2.ゼリルーは、がんばる。2
ぼくは、ゼリルー。
つややかなぷるぷるボディがじまんの、プリティーキュートな魔物さ!
突然だけど、最近、人間たちは、調子に乗っていると思う。
「きゅぴいいいいっ」
「きゃいん、きゃいん、きゃいいいーーんんっ」
ああ、また、森の仲間がいじめられている。
ぼくたち、ゼリルー隊も、「きし」に立ち向かってみたんだよ。
ボディーアタック! ボディーアタック!! ボディーアタック!!!
全部、かわされた。
中にはへぼい「きし」もいて、まともにくらって倒れることもあるけれど。それは、わずかなこと。
ほとんどの「きし」は、ちらっとぼくたちを見てから、持っている杖とかメイスとかで、ぼこんっ! とぶん殴る。それでおしまい。
「ぼ、ぼくたち、なんでこんなに弱いんだ……」
ぷるぷるしながら、今日もゼリルー同士でなぐさめあった。大丈夫だ! 村人は弱いから! また帽子や靴を盗んで来ようよ!
そうこうしているうちに、ぼくたちゼリルーのまとめ役、グランツゼリルーさまから命令がくだった。
「強くなってきた「きし」について、調査せよ」
すごいね、グランツゼリルーさま。さすがにぼくたちの何十倍もの体積と、ぷるぷる揺れるインパクトのあるボディーアタックを習得なさっているだけはあるね!
そうさ! 敵を知るにはまず、味方から!
「ちがう」
あれ、ちがった?(※正確には、「敵をだますにはまず、味方から」)
「調べるのが嫌だからといって、仲間の間にもぐりこむな」
なぜわかった!
***
グリーンゼリルー君や、ジャンボゼリルー君たちもがんばって、「きし」について調べるらしい。そういうわけで、ぼくたちゼリルーも、がんばることになった。
人間たちのそばにそっと忍び寄り、音もなく、「きし」の調査をする。
ちょっとかっこよくない?
思わずぷるぷるしちゃう。
フォックスグリューンの草原まで出て行って、そーっと、そーっと、「きし」たちに近寄る。
水辺の近くにいる。あっ。ダークゼリルー君がやられた。
鉄の短剣をぶんどって、「またこれか」みたいな顔をしている。なんだよ。ぼくたちの宝物、ぶんどっておいてそんな顔するなよ!
草の陰にかくれながら、のったりのったり、近づこうとすると、
「おつあり!」
「おつです」
???
何かを叫びあって、「きし」たちは、すごい速さで駆け出して行った。
なんだろう。おつありって。
それに、落ち着きがないやつらだなあ。森でもそうだったけど、この草原でも、
「きし」たち、ずーっと走ってるよ。
走って移動しながら、なんか叫びあってる。
「こんどっ、ウヴリのっ、塔のっ」
「一緒しま、すうううううう」
「おれ、拠点もどるわ~~~~~」
「おはようございま~~~~~~~~」
なんでこんなに、落ち着きがないの。走りながら、ひたすら叫んで会話しているよ。
「おはようございます~~~~うううう~~~~~うううう~~~~~」
挨拶ぐらい、立ち止まってしようよ。叫びながら走るから、ドップラー効果起こしてるよ。
「おつあり~~~~~~~~」
「おつ~~~~~~~」
ぼくたち、ゼリルー隊は、がんばった。
がんばって、「きし」を調べようとしたんだ。
でもね。
「共闘、ありがとう、でした~~~~~~~~っ(ドップラー効果)」
「おつ~~~~~です~~~~~~~~~っ(ドップラー効果)」
「ではあああああああ、また~~~~~~~~~っ(ドップラー効果)」
走りながら叫びあう「きし」たちに追いつこうとしても、しても、
ぷるぷるボディが揺れるばかりで、追いつけないんだよ!
「仕方ないよ、ぼくたちゼリルーは、善良で美しい魔物なんだから。この魅惑のぷるぷるキュートなボディでは、叫び声をあげながら走り回る、野蛮な「きし」に近づけないよ……」
仲間のゼリルーが言った。そうだよね!
「この、美しさが仇になったのか」
「そうだよ。ぼくたちは、ぷるっとキュートな美しさゆえに。下品な人間の「きし」の叫びが、理解できない。
走り回りながら、「おつあり!」「おつあり!」と叫び続ける、野蛮なやつらとはしょせん、わかりあえない運命なんだ……」
「同士ゼリルー一号!」
「二号!」
ぼくたちは、ひしっと抱き合った。
「おつありぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~!(ドップラー効果)」
その間も、周り中から「きし」の雄たけびが響いていた。
***
「「きし」は、やばんなため、意味不明な叫び声をあげながら走り回る」
グランツゼリルーは、提出されたレポートを見て、うーん、とうなった。
「どのゼリルーからも同じ内容が来てるんだけど。そんなに「きし」って、野蛮なの?」
提出されたレポートには、以下の文章が並んでいた。
『叫びながら走っていました。やばんです』
『たまたま、進路にいたスケルトン君が、ぼこぼこにされていました。ちょっとぶつかっただけなのに、ひどいです』
『走り続けていないと、生きてゆけない種族みたいです。おはようのあいさつも、走りながらでした』
『どうしてあんなに走りたがるのか、分かりません』
「走り続けていなければ、死んでしまう種族なのね。ぷるぷるたゆん、のったりまったり、が美徳である、われわれゼリルーとは真逆な種族。つまり、……あれは、人間の亜種ってわけね!
あんな野蛮な亜種をたくさん抱えているなんて、人間のお姫さまも性格悪いのかもしれないわねえ。
共存は、望めない、か……」
騎士やお姫さまの知らないところで、こうして希望の芽はつぶされた。
「よろしい。わたくしも、グランツゼリルー。ゼリルーの中のゼリルー、ぷるぷるたゆん、が愛らしいと評判のゼリルーの女王。
もしも「きし」とやらがやってきて、わが身に挑むというのなら。
迎え撃ってあげましょう。このぷるぷるボディにかけて!」
グランツホルンの森の奥。騎士もお姫さまも知らない所で、こうして戦闘フラグが立った。
***
「おつありぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「おつ~~~~~~~~~」
「今日も叫びながら走ってるよ。騎士の人たちってタフね」
走りながら会話する、騎士の姿を見て村人たちもつぶやいた。
「騎士」=「走っていないと死んじゃう種族」説が、まことしやかに世界に広がりつつあった。
グランツゼリルー、ぷるぷるしている魔物なのに、やたら強力です。顔はほのぼのしてるんですが。
プレイヤー同士の会話は、画面上に漫画のセリフ状態で表示されます。そのため、「おはようございます」とか、「よろしく」とかいうセリフを言ったまま、全速力で走る人の姿が、あちこちに。
なお、「おつ」は、「おつかれさまでした」、「おつあり」は、「おつかれさまでした、ありがとう」の略です。一緒に戦った人たちへの、挨拶として使われているようです。