放たれた凶弾
戦況は芳しくない。
相手をしているのは戦闘のプロ。魔術や剣に自信があっても所詮は見習い。勢い付いていたのも序盤のみで、相手も馬鹿ではない。近づけないなら距離を取る。謎の襲撃者はヴラドとロノウェから一度大きく距離を取り、懐から遠距離武器を取り出す。
「――あれは!?」
彼等が取り出したのは拳銃だろう。だがそれは、南大陸で普及されているどの型にも当てはまらない代物だ。それも、たんなる賊程度が入手できるものではない。
一般的なものは回転式六連装填拳銃。
彼等の持っている物に回転弾倉が見当たらない。弾倉は何処か。何発装填されているのか見当がつかない。
ロノウェの頬に冷や汗が伝う。
ヴラドは相も変わらずに眠そうだ。だが、その視線は銃口ではなく彼等の表情に注視していた。
「お前等、それ何処で手に入れたんだ?」
緊張感も恐怖心もない気怠そうな声音。
「俺も詳しくは知らないけど、それってアレだろ。北大陸で生産されている最新式拳銃じゃないのか? まぁ、本で得た知識だから確証は持てないが、その拳銃と挿絵の代物が同一に見えたもんだからな」
「物知りな坊ちゃんだ。ああ、コイツは北大陸からの代物よう。南大陸で扱われてるチャチな浪漫思考のものとはチゲェ。扱いやすしさ、命中度、装弾数どれもが、旧世代の回転式拳銃とはわけが違うってもんよ」
ベラベラと勝手に性能を喋ってくれる男に仲間の一人が胸を小突く。
「余計なことを喋るな。俺達の仕事はこの村に寄り付く者を殺す事だ」
「別にいいじゃねぇかよ、隊長。どうせコイツ等、ここで殺すんですし」
「相手は魔術師だ。あの制服からして、かの有名な魔術学院生だろう。もし、逃げられてこのことを喋られたりしたら、俺達の命がねぇぞ」
話は終わりだ、というように一斉に銃口を二人に向ける。
「少々、不味いですね……」
術式を展開する余裕は無い。むしろ、下手に動けば鉛球に全身を打ち抜かれる。だが、このまま何もしなくても結果は同じ。ならば……。
「――ヴラド!」
「おう、任せた」
ロノウェの掛け声を待っていたかのように、素早く身を地面に伏せる。
「撃て!」
引き絞られる引金。連続した発砲音。空気を裂く弾丸。
その標的はロノウェに集中している。何もしなければ放たれた凶弾に倒れることになる。対策は何かないか、されど時は既に遅い。
次々と弾丸はロノウェの身体を穿っていく。
「――グッ! カハッ!?」
吐き出される苦悶と血液。
その身は踊りを強制された操り人形。発砲音は拍手。彼を射抜く弾丸はアンコールチップ。チップの受け取りに拒否権はない。チップの数だけ踊らねばならない。
ようやく拍手が止み、ロノウェの身体は地面に倒れ伏す。学院指定の黒制服から溢れ広がる血溜まり。
「いやあああぁぁっぁああああああ!!」
フリシアが絶叫した。
その表情は恐怖でクシャクシャになっている。身を振り乱し、頭を抱えて現実から背こうと必死に声を張り上げて泣き叫ぶ。ヨムカはやばいと悟った。
ヴラドは地に伏せたままだ。動こうとしない。まるで死んだフリをしてやり過ごそうとしているかのようだ。
南大陸に存在しない脅威の兵器を携えた襲撃者はジリジリと薄ら笑いを浮かべながら、包囲網を狭めていく。
こんばんは、上月です(*'▽')
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