薄暗き森からの気配
暖かな日射しを受けながら、ゆったりと街道をヨムカ達はベイリッドが乗る馬車の右隣りを歩いていた。
「ふぁ~、寝みぃな。この草原の上で寝転んだら一瞬で意識が落ちる気がする」
「クラッド君、今は任務中……だから、もう少しシャキッとしよ?」
「へいへい。でもさぁ、暇じゃない? 敵も現れないし、ただ歩いてるだけってのもなぁ~」
隣の馬車には雇い主が乗車しているというのに、大きな欠伸をしては眼を擦るクラッドにフリシアは注意するが、右から左へと聞き流す。
「では、クラッド君。暇だったら僕が術式理論を叩き込んであげてもいいんだけど、どうする?」
「敵はっ!? よし、居ないっすね。前方後方、ついでに側面問題ないっす! 引き続き周囲に警戒しますので、お勉強をしてる暇は微塵もないっすよ」
慌てふためきながら見渡せる限りを見渡し、一人満足げに頷く。
「はは、留年しちゃうかもしれないよ?」
「はっはは、まさか……何とかなりますよ。ははは、脅かさないでくださいよぉ~」
カルロの一言に冷や汗を浮かべ、ひきつった表情で渇いた笑いを漏らす。
「それより、カルロ……さん。どうして今回の私達の任務に同行してくれたんですか?」
「うん……まぁ、いいじゃないか。そんなのは些細な問題さ。それより、そろそろ気を引き締めた方がいいよ。もう少し進むと足場が悪い森があって、噂では野党が出没するみたいだからね。君達の本当の実戦になるかもしれないよ」
実戦という言葉に三人は息をのむ。
訓練ではない、まさに命のやり取りだ。
いくら、此方が多人数であろうと死ぬ者は死ぬ。それが自分なのか、フリシアやクラッドなのかは分からない。時の運と日々の鍛練が生き残る為の術なのだ。
「あの、カルロさん。出来ればクラッドの近くにいてあげてくれませんか?」
ヨムカはカルロにだけ聞こえるような小声で告げると、分かっていると軽く手を挙げ返事をする。
既に木々がしげる森に足を踏み込み、根から伸びるツタや、ぬかるみで次第に足場は悪くなってきた。
「おい! もう少しこの揺れはなんとかならないのか!」
ベイリッドが窓から顔を出し御者に怒鳴り付けるが、怒鳴られる御者の男はすいません、と謝るだけで足場の悪い道をガタガタと車輪が回り、馬車は揺れ続ける。
次第にベイリッドの表情が険しいものになっていった。
「カルロ先輩……その、先程から――」
「うん、分かってる。見られてるね。嫌な風だよ……まったく」
フリシアが怯え気味に視線だけを周囲に目配す。
カルロは全く気にしていないように変わり無く歩いていて、ヨムカはこれで良いのか? とも思ったが、経験豊富なカルロに習って知らぬふりをする。
「うぁ? なになに、なんかあんの?」
状況を把握していないクラッドが何か楽しげに周囲を見渡そうとした所で、ヨムカは懐に忍ばせていたおやつを、断腸の思いでクラッドの口にねじ込んでやる。
「しー! 静かにして、いい? 今私達は何者かに見られてるの。下手に刺激するより知らぬふりをしてやりすごしたいの。わかった?」
口をもぐもぐするクラッドに顔を近づけて囁く声量で告げる。
「でも、他の仲間が知らないと奇襲された時に対応出来ねぇんじゃね?」
「それに関しては問題ないよ。皆は厳しい訓練を受けた正規の騎士だ。この視線には気付いているはずだからね」
「えぇ!? じゃ、じゃあ気付いてなかったのって俺だけかよ!」
「だから、静かにしてよ!」
「ヨムカちゃんも……声が、大きいよ?」
「うぅ~」
つい、クラッドの反応に合わせてしまい悔やみつつ、木々の隙間を一瞥するが姿は見えない。だが此方の様子を伺っているような気配は感じる。
「まぁ、僕ほどではないにしろ相手もかなりの手練れだから、間違っても孤立しないよいにね。流石にバラバラに散った君達を全員守るなんて不可能だから」
さりげなく自分強いアピールを入れてくるカルロに妙な安心感を抱きつつ一同は小さく頷いた。
こんばんは、上月です(*´ω`*)
最新話投稿です!
次回も一週間以内に投稿しますので、宜しくお願いします




