寄り添う二人の少女
暗闇の森を抜けて数日。
首都に戻ることも出来ず、ひたすら東へ馬を走らせている。街道を避けて多少足場の悪い丘を越え、帝国の息が掛からない場所を求めていた。
「ヴラド隊長、おやつっス!」
「おっ、わりぃな。にしてもだ、何処に行ったものかねぇ」
南大陸と東大陸を隔てる山の麓の宿場町の傍に馬を止めて今後の方針を話していた。いつまでも馬車で旅をしているわけにもいかず、何処かで腰を下ろして金になる仕事を探さねばならない。
「あ~、どうすっかな。お前等は行ってみたい場所とかあるか? これ、あいかわらず酷い食べ物だな」
味の薄い非常食としてのクッキーが口内の水分を奪い、モサモサ感を水筒の水で流し込む。
「筋肉が鍛えられる場所なら何処でもいいっすよ! パッサパサっすね……」
「私はへ、平和な場所があれば、そこがいいです」
「特にないです。どこ行っても迫害されるだけでしょうし」
「人里離れた山奥や森の中に家作って、畑やりながら暮らすか?」
ヨムカはそれでいいかもしれないと思った。できれば誰も掛けることなく過ごせたら文句は無かった。ロノウェは無事だろうか――誰もが口にこそしないが各々の表情を見れば、言葉無き伝達表示。ヴラドが一番心配しているはずだが、彼だけが表に心情を晒すことなく、いまここにいるヨムカ達を最優先に考えていた。
「続きはまた夜にでもするか。ひとまず、俺はクラッド連れて当面の食事調達してくるから、フリシアとヨムカは馬車を頼むぞ。何かあれば大声を出して俺達を呼ぶんだぞ?」
「ま、任せてください!」
「別に反撃とかしてもいいんですよね?」
「言葉で言って分からない馬鹿だったらな」
そう言い残してクラッドとヴラドが馬車を出て行った。残されたヨムカとフリシアは静寂に取り残される。いつもうるさいクラッドの存在は大きいと感じた。フリシアは何かを言いたげに口元をもぐもぐさせて、ヨムカの顔をチラチラと様子を窺っている。
「話したい事があるなら話そうよ。私もちょっと話とかして気を紛らわせたいし」
「ロノウェ副隊長、ひ、酷い事とかされてないよね? 私達を逃がす為に、ヴ、ヴライ将軍に逆らって……」
「きっと……きっと大丈夫。だってロノウェ副隊長だよ?」
根拠のない大丈夫。何をどう考えれば大丈夫なのかと自問したくなる。フリシアと自分に言い聞かせる為、信じ込ませる為に何度も根拠のない『大丈夫』を繰り返した。
「ヨムカちゃん! わ、わたしね、その……こんなことになるなんて思ってなくて、これからどうすればいいのか、分からなくて……お父さんもお母さんも国に残して、わ、私ひとりだけ逃げちゃって……」
「震えなくても大丈夫だよ。フリシアとクラッドの両親は私の信頼できる人達に任せてあるから。フリシアの身だって私や先輩、あとあまり役に立たなそうだけどクラッドが守るから」
「……ヨムカちゃん」
身体を丸めて小さく震える子犬のような少女をヨムカはそっと抱きしめた。衣服越しに伝わる女性としての柔らかさと、控えめな花の香り。羨んだフワフワとした金色の髪は、逃亡生活で十分な手入れが出来ず傷んでいる。
「大丈夫、大丈夫だよ。ロノウェ副隊長もお父さんもお母さんも無事だから」
「うん、そ、そうだよね」
「それとフリシア、目元のクマ。全然寝てないんでしょ?」
「ちょ、ちょっとだけ……」
よく見れば肌にも潤いと張りがなく、数日前までの彼女とは別人の様だった。
「――ヨムカちゃん!? えっ、あの……」
「いいから、少し寝なきゃ、ね?」
人肌の温もりを話し、フリシアの身体を横たえらせて自分の膝の上に小さな頭を置く。
「膝枕しててあげるから、せめてうるさいクラッドが帰ってくるまでは休んで」
「うん……あ、ありがとう」
しばらくすると膝元から小さな妖精のような可愛らしい寝息が聞こえ、ヨムカも肩の力を抜いた。
こんにちは、上月です(*'▽')
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