1.ゼリルーは、がんばる。1
魔物にだって、事情はあるよね。
ぼくは、ゼリルー。
ぷるぷるボディもつややかに、のったりたゆん、なところがチャーミングな魔物さ!
森の仲間たちからは、「ぷるっとキュートなゼリルー君」と呼ばれているよ!
近くの村人と出くわしたら、ぷるぷるボディをふるわせながら、アターック!
「きゃー」とか「わー」とか言いながら、倒れた村人に、つややかなボディで乗っかって、悩殺!
そして、村人の持ち物を持って逃げる。ゼリルーらしいゼリルーだ。
村人の持っているものって大体、ちっちゃな短剣とか、木でできた盾とか、そんなもんなんだけどね。でも、しっかり働いた証なんだから。記念品として持ち歩くのが、ゼリルーの作法なんだよ。
でも最近、ちょっと様子が変わってきたんだ。
人間たちをまとめていた、お姫さま。何人かいるんだけど、魔物のぼくには顔の区別がぜんぜんつかない。
でもま、とにかく、お姫さまたちがいる。そのお姫さまの部下の「きし」? とかいうやつら。
そいつらが、やたらと強くなってきたんだよね。
「きゅぴいいいっ」
あ。魔物仲間のマシュロン君の叫び声だ。あれは、「きし」に、やられたな……。
マシュロン君は、キノコ型の魔物。ぷにっとボディがじまんで、魔物ダンスで相手を誘惑しちゃうんだ。
小太りなボディのふらふらダンスがセクシー! って言ってたな。でも、そう言っているの、マシュロン君たちだけなんだよね。あれ見て誘惑される魔物も人も、いないと思う。
小刻みにふらふらって、揺れてるだけなんだもん。
のぞいてみたら、地面にべちゃっと倒れたマシュロン君から、「きし」らしい人間が、皮の靴をぶんどっていた。
「きし」って、人間だと思っていたけど。ぼくたち魔物と同じことをするんだね。持ち歩く記念品が、ほしいのかなあ?
「きゅぴぴぴぴっ」
あっ。木の陰に隠れていたマシュロン君が、仲間のやられたのに腹を立てたみたい。「きし」に飛びかかっている。
ふらふら~。ふらふら~。
魔物ダンスだ。「きし」は……。
あれ? 見てる。
ふらふら~。ふらふら~。
え? まさかと思うけど、効果あったの? マシュロン君のダンス。
ずばん。
……って、思っていたら。無表情のまま、持っていた杖でぶん殴った。マシュロン君、一撃で倒れた。けっこう、強い「きし」だったみたい。
「何度も見せられると、いらっとくるな」
ぼそっ、と言われた。誘惑のダンスに見とれていたんじゃなくて、いらいらしながら見てたらしい。声から殺気が漂ってくる。怖い。
いらいらには、ポーションがいいよ! とアドバイスしそうになった。
とにかく逃げよう、と思ったら、「きゃいんきゃいん、きゃいーーーーーーんっ」って叫びが聞こえた。ああっ。
森の仲間、マナガルム君だ。「きし」にやられちゃったんだ!
狼の魔物のマナガルム君。ちょっとツンデレ入っている、少し人見知り、でもけっこうアニキな所もあって、はぐれた魔物の面倒見てくれたりする、ふさふさ尻尾のマナガルム君。
大変だー! と、ぼくはあわてて、叫び声のほうに向かった。でも、ゼリルーなもんだから、速度が出ない。それでもぼくにできる全速力で。
ぷるぷるしながら急いでいると、カタツムリが横を通り過ぎていった。カタツムリって、動くの早いよね。ぼくが遅いわけじゃないよね!
ぷるぷる。ぷるぷる。のったり。のったり。
急ぎに急いでたどりついたら、マナガルム君が涙を流しながら、宝箱の前でお座りしていた。
「マナガルム君……」
中身は空っぽだ。
狼型魔物が、自分にとっての宝物を溜め込む性質があるのは、みんな知ってるじゃないか!
穴を掘って、隠したくなるんだよ!
たまにどこに隠したか、忘れちゃったりするけどさ!
その中でマナガルム君は、宝箱に隠すって智恵のついた、素敵に賢い魔物なんだよ!
ちょっとしたポーションとか、皮の帽子とか。ガラクタに見えても、マナガルム君には宝物なんだよ! 正直言って、皮の靴と帽子を十個も二十個も溜め込むの、どうかとは思うけど。たまに長く置いておきすぎたポーションが、腐ってたりするけど。
でも、
全部ぶんどっていくなんて、ひどくないですか!!!
「ま、マナガルム君……なかないで。ぼくの宝物、あげるから」
ぷるぷるしながら言うと、ぼくはそっと、木でできた盾を差し出した。
「おめえの大事なものじゃねえのかい」
「うん。ぼくの、ぷるぷる三百回記念の盾だよ。でも、良いよ。マナガルム君にあげる。
また、村人を襲って、もらってくるから!」
ぷるぷるっと震えてみせると、マナガルム君はぺろっとぼくをなめてくれた。
「ありがとよ。なら、宝箱に入れといてくれ。次こそは、人間にやられないよう、しっかりこいつを守ってみせる」
「がんばってね!」
元気が出たみたい。ぼくもがんばらなくちゃ!
***
そして、次の日。
「きゅぴいいいいいっ」
「きゃいいーん、きゃいんきゃいーんっ!」
「マシュロン君っ! マナガルム君っっ!」
やってきた「きし」に、森のみんなはタコなぐりされ、持ち物を次々とぶんどって行かれた。ぼくたちが弱いっていうのもあるんだろうけどさ。ちょっとひどすぎない?
「みんな、泣かないで! ぼくたちゼリルーが、魅惑のボディアタックで、村人たちからまた、帽子や靴をぶんどって来るからぁぁぁぁっ」
***
「最近、ゼリルーが増えたな」
首をかしげながら、騎士の一人が言った。仲間の騎士がそれに答えた。
「ルチコル村や、草原なんかで、しょっちゅうゼリルーが目撃されているらしい。村人が、服や靴を盗まれて困っている」
「討伐行くか?」
「ついでに、マナガルム倒して宝箱開けてくるかー。ろくなもん、入ってないけどなー」
そうして騎士が、倒しても倒しても、魔物は村人から服や帽子を盗んでゆく。いろんな摂理が循環して、世の中というのは回っているのかもしれない。
ゼリルー …… ゼリーに似た、スライムっぽい魔物。
マシュロン …… キノコ型の魔物。
マナガルム …… 序盤のボス。狼型。
ゼリルー君は、暑い夏には、大人気だと思う。個人的に。




