六色の巨鳥
「あ、あれが……精霊っ!?」
ヨムカの――首都の上空を羽ばたく巨大な紫鳥。雄々しいその姿は絵本で見たソレとは全く違った、圧倒という陳腐な言葉しか浮かばないほどに凄まじく感動させられた。
「無駄、ですよ。確かに精霊は幻想に生き、地上全ての生き物の頂点に君臨する力を誇ります。ですが、残念でしたね。私の召喚したあの悪魔は、異界の存在。この世の常識では測り切れない実力を持ち合わせていますよ」
「んなの、やって見なきゃわからねぇだろ。それに……」
ヴラドはそこで一度押し黙る。その様子は躊躇いだとヨムカは分かった。
「俺はあの悪魔ではなくて、お前を襲わせる」
ヴラドの意志を読み取った巨鳥がそのくちばしを地上に居るロノウェに向け――巨体を一度大きく飛翔させ、なめらかな曲線を描いて一回転して急降下しはじめた。
鳴き声は地上を揺るがし、羽ばたきは瓦礫を吹き飛ばす。
「――先輩!」
吹き飛ばされそうに足が宙に浮いたヨムカの腕をかろうじて掴んで抱き寄せたヴラド。ロノウェはその視線を上空から迫る強襲者ではなく、愛おしい少女を抱くヴラドに向けられていた。酷く冷たく憎しみと嫉妬に潤み縮瞳していた。
「もういい! その穴をこじ開けろッ!!」
ロノウェの絶叫は天上の悪魔に力を与えた。
悪魔の巨腕は巨鳥の尾を掴み、小さな隙間に引きずり込む。痛みに上げる悲鳴は上空に響き渡る。一拍の静寂の後に雄たけびと共に歪みが大きく裂けた。
「ちっ、精霊を喰らったのか……化け物飼い馴らしやがって」
悠長に状況を理解しているヴラドを余所に、ヨムカは彼の腕から抜け出し、痛む足に顔を引きつらせつつも術式を展開する。
夕日色の炎はか細くロノウェに到達するまえに、禁術の前に消滅してしまう。分かっていた事だ。だからヨムカは二撃三撃と夕日色の炎を弾丸や龍といった中級から上級の術式を打ち出すが、精神的に疲弊しきったヨムカではその威力も大きく削がれている。
「もう、終わりにしましょう。私は次段階へと作業を進めねばなりませんので」
大きく開いた歪みからその悪魔が全体を現した。巨大な人型――腕が六本左右三本ずつ生え、真っ黒な全身と赤く光る眼。異端にして異形の悪魔がこの地上に降臨した。あってはならぬ脅威は右手から照射した閃光は空を割いて西の方へと飛んで行った。
「ふふ、南大陸の西区全域が全て焦土と化しましたよ。ふふ、十分過ぎる力ですね、私が世界を創り変える為にふさわしい力ですね!」
「仕方ねぇか……俺の命を全て喰らって構わねぇ、お前等の全力でこの世界を救ってくれ」
高笑いするロノウェを無視し、腕に彩る六色の光に語り掛ける。残った全ての色が天井に向かって放たれた。
赤、緑、青、黄、黒、白――その全てが美しい巨大な鳥へと姿を変えた。
「自滅するつもりですか?」
「ああ、お前を止めてな」
六色の鳥は悪魔を狩るべくそのくちばしと両翼を持って立ち向かっていく。
こんばんは、上月です(*'▽')
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