バロックの正規指名依頼
生い茂った木々の道。
緩くはない坂を足元を伝う木の根。でこぼこと顔を出す岩。優しくはない足場に気を付けながら、ヨムカを先頭に後続を歩く数人。
「お~い、ヨムカぁ。俺、疲れちまったんだけど、休憩しね?」
「何言ってんの。頻繁に休憩してたら平日までに帰って来れなくなるよ。というより、そもそもクラッドは、普段身体鍛えてるのに、もうへばってるの?」
「いやぁ~、さっきから足場が悪くて歩き辛いんだよ。いや~、足が重くて前に進まない」
列の最後尾と距離を置いてケツを歩くクラッド。
「なぁ、クラッド。お前、足首に付けてるそれ何だ?」
「うぇ? 足首っすか? おっ……」
なにやらしゃがみ込んで、足元をなにやら弄っている。
「片足に十キロの重りがついてたっすよ、隊長! すげぇ、国を出てから今まで重り付けて歩いていたっす! ビックリビックリ」
「クラッド君……どうして、気付かなかった、の? 馬鹿なのかな?」
背後から賑やかなクラッドの弁明。ロノウェは二人のやりとりを微笑ましそうに眺めている。
「それより、ヨムカ。どうしてお前に指名任務なんか来たんだ?」
「えっ……あ~、どうしてでしょうね。分からないです」
「……まぁ、いいけどな」
指名任務。
それは依頼主が学院生を指名し任務に就いてもらう。だが指名をもらえるのは上位部隊といった有能な人材だ。本来であればシングルナンバーの部隊に配属されているロノウェのような者にしか指名は回ってこない。だが今回、ヨムカ宛てに学院へ依頼が舞い込んできたのだ。
「バロックさん……どうして、学院を通して依頼なんて」
「んあ? なんか言ったか?」
「い、いえ。何も言ってません。さぁ、早く先を急ぎましょう。地図によればもう少しで目的地に到着しますよ」
キビキビとした足取りで、七八部隊のメンバーから逃げるように足早に歩く。むしろ競歩。
「まぁ、いいじゃないですかヴラド。ヨムカさんに指名任務なんて喜ばしい事ですよ」
「まあな。一応心配だからこうして全員で来たけどなぁ……」
ヴラドは視線を背後に。
嫌がるフリシアにじゃれついているクラッド。何かあったら真っ先に命を落とすであろう隊員二名。無理やりにでも置いて来るべきだったのではないかと、ヴラドは頭を軽く指で掻いていた。
そんな背後の事など気にも留めていないヨムカは、誰にも知られる事無く神妙な顔つきをして道先を見据えていた。
「妹さんの様子を見てきて欲しい……か」
バロックから聞かされた依頼。
それは、ナディターラという小さな村に住む妹の様子を見てきて欲しいというものだった。ナディターラは首都から七時間程歩いた場所にある山の中に造られた田舎村だ。なぜ自分で会いに行かないのかと聞いてみたら「いや、俺はあの村を追放されててなぁ。自分んで会いに行くことが出来ねぇんだわ」と苦笑しながら答えてくれた。故郷を追放とはいったい何をやらかしたのか。
任務受所から呼び出しを受けたヨムカは、ヴラドに付き添われて向かえば、バロックからの正規指名任務書を手渡された。報酬もそれなりの額を記して。七八部隊控室でなんやかんやあって、結局全員でヨムカに同伴するという形になったのだ。
「みんな、村があったよ!」
「ちっせぇな」
「まぁまぁ、辺境の村ですから」
各々が抱いた感想。
小さい村だ。寂れている村だ。家がボロい。等々……。
ようやくたどり着いたナディターラ村に安堵する七八部隊の面々。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回は戦闘ありです!
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