語る夢の切なき事
不愛想な店主が持ってきた料理は満足と寂しさが同梱したような味だった。
店主が何を考えて店を閉めるのかは結局分からずじまいで、会計を済ませたヴラドが店を出ると飴をヨムカに手渡した。
「ほら、食後のデザートだ」
「あっ、ありがとうございます。これって、東大陸から海を渡った先にある新日帝国の飴ですよね? 各大陸が分断されているのにどうやって入手しているんですか?」
いつから存在しているのか、各大陸を行き来出来ないように天空高くそびえ立つ謎の技術が用いられた壁。誰もがその壁を乗り越えようと試行錯誤の末、結局誰も行き来する事が出来なかった。例外として中央大陸の使節団が、各大陸の情勢や情報を全大陸に共有する時だけ、彼等は壁の向こうを自由に行き来できるという。つまり、壁を作り上げたのは中央大陸となる。
「俺も詳しくは知らないが、壁が出来る以前に南大陸に渡って来た新日帝国の菓子職人が居たみたいでな、代々そのレシピを受け継いでいるってわけだ。そんで俺の家が故意にしているから、そん時に土産で持ってくるんだ」
「へぇ、そうなんですね。というより、壁は昔は無かったんですか?」
「みたいだな。つか、東大陸から時折空高く黒い竜が壁の上を飛んでるって噂を聞いたことがある」
「りゅ、竜ですか? 東大陸は神秘に満ちているんですね」
「まぁ、魔王が十人もいるくらいだしな」
「どうして、魔王が十人もいるんでしょうね?」
「知らね」
魔王が十人。
人間族と魔族が日々争い合う血生臭い日々を過ごしているのか。それとも既にどちらかが大陸を支配したのか。ヨムカにとって壁の向こうの世界なんてものは関係が無いが、ちょっとだけ気になる所だ。
「それで、明日は何処に連れて行ってくれるんですか? まさか、いかがわしい店とかじゃないですよね?」
「お前は俺がそんな店に通ってるように見えるか? つか、どうしていかがわしい店に女と行くんだよ」
「ははは、冗談ですよ。そうですよね、先輩がそんな店に通ってるイメージなんて出来ませんし」
「ていっ!」
「あイタっ!!」
ヴラドの手刀が少々強めに頭頂部に振り落とされた。
痛みにちょっと涙ぐむが、これはとても幸せな時間だと心の奥深い場所で安息を感じていた。今までの辛く生きにくい世界ではない。笑い合い心配してくれる仲間がいて、帰るべき場所もある。
「なぁ……お前はロノウェをどう思ってる?」
「ロノウェ副隊長ですか? とても優しくて尊敬できると思いますけど……それが、どうしたんですか?」
「いや、お前は気付かないか?」
「……なににですか?」
「はぁ……アイツも報われねぇな」
ヴラドは苦笑してどこか同情するような表情を浮かべている。その発言の意味をまったく理解できなかったヨムカの脳内にはハテナが埋め尽くしていた。
二人並んで歩く人気のない静かな住宅街。
少し冷たい夜風が妙に心地よく、満天の星を眺めているとヴラドが指を幾つかの星に向けて、アレとアレを結ぶとなんの星座だと語ってくれた。本当にこの人の知識量は底が無い。その知識量を全て趣味の読書で得たというのだから驚きだ。
「先輩は学院を卒業したらどうするんですか?」
「あ? いきなりどうした。まぁ、卒業したら親父の後を継ぐしかないな。子供は俺しかいないわけだし。そういうお前は、因果創神器についての魔術学者だったか?」
「はい……」
「夢があるのはいいことじゃねぇか。どうして、そんな浮かない顔してるんだ?」
おはようございます、上月です(*'▽')
平日のこんな時間に投稿するのは初めてですかね。
有休消化です。羽を伸ばして旅行なんてものにも行ってきました!
次回の投稿は明日の夜を予定しております。




