伝説の因果創神器
ヨムカの視線の先には、どんどんと小さくなっていく視線の主の後ろ姿。
もう少しだった。
もう少しで捕まえられたと奥歯を噛みしめる。未だに足が地面に貼り付いたように動かないが、上半身には何の拘束力も働いておらず自由に動かすことができる。
「どうして足だけ……ん?」
背後を振り返る。
月明かりに反射する一本のナイフが地面に突き刺さっていた。ヨムカは一度、視線を正面に向けて確信した。
「因果創神器……捕縛影の短剣? Bランク相当の代物がどうして」
月明かりによって背後に伸びた自分の影。その影を地面と共に刺す短剣を見て合点がいった。因果創神器を専攻しているヨムカは、何度も読み返した資料に記された形と使用方法を現在の状況と照らし合わせて生唾を飲んだ。
因果創神器は大雑把に人間が定めたランク付けがされており、量産品のように替えが利くD~Eランク。数が少ないCランク。同じものは二つとないBランク。Bランク同様に二つとない代物で、絶大な力を秘めたAランク。終世と創世を繰り返せる程の神秘を秘めたSランク。
Sランクは実在しているかは怪しく、Aランクも噂では、東大陸に住む魔王達が所持しているという。つまり、人類が扱える最高ランクがBランクとなる。そして、そのBランクの代物がいま目の前で突き刺さっている。
「誘え遊べ悪戯な風、私の毒気をどうか持ち去って――展開:草木揺らす呑気な春風」
魔術学院で学生に教える最初の風系統の術式。
相手を吹き飛ばす暴風でも、切り裂く風刃でもない。少量の魔力消費で生み出すことの出来る微風。それを短剣の根元で発生させてやると、すんなりと地面から抜けて軽い音と共に倒れる。
「おっ、動けた。やっぱり間違いない。これ、捕縛影の短剣だ!」
視線の主の事など頭から抜け落ち、目の前に転がるお宝の中のお宝を拾い上げる。左右を何度も確認し、その短剣をどうするか悩むこと数秒。
「貰っちゃっていい……よね。うん、いいはず。だって、取りに帰ってこないし、これはそう……プレゼントだよね」
捕縛影の短剣を学院正装の内側に忍ばせる。
後はもう上機嫌だ。
国が保有する金庫の中身全て積まれても手に入れることの出来ないBランク。それをタダ同然で入手してしまったらもう、喜ばずにはいられない。きっと、周囲からは変な人に見えるだろう。ニヤニヤを無理やりに押さえつけているのだから変な顔をしているに違いない。
「えへへ、夢じゃないんだよね。うん、痛いから夢じゃない。あ~まさか因果創神器を手に入れられるなんて!」
このテンションは下がることを知らず、どうやって帰宅したかなんて覚えていなかった。
こんばんは、上月です(*'▽')
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