吐くか吐かぬかのせめぎ合い
王都に起こった原因不明の爆発について、調査隊の見解では広範囲による高度術式によるものではないかという事だった。
王都とから数十キロ離れた平原に起こった爆発地点に人や馬などの姿は無く、溶けかけた鎧や爆発の勢いで吹き飛んだ物資からみて帝国軍の物だと判明。当然侵攻してきた帝国軍の中には魔術学院生も含まれていただろう。
「いやぁ、俺達もロノウェ副隊長が守ってくれなかったら今頃死んでたっすよ!」
「はい。ろ、ロノウェ副隊長ありがとうございました」
「いえ、お二人が無事でよかったですよ。それよりヴラド、どうしたんですか、その怪我は?」
「あ~、気にするな。ちょっくら試された証だ」
ヴラドはヨムカと南区の関係について語らなかった。
「いま、国のお偉いさんが緊急会議とかで同盟国と何やら話し合っているみたいだが、この戦争はどうなることやら」
大衆酒場で酒を飲むヴラドは中々酔えない事に寂しさのようなものを感じていた。
「ちょっと、先輩は怪我人なんですからお酒は程々にしてくださいよ」
「お前は俺の――いや、何でもない。そうだな、酔えないのに酒なんか飲んでても仕方ないし、栄養を付ける為にも食っとくか」
「隊長、肉っす! 肉を食べると良いっすよ。どうぞ」
クラッドに手渡された更には肉オンリーで形成された見事なまでの山だった。これ全部を一人で食うのは胃が心配だったが、せっかく後輩がこうして盛ってくれたのだからとフォークで豪快に突き刺し口に運ぶ。その姿は貴族の欠片もなく飢えた子供そのものだった。
「ヴラド、野菜も食べなきゃだめですよ」
「ヴラド隊長。えと、デザートもどうぞ。甘くて美味しいです」
「先輩、パンです。炭水化物も取らなきゃダメですよ」
各々皿いっぱいに盛った数々の料理をヴラドに突き出す。
「――待て! 流石にこんなには食えないぞ。特にロノウェは分かってやってるだろ」
「ふふふ、何のことでしょうかねぇ。私は早くヴラドに元気になって欲しいだけですよ」
「私も、です」
「私も同じく」
「俺もっす!」
「…………」
ロノウェを除いた後輩たちの心配するような眼差しを一身に受け、諦観めいた溜息と共にその全てを食べつくすまでに何度も意識を失いかけた。数時間前とは別の意味で顔面を蒼白にして頬を膨らませているヴラドに、フリシアはそっと近くにあったゴミ箱をヴラドの膝上に置いた。
少しでも動いたり喋れば胃の内容物を全て吐き出す自信があった。膝上に置かれたゴミ箱からフリシアに感謝の意を視線で送るも違和感を覚えてしまった。
「フリ……シア、どうして、楽し……そう、なんだ?」
「えっ、そ、そんな事ないですよ。ヴラド隊長の、その醜態とか見たい、なんて思ってないです」
「…………」
悪魔だ。フリシアは普段気弱で誰にでも優しく接する女の子かと思っていたが、実はそうではないのかもしれない。息苦しく嘔吐感とのギリギリで苦闘しているヴラドには、そんなフリシアが悪魔のように見えて仕方がない。
「吐いた方が楽になりますよ?」
「先輩、辛いなら吐いてください」
「吐くっすよ!」
「わ、私の術式で気分は楽にしますから、どうぞ、吐いちゃってください」
「……うぷ」
意地でも吐かないと決めたヴラドの前に最悪な人物は姿を見せた。
こんばんは、上月です(*'▽')
次回の投稿は16日の夜を予定しております。