カルロの抱く静かな激情
「やあ、ヴラドじゃないか。キミも生きていたなんてねぇ、てっきり死んだかと思ったけどぉ?」
酒場の喧騒に負けないくらいの嫌味ったらしい声の主は、魔術強襲第六八部隊隊長――カルロ・シュタンベルクだった。
彼の状態から見て爆発に巻き込まれたのだろう。肩から垂れる包帯と支木で右腕を固定していた。よく見ればいつものキザッたらしい眼鏡をしていなかった。眼鏡を付けていないせいなのか、いつもの鋭く他者を馬鹿にしたような目付きも今では弱々しく見える。
「おい、お前こそ重症じゃねぇか。つか、お前が酒場に一人で来るのも珍しいな」
「本来だったら、僕は大切な、たーいせつな部下と一緒に外食をするんだけどね。今日は……無理なんだよ」
カルロは近くの余っている椅子を引き寄せ、ヨムカ達の席を共にした。
「あの、カルロさん。大丈夫ですか? 凄く弱々しく見えるんですけど」
「ああ、僕は大丈夫だよ。僕はね……」
彼の引っかかる言い方にクラッドを除く全員が察した。
「まさか、お前の――」
「はは、馬鹿を言うなよ。あの子達があんな爆発程度で死ぬわけないだろ――って笑い飛ばせたら、いいなぁ。あの子達は僕なんかよりも重症だよ。回復しても足が砕けた子や。頭を強打した子もいる。その子達はもう学院に復帰は無理だろうって、医者が」
「……そうか。とりあえず飲むか? その為に来たんだろ?」
「ふん。僕がキミに御酌してもらうなんてねぇ……いただくよ」
カルロの口調にいつもの調子は無い。ただ黙々とヴラドの注がれた安酒を何杯も一息に煽り飲む。
「酔えないねぇ。はぁ――もういいや、ご馳走さま。悪かったね、和気あいあいと飲んでいた所に邪魔してしまってさ。これはそのお詫びだよ、今日の飲み食いした分はここから払うといいさ」
懐から取り出した金袋をドサッと机の上に置く。袋の中の音と見た目の膨らみ具合からみてもかなりの額が入っている。
「何処に行くんだ?」
ヴラドは立ち去ろうとするカルロにそう質問した。
普通であれば帰るんだろうと思うはずだが、何かを察したヴラドはカルロの腕を掴み、視線を真っすぐとカルロの眼を見据える。
「はぁ……なんだい? キミはさぁ、そんな事も分からないのかよ。キミの脳みそは飾りなのかなぁ? 当然、僕の部下をあんな目に合わせたクソ野郎を見つけ出して、ぶっ殺すんだよ!! 風系統の術式はねぇ、使い方によっては酷い拷問が出来るんだ」
とても冷たい眼をしていた。ヨムカ自身もぞっとするほどに冷え切った真冬の――いいや、死後の風だ。
「か、カルロさん。見つけるったってどうやって見つけるんですか! なんの手掛かりもないじゃないですか!」
「ヨムカ君、やるまえから諦めるのは良くない事なんだよ。必ず何か、犯人の手掛かりに繋がる痕跡があるはずだ」
ヨムカとカルロの会話に断りを入れてロノウェが割って入る。
「六八部隊の方達はカルロさん。貴方に傍にいてほしいんじゃないでしょうか? 目を覚まして貴方の姿が無かったらきっと――」
「僕の部下の心配をしてくれるのはうれしいけどさぁ、僕は犯人を許せないんだよね。見つけて死ぬより辛い拷問を味合わせてから殺す。そうしたら直ぐにあの子達の下にいく。これで問題は無いだろう?」
苛立ちに口調が荒々しくなり、ヴラドの手を振りほどいて店を出て行ってしまった。見送る事しか出来なかったヨムカはこれで良かったのかと小さな後悔の念が渦巻く。
こんばんは、上月です(*'▽')
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