3.ダーチュラは、夢を見る。
ウーアシュルト洞窟。
日のささない、程よい暗さ。じめじめしていて、ステキな湿気。仲間の魔物も多く暮らしているので、困ったときには助け合いができる。
魔物ライフを送るのには、最適な場所。
そこに、ダーチュラは暮らしていた。
しゅるしゅるしゅる~っ
自慢の糸が、真っ白に輝きながら流れる。
たん、ととん、たん!
器用に動く足が、見事な織物を作り出す。機織機は、ウッドン(樹木型魔物)が材料を提供してくれ、スケルトン(骸骨型魔物)やピクシー(妖精型魔物)たちが、がんばって組み立ててくれた。
ふしゅ~~~~~っ!
出来上がった織物を見て、ダーチュラは満足げに息をついた。この輝き。この素晴らしい織り目。そしてしっかりとした耐久性。
「わたしの織る布は、世界一!」
思わず、自画自賛してしまう。
ダーチュラは、蜘蛛型魔物だ。
頑丈で大きな体に誤解されがちだが、性質は穏やかなものだ。糸をつむぎ、布を織ることを趣味としている。このウーアシュルト洞窟で、日がな一日、布を織り続けている。
「だーちゅら。だーちゅら。今日の布はできた?」
そこへ、ピクシーたちが押し寄せた。羽をぴかぴかさせながら、ふらふら、ふわふわと飛んでくる。
ふんぬ。と鼻息荒く、出来上がった布を差し出すと、ピクシーは、きゃー、と言って喜んだ。
「今日の布もカワイイ~!」
「最近、「きし」が来るから、服がすぐ汚れたり、破れたりしちゃうのよ」
「だーちゅらの布は丈夫だから、これで新しいお洋服ができるわ~~」
きゃらきゃらと笑いながら、うっすらと輝く布地を運び始める。
「「きし」って、そんなに悪いやつらなの?」
ダーチュラがききき、と鳴いて尋ねると、ぴょんこ、ぴょんこ、と跳ねてきた、フロピイ(カエル型魔物)が答えた。
「いや~、やばんもやばん(ぴょんこ)。話は通じないし。おつっとか,ありっ、とか言いながら、走り続ける(ぴょんこ)。良くわからない種族だぜ」
「そのとおり~。「きし」は、走ってないと死んじゃう種族なの~(ぷよん)」
のったりのったり、とやってきたゼリルーが、フロピィの言葉に同意して、たゆんたゆんした。
「なにそれ。」
「武器や鎧などの(かっくん)装備を(かっくん)、集めているようではあるなあ(かっくん)」
スケルトンが、かくん、かくん、と、顎の骨を動かして言った。
「どうもな。「きし」は(かっくん)自分で服を縫い上げた(かくん)、鎧を作り上げたり、できないらしい(かっくん)」
「それで~、ぼくたちにケンカ売ってきて、ぶんどろうとするのか~(ぷよんたゆん)」
「でも~。それにしたって、ワガママよー。あたしたちの作った服、マンネリだーとか言って、ぶんどってもうれしそうじゃないの」
「マンネリ?」
「良い造りだよなあ」
かくん、とあごを動かして、スケルトンは、ピクシーの作った靴をながめた。ピクシーたちは、くるくるっと宙返りをすると言った。
「村人の靴を見本にしたのよー」
「ちゃんと皮を使ってあるよー」
「でも、あたしたちからぶんどった「きし」は、嫌そうな顔をしてたのー」
なんでだろう。魔物たちは、みんなして首をかしげた。ゼリルーだけは、どこが首だかわからないので、ふよん、と揺れただけだったが。
基本、持ち歩くものは、記念品扱いの魔物にとって、新しいデザインなどという発想はない。ひたすら同じものを、同じように作り続けている。
「宝物の価値がわからない、無粋なやつらなんですよー(ぴょんこ)」
フロピィが言った。
「そうねー。だーちゅらは、どんな宝物を持ってるの?」
話を振られたダーチュラは、ばらばらばら、とアイテムを投げ落とし、魔物たちの前に広げて見せた。
ポーション(いつのものだかわからないぐらい、古びている。なんだかやばそう)×10
スキルポーション(そこはかとなく腐敗臭がただよう)×5
鉄の短剣(村人と出会った時にぶんどった記念品)×20
皮の靴(ピクシーが作ってくれた、村人の靴の模造品)×10
「たくさんあるねえ~」
「すごいねえ~」
その場にいた者たちは、やんやと拍手した。やばそうであろうがなかろうが、彼らには関係がない。魔物基準では記念品は、ため込むことと、持ち歩くことに意義があるのだ。
「ねえねえ、だーちゅら。だーちゅらは、自分で服を作ったりしないの?」
そこで、一人のピクシーが尋ねる。
「布を織っているわよ」
「そうじゃなくて。えっとねー」
「最近、手作りのものをプレゼントするのが流行ってるんだよ」
フロピィが、ピクシーの言葉の後を補完した。
「手作り品のプレゼント?」
ダーチュラが首をかしげると、ピクシーたちが教えてくれた。
「ルチコル村の村人の習慣なんだけどねー。好きな相手とか、仲良しの相手に、自分で作ったものをプレゼントしあうんだって」
「楽しそうよね~」
「ね~。記念品も増えるしね~」
それはなんだか、面白そうだ。
「でもわたし、この手足だと、細かい作業ができない」
「ふっふっふ。そういうかと思って、……じゃじゃ~ん(かっくん)」
スケルトンが、かくん、と顎をあけて笑い、妙な形の杖のようなものを取り出した。
「ノンノピルツの魔法学者に頼んで作ってもらった(かくん)、マジックアイテム(かっくん)。これで巨大なあなたも、細かなちくちく縫いができる(かくーん)! 魔法の縫い針一号~(かくん)!」
縫い針だったらしい。一号ということは、二号や三号もあるのか?
「人間の魔法使いが、良く魔物のお願いを聞いてくれたよね」
「ノンノピルツだからね」
「あそこの魔法使いのモットーって、『手段の為には目的を選ばない』なんだって」
「ノンノピルツだからね」
意外と人間のことがわかっているらしいフロピィたちが、ひそひそと言い合った。
ダーチュラは、おそるおそる、縫い針を手に取った。
実は、ダーチュラには、ひそかな夢があった。
自分の織った布で、何か可愛い小物を作ってみたい。というものであった。
これで、長年の夢がかなう……!
「やるわ、わたし。これでステキな小物を作ってみせるわ~!」
「ステキ、だーちゅら!」
「がんばって~!」
その場にいたものは、やんやと拍手をした。
***
その後、ダーチュラは、ちくちく、ちくちくと縫物に精を出した。
その情熱は素晴らしく、ほどなくしてピクシーたちの作る布製小物や、旅人の服などと、遜色のないものが仕上がるようになった。もちろん、素材は彼女の吐いた糸で織りあげた布である。
見本にしたのがルチコル村の村人たちの服装だったので、それ以上の変化はつけられなかったのだが、しかしそれでも、丈夫で上質な帽子や服が、彼女の手によって生み出された。
それらは友情のプレゼントとしてウーアシュルト洞窟近隣の魔物たちに手渡された。
しかし。
「「きし」が、わたしの作った帽子にケチをつけた……?」
地を這うような声でダーチュラは言った。ぼこぼこにされたスケルトンが持っていた、ダーチュラ印の皮の帽子。皮に見せかけて実は、蜘蛛の糸で織られた茶色の帽子。
それを、手に入れた騎士が、「なんだ、またこれか」とつまらなそうに言った、というのである。
「あれ一つを仕上げるのに、どれだけ時間がかかったと思っているの~!」
糸を吐いて、布を織る。皮に見せかけるために染色をする。魔法の縫い針でちくちく縫う。
相当な手間である。
でも、ダーチュラはやった。
「手間暇かけるのは、趣味。だからしっかり布を織るし、染めるし、ちくちくするわ。時間をかけるのは辛くはないわ! だって趣味だもの!」
どこぞの仕立て屋と意見が合いそうな言葉を口にすると、ダーチュラは叫んだ。
「でも、その趣味を悪く言う、「きし」は許さない~~~~!」
後に、ウーウシュルト洞窟のダーチュラは、やってきた騎士にケンカを売りまくる魔物と化す。
なお、騎士たちの間では、このような会話も交わされるようになった。
「ダーチュラ倒してきた」
「なにドロップした?」
「麻のローブ下。タイツみたいな?」
「おれ、帽子」
「わたし、ポーション」
「同じものばっかりだな」
「あー、俺も皮の靴だった」
「今、はいてるけど。結構丈夫だよ」
「気になってることがあるんだけど……」
「なに?」
「ローブも、帽子も、靴も。丈夫なのは良いんだけどさ。微妙にネットリしてる気がするんだよね……」
ダーチュラ印の靴や帽子は、今日もそれと知られずに、騎士の間で流通している。
ノンノピルツ …… 不思議の国のアリスをモチーフとした街。アリスと赤の女王イザベラがおさめており、魔法技術が進んでいる。住民はちょっとアレな感じで、全員、わが道を行っちゃってる。
とある仕立て屋 …… シンデレラ姫の住むルヴェールの街に、ドレスを作るためなら、何日徹夜でも平気! という仕立て屋がいる。




