違和感を抱く温かな家庭
緑色の木々が強い夕焼けを浴びて、橙色に葉を染めていた。
テーブルに並べられた数々の母の手料理。その中の幾つかはヨムカが手伝ったものもあり、見た目が少々残念な有り様だった。自分が作ったものと母が作ったものを見比べてしまい、溜息が混じった笑いがこぼれる。流石は主婦として長年料理をしてきただけあって、ツナパンばかり食べてきた自分では対抗のしようがなかった。
「だから、ツナパンって……なに?」
「ヨムカ、ツナパンがどうかしたのか?」
ヨムカが父親の椅子を使っている為、納屋にある踏み台を引っ張って来て、座り心地悪そうに腰を落ち着かせている。
「なんでだろう。さっきから、ツナパンが頭をよぎるんだよね」
「そんなにツナパンが食べたいなら作ってもらったらどうだ?」
「ヨムカはツナパンが食べたいの? 食べたいなら作るわよ」
「えっ、あ、ううん。大丈夫だよ。これ以上料理が増えると食べきれない気がするし、また今度作って欲しいな」
今までこんなにも甘えたことは会っただろうか。こんなにもご飯を美味しく感じただろうか。こんなにも幸せな時間はあるだろうか。
「な……なぁ、ヨムカ。学院の方は楽しくやっているのか?」
「貴方ッ……! ヨムカ、何でもないのよ。さっ、いっぱいお食べなさい」
父の言葉を遮る様に大きな声を張り上げて、ハッとしては何もなかったかのようにヨムカに次々とご飯を勧めていく。フォークに刺さった野菜を口に運び入れる時にチラリと視線を父に移すと、微妙な……何かを思い悩んでいるかのような表情をしていた。
「……なんだろう」
二人に聞こえない声量で呟く。
違和感を感じ始めていた。何も不思議なことはないはずなのに、何かが間違っている、本来あるべきものとは異なっている。まるで夢の世界に埋没していくかのような感覚だ。
脳に記録出来ない記憶の断片が、次々と走馬燈の様に映し出されていくが、次々と忘れていく。自分がいま何を見ていたのか、まったく思い出せない。いいや、脳が思い出そうとしないのだ。
「手が止まってるけど、お腹いっぱいなの?」
「……え、なに?」
「きっと、疲れているのね。今日はいっぱい遊んできたものね」
「いっぱい、遊んで……うん、そうかもしれない。ちょっと、疲れてるのかな」
「ゆっくり、おやすみなさい。明日になったら三人でお出掛けしましょう。ね、貴方」
「あ、ああ……そうだね。ヨムカ、今日はもう休むといいよ」
ヨムカは自室に戻る。
ああ、懐かしいなんて思わない。ここは自分が生まれてからずっと使っている部屋で、今日も朝をこのフカフカのベッドで目を覚まして、村の同い年の子達と遊んでいた。
「う~ん、今日はほんと変な事ばかり考えるなぁ。ツナパンとか、記憶にない記憶とか。でも、疲れているってだけで片付けていいのかな……」
ベッドに仰向けに倒れる。
弾力のあるベッドと羽毛の布団が優しくそっとヨムカの身体を包み込む。
「明日になったら考えればいいかな……もう、眠いし……」
ヨムカの意識はぼやける白い天井を最後に記録した。
こんばんは、上月です(*'▽')
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