表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/121

広大なゴシック様式書店

 カルロから分けてもらった昼食を二人で平らげ、午後の予定を立てていた。


「午後一で服を買いにでもいくか?」

「私はそれでも構いませんけど、荷物が邪魔になりませんか?」

「別に俺が持つんだし、お前に任せるわ」


 ヴラドは予定を立てるというめんどくさい事を全てヨムカに丸投げし、食後の紅茶を堪能していた。


「じゃあ、先に先輩の本を買いに行きましょう」


 いくら荷物を持ってくれるとはいえ、かさばる服をずっと持ってもらうのも流石に悪い。ヴラドの買い物から済ませようと提案する。


「わかった。んじゃ、俺の買い物に付き合ってもらうとするかな」


 本屋に向かうには、この人通りを抜けて行かなければならない為、再びヴラドはヨムカの手首を掴み、人混みに紛れ込む。


 ヴラドが先程から周囲に視線を這わせている事に違和感を覚えた。


 まるで、それは敵が奇襲をしてくるのではないかと言うような強い警戒心が窺えた。


「あの、先輩?」

「…………」


 ヨムカの声が小さかったのか、周囲が賑やかで声が届かなかったのかは分からない。それでも、ヨムカは再度声を掛ける。


「先輩!」

「うん? どうした」

「いや、その先輩が何かに警戒してるような気がして。何かあるのかなって……」


 ヴラドは何かを考える素振りを見せては、首を横に振る。


「いや、特に何もない。ただ、こうも人混みが凄いと進みにくいからな」

「そうですか……」


 何かを隠している。


 そう直感して、次には少し寂しいという気持ちがヨムカの心に巣食い、胸にチクリと痛みが走る。


「あぁ~、なんだ。ホント何でもないんだ。だから、そんな泣きそうな顔をするな」

「泣きそうな顔なんてしてません」

「いや、してたぞ。というより女の涙にはどう対応していいか分からないから泣くな」

「先輩の弱点をいま握りました!」

「やめてくれ……」


 そんな他愛の無いやり取りをしていると、ヴラドがよく足を運んでいる書店にたどり着く。


「えっ、この建物って書店だったんですか?」


 大聖堂のようなゴシック様式の建物を見上げながら、感嘆の声を漏らす。


「知らなかったのか、この書店は外国の本も取り扱っていて、手に入らない本は無いというくらいの品揃えだ」


 てっきり協会かと思っていたヨムカはヴラドに手を引かれ、扉を抜ける。


「す、凄い……」


 一階の中央部には会計場があり、数十人規模の店員が列を作る客を捌いていた。


「階毎にジャンル分けされてるから、目当てのモノが探しやすくなってる。せっかくだし、何か買っていけばいいんじゃないか?」


 この広大で初めて訪れた書店で別行動を取ったら間違いなく迷子になる自信があった。よって店内はヴラドにくっついて回ることになり、外の賑やかさとはうってかわり、静かで紙とインクの匂いが店内を満たしていた。


「先輩がよく読むジャンルとかってあるんですか?」

「ジャンルかぁ……そうだな、色々読むけど、冒険モノが多いな。そういうお前はどんなのを読むんだ?」


 問われて考え込む。


 普段読むものと言えば、因果創神器や術式関連の本ばかりだった。


「すいません。参考書ばっかりで小説って普段読まないんで……」

「あ~そうか。なら、折角の機会だしな。何か買ってやるから読んでみろよ」

「えっ、いいんですか?」

「ああ、構わないぞ」


 ヴラドは始めに自分が買う本をあっさり見つけて、次はヨムカの本を探す。


「どんなジャンルがいいんだ?」

「えっと、恋愛が……いいです」


 恥ずかしさに赤面し言葉がつっかえ、ヴラドを直視出来ず、本棚に視線を投げ出す。


「恋愛かぁ~」

「なっ、なんですか! 私が恋愛小説を読むのがそんなに変ですかっ!?」

「ハイ、静かにな。別に馬鹿にしたわけじゃないぞ。ただ、可愛いなって思っただけだ」

「……かっ! かわ!?」


 耳まで真っ赤になり、口をパクパクとしてる姿は金魚を思わせた。


「んじゃ、恋愛コーナーにいくぞ」


 このまま、時間だけを無駄にするのも勿体無いと判断したヴラドが、再びヨムカの手を引っ張る。


 三階にある恋愛小説の区画にはヴラド以外の男性の姿は見られなかった。


 女性客からチラチラとヴラドに視線が投げ掛けられていたが、本人は特に気にした様子はなかった。


「……まぁ、仕方ないよね」


 スラリと身長も高く、整った顔立ちに純粋な金髪なのだから、普段の彼の姿を知らない女性は頬を染めるだろう。


「うん? なんか言ったか?」

「いえ、何も言ってません」


 それに対してヨムカに向ける視線は嫉妬と憎悪にまみれた女の裏側だった。先程から背筋に悪寒が走っている。


「そうか。それで、どれにするんだ?」


 彼女達の感情を逆撫でさせたいのか、ヴラドは敵意の視線を向けられているヨムカの手を引く。


「どうして、こんな場所でも手を握るんですか!」

「あ~、それもそうだな」


 手を離されたら今度は言葉にしようがない、気持ちがヨムカの心を渦巻く。


「だから、泣くなって」

「泣いてませんってば!」


 意識はしてないが、結果的に見せ付けるような感じにやりとりをしつつも、一冊の本を手に取り会計に向かう。

こんにちは、上月です(。>д<)

本来なら昨日投稿予定だったのですが、1日ずれてしまいました。申し訳ありません(´;ω;`)

次回は来週の土曜日に投稿しますので、よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ