次々に食材を足していき、金猪丼の出来上がりだ。それを持ってデーブルにつき、手を合わせる。
「いただき───」
「リミア様!」
食事の挨拶をしようとしたその時に、海の家の奥、正確にはリミアの部屋に入る為の扉が勢いよく開かれ、セラが飛び出してきた。胸にあるそれは激しく揺れ、なぜ服を着ないのかな?と考えたが、自分が裸エプロンだったことを思い出し口に出すのをやめた。
「おはよう、セラ……」
なんと返せばいいのか分からず、とりあえずといった感じで手を挙げ挨拶をしてみた。すると、セラの目元に涙が溜まり、それが頬を伝って落ちていく。
「セ、セラ?」
セラが泣き出したことに戸惑うリミアは、手に持った箸をテーブルに置いて立ち上がる。
「リミア様、リミア様……リミア様!」
名前を連呼し、感情が高まったセラは足り出してリミアに抱きつき背に腕を回した。突然駆け寄られ抱きつかれたリミアは、そのまま腕を回していいのか?と困惑し、動けなくなってしまう。
「リミア様、リミア様、リミア様……」
「セ、セラ、ほらどうしたの?」
「え、あぅ、すいません。リミア様が起き、なかったもので、すから」
どうやらリミアはかなりの長い時間、眠ってしまったらしい。
「ほ、ほら座って。一応セラの分の朝?ご飯を作ってたから」
「……はい、失礼致します」
そこそこ落ち着いたセラを席に座るように促す。目元を腫らしたセラは涙を拭き、1度頭を下げて席に座る。リミアもそれを見届けて隣に座った。
「それで、僕は何日くらい寝てたの?」
「リミア様が迷宮から帰還されて約1週間ほど眠っておられました」
セラの話では僕はその1週間の間、息すらしないほどに眠っていたらしい。息すらしない、とは比喩表現ではなく本当に呼吸をしていなかったようだ。心臓は動いているが呼吸をしていない、その事態に不安を感じたセラはいてもたってもいられなかったとか。
「ということは、迷宮で負った傷はセラが治したの?」
「はい……。その事に付いては色々とご説明をしようと考えていました」
「うん、じゃあ聞こうかな。と、その前に、冷めるから食べちゃおうか」
リミアは未だに湯気が立ち上る丼を指差し、手を合わせる。セラは何となく何かを言いたそうにしたが、すぐにそれを止め手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます……」
その後は静かな朝食が続いたのだという。
◇
「それでは説明をさせていただきます」
「うん、お願い」
食事が終わった後、セラがお茶を煎れ、それを楽しみながら話を聞くことになった。普通に食事中に聞いても良かったのだが、落ち着いて聞きたいと考えて、この場を用意した。
ちなみに、今日のお茶は麦茶だったりする。
「私は腕の回復が済んだあと、すぐに具現化してリミア様を保護しました」
「あー、その事は覚えてるよ。確か海の家まで運んでくれたよね」
覚えている。あの雨の日、傷だらけで倒れていたリミアをセラが優しく抱き上げ、海の家まで運んでもらっていたのだ。今考えてしまうと、その時に言っていた死亡フラグが恥ずかしくなり顔を伏せるリミアだった。
「実際、あの時は死ぬかと思ってたんだけどね」
「はい、実際にリミア様は死んでおられました」
「え……」
軽く言った言葉が、事実だと帰ってきたことに対して驚き動かなくなるリミア。
「じゃあ、僕は……」
「ああ、いえ、死んでいたというのは仮死状態だったという事です。あの時のリミア様は本当に危険で、恐らくは種族特有のものかと思われますが、仮死状態となって自分の肉体がこれ以上悪化することを留めたのではないでしょうか」
「……なるほどね」
リミアの種族は邪龍族だ。外れて入るものの、元は龍族だったのだ、その位の種族的本能はあったのかもしれない。
「でも、それからじゃあ僕は治らないよね。どうやって治したの?」
「お答えいたします。仮死状態となり意識が無くなったリミア様に対して私は“憑依”を使いました。理由は技能を作るためです」
“憑依”とは意識が無い、もしくは希薄だった場合に発動する技能だ。そして“憑依”をした相手の技能を使うことも可能らしい。そして仮死状態となったリミアは条件がクリアされ、セラがその体に憑依することになった。
憑依をしたセラが最初に行ったのは“技能創造”で回復を図るための技能作りだった。作ったのは“再生”と“復元魔法”と、そして“魔眼創造”だったという。
常時スキルの“再生”は、リミアの体の傷を治す為に作ったらしい。実際に“再生”の技能は凄まじく、致命傷だった傷はどんどん治って行ったという。しかし、胸を抉られた傷は治りが遅く、そして欠損した腕や目が治ることは無かったそうだ。そこで作ったのが“復元魔法”だった。無くした腕や目を“復元魔法”で時間を駆け治していだようだ。他にも傷の治りを早くする為に、“技能成長”という技能を作り出し、レベルを上げ、効果を上げていったという。それで技能のレベルがそれぞれ高くなったようだ。
しかし、ここで問題が発生した。“憑依”を繰り返していたセラは問題なくリミアの体を動かすことが出来た。そこで色々と治っている部分や、治りが遅い部分を探っていたのだという。だが、1点、復元した筈の目は見えなかったらしい。復元魔法や回復魔法を繰り返し使っては見たものの治る気配がなかったようだ。理由は単純、レベルが低かったから。目を治す際に視力まで復元をしないと一生治らないという事だったようで、その事に気がついたのは目を治した後だったのだという。
自分がした失態と、リミアの目が治らない事に絶望を仕掛けたセラは、自分が持つ“説明書”という知識を辿って解決策を探したようだ。そこで見つけたのが“魔眼創造”だった。視力が無いなら入れればいい。そして“魔眼創造”を作り出し、それぞれの目に魔眼の機能と視力を入れたという。ちなみに、入れた魔眼の機能はそれぞれ“鑑定”と、“感知”だったらしい。これは今後の事を考えてのようだ。
そして、体を完全に治したセラはまた問題に直面した。体を治したのはリミアが仮死状態に入って4日後の事だ。体は治したはずなのに息をしなかったのだ。体に異変はなく、健康体に近いものだった。お腹の傷は未だに塞がりきっ
ていなかったが、それでも意識が、呼吸すら戻らなかったのが異常だったようだ。それが心配になったセラはいてもたってもいられず、リミアの傍を離れなかったようだ。
「そして僕の隣で添い寝をしたと」
「も、申し訳ございません!」
セラは頬を赤らめ頭を下げる。それには「別にいいよ」と許しを出して、頭をあげさせた。助けもらったのだ、頭を下げてもらってはこちらが 困るものだ。
「それにしても1週間か…………結構長く眠っていたんだね。僕にとっては一瞬の出来事に感じたんだけどね」
「私にとっては長い、時間でした」
そのセラの返答に申し訳なく思うリミア。手に持ったカップを置き、セラを後ろからそっと抱き締める。
「ありがとう、セラ。ただいま、だね」
「はい、おかえりなさいませリミア様」
2人は微笑みあい、共に笑った。それから2人は、迷宮であった事や、1週間の出来事をそれぞれ語り合い、これからの事を話し合った。それが、リミアが目を覚ました1日の話しだ。
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登録者数がどんどん上がっている今日この頃です。やはり、二話投稿は効果があるのでしょうか…………