邪龍の瘴気の威力
吹きすさぶ風は肌を裂くように鋭く、体温を奪っていく。
国や山が小さく見える程の上空を一体の黒龍が、地上からでは視認できぬ闇夜を泳いでいた。
「なあ、お前達はずっと女の上に載って移動してるのか?」
「ああ、そうだぜ。つか、女の上ってもっと別の言い方があんだろうが」
「あー、思いつかねぇな」
「ハッ! 読書家が聞いてあきれるぜ」
黒龍の体毛を振り落とされぬようにしがみつく。上体を起こそうものなら風に煽られてしまう。魔王の二人は暴風にも似た向かい風を物ともしていない辺り、人間種とは能力的な面でかけ離れているのだと実感できた。
「エリーザさん。あと、どれくらいで着きそうですか?」
「う~ん、そうだねぇ。十五分かからないくらいだと思うよ」
「えっと、ありがとうございます。私事なのに運んでもらっちゃって」
「いいのいいの。せっかくできたお友達の頼み事だしね! また次回此処に来たときは一緒に物見遊山でもしてよね」
ヨムカはしっかりと答えるように鱗を優しく撫でた。
「エリィザァ~、ああ、貴女の温もりが私の冷える身体を温めてくれますよ」
「アズデイルはもともと身体が冷たいじゃない。それと、これ以上気持ちの悪いこと言ってると魔王降下砲をてきとうな国にお見舞いするよ?」
「あぁっ! それもいいですよねぇ。エリーザの為に地上全てを極氷の世界にしてみましょう!」
恍惚と地上を見下ろすアズデイルにエリーザは深く長い溜息を吐いた。その溜息は黒い瘴気となって背にしがみつくヨムカ達を襲う。
「うがぁっ!?」
微量を吸い込んだだけで意識が遠のき体毛を掴む力がフッと抜ける。上体が反りかえり、吹き飛ばされそうになったところで、大きな手がヨムカの腕をしっかりと掴み寄せた。
「おい、大丈夫か?」
「……うぅ、グラグラしま……す」
世界が回り風切音さえも遠のいていく。
ぼやける視界に映ったヴラドの――しょうがない奴だといいたげな表情を最後にヨムカの視界は暗転してしていく。
こんにちは、上月です(*'▽')
次回の投稿は今週中です。
『世界真理と魔術式』の最新話は今日の夜になりますので、是非ともよろしくお願いします!




