表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

3.ダーチュラは、夢を見る。

ウーアシュルト洞窟。


日のささない、程よい暗さ。じめじめしていて、ステキな湿気。仲間の魔物も多く暮らしているので、困ったときには助け合いができる。


魔物ライフを送るのには、最適な場所。


そこに、ダーチュラは暮らしていた。




しゅるしゅるしゅる~っ




自慢の糸が、真っ白に輝きながら流れる。




たん、ととん、たん!





器用に動く足が、見事な織物を作り出す。機織機は、ウッドン(樹木型魔物)が材料を提供してくれ、スケルトン(骸骨型魔物)やピクシー(妖精型魔物)たちが、がんばって組み立ててくれた。




ふしゅ~~~~~っ!




出来上がった織物を見て、ダーチュラは満足げに息をついた。この輝き。この素晴らしい織り目。そしてしっかりとした耐久性。



「わたしの織る布は、世界一!」



思わず、自画自賛してしまう。


ダーチュラは、蜘蛛型魔物だ。


頑丈で大きな体に誤解されがちだが、性質は穏やかなものだ。糸をつむぎ、布を織ることを趣味としている。このウーアシュルト洞窟で、日がな一日、布を織り続けている。



「だーちゅら。だーちゅら。今日の布はできた?」



そこへ、ピクシーたちが押し寄せた。羽をぴかぴかさせながら、ふらふら、ふわふわと飛んでくる。



ふんぬ。と鼻息荒く、出来上がった布を差し出すと、ピクシーは、きゃー、と言って喜んだ。



「今日の布もカワイイ~!」


「最近、「きし」が来るから、服がすぐ汚れたり、破れたりしちゃうのよ」


「だーちゅらの布は丈夫だから、これで新しいお洋服ができるわ~~」



きゃらきゃらと笑いながら、うっすらと輝く布地を運び始める。



「「きし」って、そんなに悪いやつらなの?」



ダーチュラがききき、と鳴いて尋ねると、ぴょんこ、ぴょんこ、と跳ねてきた、フロピイ(カエル型魔物)が答えた。



「いや~、やばんもやばん(ぴょんこ)。話は通じないし。おつっとか,ありっ、とか言いながら、走り続ける(ぴょんこ)。良くわからない種族だぜ」


「そのとおり~。「きし」は、走ってないと死んじゃう種族なの~(ぷよん)」



のったりのったり、とやってきたゼリルーが、フロピィの言葉に同意して、たゆんたゆんした。



「なにそれ。」



「武器や鎧などの(かっくん)装備を(かっくん)、集めているようではあるなあ(かっくん)」



スケルトンが、かくん、かくん、と、顎の骨を動かして言った。



「どうもな。「きし」は(かっくん)自分で服を縫い上げた(かくん)、鎧を作り上げたり、できないらしい(かっくん)」


「それで~、ぼくたちにケンカ売ってきて、ぶんどろうとするのか~(ぷよんたゆん)」


「でも~。それにしたって、ワガママよー。あたしたちの作った服、マンネリだーとか言って、ぶんどってもうれしそうじゃないの」


「マンネリ?」


「良い造りだよなあ」



かくん、とあごを動かして、スケルトンは、ピクシーの作った靴をながめた。ピクシーたちは、くるくるっと宙返りをすると言った。



「村人の靴を見本にしたのよー」


「ちゃんと皮を使ってあるよー」


「でも、あたしたちからぶんどった「きし」は、嫌そうな顔をしてたのー」



なんでだろう。魔物たちは、みんなして首をかしげた。ゼリルーだけは、どこが首だかわからないので、ふよん、と揺れただけだったが。


基本、持ち歩くものは、記念品扱いの魔物にとって、新しいデザインなどという発想はない。ひたすら同じものを、同じように作り続けている。



「宝物の価値がわからない、無粋なやつらなんですよー(ぴょんこ)」



フロピィが言った。



「そうねー。だーちゅらは、どんな宝物を持ってるの?」



話を振られたダーチュラは、ばらばらばら、とアイテムを投げ落とし、魔物たちの前に広げて見せた。



ポーション(いつのものだかわからないぐらい、古びている。なんだかやばそう)×10


スキルポーション(そこはかとなく腐敗臭がただよう)×5


鉄の短剣(村人と出会った時にぶんどった記念品)×20


皮の靴(ピクシーが作ってくれた、村人の靴の模造品)×10




「たくさんあるねえ~」


「すごいねえ~」



その場にいた者たちは、やんやと拍手した。やばそうであろうがなかろうが、彼らには関係がない。魔物基準では記念品は、ため込むことと、持ち歩くことに意義があるのだ。



「ねえねえ、だーちゅら。だーちゅらは、自分で服を作ったりしないの?」



そこで、一人のピクシーが尋ねる。



「布を織っているわよ」


「そうじゃなくて。えっとねー」


「最近、手作りのものをプレゼントするのが流行ってるんだよ」



フロピィが、ピクシーの言葉の後を補完した。



「手作り品のプレゼント?」



ダーチュラが首をかしげると、ピクシーたちが教えてくれた。



「ルチコル村の村人の習慣なんだけどねー。好きな相手とか、仲良しの相手に、自分で作ったものをプレゼントしあうんだって」


「楽しそうよね~」


「ね~。記念品も増えるしね~」



それはなんだか、面白そうだ。



「でもわたし、この手足だと、細かい作業ができない」


「ふっふっふ。そういうかと思って、……じゃじゃ~ん(かっくん)」



スケルトンが、かくん、と顎をあけて笑い、妙な形の杖のようなものを取り出した。



「ノンノピルツの魔法学者に頼んで作ってもらった(かくん)、マジックアイテム(かっくん)。これで巨大なあなたも、細かなちくちく縫いができる(かくーん)! 魔法の縫い針一号~(かくん)!」



縫い針だったらしい。一号ということは、二号や三号もあるのか?



「人間の魔法使いが、良く魔物のお願いを聞いてくれたよね」


「ノンノピルツだからね」


「あそこの魔法使いのモットーって、『手段の為には目的を選ばない』なんだって」


「ノンノピルツだからね」



意外と人間のことがわかっているらしいフロピィたちが、ひそひそと言い合った。



ダーチュラは、おそるおそる、縫い針を手に取った。


実は、ダーチュラには、ひそかな夢があった。


自分の織った布で、何か可愛い小物を作ってみたい。というものであった。


これで、長年の夢がかなう……!



「やるわ、わたし。これでステキな小物を作ってみせるわ~!」



「ステキ、だーちゅら!」


「がんばって~!」



その場にいたものは、やんやと拍手をした。




***




その後、ダーチュラは、ちくちく、ちくちくと縫物に精を出した。


その情熱は素晴らしく、ほどなくしてピクシーたちの作る布製小物や、旅人の服などと、遜色のないものが仕上がるようになった。もちろん、素材は彼女の吐いた糸で織りあげた布である。


見本にしたのがルチコル村の村人たちの服装だったので、それ以上の変化はつけられなかったのだが、しかしそれでも、丈夫で上質な帽子や服が、彼女の手によって生み出された。


それらは友情のプレゼントとしてウーアシュルト洞窟近隣の魔物たちに手渡された。


しかし。



「「きし」が、わたしの作った帽子にケチをつけた……?」



地を這うような声でダーチュラは言った。ぼこぼこにされたスケルトンが持っていた、ダーチュラ印の皮の帽子。皮に見せかけて実は、蜘蛛の糸で織られた茶色の帽子。


それを、手に入れた騎士が、「なんだ、またこれか」とつまらなそうに言った、というのである。



「あれ一つを仕上げるのに、どれだけ時間がかかったと思っているの~!」



糸を吐いて、布を織る。皮に見せかけるために染色をする。魔法の縫い針でちくちく縫う。


相当な手間である。


でも、ダーチュラはやった。



「手間暇かけるのは、趣味。だからしっかり布を織るし、染めるし、ちくちくするわ。時間をかけるのは辛くはないわ! だって趣味だもの!」



どこぞの仕立て屋と意見が合いそうな言葉を口にすると、ダーチュラは叫んだ。



「でも、その趣味を悪く言う、「きし」は許さない~~~~!」




後に、ウーウシュルト洞窟のダーチュラは、やってきた騎士にケンカを売りまくる魔物と化す。


なお、騎士たちの間では、このような会話も交わされるようになった。



「ダーチュラ倒してきた」


「なにドロップした?」


「麻のローブ下。タイツみたいな?」


「おれ、帽子」


「わたし、ポーション」


「同じものばっかりだな」


「あー、俺も皮の靴だった」


「今、はいてるけど。結構丈夫だよ」


「気になってることがあるんだけど……」


「なに?」


「ローブも、帽子も、靴も。丈夫なのは良いんだけどさ。微妙にネットリしてる気がするんだよね……」




ダーチュラ印の靴や帽子は、今日もそれと知られずに、騎士の間で流通している。




ノンノピルツ …… 不思議の国のアリスをモチーフとした街。アリスと赤の女王イザベラがおさめており、魔法技術が進んでいる。住民はちょっとアレな感じで、全員、わが道を行っちゃってる。


とある仕立て屋 …… シンデレラ姫の住むルヴェールの街に、ドレスを作るためなら、何日徹夜でも平気! という仕立て屋がいる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ