危険な香りの初任務
国家に甚大な被害を与えた休日が終わり、魔術学院第七八部隊控室でヨムカ、クラッド、フリシアの三人は被害報告書に目を落としていた。
「これ……マジなやつか?」
「……酷い」
フリシアとクラッドはそこに記される被害人数に固唾を飲み込む。
正規部隊や一般市民を含めれば百人近くの命が失われていた。
「うん、国としては今回の首謀者を何としても探しだすみたい」
昨夜にヨムカはヴラドから手紙を預り、貴族居住区にあるカルロの家に赴いた。その時、不意にカルロがポツリと漏らしたのだ。
「その首謀者って奴は見つかりそうなのか?」
「さあ、どうだろうね。捜査は今日から始まったみたいだけど。犯人探しもそうだけど、市民からしたら壊れた家とかを直して欲しいみたいだね」
時刻は八時を回っていた。
本来であれば学院生は授業を受けているはずだが、今回の事件によって一部の生徒を除き三日間の自宅待機を命じられた。
「それより、俺達の初任務だぜ! なんかワクワクすんなぁ」
暗い雰囲気を吹き飛ばすように、クラッドがわざとらしく大きな声で言うと、扉が開かれる。
「やぁ、皆おはよう。君達の初任務の引率はヴラドに替わり僕が請け負う事になった。さて、準備は出来ているかな?」
「…………」
「…………」
「…………」
七八部隊の一年生は微妙な表情のまま固まる。
「えっと……カルロさん、なんですよね?」
「フリシア君には、僕がカルロ以外に見えるのかな」
「あっ、いえ……その、いつもと雰囲気が違ったので」
控え目な声で告げるフリシアにカルロは何かを考える事数秒。
「今回、君達はヴラドの部下ではなく、僕の部下という扱いになっているからね、対応が違うのは当然の事じゃないか!」
メガネを指で押し上げながら、優しく言葉を掛ける。
ヨムカは一瞬だが、背筋に寒いものが走り身震いした。
「ヨムカ君、僕をそんな不審な眼でみないでくれるかな。さて、そろそろ行くよ」
カルロを先頭に第七八部隊は初任務に向かう。歩くこと数十分。貴族居住区から直接に外へと通じる門の前には、一切の遠慮を知らない装飾が施された馬車一台と貨物用のボロ馬車一台が停車していた。
「フン、貴様らには高い金を注ぎ込んでいるんだ。相応の働きを期待しているからな。さて……これはこれは、カルロ殿。まさか私の警護にカルロ殿が付いていただけるなら、無駄金をコイツ等に払う必要は無かったんですがね」
生まれてこのかた贅沢三昧に生きてきたような浅ましい顔にふくよかな腹は喋る毎に上下に揺れる。
「うへぇ~、俺マジあの腹見てるとプッツンしそうだわ。あ~まじ切れそ――」
カルロの背後で呟くクラッドをフリシアは口を塞ぎ黙らせる。
「そちらの若い子達はカルロ殿の部下ですかな?」
「いえ、彼等はヴラドの部隊の者ですが、先日の件でヴラドは怪我をしてしまって、代わりに僕が引率をさせてもらってます」
「ほぉ、ヴラド殿の。それはそれは、期させてもらおうか」
「それで、ベイリッド伯。本日はどちらまででしょうか? 任務内容に詳しい場所が記されていなかったもので」
ベイリッドという貴族はよくぞ聞いてくれたと言うように立派な腹を突き出させる。
「クシャルダーナの森にある古城に向かうのだよ」
「ッ!?」
ヨムカ達にはそこがどのような場所なのかは分からないが、カルロはハッとしては息を飲む。
「あそこには魔性の生物が存在すると……」
「だからこそ、行くのだよ。その城には財が隠されていると言うではないか。たとえ化け物が現れようともここにいる私兵が何とかしてくれるだろう」
その私兵にカルロ達も含まれているのだろう。
カルロはチラリとヨムカ達には視線を向けると軽い溜め息を吐く。
「わかりました。ですが、彼等はまだ未成年の子供ですので、僕が危険だと判断した場合は彼等だけでも撤退させますがよろしいですか?」
「ははは、構わぬよ。未来有望な若者を失わせるわけにはいかないからなぁ。さて、財宝がワシを呼んでいる! さぁ、出発だ!」
こうして、ベイリッド率いる私兵五十とヨムカ達四人は国を出た。
キリが良かったので投稿します。
次回も早めに投稿出来たらいいなぁ、と思っていますので、宜しくお願いします(^-^)




