奇襲は唐突に……
まだ、昼時だというのに辺りは生い茂る木々のせいで薄暗く、不気味な雰囲気を漂わせていた。
オマケに足場も悪く、複数の視線を受けていれば気を抜く暇も無い。実戦経験の無い三人は精神的に休む余裕は無かった。
「なっ……なぁ、俺達は本当に大丈夫なんだよな?」
クラッドの震える声にヨムカとフリシアは素直に大丈夫とは言えなかった。
いくら周囲には経験豊富な騎士やカルロがいても、いつ何が起こるか分からないのだ。
「戦闘になったら、フリシアとクラッドは私の傍から離れないでね」
乱戦になり、カルロや騎士達の手が回らなかった場合、この二人を守れるのはヨムカしかいないのだ。
「ヨムカちゃん……」
「お、おう。任せたぜ、ヨムカ」
せめて、クラッドには俺も戦うから心配するな、と一言が欲しかったが、ひとまずは良しとする。
「大丈夫だよ。何があろうと僕が絶対にキミ達を死なせはしないから。だってさぁ、後で馬鹿ヴラドに頭を下げたくないしねぇ~」
三人の緊張をほぐすようにカルロが優しくおどけた調子で言葉を掛ける。
「でも……敵の数も――」
「僕等を監視しているのは三五人だよ。今のところ数で言えば、まだ此方が優勢だね」
「どうし……」
どうして、そこまで分かるのかと聞こうとしたが、カルロは風の術式を得意とする魔術師。流れる風から情報を読み取ったのだろうと考える。
「どうだい、ヨムカ君。キミも風の術式を極めてみないかい?」
本気なのか冗談なのか、勧めてくるカルロ。
ヨムカは確かに風を読めれば色々と便利ではあるなと思うが、流石にカルロまでの領域に辿り着ける自信が無いので、丁寧に断る。
「ははは、いいよ。まぁ、気が向いたら声を掛けてよ」
こんな状況で、笑うカルロは流石だと素直に思った。
少なくても、今カルロが余裕を見せてくれているからヨムカ達の精神的負担は幾分か軽くなっている。
六八部隊の隊員が彼に心酔する理由がよく分かった気がした。
「コラァ! 馬車は丁寧に扱えと言っているだろう、この無能がァ! 貴様はこの任務が終わったら解雇だ!」
馬車の車輪が木の根にぶつかり大きく揺れ、額を手で押さえながらベイリッドが怒鳴り出てきて、御者を怒鳴りつけ、胸ぐらを掴み怒りの形相を向けていた。
流石に理不尽だと思ったヨムカがベイリッドに歩み寄ろうとした時、背後から力強く引っ張られる。
お陰で首が絞まり、カエルがつぶれたような変な声が漏れる。
何事かと状況を理解する前に、暴風が吹き荒れた。
「敵襲! 各自、戦闘に備えてください。 数は右側面より二十、左側面から十五です!!」
風の音に乗ってカルロの声が全員に届けられ、訓練を受けている戦闘のプロは手に獲物を持ち、主人を護るべく陣形を組む。
風が弱まり視界が晴れ、地面に視線を向けると数十本の矢が突き刺さっていた。
「カルロさん!」
「ヨムカさんは、クラッド君とフリシアさんを連れてベイリッド殿の直ぐ傍で警護をお願いします。敵は一人も馬車には近づけさせません!」
ヨムカに迅速な指示を出し、腰から銃身の長い銀色のリボルバーを引き抜き、数発発砲する。
「クラッド、フリシア。こっちに来て!」
何が起こっているのか未だに状況を把握できていない二人の仲間の腕を引き、騎士達が防衛する馬車に駆け寄り、ヨムカは騎士達と共に馬車から近い場所で防衛に努める。
前線では、討伐部隊とカルロが野党と交戦していた。
「身のこなしと、この実力……ただの野党ではないね!」
特注のリボルバーを片手で敵の心臓部に銃口を合わせ、カルロは反動を受けていないのか、銃口を一切逸らさせることなく、発砲する。
放たれた弾丸は狙い通り、相手の心臓を穿ちその生に終止符を打つ。
「彼らの所に行きたいなら僕を殺すことだねぇ。まぁ、キミ達に殺られるほど落ちぶれちゃいないんだけどさ!」
風を自在に手繰り、敵だけを的確に狙い不可視なる刃を放ち、首が地面に音を立てて落下していく。
こんばんは、上月です(*'▽')ノ
やっぱり、此方も書き進めていきたいと思いまして、今日から復帰します。
もちろん、『地平線に沈む夕日は明日への希望』の方も書いていきます。
ですが、こちらは不定期更新になってしまうと思います。遅くても一週間に一話ペースです(;´∀`)




