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木こり

俺はごくごく普通の木こり。

ただ、最近魔法を使える石というのを集落の代表からお借りした。

これは便利なもので、今まで苦労して手に入れていた木材を簡単に取れるようになった。

すごいありがたい話だ。

これを使えば、今の苦しい生活も楽になるかもしれない。

嫁ももらう余裕が出てくるかもしれない。

そんな期待が膨らんでいた。

そんな矢先の出来事だった。

目の前にそびえ立つ、巨大な樹木。

樹齢何千年と言われても納得の巨木がそこに立っていた。


男は何も持たずにその巨大な気を眺めていた。


左手には小さい石のようなもの。緑色で、何か模様のようなものが描いてある。

視線を石に移し、右手を巨木にかざし、何かを言った。すると、まるで草を刈るような軽い音とともに木の幹を切り裂いた。

直ぐに大きな、十数メートルはある天辺が傾き、ゆっくりと倒れてくる。


(こんな便利なものがあるなんてな)


そんなことを考えていた。


そして、また右手を今倒れたばかりの巨木にかざし、一言つぶやく。

すると、その巨木は重量など無視するかのように浮き上がった。

そのまま宙で固定されているかのように、男の横に並ぶ。

男は木がしっかりと宙に浮いたと確認した後、そのまままっすぐ家に帰ったのだった。


-----


昨日、集落の長から渡された小さい黒い石のようなものは魔石と呼ばれるものらしい。

何でも木材を扱うのに多大な貢献をするからと、林業が盛んなこの集落に貸与を許されたらしい。長がわざわざ中央に通い詰め、関係を築いた結果らしい。


魔法という非常に便利なものがあるということは男も聞きに及んではいたのだが、実際に自分で使ってみてその利便性に驚いた。

なぜこんなにも便利なものが今までこの集落に渡されなかったのかというと、どうやら魔法が使える魔石には限りがあるらしい。そんなことも先日長から聞いた。

魔法といえば、先ほどの巨木も魔法の恩恵がかかっているらしい。なので、樹齢はさほど経っていないのだが、そこら中に巨大な木々がポツンポツンと立っているのだ。だから普段は1日がかりでその巨木を切り、解体し、近くの商業が盛んな街まで持って降りなければならない。

少しずつ小分けにしながらだ。

そういった手間から逃れられるというのは、非常にありがたい話だった。

男は隣をちらと見る。

その圧倒的な大きい巨木がぴたりと横につき、自分と同じ速度でついてくる。その様はまるで犬の散歩のようだ。


家に着く頃には、すでに日は暮れていて、男は今しがたとってきたばかりの巨木を解体する作業に入った。

家の前には、今日他にも同じように取ってきた解体された巨木が積みあがっていた。

これらは明日あたりに街に持っていき、林業組合に売りに行く手はずだった。


(よし、これぐらいでいいか)


そう思い、男は解体された木材を荷馬車の車に乗せ、家へと入っていった。

明日は今までの数倍の数の木材を納品するのだ。結構まとまったお金にはなるはず。

そう思い、子供のようにワクワクしながら寝に入ったのだった。


-----


「これら全部が60リラだと?いつもの半分以下じゃないか!」


ドンッ!と机を叩き、男は目の前に座る帳簿をつけている人間に怒鳴った。

帳簿をつけている男は、落ち着いた様子で男の目を見ている。

帳簿には木片120、木材70といったことが書かれていた。いつも男が持ってきた木より多い数字だ。


「中央から聞きましたよ。なんでも魔石の風を貸与されたそうじゃないですか?なので、この数もそれほど労力なく手に入ったことでしょう?」


帳簿をつけていた男は淡々と言った。

男はそういわれても納得がいかないといった風に、なお声を張り上げた。


「しかし、それでもいくら何でもこの数字はおかしいんじゃないか!」


以前は大きな木材を2つで5リラだったのだ。木の値段の大幅な下落なんて、集落の長から聞いていなかった。勝手にこちらに連絡もせずに値段を変えるとは、信用問題にかかわるのではないか。

そんなことをまくし立てたが、帳簿をつけている男はただ淡々と説明を続けた。


「近年、大規模な戦争が中央のほうでありましてね。攻城用、壊された住居のために大量の木材が必要となっているんです。それで中央が苦肉の策として魔石を貸与してでも、多くの木材を求めたのでしょう。」


肩を落としながら、帳簿の男はさらに付け加えた。


「今回の戦闘で、かなりの戦費がかさんでしまったようで、中央でも財政が苦しいのでしょう。」


男は、帳簿をつけている机にがっくりと頭を落とした。

こういうからくりで、あの便利な魔石が貸し出されたのかと思った。

確かに、今までの倍ほど作業が楽になった。しかし、今までの半分以下の値段でしか取引されないのであれば、これから昨日以上に働かなくてはいけない。

いつもは40位の木材を納品していたのだ。大体100リラ前後は稼いでいたのだ。

男はまだ結婚をしておらず、一人でやっていく分にはまだ問題はないが、これでは嫁や子供ができた時に養ってはいけないだろうということは十分に理解できた。


「私だって、今回の価格改定には納得がいかなかったんですがね。」


まだ納得がいかないという男に、帳簿をつけている男はそう付け加えた。

男はしばらく何も言わずに、うなだれた頭のまま、じっとしていた。


-----


「あいよ!ビール5リラ」


男は飲まずにはやってられないといった風に、街の片隅にある飲み屋にいた。

今までよりもずいぶんと少なくなってしまったお金をポケットに詰め、あおるようにビールを飲む。

酒場は賑やかで、遠くでは「中央はまた戦争を始めるつもりだ」「領土を拡大したいらしい」「この近辺からも兵士の募集をするんだろう」などといった会話が聞こえてくる。

しかし、男は会話に加わらず、ただただビールをあおる。

ただただ、自分の稼ぎが減ったというショックに打ちひしがれていた。


60リラでは多くも飲めず、少しアルコールが残っている頭で家へと向かう。

馬車の先頭に座り、今日の出来事を思い出していた。

この国がどれくらい大きいのかわからない。しかし、そんな頻繁に戦争を起こさなければいけないのだろうか。領土をそんなに広げなくてはいけないのだろうか。

男はそんなことを考えていた。

今日の理不尽だ出来事を、どっかの誰かのせいにしたかったのかもしれない。


まだ日は傾いてはおらず、ジリジリという肌が焼ける音が聞こえそうな暑さだった。


-----


家に着き、ベッドの上に寝そべる。

今日会ったことを思い出す。

思い出すだけで腹の虫が騒ぐように感じた。

思い切りベッドをこぶしでたたく。

寝そべっているので、体が少し揺れた。

両手で頭を抱える。


(一回価格が下がると、これから上がる可能性は低くなる。さっき酒場で聞いた限りだと、中央も戦争は止めないつもりらしいからな。酷くなると、今以上に価格が下がるんじゃないか)


そんな不安が頭をよぎる。

中央だって民衆を飢えさせようとしているわけではないだろう。

しかし、これからどれくらい木材の価格が下げられるかはわからない。またこんな状況がいつまで続くかもわからない。

下手に動くと、見せしめと称して働きの悪い者を殺すとかやりかねない。


男はそんなことを考えるくらい悲観的にものを考えていた。

帳簿つけている男を、あの場では攻め立てたが、今となっては可哀そうだと同情すらしてくる。

先ほどのようなやり取りを、これから何件もしなければならないのだろう。

もしかしたら、財を抱えていると見られ、略奪にあうかもしれない。

何にしろ、明日からの仕事を再度練り直したほうがいいかもしれない。いや、今日はまだ日が暮れてないから、これから木を取りに行ったほうがいいかもしれない。


そんなことを考えていた時だった。


ずずず・・・と妙な音が木材を保管している家の裏から聞こえてきた。

今までも聞いたこともない音で、形容しがたい音だ。


なんだ?と体を起こす。

急いで立て掛けてあった木こり用の斧を右手に握る。


(よりによって、価格が下落した木材を保管してた場所を狙った盗人か?)


男はそう思い、ゆっくりと裏口のドアから目だけを覗かせた。

しかし、人の気配は感じられない。


そうっと外を確認する。


すると、妙な黒いものが宙に浮かんでいた。


(なんだこれは?)


大きな球状の丸いモノが家の裏に存在していた。

大きさは自分の体がすっぽりと入るくらいだろうか。

いや、モノと言っていいのかうまく説明できない。

まるでそこだけきれいにくりぬかれたように真っ黒なのだ。

その黒いモノの周りは、暑い日に熱せられた地面のようにゆらゆらと歪んでいる。

ドアから完全に体を出し、恐る恐るそれに近づいた。


(魔術だろうか…)


ふとそんなことを思いついた。

不思議な現象はすでに経験した。

自分がその魔法を使ったばかりなのだ。そういう考えが思いついたのだ。

しかし、男は魔術には詳しくない。

今起こっている現象が説明つかず、混乱していた。

その黒い物体のようなモノから、不定期にずずず・・・・という音が鳴る。

しばらくその光景を眺めていた。


すると、だんだんとゆらゆら揺れていた周りが収まってくる。

同時に黒い物体も収束するかのように形を変え始めた。

ゆっくりと小さくなっていくのだ。

男はそれをじっと見ている。

黒い物体の中から光が出てきた。

いや、光っているのではない。真っ白いものが出てきたのだ。

その白いものはすぐに形を変え、人のような形に変わっていく。ちょうど四つん這いになっている。

黒い物体は完全に消え、白い物体は人へと変わった。

女性の様だ?

髪が長い。

変な服装だな?

スカートも履いているし、女か?

見たこともない服だ。

うずくまるような形だな。

肘と膝をついて、頭は両手にすっぽりと隠されているが、長い髪を見るに女の様だ。

わずかな時間に黒い物体から女が出てきたのだ。

まだ男は混乱している。しかし、何が起こったのか聞かねばなるまい。

男はそう思い、口を開いた。


「おい!これは何だ?何をした!なぜお前はここにいる!」


男は自然と荒い口調になって女に問いかけた。

すると、ビクッと女は体を震わした。

顔を男のほうに向けた。


若いな。

しかし、見たこともない種族の様だ。

顔の形が俺たちと違う。

どう違うのかとは説明が難しいが、顔の凹凸が少ないのだろう。


「え・・・・?あ、、、、えっと・・・・」


女は体を起こし、男の顔を見た。

顔は丸く、目はやや茶色がかっており、鼻は高くなく、飾りっけ無い顔だちだった。


「きゃん、、、、キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」


女は目を白黒させながらそんな言葉を発した。

何を言っているのか分からない。


「何を言っているのかわからない。ちゃんと喋れないのか?」


男はまたも強く言葉を発した。

女は体を硬直させた。


「あ、は、は・・・・話せます!話せます!ど、怒鳴らないでください」


慌ててそう言った。


「なんだ。ちゃんと話せるじゃないか。」


男はそう言った。そして続けて言う。


「今のは魔術か?魔術師はそんな恰好をしているのか?何の目的でここに来た?金目のものは無いぞ!」


男は矢継ぎ早に疑問を投げかけた後、そう強く言い放った。


「や、、、怒鳴らないで下さいよ!私だって何が起こったかわからないのに・・・・・」


女はややおびえるようにそう言った。

そして


「え、いや、あの、ドイツから帰ってきた時に、えっと、あの・・・・」


しどろもどろになりながらそんなことをもぞもぞと消え入りそうな声で言った。


「あ?ドイツ?なんだそこは?知らんぞ。」


男は考えた。

中央はド・・・何とかっていう名前じゃないはずだ。


「え??あの、ガイジンさんですよね?」


女がまた訳のわからない単語をつぶやいた。

ガイジン?なんだそれは?

男の眉間にしわが寄る。


「あ、えっと、そのう・・・言葉は通じるんですよね?ここはどこでしょう?日本なのかな?でも、こんな場所見たことないし。」


女はきょろきょろとあたりを見回し始めた。


「ニホン?それも知らんぞ。ここは確か・・・えーっと、なんだっけな。アルべニア大陸っていうところだっけな。そして中央はリーゼンベルト・・・っていう名前だったはずだ。」


男もしどろもどろで女の疑問に答える。

地理は詳しくないのだろう。木こりとして育てられ、木材関係以外の知識は乏しいのだ。


「え??アルベ?リーゼント?えええ??なにそれ!」


女は絶叫するかのような大きな声でそう言った。

それから座ったまま姿勢を正し、また周りをきょろきょろと見まわしている。


どうやら事故でここにたどり着いたらしい。

彼女が嘘を言っているわけでも、何か特別な使者でもないというのは態度で感じられた。

しかし男は警戒を緩めなかった。


「あ、ああ。何らかの事故でここに来てしまったんだな?・・・・ええと、俺も中央のところ以外は地名がよくわからん。もしかしたら・・・えーっと、ド・・・なんとかって場所に帰れるかもな」


男はまたも混乱しつつも、落ち着かない様子の女にそう言った。

慰めるつもりだったのかもしれない。


「え、いやいや。私はドイツには帰りませんよ!?日本に帰りたいんです!えっと、ここはどこなんです?アル何とかっていうのもリー何とかっていうのも知らない場所です!」


それからは女がギャーギャー何かを言い始めた。

言葉は通じているようだが、出てくる単語がいまいち分からない。

ぐーぐるマップだか何だか。スマホがなんだか。飛行機がなんだか。

聴いたこともない単語が男の頭にのしかかってきた。


女はよく喋った。

お互い異文化に住んでいる者同士の見た目なのだが、言語が通じると安心したのだろう。

外で話し続けるのもなんだからと、家に招き入れると矢継ぎ早に色々言われた。

やれ、アレは何だ。お茶は無いのか。こんな家、博物館でしか見たことないだとか。

食事をとるための簡易的なテーブルに座りながら、彼女はあちこちキョロキョロしながら言った。

男はその言葉言葉に、丁寧に説明し、相槌を打った。

この集落は人が極端に少ない。特に女性となると非常に珍しい。

なので男は、最初こそ女に疑問を投げたが、後は聴く側に徹していた。


「そろそろ暗くなるな。」


そう男は言った。


「今日はどこかに泊まるのか?」


女から聞いたこともない地名やモノの話を聞いて、男は彼女をどこか中央以外に住む魔術師か何かだと結論付けていた。

街にでも出て、宿を探すのだろう。もしかしたら、男の家などを珍しい目で見ていたから、ここら一帯を調査する目的なのかもしれない。

中央で木材が足りないとか言ってたから、商人の関係かもしれない。

そう思っていた。


「あ、あ・・・あのう・・・良かったら泊めてくれない?」


だから彼女のその言葉に驚いた。

男はチラと自分のベッドを見る。

どう見ても2人は狭すぎるベッドだ。

視線を彼女に戻し、少し困った顔をした。


「あ、えっと・・・。・・・私ここでテーブルに突っ伏して寝る感じでいいからさ。」


女のその一言に、男はフッとため息のようなものを吐き出した。


「この集落に出る魔物などを狩る奴がいる。そいつから毛皮を借りてこよう。お前は俺のベッドを使うといい。」


ガタッと椅子から立ち上がり、外につながっているドアに手をかけた。


「あ、・・・・うん。ありがとう。・・・ございます。」


ペコリと下げる頭を見た後、男は外に向かった。


-----


木こりの朝は早い。

といっても、夜は特に何もすることがなく、家の明かりを保つためのろうそくも安くはない。

だからすぐに寝て、朝早く起きる。

男は地面に寝ていた。

体の上には、昨日借りてきた獣の毛皮をかけていた。

ベッドの上には昨日の妙な女が寝息を立てている。

体を起こし、昨日座っていたテーブルに目をやる。

毛皮と、少量の食料を狩人の人間から借りて帰ってきたら、女は食事を用意していてくれた。

「食材があんまり無かったみたいだから、大したものじゃないけど」と言ってはいたが、久々に食べ物らしいものを食べた気がする。

その残りがテーブルの上にあった。

芋と豆のスープと、硬いパン。それらをさっさと食べ、外へ出る。

そして、今日は大目に木を切ってこよう。そう思ったのだった。


日が頭上に登ったとき、女が外に出てきた。

魔法で巨大な木を細かく切っていた時だった。

それを見て、女はキャーキャー騒ぎ出した。

木を切る魔法が珍しいのか。

都心部の魔術師の間では、こういった特定の作業をする魔法は見慣れていないのかもしれない。


普段は食べないのだが、女が昼食を作ったと言ったので、食べることにする。

もしかしたら居座るつもりなのだろうか。

だとしたら、木の量をもう少し増やさなければ。そう思った。


日が暮れ、明日に売りに行く木材をまとめた後、食卓に着いた。

テーブルをはさんで話すことと言ったら、「今日は集落を回った」「どうやらここは自分が住んでいる場所とは大きく離れている」「帰れないかもしれない」などとぼやいていた。

男はそれに対して、「そうか」と短く言うだけだった。


-----


次の日、男が起きると女も起きた様だった。


「街に行くがお前はどうする?」


と聞いてみたら「行く!」と返事をした。

そして、いつもはゆったりと座っていた荷馬車の椅子が、少々狭くなったのだった。


木材の価格は先日と変わっていないようだった。

男はそれに安堵し、以前よりも多くの木材を納品したことで、価格改定前と同じくらい、いや、少し多いくらいのお金を握り、荷馬車のほうに戻る。

女は、馬を撫でているところだった。


以前と同じ酒場で軽く食事をした後、魔術師協会に寄った。

目的は女が帰るための魔法を使うための、魔法か何かあるか聞きに行くことだった。

結果は、あることはあるのだが、結構な値段がするとのことだった。

価格は50アスカ金貨。

一生遊んで暮らせるくらいの金額だ。

転移の魔法は高いらしい。


帰りに、どう慰めたらいいか・・・と悩む男に、女は「でも、アレでは帰れないかもしれない」とつぶやいた。

どこでも行けると言って、例を出してきた魔法協会の人から聞いた地名の、どれも聞いたことがない場所だったらしい。

この女はいったいどこから来たんだろうか。

帰りの馬車の空気が重くなったよう感じた。


-----


次の日、伐採から帰ってくると、女が神妙な顔でいたのが気になった。

食卓に着くと、女からここに住まわせてほしいと打ち明けられた。


「ここには無いかもしれないが、ほかの街や、中央に行けばお前が望むような転移の魔石が手に入るかもしれないぞ?」


そう言ってみたが、女は首を横に振った。


「昨日聞いてみたけど、そのほかの街に行くにしても1か月くらい掛かるって。中央に行くとなるとさらに2か月くらい掛かるってさ。それに私が見てきた漫画や映画、小説でも簡単に元の世界に戻るような話は見てないの。行ってみて、無かったから帰ろうとしても、さらに何か月も移動しなくちゃいけないっていうのは辛いよ。」


そう言ったのだ。

それからは彼女の故郷の話になった。非常に荒唐無稽な話だった。

車が馬無しで走り、空高く建つ建物の話。遠くにいる者への連絡手段に、空飛ぶ乗り物の話。

どれもこれも聞いたことない話で、男は感心しながら聞いていた。

女はそれらを懐かしむように話してた。


その日は同じベッドで一緒に寝た。


-----


そして数か月がたった。

あれからは特に変わったことはない。

いや、唯一変わったことと言ったら、女と夫婦になった。

女は子供を身ごもっている。

男はそれに小さな幸せを感じ、今日も木を伐りに外に出た。


続きます

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