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ヨムカとヴラドの休日

 雑貨屋で必要な物をまとめ買いしたのだが、何故かヨムカのお財布事情を知っていた店主が少し値引きしてくれたので、今ヨムカのお財布に少し余裕があった。


「家に帰ればまだこの間の報酬があるんだけどね」


 店主に感謝しつつ、折角お金が余っているんだから夕飯のおかずを一品増やしちゃおうと繁華街に向かう。



 そして、ヴラドとの約束の日が訪れた。


 朝日が地平線から昇り、洗面所でかれこれ二時間もの間鏡の前で髪をセットしていた。


「あぁ……どうしよう」


 別に一人で出掛ける時はたいして気にしないのだが、誰かと会うとなると自身の身だしなみが気になって仕方ない。


「流石に先輩も髭とか寝癖とかは直してくる……よね」


 軽い溜め息を吐く。


「別にいつも通りでいいか……な?」


 以前にフリシアと出掛けた時にも、身だしなみについて話し合った時に、一人で出かけるときに着飾る必要ないんじゃないかと言った事を思い出す。


「そう言えばあの時、何故か知らないけど凄く怒られたなぁ」


 普段がおっとりしている分、怒った時は流石に言葉が出なかった。


「女の子は常に見られてるんだから、とか言ってたっけ」


 確かに最近はよく視線を感じるなと小さく苦笑し洗面台を後にする。


 キッチンにて長いパンを食べる分だけ切り分けて、ツナを挟み焼くこと数分。


「焼き加減もいいかな」


 いつもより早い朝食を頂く。


 どうしてツナとパンの相性は良いのだろうか、とぼんやり考えながらも至福の一時を堪能する。


 残りの約三時間を過ごす為に広くはない机に着き、一冊の書物を広げる。


 その内容は因果創神器と呼ばれるもので、遥か昔に神々が創造したと言われる強大な力を有する常世の産物。


 ヨムカの学院での課題は因果創神器についてだった。将来は因果創神器を研究する魔術師を志望している。


「一つでいいから、欲しいなぁ」


 ページ一面にはびっしりと字が書き連なり、一般の人であれば直ぐに投げ出すだろうモノをヨムカは意識を集中させ、食い入るように夕日色の瞳は字を追っていく。


「…………」


 静かな室内には紙を捲る音だけが時折するだけで、時間は気づかないうちに流れていき三時間という長いような時間も終わりを告げる。


「さて、そろそろ行こうかな」


 いくら普段がだらしないヴラドであっても、流石に隊長を待たせるわけにはいかないと早足に家を出る。


「何をそんなに慌ててるんだ?」


 ヨムカが階段を降りた時、聞き慣れた声がしたので振り向けば、私服に身を包んだヴラドが手に小説を手にしながら壁に寄りかかっていた。


「えっ……あの、先輩。なんでこんな所にいるんですか?」

「いや、朝早く起きたはいいんだが、暇だったから迎えに来た」

「は、はぁ」


 ヴラドは小説を小さな鞄にしまい、どうしたものかと困ったように頭を掻く。


「最初は何処に行くんだ?」

「そうですね……最初に服を買っても邪魔になるだけなので、そこら辺をブラブラですかね」


 ヴラドは分かったと頷き、二人の休日が始まった。


 休日だけあり、大道芸や出店が多くいつも以上の人だかりで賑わいを見せている。


「あぁ~人が多いな」


 人が密集する場所が嫌いなのか、ヴラドは疲れたような表情を浮かべながらも、ヨムカとはぐれないように手を引き行く。


「ちょっ、先輩!?」

「どした、変な声なんかあげて」

「いや、だって……その」


 繋がれた手に視線を落とすと、ヴラドは空いている方の手で髪を掻く。


「はぐれたら探すのがめんどくさいだろ。それに、探すとなると時間ももったいないしな」


 その理由には納得したが、男性と手を繋ぐ事に慣れていないヨムカからしたら、ちょっとドキッとしてしまう。ヴラドにその気はなくても、意識をしてしまい、みるみるうちに顔が朱色に染まっていく。


「顔赤いけど熱でもあるんじゃないか?」

「だ、大丈夫ですから気にしないで下さい! さっ、早く行きましょう」


 早口に今度はヨムカがヴラドを引っ張る形となり、出店を片っ端から覗いていく。


「これとか、お前に似合うんじゃないか?」


 ヴラドの指先には、小さな赤い石が装飾されたネックレスがあり、確かに綺麗だが自分に似合うかなと想像するが、乾いた笑いが自然と溢れる。


「私にそういうのは似合いません」

「そうか?」


 ネックレスとヨムカを見比べるヴラドを置いて背を向け次に進む。


 ヨムカの後を急ぎ足でヴラドが追い付き、再び手を繋ぐ。


 他者からみれば恋人のように映ってしまっているのだろうかと心配になる。視線を周囲に向けるが、今のヨムカ達と似たような人達が多く存在していたので、安堵する。


「いちいち他人の視線なんて気にするなよ。疲れるだけだろ?」


 ヨムカの心配事はお見通しだというようにヴラドは苦笑していた。


「べっ、別に他人の視線なんて!」


 気にしてません。と言いたかったが上手く言葉を紡ぐ事が出来なかった。


「ホント、お前は面白いな」

「先輩、私を馬鹿にしてます?」

「いいや、別に馬鹿になんてしてないぞ」


 ヴラドはヨムカの頭に手を置いてはワシワシと撫でる。


「さぁ、行くぞ」

「むぅ……」


 俯き加減に手を引かれ歩く。


 午前は特に買うことなく出店を覗き、大道芸を見て過ごした。


「そろそろ、腹減らないか?」

「もうお昼時ですし、何か食べましょうか」


 だが、やはり昼時だけあり、一般の飲食店は勿論、出店も長蛇の列を作っていた。


「これは、とうぶん飯にはありつけないな」

「まぁ、仕方ないです。てきとうな場所に並んでおきましょう」


 どこに並ぼうかと悩んでいると。


「おやおやぁ? 誰かと思ったらヨムカ君と、無能隊長のヴラドじゃないか。こんな場所で何をしているのかなぁ」


 あまりお会いしたくない人物が姿を表した。


「なんだ馬鹿ルロか。休日までお前と顔を合わせる事になるとはな」

「おい、今なんて言いやがった!? クラッド君が、あんな目上を敬わないのはキミに似てしまったんじゃないかなぁ! 隊長がしっかりしないと部下もていたらくになってしまうんだよぉ? わ・か・る・かい!?」


 そういえば、以前クラッドはカルロに対してなにやら言っていたなと思い出す。


「カルロさんって、結構根に持つタイプなんですね」

「どうも僕は、僕と僕の大切な部下を馬鹿にする奴が許せなくてねぇ」


 眼鏡をくいっと持ち上げる仕草にイラッとしつつも、後はヴラドに任せようと一歩引く。


「俺達はたんなる買い物だ。そういうお前こそ一人でなにやってんだ?」

「僕は部下の為にお昼ご飯を調達していた所だよ。まったく……何処も長蛇の列だから苦労するねぇ。まっ、可愛い部下達の事を思えば苦にすらならないけどねっ! まぁ、折角だしこれを恵んであげるから感謝するんだね」


 大きな包みを一つヨムカに手渡し、回れ右をしそのまま人混みに消えていった。


「先輩、とりあえずこれを食べますか?」

「感謝はしなくていいからな」

「はい!」

こんばんは、上月です(*´ω`*)

今回は少し短いです。

次の投稿も来週の土曜日になりますので、よろしくお願いたします

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