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悪名のバロック

 中央区大広場の人だかりは大きな円を作り、内部で対峙する両組織。


 クラッドの解説と人壁の向こうから聞こえる怒声や罵声は、予断を許さない状況になりつつあった。どうやら、国家正規騎士が抜刀した後に、黒死蝶と智天使も拳銃やらなんやらの得物を構えてしまったらしい。これは、完全に国家反逆罪に該当する大罪だ。


 組織の長を務めるリーは、本来であれば部下を諫めなくてはいけない立場にも関わらず、表立って罵声を浴びせにかかっている。


「……あぁ、もうどうすれば」

「赤毛のお嬢、ちょいとワリィがソコ退いてくれるか?」


 肩に置かれた大きな手に振り返ると、熊のような巨漢で厳つい顔付きをした男が、背後に複数人の部下を従えて立っていた。


「バロ……ゴホン。あ、はい。どうぞ」

「チッ、馬鹿どもが問題起こしやがって」


 ヨムカを退かせると、男は周囲の野次馬達を肩で乱雑に道を作って突き進む。


 野次馬達は彼の顔付きと体格に慄く。


「誰だあいつ。あの無法地帯に住む奴らの仲間か?」

「馬鹿! 声がでけぇ。アイツは黒死蝶のボスだ。目を合わせるな半殺しにされんぞ」


 バロックとはそこまで恐れられている人物なのだろうか。ヨムカは彼と過ごした記憶を少しだけ呼び起こさせる。


「……あぁ」


 以前、智天使との会合の時に下っ端を脅し、仲間を売らせていたのを思い出した。あれは完全に悪人の手法だったと表情が引きつる。


 人垣を割って中央にたどり着くバロック率いる黒死蝶メンバー。


「おい、リー。約束は忘れてねぇよなぁ。むやみに市民に突っかからねぇ約束をよ」

「アァ!? 何抜かしとんや、このド阿呆。先に仕掛けてきたんはアイツ等だ。おまけに剣まで抜きやがってェ、戦争する気満々だろうがッ!」


 色眼鏡の奥にぎらつく細く鋭い視線はバロックから再び正規騎士に向ける。


 バロックも視線をリーから、一緒になって暴動に加担している仲間達に向けた。


「んで、お前らはリーと一緒になって何してんだ? まさか、ボスのいいつけを破ってドンパチやらかそうってぇのかい」


 声のトーンが下がり、まるで内密にゆすりをかける悪人のようだった。


「い、いえ。違うんですよ……俺達はそのコイツ等に絡まれて」

「お前達が何かやらかしたんじゃないのか?」

「やらかしたのは、智天使のリーです」

「ハイ! リーが余計なことをしてこんな風になりました!」

「ハァ!? オメェ等、視力生きとんのかァ、オイ! なに、責任コッチになすりつけてんのやッ!! 俺らが助けに入ったお陰で膠着状態になったんやろうが。なァ、野郎共?」

「…………」


 静かに視線を逸らす智天使の面々。


「なっ……オメェ等、帰ったら調教しなおしたるわ、ボケェ!」


 相変わらずのリーの扱いだ。


 ボスを弄ってはいるが、ちゃんと忠誠心があるのだろう。智天使の面々はリーに危害を加えられないように自らが壁となるべく、抜き身の剣先を向けてくる正規騎士を前に立ち塞がる。


「おい、騎士様よぉ。こんなところでドンパチしても互いに得はねぇよな。俺達は善良な一般市民だぜ。こっちからは、一切手を出してねぇ市民切り捨てて良い事はねぇよなぁ?」


 バロックが正規騎士達に向き直るや説得を試みる。


「チッ……巡回に戻るぞ。いいか、少しでも妙な真似してみろ。国家反逆の意思在りとみなして、しょっ引くから覚悟しておけ」


 隊長格の男が剣を鞘に納めると、部下たちも渋々倣い人垣を割ってその場を立ち去っていく。


 ヨムカは内心で安堵した。


 自分が止めに入らなければと考えていたので、バロックの参入はとても助かったのだ。集っていた民衆も散っていき、智天使のリーも不愉快そうに舌打ちを残し部下共々どこかへ歩き去っていった。


「ヨムカ、そろそろ行くぞ」


 ヴラドに呼ばれ、ヨムカはハッとなり七八部隊の輪に加わる。


 そうだ、自分は宝探しに集中せねばならないのだ。一般市民が本来の宝を見つけ出すことは出来ないだろう。かといってヨムカもその宝が何処にあるのかも検討が付かない。盗まれた禁書の行方を血眼になって探す国家正規軍は、どのような手段を用いてでも探し出そうとするだろう。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回、とうとうお宝が……!?


次話投稿は来週予定です!


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