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睡眠時間は一時間半

 不愛想な店主が営む飲食店から帰宅したヨムカとヴラド。


 ヨムカは窓際に置かれた机に分厚い魔導書を開いていた。


 魔術学院は魔術や戦闘についてのイロハを習い、将来有望な魔術師を国家に輩出させる為の養成機関。


 卒業してしまえば当然、各々の道へと進んでいく。 


「もう会えなくなる人もいるんだろうなぁ」


 ヴラドとロノウェは貴族の出自なので将来は軍人として国家に従事しなければならない。フリシアは実家のケーキ屋を継ぐか、医療魔術師として戦場に赴き負傷した兵の治療をするか。クラッドは自慢の筋肉を活かせる仕事であれば何でもいいと言っていた。自慢の筋肉って魔術師にとてあまり必要ないが、あえて何も言わずに頷いた。


 ヨムカ自身は初めは自分の事を知れれば将来なんてどうでもよかった。だが、学業に励む中でで唯一心惹かれたものが因果創神器。


 常世の時代という神々が納めた古き世界で、神達が自らの手で生み出した神秘の道具。日常生活の補助から殺傷目的と様々な効果を有する代物。中には国家の金庫を総出しても入手できないものも存在している。


「別に会えなくなるわけじゃないだろ。休日や夜にちょっと集まって飯食ったりな」

「ええ、そうですけど……」

「お前は七八部隊の面子でずっと一緒に居たいのか?」

「…………」


 沈黙は肯定。


 ベッドで寝転がって小説を読んでいたヴラドは「そっかぁ」と短くこぼして本のページを捲る。


「先輩は寂しくないんですか?」

「う~ん、別に会えなくなるわけじゃないからなぁ」


 ペラリとページを捲る。


「明日は早いし、そろそろ寝たらどうだ?」

「早いって何時に出発するんですか?」

「あ~、そうだなぁ。二時くらいか?」

「……先輩」

「おう、なんだ?」

「二時って午後のじゃないですよね?」

「午後だったら早く寝ろなんていわねぇぞ」

「二時って一時間半後じゃないですか!! どうして、もっと早く言ってくれなかったんですか! 寝たら起きられませんよっ!」

「あはは、本当だな」


 ヴラドはいつもそうだ。


 大事な要件はギリギリになってから伝える。そのせいで七八部隊の面々は常に振り回されっぱなしなのだ。どうしてヴラドが隊長なのかと学院側に問い合わせたいくらいだった。


 そもそも何処に連れて行こうと言うのか。


 首都を出るとの事だが今回は二人旅。街道を通っていても賊に襲われる可能性はある。それに、この国と隣接するは広大な軍事力を持つ帝国。ヨムカがこの首都に辿り着く前に一度帝国軍に襲われた事があり、あの時は運よく逃げきれたが……。


「うし、俺は寝るからな。お前も一時間半くらいでも寝ておいた方が良いぞ。俺がちゃんと起こしてやるからよ」


 読んでいた本を閉じ、そのままヨムカのベッドの中心で大の字で眠ってしまった。

おはようございます、上月です(*'▽')


次回の投稿は19日を予定しております。

『世界真理と魔術式』の投稿は明日を予定しております。

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