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黒死蝶と智天使の選択する道

 捕らえた智天使の未だに意識を取り戻さないボスと部下数人を縄でこれでもかと言うくらい念入りに巻かれ、地面に転がされていた。


「え~と、拉致なんかしちゃって大丈夫だったんですか? 他の仲間が此処に押し寄せて来きたりなんて……」

「へへっ、ソイツぁ大丈夫でせぇヨムカ嬢、こっちにはアイツ等の頭と幹部数人を人質にとってんすら、動きたくても下手に動けねぇ」

「でも、私達がしたかったのって和平条約ですよね。人質を取ってる時点でもう和平は無理じゃないですか?」

「そんな事はねぇ。後は上手くやれりゃ問題ないさ」


 隣りで呑気に煙草の紫煙を縄で縛られている智天使の人に吹き掛ける。


「おい、智天使さんよぉ、あんたらウチと戦争がどうのとか言ってたな。あれは本気で宣戦布告したととっていいんだな?」


 厳つい悪人面が不敵に笑う。


「いや……それは」


 ボスが勝手に……と言いたそうに、顔面から巨石とおもいっきり衝突し伸びているリーへ、チラチラと視線を向ける。


「なぁ、あんた等は黒死蝶を単なるパン屋や靴屋とか、一般人の集団だと舐めてただろ」

「うっ……」


 図星を突かれ言葉が詰まる。


 その反応を見てバロックは満足げに頷き、表情を一変させる。


「おい! あんま黒死蝶をなめんじゃねぇぞ……こちとら、穏便に仲良くしようと思っての会合だったんだからよぉ」

「お、脅しても無駄だぞ。俺達が帰らなかったら、こんな寂れた場所なんか全勢力で潰してやるんだからなっ!」

「お~怖いねぇ。正直あんた等と正面からぶつかれば俺達は成す術がねぇな。だがよ、俺達は弱いから生きる為には手段を選ばねぇ……それが、どういう意味か分かるか?」


 なんの感情も見せずに淡々と言葉を紡ぐバロック。


 彼に続いて他の黒死蝶メンバーもヒソヒソと笑いながら囁き合っていた。その光景を目の当たりにしたヨムカは、背中に薄ら寒さすら感じる程だ。


「何をしようっていうんだ!!」

「教えてやろうか? じゃあ、お前名を名乗りな」

「なんで、テメェなんかに……」

「言えッ!!」


 近くにあった机を蹴飛ばし、智天使の幹部達は竦み上がる。縛られて抵抗が出来ない一人の口に懐から抜いた銃口をねじ込む。


「早く名乗らなきゃ、仲間が死ぬぞ」


 トリガーに指を這わせ、ゆっくりと引かれていく。


「分かった! 言う、言うからソイツを撃つな。ベイラー・フォックだ。これで文句はねぇだろ!」


 バロックは男の名を小さく何回か口にだして閃いたように、ベイラーの視線に合わせるようにしゃがむ。


「ベイラー・フォック。歳は三十八。一つ下の妻と、七歳の息子と四歳の娘の四人家族。この界隈の一番地二四のボロアパートに住んでるんだったか。ボロアパートなんて少し火が付けば、一気に燃え広がるんじゃねぇかなぁ。なぁ、ベイラーさんよ」


 どんどんベイラーの血の気が引いていくのが分かった。


「あの……バロックさん?」

「どうしたんだ、ヨムカ嬢」

「人として最低な事をしてるっていう自覚はあるんですか?」

「あたりめぇだ。こんな手を使わなきゃウチに万が一の勝機もねぇんだからな。最悪、コイツ等の家族と心中でもいいぜ」


 本気なのか冗談なのかは分からないが、きっと本気だろう。


 自分達には力がない。だから守りたい人達を守るには非道な手段をも行使せねばならない。


「おい、まず見せしめに火炎瓶持って、今言った住所に行ってこい!」


 バロックの号令に部下達は倉庫から大量の火炎瓶を持参してきた。


「えっ!? ちょっと、待てよ! 名前言っただろ、話しが違うじゃないかっ!!」


 キョロキョロと視線を左右に忙しなく振り、縄で縛られていようがお構いなしに暴れだす。


「勘違いすんじゃねぇよ、ベイラー。お前は隣のお仲間を助けたいから、名を告げたんだろ?」

「やめろ! やめてくれぇ。妻と子供達は関係ないだろ。殺るなら俺を殺れっ!」

「ピーピーピーピー、大の大人が喚くんじゃねぇ! いいぜ、お前の家族は助ける。だが、代わりに今縛られてる仲間全員の名前を教えてもらおうか」


 ニヤリと笑い、ベイラーは精気の抜けた顔で仲間を見渡す。


「おい、言うんじゃねぇぞ!」

「そうだ、言ったらどうなるか分かってんだろうな!」

「俺達小さい頃からの友達……だよな?」


 ベイラーに喋らせまいと、必死に叫ぶ仲間達。


 さて、これからどのようなに転がるのか見物だなと、バロックは新しい煙草を加えては近くの椅子を引き寄せ座る。


「後十秒で決めな。十……九……八……七」


 相手にプレッシャーを与え、考えるの時間は与えない。間近に迫るタイムリミットにベイラーは選択する。


「右から、ロック・ライスマン。ウォン・シェーリン。すまねぇ、昔馴染みだが家族は守りてぇんだ」

「やめろぉぉぉおおお!」

「スラン・ナッシュ……これで全員だ」


 先程の必死に叫び合っていた、スカルグラブも静寂に包まれる。


 名を告げられた仲間達は、ベイラーをこれ以上ないくらいの恨みに満ちた形相で睨み付ける。


「人が昇天してる間によぉ、愉快な事になってるやないか。おいベイラー、テメェは売っちゃいけねぇモンを売ったのは理解してやがるんだな?」

「……」

「俺が質問してんやぞ! 答えんかいな、このクソ虫ファッカー!!」


 芋虫みたいに縄で巻かれたリーがぴょんぴょん跳ねながら、ベイラーを怒鳴り付ける。


「おい、リー。あんま怖くないし、逆に滑稽だぜ」

「うっさいわ。早く解けやアホんだらぁ!」


 直後にバロックの蹴りがリーの顔面を捉える。


「うがっ!」

「ちと耳障りだから静かにしてくんねぇか。リーさんよぉ」


 ようやく静かになった所で本題だとバロックがリーの縄を解く。


「座れよリー。会合の続きだ」


 普通のテーブルに椅子が対面に二つ置かれていて、リーは周囲に気を張りながらもゆっくりと歩み、言われた通り椅子に腰かける。


「んじゃ、ヨムカ嬢。後よろしくな」

「……へっ?」


 バロックに肩を掴まれて、無理やり椅子に座らせられ困惑するヨムカ。リーは何の感情も抱かぬ静かな声でヨムカに語り掛ける。


「オメェさんが、黒死蝶の新しいボスだってのはマジなんだな?」

「ハイ、まだ日は浅いですけど私がボスです」

「そうかいそうかい……んで、さっき術式を使ったよな? アレは、つまりは魔術師って事でいいんだなぁ?」


 痛む顔を擦る。


 土系じゃなくて風系の術式にすれば良かったかなと、ほんのわずかに罪悪感を感じた。


「そうですけど……何か問題でもありますか?」

「また……魔術師かよ。聞いてんだろぉ? この界隈最強の組織炎龍を壊滅させた一人の魔術師の噂をよ」


 聞いていたし、実際に会っていた。


 リーは苦虫を噛み潰したような表情で、忌々しい記憶を思い出したかのように言葉に毒が篭る。


「それが何だって言うんですか? 今は……その、拉致したり脅しといてアレですけど、和平条約の話しをしませんか?」

「脅しといて、なぁにが和平条約だ! 寝言は死んでから言えや」


 死んだら寝言なんて言えない。なんてツッコミは押し殺し、リーの瞳を真っ直ぐに見つめ、一言。


「住民登録してないですよね?」

「はぁ? あたりめぇよ。んなめんどくせぇ義務やら権利を押し付けられるモンいらねぇのよ」


 ヨムカはこの会合の終着点が見えてきた。


「この国の法律も知らないんですか?」

「法律なんてもんは、俺達には関係ねぇな。んでよ、さっきから住民登録やら法律なんて堅苦しいお言葉並べて何が言いたいんや?」

「まず、住民登録する事によってその人は国に対し税を払う義務があり、国は住民を守る義務があります。そして、住民が部外者によって怪我を負わされた場合、国はその怪我を負わせた人、もしくは組織に対して相応の対応をしなければなりません」


 淡々と語るヨムカにリーの目が一瞬だけ泳いだ。


 その瞬間を見逃さない為にリーの瞳を注視していたのだ。もう一歩、後は止めを刺すだけだった。


「へっ、へぇ~。だがよ俺達はお嬢ちゃんに傷なんて負わせてねぇから、国は動かないだろ」


 そう、ヨムカは自己防衛で相手に怪我を負わせたが、ヨムカの身体には一切の怪我や傷なんてものは見当たらない。


「そうですね」


 感情なく返す。


 ヨムカはテーブルの上に置かれたフォークやスプーンを物色するように視線を這わせ、肉を切り分ける為のナイフを一本手に取り、それを袖を捲りあらわになった白い左腕に強く押し当てた。


 バロックやカロトワが止めに入る前に、歯を食い縛り勢い任せに引く。


「おっ、おいヨムカ嬢……?」


 手に持ったナイフを静かにテーブルの脇に置き、腕から溢れ出る血をリーに見せ付けるように突きつける。


「これで、私が役所に行けば国は動きます」


 出血量からして浅くはない。


 浅くては駄目だ。傷を深くして如何にも傷を負わされたと思わせなければならなかったからだ。


「どうしますか?」


 ヨムカの腕からは血が溢れ出してはテーブルに流れ落ちていく。


「この女クレイジーすぎんだろ! ぜってぇ頭のネジぶっ飛んでやがる」


 テーブルの上は赤い斑点から血溜まりとなる。


 痛みに表情を変える事無く、ただ、じっとリーを見詰める。


「お嬢ちゃんの覚悟は理解したんだけどよぉ、こんなクソの掃き溜めに巣食う蛆虫の為にどうして、そこまでの事ができるんだ? お前さんはさっきよぉ魔術師だって言ったよなぁ。それにご立派にも住民登録までしているときたら、魔術学院生だろ? それが何だってこんな奴等と関わってやがんだぁ?」


 別に関わりたくて関わったわけじゃない。


 噂に聞く底知れない知識を有する魔術師に会うべく訪れたのだ。黒死蝶とは成り行きで関わってしまっただけで、本来なら理由も無くこんな無法地帯に誰が好き好んで足を踏み入れるだろうか。


 だが、黒死蝶の人達はヨムカの髪や瞳を見ても差別や軽蔑、畏怖や殺意なんてものを一切向けずに、仲間として接してくれた。それがヨムカにとって凄く嬉しかった。


 黒死蝶の人達と過ごしてまだ日は浅いが彼等がヨムカを仲間として家族というとして接してくれるなら、ヨムカも彼等を大切にしたいと思い、どんな手を使ってでも守りたいと決意したのだ。


「私を受け入れてくれた黒死蝶は私にとって大切な家族だから、傷付いてほしくないんです」


 今度はリーがヨムカの瞳を注視する。


 しばらくの沈黙が過ぎ、溜め息を深々と吐き出し、懐から一枚の紙を取り出す。


「さっさとサインしろやぁ」


 その紙が和平条約を結ぶ為の書類だということが一目で分かった。難しい事は何一つ無く、シンプルに互いを阻害せず、不戦の協定の内容が短く書かれていた。


 ヨムカは身を乗り出し、右手で署名する。それを確認したリーも、もう一人分の余白部に署名する。


 今この時をもって、智天使と黒死蝶の間で和平条約が結ばれた。


「ヨムカ嬢。まず、傷の手当だな」


 バロックに連れられスアラが救急箱で、一時的な治療を施した。

こんばんは上月です(*´∇`*)

1週間ぶりの投稿ですが、嬉しいことにブックマークが着きました!


次回も来週の土曜日に投稿しますので、よろしくお願いします。(。>д<)

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