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捕らえられるヨムカ

 足を引きずりながらも、カルロはヴラドに肩を貸しながらも進んでいく。


 目的の場所なんてない。ただ、あの異形から逃げられるのなら何処だっていいのだ。


「生きてるかい? 死んでるなら、僕はキミを此処に置いていくけどぉ?」

「…………」


 先程から反応がないヴラド。


 カルロはずり落ちそうになるヴラドの身体を支え直し、一度大きな溜息を吐く。


「全く……アレはいったい何なんだよ。少なくても真っ当な存在ではないよね。術式も打撃も効かない相手に太刀打ち出来るわけがない」


 今頃は騒ぎを聞き付けて精鋭部隊が出動しているだろうが、アレに対抗出来るかどうかは怪しかった。


 まず自分がするべきは身を隠せる場所と傷を手当できる器具の確保。その最たるものはやはり診療所だろう。大きな病院となるとここからだいぶ距離がある。


「治癒の術式を会得してれば楽なんだけどなぁ……。やっぱり腕が痺れてきたから、此処に捨てておこうか?」


 何だかんだいつも目の敵にし、消えてしまえば良いと思ってはいても、いざとなると見捨てる事が出来ない。カルロは自分の甘さにうんざりしつつも、風に干渉し周囲の安全を確認していた。


「……ッ!?」


 カルロは風からの報せに冷や汗を流す。


 獲物に餓える野獣の様な殺意が、風の流れとともに肌に感じたのだ。


 異形は近くにいる。確実に距離を詰めてきていた。


「迷い無くコッチに向かってきてる!?」


 この場で異形の存在と鉢合わせなんかしたら、意識を失っているヴラドがいる分……ただでさえ実力差が桁違いだというのに、更には行動を抑制されては逃げる事もかなわない。このままでは、二人とも殺されてしまう。最悪の事態がカルロの脳内に描かれる。


「カルロ……俺を、置いていけ」

「はぁ!? 意識取り戻したとたんに何を馬鹿げた事言ってるんだい。怪我人を置いて一人逃げましたなんて、そんな恥さらし出来るわけないだろう」

「恥を晒してでも……生きるのと、お前の嫌いな俺と心中するのだと、どっちが……マシだ?」


 息も絶え絶えに血を吐きながらも言葉を紡ぐが、カルロは鼻で笑う。


「ふん! そんなの聞かれるまでもないね。二人とも助かる。それ以外僕は認めないからなっ!」

「知恵は貸してやる……から、後は任せるぞ」

「ああ、構わないよ」

「じゃあ……まずは、あの家に……」


 ヴラドの指示に従いカルロは次第に近づいてくる異形に焦りつつも、既にもぬけの殻と化した民家に足を踏み入れる。


「それで、次は何をすればいいんだい? ヴラド先生」


 口では指示を求めているが、カルロは勝手に戸棚を開けては包帯等の医療品をかき集めていた。椅子にもたれ掛かるヴラドの衣服を脱がし、手慣れた動作で手当をしていく。


「意外だな……お前がこういう事が……得意だったとはな」

「怪我人は黙っててくれるかなぁ。全くキミにこの治癒の因果創神器を使わなくちゃいけないなんて、とんだ無駄遣いだよ。これ一つでかなりの値が張るんだから感謝してほしいねぇ」


 カルロは手に持った琥珀色の石を切り裂かれた胸元に当てると、石は淡く輝きだし、その光を浴びた傷口は次第に治癒していった。


「便利なモノを持ってんだな」

「傷は完全に塞がった訳じゃないからね。変に動くと傷が開くから、その時は絶対にキミを見捨てるので、そのつもりでねぇ」


 残りは包帯を手早く巻き手当を終わらせた。


「それで? ヴラドせんせぇの素晴らしい知恵を貸して欲しいんだけどなぁ」


 奴が現れる前に何とかしてでも助かる。欲を言えば打倒できる策が欲しかった。


 カルロの挑発的な発言に乗ることなく、落ち着いた声音で告げる。




 ヨムカはロノウェと別れてから、ひたすら休む暇も無く足を酷使させた結果、向かいの屋根に飛び乗った時に足首を捻ってしまい、前に進むどころか下に降りることも出来ずにいた。


「なんで……こんな時にッ!」


 痛む足首を冷気の術式で冷やしながらも、視線は目の届く範囲を見渡しヴラドを探す。


「皆はもう避難したのかな」


 視界には人一人捉える事はなかった。


 騒ぎが起きてからそれなりに時間が経過している。であれば避難区域に逃げていてもおかしくはない。その避難した人の中にヴラドが居てくれたらいいなと思いつつ、歯を食い縛り、痛みを堪えながらも立ち上がり、一歩また一歩と歩きだす。


「折角の洋服が汚れちゃったな……はぁ」


 埃と煤で衣服は黒くなっていたが、気にしてはいられないと前へと進む。


 学院で習った簡単な術式を詠唱を述べ展開する。


 身体に纏わりつく風をその肌で感じ、屋根から飛び降りる。


 捻った方の足を庇うようにもう片方の足で着地した。


 そのタイミングを見計らったかのように、路地から現れた数人の男女。彼等は何も告げずにヨムカを包囲した。


 灰色のローブを纏い、敵意と鋭利な得物をヨムカに向ける。


 あの異形を呼び出した奴かもしれないと、術式を展開しようとするが、一人の女性が瞬時に間合いを詰め、ヨムカの腕を捻り背に押し付け組倒す。


「……痛っ!」


 実力が違いすぎる。


 このまま殺される映像が脳裏で無意識に再生される。


「あっ……」


 地に這いつくばるヨムカの視線の先に、ヴラドからプレゼントされた小説が落ちていた。自由の効くもう片方の腕を伸ばそうとするが、背の高い男性に腕を思いっきり蹴り飛ばされ、紙袋からはみでている小説を拾い上げる。


「危険な魔導書かもしれない。これは鑑識に回せ」


 男が指示を出すと背後に控えていた四人の男女が黒色の箱にヨムカの小説を入れ、一人がその箱を胸元に収め駆け出すと、残った三人も後に続く。 


 この場に残ったのは、組敷く女性とリーダー格の男とヨムカの三人となった。


「貴様はいったいこの場で何をしていたッ!」


 男はヨムカを見下し、怒気を孕んだ大声を降らせてきたので、ヨムカは驚き一瞬怯んでしまった。


「えっ……わ、私は」

「早く答えなさい。さもなければ」


 首筋に触れる冷たい感触に生唾を飲み込む。


「私は……ただ、先輩を」


 恐怖で言葉がつっかえてしまい、男は次第にイラつきを隠そうとせずに、ヨムカの腕を靴の踵で踏みなじる。


「ッ!! 私は先輩を探していただけです! 何なんですか貴方達は、いきなりこんな事を」

「我等は治安維持法政局討伐第一部隊です」


 女性が答える。


「私は魔術学院の第七八魔術強襲部隊所属のヨムカ・エカルラートですっ! 先……隊長が私を逃がすために異形の化け物と……」

「魔術学院……それを証明出来るものはあるか?」


 男が問い掛ける。


 休日のヨムカは学院支給の拳銃を含め、全てを家に置いてきてしまったので、今この場で身分を証明する事は出来ない。


 拳銃とナイフは携帯義務であったが、荷物がかさばるからと置いてきたのだ。


「いえ、ありません。そ、それでも! 私は魔術学院に所属しています。信じてくださいっ!! 早く先輩を助けなきゃ……私は……」


 ヨムカの訴えに男は黙り込んだかと思えば、ヨムカを組敷く女性に目配せする。


 女性はナイフをヨムカの細い首筋から離し、ようやく身体を解放した。


「キミの証言だけでは信ずるに値しないが、その意志から俺は何か惹かれるモノを感じた。俺達と共に行動するという条件を飲むなら、このまま化け物とお前の隊長を探す事を許可しよう」

「ちょっ……隊長!?」


 女性は抗議の声をあげようとするが、男に手で制され押し黙る。


「もちろん、お前を信じたわけではない。もし、怪しげな行動を見せれば殺す。キミが本当に潔白だと言うのなら文句はないはずだが?」

「はい、ありません!」

「よろしい、なら我等はこのまま北区に向かうぞ」

「えっ、でも西区で何かあったんじゃないんですか?」


 先程ロノウェと見た立ち上がる黒煙を思いだし、小首を傾げながら男に疑問を投げ掛ける。


「あれは、混乱に紛れた盗人が人避けの為に放火しただけだ。犯人は今回の騒ぎとは関係がなかった。時間が無い、お喋りは終わりだ。行くぞ」


 治安維持法政局討伐第一部隊に同行し、混乱で掻き回された国家を走り出す。

こんばんは上月です(。>д<)ノ

一週間も早いですね。いやはや、次回はカルロ&ヴラド対異形の化け物となりますので、お楽しみに!

ではまた来週にお会いいたしましょう(^-^)v

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