バロックが抱く不安
国内で行われる宝探しゲームは魔術学院内でも持ち切りの話題となり、魔術強襲第七八部隊の控室でもどうするべきか、と小会議が開かれていた。
「ロノウェ副隊長はどうして不参加なんですか! お金っすよ! ほしくないんすか?」
「ロノウェ副隊長とヴラド隊長はお金持ちだし……その……でも、どうして反対なんですか?」
フリシアとクラッドはロノウェの反対意見に意外だと疑問を投げかけるが、ロノウェ本人は机の上に置かれた紙面に怪訝な視線を向けていた。
「そもそも、宝ってなんでしょうか? 参加条件が個人ではなくチームである必要性は?そんなイベントに陛下直々に報酬をとらせるでしょうか。きっと、このイベントには何か裏があるのではないか……と、私は思います」
確かによく読み返せば不明瞭、というより不可解な点が見受けられた。
「まぁ参加するのは構わないが、二つ条件がある。首都にいるほぼ全員が参加となれば、必ず一部では暴動や何かしらの犯罪が発生するとみて、ほぼ間違いはないだろう。探索範囲は俺が限定する。もう一つは必ず俺の指示に従うだ。それでもお前達が構わないなら、参加してもいいぞ」
「探索範囲の限定っすか……」
「嫌なら――」
「いやいやいやいや、従うっすよ! だから、参加したい!」
「わ、私も隊長の指示に従います」
フリシアとクラッドは提示された条件を飲み、みなの視線はヨムカに注がれた。
「お前はどうするんだ、ヨムカ。チームに人数規定はないんだ。参加も不参加もお前次第だぞ」
「え~、参加しようぜ! せっかくのイベントだぜ、それにお前もお金欲しいだろ?」
「ヨムカちゃん……?」
「あっ、はい。参加します」
ヨムカは黒死蝶のボスではなく、魔術学院生として参加する。
智天使との会合の後、黒死蝶の前ボスであるバロックに魔術学院側として参加するよう奨められていた。
「ヨムカ嬢、お前さんは表では俺達と関わるべきではないんだ。学院側にバレたらヤベェだろ? 今回は俺が代理ボスとして黒死蝶を率いて探索させてもらうぜ。なに、情報はカロトワを使ってヨムカ嬢の耳に入るようにするから安心しな。それと――」
スカルクラブ上階にあるVIP席でバロックが酒を片手にヨムカと打ち合わせをしていた。
「宝探しで、その重要な宝が明記されてないってぇのは、少しおかしな話じゃねぇか」
「フライング対策で今は伏せてて、開会式の時にでも発表されるんじゃないですか?」
事前にその宝の内容を公開してしまっていたら、誰かが先に見つけ出してしまう可能性もある。故に現状は非公開となっている、と考えるのが普通だろう。だが、バロックはただでさえ厳つい顔に更に深いシワを眉間に寄せて、いまいち納得しかねるといった様子だ。
「バロックさんは一体、何を考えているんですか?」
豪快な性格の持ち主であるバロックが珍しく……といっても、まだ彼と関わってそう日数が経っているわけではないが、普段あまりみない顔つきにヨムカが控えめに顔を窺う。
「俺の勘だがなぁ、この宝探しはたんなるゲームじゃねぇ気がしてならねぇ。何か国家規模での裏があるんじゃねぇか……ってな。俺の考えすぎかもしれねぇな。がはは、柄にもねぇことしたな。うし! ヨムカ嬢、打ち合わせはこれまでだ。腹減ってるだろ? いま、何か作らせるから、待ってな」
バロックは重い腰を膝に手を突いて椅子から持ち上げ、螺旋状の木製階段を軋ませながら降りていってしまった。
「みんな、元気だよね。また、カロトワさん達は飽きもしないで歌って踊ってるし……」
残されたヨムカは階下の様子をソファからぼんやりと眺めていると、背後からの接近者に気付かず、不意打ちを受ける。
こんばんは、上月です(*´∀`)
次回から宝探しゲームの開催となる予定です!
次の投稿は未定ですが、よろしくお願いします^^




