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多分岐世界の法則理論

「また、お前か。どうして、そんなまでに俺に会いたいのか?」


 左右で虹彩の色が違う蜂蜜色の髪をした男の呆れた口調。

 周囲は幻想的な闇夜に幾つも散らばる発光体は、まるで宇宙と呼ばれる天上の神秘とよばれる空間と酷似していた。ヨムカは宇宙というものを見たことは無い。ただ、幻想図鑑と呼ばれる数々の神秘的記述の中に此処と酷似する記述があったのを思い出す。


「あの、ここって宇宙という場所ですか?」

「俺の問いはスルーか。まぁ、それでもいい。宇宙……正解でもなければ不正解でもないな。ここは俺が――いいや、神々の記憶の一部にあった宇宙を再現させたものだ。もし、仮にここが宇宙であったならば、お前は窒息死している」


 目の前の男――パラノイアが言っている言葉のほとんどが理解できなかった。一つ分かったのは此処が偽物の創り出された疑似的宇宙空間であるということ。この空間を作り出したパラノイアという男の力が常軌を逸脱し、常識ニンゲンという枠組みで彼の存在を嵌め込んではいけない。ヨムカは、大きく固唾を飲み込んだ。


「お前は、どうやってここに来た。二度だ、二度お前は俺の世界に足を踏み入れた。どうやってきた? 目的は?」

「えっ、その目的と言われても……えっと、今回はエリーザさんの瘴気を吸い込んで、気を失ったらここに来てただけなので、来たくて来たわけでもなければ、目的もありません」

「信じろと? この世界は俺のみで構成している超次元的幽世空間だ。そもそも来ようと思っても来れるものではない。つまり、お前の意志でないとすると、何者かの意志が働いている、と考えるべきか」


 パラノイアは指を鳴らし――小さな丸テーブルと二人分の椅子を用意し、その一つに腰を落ち着かせ、視線で対面の椅子に座るようヨムカに指示を出す。


「その、失礼します」

「俺の世界へ干渉できるほどの実力を持った者か。お前に心当たりはないか?」


 目の前の男と同等の力を持つ者なんて全く心当たりがなく静かに首を振るう。三人の魔王が有する魔力量と純度も常識を大きく逸脱していた。


「あの、魔王達にそこまでの知恵は無い。まあ、第二魔王と第三魔王くらいであれば実力も知恵もあるだろうがな。残念だがその二人はキミと面識はない。キミをここに飛ばすことは不可能という事になる」

「は、はあ……あっ! もしかして、国から魔導書を盗み出した犯人」

「あの国の魔道書。そうか、確かにアレの力を使えば、ある程度の実力をもつ魔術師や魔族であれば可能かもしれない、か」


 南大陸で禁術とされる術式を記した書物を知っている口振り。ヨムカは思わず禁術の魔道書について駄目もとでどういうものかを聞いた。


「魔導書と呼ばれてはいるが、その正体はSランクの因果創神器の一つだ。名を――水無月の摂理書という」

「水無月の摂理書……」

「多次元的枝分かれしている世界の一つを管理する摂理の王が作り上げた代物だ」

「ちょっと待ってください! 因果創神器は常世の時代の神々の産物ではないんですか? 枝分かれという件はよくわかりませんが、想像するにそれは過去ではない、ということですよね」

多次元的世界分岐論ノイ・ウォルツのりろん。世界は常に分岐を繰り返し世界を生み出している。という理論だ。分岐を繰り返すことによって未来や過去、文明や技術も大きく様変わりしているという話しだ」


 ヨムカの脳を振る活動させても、一割さえ追いつくことも想像する事もかなわない専門用語と理論。


「つまり、世界は無限に広がっていてこの世界も別の世界からしたら未来であり過去であるってことですか?」

「一割を理解するならその解釈で構わない。現にこの世界が分岐した世界では人類が滅亡している」

「――ッ!? ど、どうしてですか! 人類が滅亡って……そんな、なにが」

「それについて答える義務はない。話が大きく逸れたか」


 パラノイアはもう一度指を鳴らし出現させたティーカップに口を付けた。


こんばんは、上月です(*'▽')


『水無月の摂理書』を記した人物についてですが、これは『受け継がれる意志、守るべき日常』の主人公:水無月蛍であり、別の世界での水無月蛍が記したものです。


別の世界の水無月蛍の物語をちょっとずつ書いており、いつか投稿し始めますので宜しくお願いします!


次回の投稿は明日の夜を予定しています!

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