ヨムカとカルロの共闘
脅威を目の当たりにしたヨムカに言葉は無かった。
一帯の民家を穿ち削る、ヨムカの仕掛けた火薬と釘やガラス片をふんだんに使った火炎瓶。
「……やりすぎた?」
自分で漏らした言葉をすぐさま否定する。相手は一国を――故郷や仲間を躊躇いなく殺し滅ぼす異常者。
これで無傷であるならば、もう後がない――右足のブーツを脱いで挫いた足首は青紫色に変色しパンパンに腫れていた。今までは痛みを我慢して足を引きずり歩いていたが、もう限界だった。少し体重を乗せるだけで走る激痛を耐えての逃走は不可能だと諦める。
「あ、ああ……ヨムカ君、こんな所に居たのかい? ロノウェは――っと! 釘ィ!?」
瓦礫の遮蔽物から爆発を覗き見ていると、背後から肩を叩かれ振り返れば、先程ロノウェに吹き飛ばされて気を失ったカルロだった。爆発が続く様子を見物しようと瓦礫から顔を覗かせた瞬間に飛来してきた釘がカルロの頬をかすめていった。
「あ、大丈夫ですか? その、火炎瓶に少々の細工をして、爆発の中は凄い事になってますよ」
「さ、細工って……結構、えげつない事するねェ。アレ、普通の人だったら間違いなく死んでるよ。でも、今のロノウェは、人間から遠い存在になってしまったけどね」
死んではいない――カルロの言葉から読み取れる絶望。天井にはいまも空間の隙間をこじ開けようとする異形。目の前には人智を超越したロノウェ。
ヨムカはそろそろ本気で覚悟を決めた。
「カルロさんは、どうしますか? 私はもう逃げられませんので、ここでロノウェを迎え撃ちます」
「ああ、僕も戦うよ。だってさァ、ヴラドの部下を見捨てて逃げたなんてダッサいじゃん? ここで、キミに加勢してさァ、後でヴラドに加勢料を請求してやった方が面白いだろゥ」
「ははは、相変わらずですね。では、加勢よろしくおねがいしますっ!」
いつもの見慣れたカルロの軽口と馬鹿にしたような表情。ヒビ入った眼鏡の奥から覗くギラついた鋭い視線は愉快そうに細める。
残った火炎瓶も数少なくなり、爆発の勢いが衰えていく。
「爆発が止んだ瞬間に僕が奇襲をしかける。キミは後方から術式をぶっぱなして、アイツの意識を少しでも逸らしてくれるかな?」
「……はい、わかりました」
頷き合うタイミングに乗せたようなロノウェの狂気を孕んだ声が、ヨムカとカルロの背筋に恐ろ寒いモノが走った。
「ヨ~ムカァさ~ん。私は、わ……私はの愛を、想いを抱いて、くだ、くださいィ!!」
愛という、地上で一番人を狂わせ、盲目的にさせる感情に呑まれたロノウェ。人という枠組みから徐々に踏み外れていく彼の姿に、ヨムカもカルロも眼を背けたくなるほど。
「ふふふ……うふ、ヨムカさん、ヨムカさん、ヨムカさん、ああ――愛しい我がヨムカ・エカルラート。汚れ切った地上に差す私の希望ォ!」
「――気持ち悪いんだよねぇ!!」
風の流れを自在に纏ったカルロが滑空するように、一足で黒煙から姿を見せたロノウェの腹部に風圧を乗せた拳を叩き込む。
「まぁだ、生きていたんですか? あっは、まるでゴキブリのような生命力には脱帽させられますね。ですが、私とヨムカさんの世界に汚物は必要ないのですよォ!!」
「――させないっ!」
術式を組んでいる時間はない。
黒い靄に包まれたロノウェの手が、カルロに振り下ろされる直前に、ヨムカは術式を組む前の魔力――魔力結晶を掃射する。
「良くやったよ、ヨムカ君!」
ヨムカの声に反応を見せたロノウェの動きが停滞し、魔力結晶がロノウェと周囲一帯を穿つ。カルロは風の流れに乗り、その射程圏内から逃れていた。
こんばんは、上月です(*'▽')
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