漆黒の邪龍
緑生い茂った山の中腹――蔦や草花で隠された崖の内部で異変に気付いた魔王二人は、ヨムカが呼びに行く前に、岩の扉から飛び出してきた。
「あっ、シラーさん、アズデイルさん。今から呼びに行こう……かと?」
「ハッ! こりゃ、面白そうなことになってるじゃねーか」
「あの方角はお嬢さん、貴方達の国の方角ですよねぇ~」
エリーザに並び立ったシラーとアズデイルは――不敵な笑みを浮かべていた。まるで戦闘に飢えた戦士のようなギラっとした目をしていた。彼等から感じる戦意と濃度の濃い魔力はヨムカの意識を奪おうとした。
「おい、お前等。なにそんな好戦的になってやがんだ? ヨムカがビビってるだろ?」
「あれ? よ、ヨムカちゃん!? ちょ、ちょっと~、シラーとアズデイル落ち着きなさいよ!」
肺の活動が緩慢になり酸素不足にフラフラとしたヨムカを、エリーザが颯爽と抱きかかえる。エリーザに愛を捧げているアズデイルは、ヨムカを恨めしそうに見つめるていた。
「んで、お前等が殺気立って笑うほど、あっちに何かあるのか?」
「にゃ~ん、どうだったかなぁ。今はもう何も感じないけど。貴方が出てくる前はすご~く、濃くてやばそうな魔力を感知したんだけど、なんだったのかなぁ?」
「濃度が濃いといっても、私達以下ではありますが。そうですねぇ、貴方方の国にいる魔術王と呼ばれる方と同等くらいではないでしょうか?」
「……どっからだ?」
「お前達の国からだぜ」
ヨムカはゾッとした。
首都で何が起きたのか――目視で確認できない分、首都に残ったフリシア達は大丈夫なのだろうかと不安が胸中に根強く芽吹く。
「せ、先輩! い、急いで戻りましょう。フリシア達が、ど、どうなったか!」
「落ち着け、ヨムカ。特に首都が燃えているわけでもないし、コイツ等の眼にも異変は見て取れていない。そうだな?」
ヴラドは魔王達へ目配せし、頷く三人。
「そそ。問題ないのよね~。魔力はもう感じられないし、大丈夫だと思うにゃん」
ウィンクしてピースサインを出すエリーザ。身体をくねらせて悶えるアズデイル。二人の様子をつまらなそうに眺めるシラー。
本当に大丈夫なのだろうか。たとえ大丈夫だとしても何かが起こったことは事実だ。ヨムカの脳裏には、学院の友人や黒死蝶、智天使の面々の顔が焼き付いて離れない。
「ヨムカちゃんは国に帰りたい? なら、私がすーぐに送ってってあげるよ」
「えっ? す、直ぐにですか? でも、どうやって……」
怪訝な顔をするヨムカに、エリーザは満面の笑みで誇らしく小さな胸を誇示する。
「ふふん、私って魔王であると同時に、龍にもなれるのでしたー!」
「コイツに乗って俺達は壁を越えて物見遊山しているんだ」
「そういう事だにゃ。じゃあ、いっくよー」
エリーザの体内を魔力が循環する。感じたことの無い膨大で純度の高い魔力は、やはり彼女が魔族の賜物なのだろう。人間がどれほど努力しようが、決して到達することの出来ない領域の力。
「古より宇宙を支配せし太古の邪龍よ地上を焦土に化す祝福を与えよ――邪竜の祝福」
「こ……これって!?」
エリーザの小さな身体は突如として発生した黒煙に呑まれた。
「女、下がってろ」
「――ウゲェッ!?」
黒衣の――シラーに首根っこを掴まれ背後に下がらされる。
「ちょ、何をするんですか!」
「ハッ、あの黒い煙を吸ったら、お前等人間は即死するかもな」
周囲を蝕む黒煙がヨムカに迫るが、シラーが漆黒のコートの裾で軽く扇ぎ払う。
「うふふ、特とその眼に焼き付けなさい。あれが、私の最愛の女神――エリーザ・ブリュイヒテールの第二の姿ですよォ!」
黒煙が晴れる。
黒曜石を磨いたような純黒の鱗を持つ全長五メートルほどの黒龍が現れた。
こんばんは、上月です(*'▽')
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