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盗まれた禁書と影に蠢く思惑

 早朝の八時に七八部隊のメンバーは、一人を除き南門に集合していた。


 もちろん今回、共に検問をする六八部隊と八三部隊。そして、騎士養成学院から三つの隊が揃っている。


「クラッド君は寝坊でしょうか」


 懐中時計に視線を落とすロノウェとその隣で小説の世界に没頭するヴラド。この二人を見比べた時、どちらが隊長かと聞かれたら、百人中百人がロノウェを差すだろう。


「えっと、魔術学院の方は一人遅れているんですか?」


 騎士部隊の隊長然とした男がロノウェに問い掛ける。


「はい、申し訳ありません。もう少ししたら来るとは思うのですが」

「いえいえ、お気になさらないで下さい。検問の設置は我々が引き受けますので、魔術学院の方々には誘導の方をお願いします」


 礼儀よくハキハキと喋る騎士は仲間達に次々と指示をだし、テキパキとした動きで簡易検問所を組み立て始める。


「では、我々も始めましょうか。対象は内から外へ出る人です」


 魔術学院側もロノウェの指示で動き始める。


「やれやれ、キミ達七八部隊は恥ずかしくないのかなぁ? 下位、八三部隊だってちゃんと全員揃っているというのにねぇ」


 朝からカルロの嫌味を聞かされ、ヨムカとフリシアの気分は最悪だった。


「カルロってさ、ホント気に食わねぇよな」


 ちょうどヨムカの隣を早足で並走していた男が、ヨムカに言葉を投げ掛ける。


 胸元には隊長印が付いている事に気付き、彼が八三部隊の隊長だということが分かった。


「少し頭が良くて強いからって、天狗になりすぎです。しょせん六八部隊のくせに」

「だよなー! おっと、自己紹介がまだだったな。俺はベナッド・リューナ。八三部隊の隊長だ。まぁ、宜しくな」

「ヨムカ・エカルラートです。宜しくお願いします」


 互いに挨拶を済まし、各部隊に別れ外部に出ようとする人々を検問所に誘導していく。中には不満を隠すことなく荷物検査を拒む者も少なくない。そういった手合いにはカルロとロノウェが当たり、巧みな話術を持って説得させていった。ロノウェならともかく、カルロの場合だと相手を逆上させるのではと不安はあったが、低姿勢で事情を簡単に説明すれば、相手は素直に従い検問所に足を運ぶ。


「言っただろ、カルロは優秀な奴だって」

「なんか釈然としません」

「まぁ、普段のアイツしか知らないとな」


 ヴラドは頭を掻きながら眠たげな瞳で、カルロとロノウェを見やる。


「それはそうと、先輩もちゃんと誘導してください。小説なんて後で読めるじゃないですか!」

「俺は今読みたいんだよ」


 溢れ出す溜め息。


 本の虫はもう放っておこうと決め、自身の仕事に戻ろうとした時。


「ッ!?」


 突如うなじに鋭い痛みを感じ、手を触れると少なくない量の血が出ていた。


「なに……これ?」


 意味が分からなかった。


 何故突然に首筋が切られているんだろうと考えていると、めんどうな通行人達の相手を終えたロノウェとカルロが、ヨムカの異常に気付き駆け付ける。


「ヨムカさん! その怪我は一体どうしたんですかっ!?」

「ヨムカ君、手を退けてくれるかなぁ……うん、出血量ほど傷自体は深くはなさそうだけど……さて、一体誰がこんな事をしたんだろうねぇ?」

「誰って?」


 キョトンとした表情のままカルロに聞き返す。


「これは風の術式によるものだねぇ。ヨムカ君の近くには役に立たなそうなヴラドを始め、僕の部隊や八三部隊もいたんだよ? 普通怪しい人がいたら気付くと思うんだけどねぇ~。一応は聞いておくけど怪我をした時近くに怪しい人を見かけたりは?」

「いえ、少し離れた所に先輩がいただけで、そんな人はいなかったです」


 ヨムカは怪我をした時の事を思い返し、記憶にはそんな人影がいなかったと頷く。


「ですが、術式であれば……」


 ロノウェが珍しく言葉を濁す。


「そう。術式であれば魔力の流れを感じるんだけど、僕は感じなかったねぇ。ロノウェ君とヴラドはどうなんだい?」

「私も感じませんでした」

「俺も感じなかったな」


 ヴラドはともかく、ロノウェまでも感じることが出来なかったという事実に、カルロはいつにない真剣な面持ちで何かを考える。


「ヨムカさん、ひとまず怪我の手当てをしましょう」


 ロノウェはヨムカを連れてフリシアの下へと向かっていく。


「ヨムカを狙った術式だけど、誰がやったか検討はつくか?」

「全く全然分からないね。しかも、風の術式を得意とする僕が察知出来なかったんだから相当の手練れとみていいかもね。何か馬鹿にされたみたいでムカつくけど、もし、この件の犯人が今回の窃盗犯と同一犯だった場合、ちょっと……いや、かなりヤバいかもしれないね」


 相当の手練れと言ったが、そんな可愛い領域のものではないと二人は感じていた。資料を取り返さねば、本気で国が崩壊しかねないと改めて実感させられる。


「ヴラド、キミはいつまでボサッとしているんだい。いい加減仕事してくれるかなぁ」

「……あ? あ~悪い。じゃあ、テキトウにやるか」


 一人で忙しそうに動き回るフリシアを手伝うべく、一度大きな欠伸をして向かう。


 日差しは真上に差し掛かり、昼時を示していた。


 昼食は各部隊で交代しながら行い、また午後の検問に精を出すべく配給弁当を広げる。


「いや~申し訳ないっす。寝坊したあげく完全に検問の事を忘れてたっすよ」


 クラッドは昼前に悠々と現れては十分そこそこ手伝い、今弁当を豪快に食らっている。午前を忙しく動いたメンバー、主にフリシアからすると不満以外なにものでもないだろう。


「クラッド君、午前居なかった分頑張ってね」

「へへ、任せろよ! 俺が来たからには、その何とかって物を見つけるぜ」


 クラッドは今回、何を取り返さねばならないのかを分かっているのだろうかと、メンバー内に不安が生まれる。


 午後の検問も特に成果は無く、ただ時間だけが過ぎていった。


 日は傾き赤々とした夕日が街を照らし、撤収作業に取り掛かろうかと言うときにタイミング良く、それは現れた。


「コイツを抑えろッ!」


 突如聞こえた声に振り返れば、騎士にその身を抑えこまれ、必死に抵抗する男がいた。


「やめろ! それに触るなッ!」


 騎士の一人が男からカバンを奪い、中を確認し数冊の書物を取りだし、そのままロノウェに手渡す。


「これは……」

「間違いなさそうですねぇ、まさか本当に犯人を捕まえちゃうなんて、思ってもいなかったよ」


 カルロもその書物が隠し持つ力を感じとり、これが盗まれた禁術の資料だと確信を持つ。だが、ここで新たな疑問が生まれた。


 それは、盗んだ犯人からは魔力を殆ど感じられず、そんな一般人のような男が、厳重な警備を突破出来るだろうか? そして、魔力を持たない人物が禁術の資料なんて欲しがるのだろうかと、カルロの頭は疑念でいっぱいだった。


「まずは、資料を我々が責任を持って学院に返しますので、犯人の引き渡しを騎士の皆様にお願いしてもよろしいですか?」


 ロノウェの采配に一同は頷き、各々の役割を果たすべくその場で別れる。


「違う! 俺はそんな本を知らないんだっ! 信じてくれよ」


 騎士達に連行されていく男が声を大に叫んでいたが、誰も耳を傾けず、しまいには布で口を塞がれ喋れないようにされてしまった。


「…………」

「カルロ、なに考えてんだよ?」


 八三部隊隊長のベナッド・リューナが訝しい表情を向ける。


「別にぃ~、何となく気に食わないなぁ~って、思っただけだよ」


 いつもの嘲け笑う調子ではなく、不服というような色を表情に宿し、男が連れていかれた方を眺めている。


「そーかよ」


 いつもの調子ではないのでベナッドも調子を狂わされ、それ以上の追及はしなかった。


 資料はカルロと六三部隊で届けると言う事になり、その他の部隊はその場で解散となった。


「疲れた~。帰ってツナパンとサラダ食べて、寝ようかなぁ」


 とぼとぼと帰路を歩くヨムカは、一日の疲労に溜め息を吐き出す。


「ヨムカさん!」


 唐突に名を呼ばれ振り返ると、先程別れたはずのロノウェが、走ってきたのだろうか多少呼吸を乱しながら微笑みを向ける。


「ロノウェ副隊長どうしたんですか? 確か家は真逆のはずですよね」

「えぇ、そうなんですけどね」


 口許に手を当て苦笑する。


「先程、あのような事がありましたし、少々心配で……それに、以前ヨムカさんの食事事情を聞いていたので、労働後にツナパンだけでは流石に身体の方が持ちませんよ。私がお支払しますから何か食べに行きませんか?」


 あのような事。


 ヨムカの首筋が何者かの術式によって切られたのだ。それを心配してわざわざ駆け付けてくれた事に、ヨムカは素直に嬉しくあり安堵した。


「えっ……でも、いいんですか?」

「構いませんよ。誘ったのは私ですし、一度、ヨムカさんと二人でお話ししてみたかったんですよ」


 ロノウェの誘いを断る理由は無く、二人は何を食べようかと話し合いながら、夕日も沈んだ夜の賑わいを見せる繁華街へと歩き出す。

こんにちは上月です。

すいません昨日投稿できませんでした(;_;)

いつもより少しだけ短めですがよろしくお願いします。

次回こそは次の土曜日までに投稿します


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