ヴラド、南区へ殴り込む
約束の時間になってもヨムカは中央広場に姿を見せる事は無かった。
「ヨムカのやつ、どうしたんスかね」
「な、何かあったのでしょうか?」
クラッドとフリシアが近辺を探しに行くも特徴的な色を持つヨムカは見つからかった。心配そうなロノウェはヴラドから本を取り上げ一緒に探すよう促す。
「トイレ、とかじゃないのか? まだ三十分程度の遅刻だ」
「た、隊長! 三十分もトイレには入りません!」
「おっ、そうかぁ? 俺とかしょっちゅう籠るっすよ」
「それは、クラッド君がおかしいんです! ど、どうするんですか、もしかするとヨムカちゃんの身に……」
懐中時計を確認したヴラドが頭を掻く。
「よし、ロノウェ。お前はカルロと合流して先に正門前に行っててくれ。俺はヨムカをギリギリまで探す」
「ええ、わかりました。ですが――」
ヴラドの制服の懐とお尻のポケットから計三冊の文庫本を取り上げた。
「これは、必要ありませんよね」
「ちょ、待て! それはまだ読み途中なんだ」
「必要ありませんよね?」
「……わかった。わかったから、そう笑いながら怒るな。目が怖ぇよ」
ヴラドはロノウェ達を見送り、ヨムカが行きそうな場所を手当たり次第探すべきか、と頭を悩ませつつも足を動かした。広場の民には不穏な空気が伝播し、みな普段の活力を根こそぎ奪われたようだった。
「ったく、ヨムカ。お前はどこに行っちまったんだ?」
自宅には多分いないだろう。学院は閉鎖されている。飯屋という考えも頭に浮かんだが、それは直ぐに可能性から取り除く。赤色の特徴を持つヨムカ一人で一般の飲食店が立ち入りを認めるとは考えにくいからだ。
「やっぱり、事故か事件に巻き込まれた……と考えるのが妥当か? となれば、だ」
行き先は南区に絞られる。
あの場所は治安が悪く、不法滞在の外国人が多い犯罪の温床といってもいい地区だ。ヨムカが自分の意思でそんな場所に足を踏み入れるとは考えにくいが、胸がまな板でも性別は女性。下衆な野郎共からしたらつまみ食いの対象となる。
脳内に膨らむ最悪の展開にヴラドは舌打ちをする。
「俺は仲間を死なせるつもりはねぇし、傷物にさせるつもりもねぇんだ。無事でいろよ、ヨムカ!」
小便臭く清掃も行き届いていない居住区に立って下品な笑い声をあげていた数人の白スーツ姿の男達に掴みかかる。
「ああ、悪いな。ここに赤い髪と目をした女が来なかったか?」
「んだテメェ! 行き成り俺達智天使に喧嘩腰たぁ良い度胸だ――オゴッ!」
答える気がないなら時間の無駄だと、男の腹部に膝の一撃を見舞う。
身体をくの字に折り膝を着く仲間に残りの三名が懐から拳銃を抜いて構え――る前に決着はついた。
「お前等は馬鹿か? こんな至近距離にいる奴に対して、拳銃引き抜く暇があるなら拳か足で来い」
ヴラドは蹲る智天使に一瞥をくれる時間も惜しいと再び走り出した。
こんにちは、上月です(*'▽')
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