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罠にかかった異形

 民家の窓と入り口を家具で塞いだ。


 薄暗い室内には、肉体労働をしたせいで息を乱し座り込むカルロと、脂汗を滲ませながら苦痛の表情を浮かべて椅子に腰かけるヴラド。


「こっ……はぁはぁ、こんなバリケードが……はぁ、役に立つとは思えないんだけどぉ?」

「……これでいいんだ。後は……あの化け物が上手く策に嵌まってくれれば、それでいい」


 傷口を塞いだとはいえ、血を流しすぎてしまい意識が霞み、喋るのもやっとだった。


「カルロ……奴は今どこら辺にいる?」

「あぁ? そうだね、もう間近じゃないかなぁ」

「なら、俺が合図を……出したら、手筈通りにやって……もらうからな」

「ふん! キミに使われるのは癪だけど、助かるために今回だけ使われてやるんだからねっ!」


 ヴラドは軽く手を上げ、分かっていると意志を見せる。


 その気配は隠すことなく、扉の前で立ち止まる。簡易なバリケードなど異形の一撃で木っ端微塵となる事は分かりきっていた。カルロは扉から少し距離を取り、ヴラドにチラリと視線を向けると、大丈夫だと力強い頷きで返される。


「キミと心中はごめんだからねぇ」

「安心しろ俺もだ」


 それを最後の言葉の掛け合いとして、扉は勢いよく内側にはぜる。


 木製の扉は砕け、ヴラド達に木片か襲い掛かる中、カルロの風の術式により木片の軌道を逸らす。


「カルロ、奴を誘い込め!」

「分かってるよ!」


 カルロは風の防壁を一度解き、室内全体を巻き込む竜巻を展開させ、全ての家具は吹き荒ぶ風の流れに従い部屋の中央へと引き寄せられる。それは扉を破壊した化け物も例外ではない。


「この後はどうするんだい!?」

「こうするんだよっ!」

「……へ?」


 背後から襟首を掴まれバランスを崩しながら、ヴラドに引きずられ、部屋の奥にある扉から外に叩き出され、内側から施錠される。


「……は?」


 その場で一体何が起きたのかと理解が出来ないというような呆気にとられた表情をして、少しの思考の後に現状を理解する。


「おいっ! ヴラド、一体何を考えているんだい、えぇ? キミ一人で何が出来るのか、僕が納得出来る理由を述べてくれるかなぁ?」


 カルロは声を大に施錠された扉を何度も何度も拳を叩きつけるが、中からは返答は無い。もちろん術式を展開していたカルロは既に集中が途切れ、室内で吹き荒んでいた風は止んでいるはずだ。


「聞こえているんだろ! 僕は言ったよねぇ? 二人が助かる答え以外は認めないってさァ!」


 相変わらず返答が無いので、異形が壊した正面の扉から乗り込んでやろうと、走り出そうとした時に異様な空気の流れを感じとり足を止め、周囲を見渡す。


「なんだ……この澄んだ……いや、純化された気配は」


 直後に異形とヴラドがいる民家の窓ガラスが内側から爆ぜ、業火が外に向かい吹き出し、対面にある民家のレンガがその熱量によって水飴のように溶かす。周囲には焦げ臭さが漂い、カルロは先程以上に呆然とし言葉を失う。


「……はっ、ヴラド!?」


 カルロはなるべく息を止め、室内は見るも無惨に真っ黒に焼け焦げた民家に足を踏み入れた。


「あの……馬鹿がっ!」


 カルロは吐き捨てる。


 肌から滲み出す汗を袖で乱暴に拭き、押さえ難き怒りは瓦礫に向け、力の限り蹴り飛ばす。


 焦げ臭さのせいで異形の気配は感じられないが、あの火力を直に受けたのなら消し炭となっただろう。それは、人の身であるヴラドにも言えた事で、無意識に拳を強く握り、視界がぼやける。


「くそっ! 馬鹿ヴラド、勝ち逃げって……ずるくないかなぁ?」


 すると、室内の奥に積まれた瓦礫の山が動いた。


「っ!?」


 カルロは全身を硬直させ視線だけを瓦礫に向けた。

こんばんは上月です(^-^)

次回も来週に投稿しますので、よろしくお願いします!

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