再度進軍の報せ
帝国が再度軍隊を進行させたのは爆発事件の四日後だった。
四日という時間は反帝国同盟を結んでいる近隣諸国からの兵を集結させるには十分で、予測される帝国と反帝国軍の軍事力は拮抗していると国家重鎮たちが見ていた。
「ヨムカ嬢、住民の六割の非難が限度だ。残った奴の反感を買って黒死蝶や智天使達の中で数十名が怪我をした」
「そう、ですか。ですが諦めないでください。可能な限り一人でも多く命を失わせたくはないので」
「そのつもりだ。んで、ヨムカ嬢はまた戦地に行こうとするんだな?」
「はい、決めた事ですから。欲望に呑まれた男によって国が崩落する。そんな事させません」
スカルクラブ二階のVIP席。いつもは賑やかな階下は静まり返っており、数人の警護だけ残し他のメンバーは武器の調達や、カロトワを筆頭に今後の方針を智天使と取り決めに行ってもらっている。
「ヨムカ、そろそろ時間だぞ」
階下から投げかけられるヴラドの声。ヨムカは短い返事を返して席を立つ。
「バロックさん」
「ああ、わかってる。いわなくてもちゃんと与えられた仕事はするつもりだ」
煙草を吹かしながら手を上げてヨムカを見送る。
「先輩、お待たせしました」
「外には馬車を手配してある。ここから俺の家まで飛ばして二十分くらいだ」
スカルクラブの店先に漆塗りの高級馬車が待機していた。以前と同じように御者はカッセナール家が雇う殺し屋の男。ヴラドとヨムカが店を出てくると速やかに扉を開けて、周囲を警戒しつつ主人を馬車に乗せ走らせる。
国に残った七八と六八部隊はヴラドの父――ヴライ・カッセナールの指揮下で動く事となっていた。そしてこの後、ヴライ率いる国家正規軍と私兵、魔術強襲部隊は国を出る事となっている。
「先輩はどう思いますか?」
「原因不明の爆発、か――そうだな、俺には分からないな。だが、不自然な点がある」
「反帝国と帝国の双方に犠牲者が出てますね」
「そうなんだよなぁ。犯人の意図が掴めない……っとまぁ、そんな事を俺が考えても何もならねぇし。こういうのは国のお偉いさん共に任せる。俺は、俺やお前達がどうすれば死なないか考えるのでいっぱいいっぱいだ」
「珍しいですね。そういう事はいっつもロノウェ副隊長に任せっきりなのに」
「ロノウェは正規魔術師部隊として戦争に参加するみたいだぞ」
ヨムカの呆けた顔をヴラドが指で突いた。
「――いたっ!」
「ロノウェの父親が正規魔術部隊の副隊長でな。父親の推薦であいつは強襲部隊ではなく正規軍として従軍するらしい」
「……そうですか」
「そろそろ着くぞ」
いつのまに貴族の住宅区域に入ったのだろうか。馬車が減速すると窓から見える敷地の広い邸宅が迎える。
こんばんは、上月です(*'▽')
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