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ブレイキング・ローズ  作者: まるマル太
第1章 俺はロイヤル・ハイパワード・チューニクス!!
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@第5話 中二病の力を見よ!!

@第5話 「中二病の力を見よ!!」






「さぁ、始めるぞ!」

幻想覇者げんそうはしゃフィースネス・アリエスのアーマーを装着した俺は、

目の前の死神型フォーサー、"インステスキム"を挑発する。




戦闘体勢にあるフォーサーを見るのも、

この中二病の力を利用するアーマーで戦うのも

俺にとっては今回が初めて。

だが、負けるという選択肢は俺の中にはない。

どれだけ"カッコ良く"戦えるか、それだけだ。




「・・・良いだろう。

 予定とは違うが、君から倒させてもらおう。

 君の正体は知らないが、このインステスキムを

 相手にする事を不運に思うが良い!」

そう言うが早く、目の前の死神は背中の2本の鎌のうち1本を引き抜く。

そして手馴れた様子で鎌に勢いを乗せ、その場で回転させてみせる。

が、俺はそれを見て、ある疑問を覚えた。


「お前・・・これまでもフォーサーに変身して

 人を殺していたのか?」

「そんな事をすればどうなると思うか。

 全国ニュースに持ち上げられるだろうな。

 元はと言えば、昨年12月のあの赤い狼フォーサーのせいで

 我々フォーサーはこの社会の敵扱いとなった。

 そう、現在はフォーサーであるだけでその存在すら許されない。

 警察にでも特定されれば何をされるか分からない。

 だから俺たちは怪人態を隠し続ける必要があった。

 ・・・しかし、その状況は数日前に一変した。

 あんなに大量のフォーサーの出現事例があれば、

 本来の能力を持つ俺がそれを隠し続けるのを我慢する必要もない。

 俺の殺人という趣味はより高次元な領域へと達する!」

「あのー、あんただって見つかればただじゃ済まされないと思うんですけどー」

ただでさえキチガイな小太りおっさんが

フォーサーであると知られれば、

よくて実験台にされて逆に殺される程度だぞ、絶対。


「だからこの夜中を狙って襲っているんだろ!」

やっぱりバレたくないんかーい!


「ま、まぁ・・・お前がどういう経緯でフォーサーになったかは知らないけど、

 とりあえず俺に課せられた責務としてお前を倒す必要がある。

 今すぐ降参しないというならばこの幻想覇者フィースネス・アリエスと戦え!」

俺は身体をやや斜めに傾け、死神に向かって人指し指を向ける。


「降参だと・・・?

 そんな事を俺がするとでも?フォーサーのこの俺が。」


・・・フッ、いいぞ!

ここで降参されたら台無しだ。




「ならば、さっさとかかってこいよ!この死神野郎!」

「フッ、良いだろう。どこからでも来るが良い。」

「えっ・・・お前から来い!」

「どうした?このインステスキムを前にして恐怖を感じているのか?」

「そんな訳ないだろ。早く来い!」

「・・・何でも良いからそっちから来い!」

オイ!空気読めコイツ!!


ヒーローが自分から突っ込んでったらカッコ悪いだろ!

敵が仕掛けてきた攻撃をかわし、その隙を突き強力な一撃を食らわせ、

そこで驚く敵をあざけ見る、というのが俺の頭の中で軽く決めていた事だった。

が、現実はやっぱりそう上手くはいかないらしい。




「・・・絶対に後悔させてやるからな。

 俺の中より出でよ・・・究極の次元へと迫りし中二単語of英語!

 トランクエライザァァァァァ!!」

俺がチューニドパワーシステムを起動させるための中二単語を叫ぶと、

突然俺の身体の各部分に力が入り始める。




アブソリュート・アーツ社の中田さんの説明にもあったけど、

要は俺の本来掛かっている体のリミッターはこの作業で簡単に外れてしまう訳だ。

簡単に、とは言っても、それは極度の中二病の持ち主にしかできない事ではあるが。




「な、何事だ?」

死神が俺の声量に驚くのをヘルメットのモニター越しに確認すると同時に、

俺はアスファルトを蹴り、その場から走り始める。

このアーマーを着て走るのはこれが初めてであるが、かなり速い。

というのは、リミッター解除の影響が四肢にも出ているからだと思う。

これなら50m走で4秒台はおろか、3秒台でも簡単に出せそうだ。


「おらよぉッ!」

俺は加速しながらその勢いを乗せるように地を蹴り放ち、

瞬時に右手の拳をつくって目の前に迫った死神へと突き出す。

すると死神は手にしていた鎌の持ち手部を盾にするように構える。


・・・俺はバトル漫画でよくあるような展開なら多少は読める。

今回の敵のガードも想定内だった。




「ぐっ!?」

俺は突き出された鎌の持ち手に対して

拳を上部へと微調整した結果、それはそのまま死神の顔を強打した。

その際に俺の手には何の痛みも無かったが、

驚いたのは死神が物凄い勢いで後方へと飛ばされていった事だった。

一気に3mは吹っ飛んだだろうか。

死神はそのまま殴られた勢いで背中を擦り付けるように地面を滑走した。


「な、何だこの力は・・・?」

俺はたった今繰り出した拳を恐る恐る見つめる。

その紫色の拳は俺の意思とは関係なく、震えていた。

・・・昨日までの修行で中二力をある程度制御できている感覚はあるけど、

まさか俺の手がこれほどまでの破壊力を持つとは・・・。

言うまでもなく俺の中二力も恐るべきものではあるが

この中二宮Xレアは本当にヤバそうだ。

これなら相手がフォーサーと言えども、それに負けない力を引き出せる!




「くぅ・・・何だそれは?」

地面から起き上がった死神は、

例のメタリックブルーの刃を持つ巨大な鎌を振り上げた。

人間態が高身長のおっさんというだけあり、

怪人態の死神も180cm以上と大きめの身長になっているから

イメージ的にはあまり高速移動には向いていないような姿をしている。

が、目の前の死神は物凄いスピードで鎌を構え

左右にステップを踏みながら迫ってきているから正直、驚きだ。


「速い!?」

俺はヤツの攻撃を避けるのは困難だと瞬時に察し、

その場で両腕をクロスさせて攻撃を防御する姿勢に移る。

このフィースネス・アリエスの両前腕は

羊の顔のような模様の入った装甲で備わっており、

こういうシチュエーションで防御態勢が取れるようにしてあるようだ。


すぐ死神が俺の前に迫った時、フードをかぶった頭部から

そのガイコツのような顔が露出した。

予想外の俊敏性と合わさり、さすがの俺と言えども多少の恐怖を覚える。




「はぁっ!!」

死神は俺の身体の側面に当たる位置に横から鎌で斬りかかる。


・・・さすがにガードを構えている場所に

わざわざ攻撃を当てにくるほどの馬鹿ではなかったか。


けれど、その程度は予想できている。


俺は咄嗟に腕の交差を解き、振られる鎌へと手を伸ばす。

と同時に、その鎌の刃部分に向かって腕の装甲を押し付ける。

次の瞬間、鎌と装甲が弾き合い、激しい金属音が響いた。

死神は持っていた鎌を弾かれバランスを崩すが、

俺はその反動は既に読んでいた。

刃を弾いた方の腕の勢いを殺しながら素早く体勢を整える。


「おらッ!」

俺はそのまま右手の拳を握り、

同時に地面を蹴って軽く跳躍するような動作に入る。

隙ができた前方3mほどの死神にパンチを見舞おうと思ったんだけど

俺の身体は地面から予想以上に跳ね上がり、

そのまま死神の頭上すれすれを飛び越えてしまった。

随分とオーバーパワーだな・・・。

いや、初戦だから俺がまだ力を制御できていないだけか。


その時、俺は不本意ながらも死神の背中を取った事に気付いた。

たまたまヤツを飛び越えただけだったんだが、

これは思わぬチャンスだ!

俺はジャンプ後の体勢を整え、

そのまま右足を上げて死神の背中へと突き出した。




「甘い!」

その声を聞き、咄嗟に死神の姿勢を見ると、

先ほどの鎌を構えて既に俺へ向けて振り下ろす直前ではないか!


「くそっ!やっぱりスピードは勝てないか・・・!」

俺が瞬時に頭の中でその振り下ろされた鎌を避ける戦法を考えても、

それに身体が付いていく事はできない。

ましてや俺はキックを繰り出そうと右足を上げている不安定な姿勢だ。


「もらった!!」

死神の鎌が青い軌跡を描きながら俺の突き出した右足を切り裂いた。


「クッ・・・」

俺はバランスを崩し、アスファルトに勢い良く倒れ込む。

そしてとりあえず急いで死神との距離を開こうと道路を転がる。

この姿勢では隙だらけだ。

咄嗟の出来事に頭が付いていけていない気がするが、

動力源である片足をやられたダメージはデカい・・・。


俺は転がりながらある程度の距離を取り、

その場で跳ねるように飛び起きた。

膝立ちになって死神との距離を確認すると、

死神は長い鎌を地面に立てながら

余裕の棒立ちでこちらを見ている。

イラッとした俺は、そこでふと違和感に気が付いた。




「あれ・・・?俺の右足から痛みを感じない・・・?」

先ほど死神型フォーサー、インステスキムの武器、

オミノスサイズによって切り裂かれたはずの右足には

何の異変もない。

おそるおそる斬撃を受けた場所を見てみると、

確かに脚部の装甲に擦れた跡が残っているのが分かった。

そうか・・・装甲がこれほどまで堅いとなると、

安心してこのフィースネス・アリエスに防御を任せられるな!




「フッフッフッ・・・この野郎、調子に乗るなよ?」

俺はサッと立ち上がり、油断をしている死神へと指を差した。

そしてすぐさま足に力を込めて地面を蹴り放ち、

先ほどの強力ジャンプを再び利用し、死神の背後へと回る。

焦った死神は咄嗟に俺の方を振り返り、距離を取ろうと素早く後退する。

それを見て、俺も急いで後方へと停めてある専用バイクへと近付く。


・・・そろそろ良いだろう。

最初から使いたくてうずうずしていたんだけど、

いきなり武器を使うのはカッコ悪い訳でして・・・。

まずは格闘で場を盛り上げてからの武器なら俺の中での不満は無い。

ようやくアリエスの専用武器がお目見えするぞ!


バイクの運転席に複数備えてあるキーのうち特定の一つを押すと、

バイク前部が突然稼動し、中から鋭い槍の先端が現れた。

実際にこれを使うのは初めてだから、

どんなもんなのかはまだ分からないけど、

せっかくだから使ってみるとしよう!




「さぁ、その姿を現せ!オヒツ」

おい、ちょっと待てよ・・・?

確かこの槍の名前はオヒツジ・ザ・ランス、だろ?

たぶん牡羊座とザ・ランスを合わせたものなんだろうけど、

このネーミングは正直ダサい・・・。

中二病のかけらもないな。

ならばこの俺がこの場でカッコ良いチューニクスな名前を・・・。


「おい、なぜ君も後ろに逃げるんだ。

 いちいち待たせるな。」

俺から見て7mほど前にいる死神がまたもやせかしてくる。

うるせぇおっさんだなぁ、ちょっと待ってろっつーの。

まぁ、時間も無いのは確かだし、ここは・・・。


「・・・さぁ、その姿を現世うつしよに現せ!

 永遠幻槍えいえんげんそうゲイヴォルグ、降臨!!」

俺はその台詞と同時に、バイクから伸びる槍の先端を左手で掴み、引き抜く。

そして今度は右手でその出てきた槍の持ち手を握る・・・って、アレ?


この槍・・・思っていたより長いぞ?

2mは軽く越えるであろう巨大な細長い槍がバイクから出現すると、

さすがの俺も焦らずにはいられない。

槍は先端の1mほどが流線型になっており、

そこからの段差で一気に平らになって持ち手、というよくある構成になっている。

だけど、その流線型の形状がまるで

x軸とy軸が交差したような直角な二平面の組み合わせになっており、

ここのデザインは個人的に好みだ。

配色は先端の流線型部分がアリエスのメインカラーと同じ色味の紫、

そして持ち手がブラック。


俺はこの槍を構えて

威嚇のために槍を振り回すポージングを決めようとしていたが、

そのサイズのせいで完全に計算が狂った。




「ほう、そんなものがバイクに仕込んであったとは驚きだな。

 戦況はどうなるか不明だが。」

死神の挑発を聞き流しながら

俺は無駄に長い槍の持ち手を両手で握り、

その先端をまっすぐ死神に向けるように構える。

この槍、今は普通に持つ事ができているけれど、

たぶんアリエスに変身していなければ重くて持てないくらいにサイズがデカい。

これ絶対設計ミスだろ!




はじめ君、使い慣れてないみたいだけど、大丈夫?」

後方からの声に反応して後ろを向くと、

アリエスの内部モニターには吹雪ちゃんが映り込んできた。

・・・そうか、俺の停めてあったバイクの後ろに隠れていたっけか。

戦闘に集中し過ぎて忘れていたけど、

俺は吹雪ちゃんを守るために今戦っていたんだ。


「大丈夫!任せておけって!

 この槍があればあと5分も待たせないから!」

とは言ってみたものの、槍がどの程度有用なのかはいまいち分からない。

よくある戦闘アニメとかだと、

新しい武器を持った瞬間にそのキャラが無双状態になる事が多々あるけど、

さすがの俺でもそれが非現実的な事は理解できる。

ましてや、俺がこの永遠幻槍えいえんげんそうゲイヴォルグを扱うのは初だ。




「今度はこっちから行くぜぇ!!」

とりあえず、吹雪ちゃんの間近に死神を呼び寄せる訳にもいかないから、

俺は長い槍を握って死神の方へと走っていく。


死神はさっきから使っている鎌を振りかざし、

俺の槍を受け止めようとするかのような姿勢に入る。

ガードに回るとは・・・どうやら俺の気迫には勝てなかったらしいな!


「食らえ!!」

死神の少し手前で道路を蹴り、宙で勢いを付けて槍を突き出す。

槍を使うのは人生で初めてだけど、

掃除時間のほうきとか長いものを振り回した経験はあるから、

とりあえずそんなノリでコイツも使ってみようか。


突き出した槍は、死神が構えていた鎌の刃部に命中し、

道路で加速していた俺の勢いの方が勝って死神は後退する。

俺は手の槍から来る反動を利用しその場に着地した。

そして、更なる追撃を仕掛けようと槍を剣のように振り回して

死神へと斬りかかる。

この槍の先端1mは平面が直行したような形状になっていて、

その平面の端は鋭いために、この部分で攻撃をしてもある程度の威力は出そうだ。

ってかおそらくそういう攻撃を見越してデザインされたのではないだろうか?


「オラッ!」

俺は何度もゲイヴォルグを振り回し、死神の頭部を目掛けて

前後左右から槍を叩き付けるようにその動きを繰り返すが、

死神は一本の鎌を巧みに振り回し、それらを全て弾き返している。

こりゃ凄まじい防御技術だな・・・。

いや、とろそうな死神に見えてスピード型のフォーサーなのか?


「随分と・・・攻撃的に・・・なってきたな!」

必死で槍を振り回す俺に対して、それを受ける側の死神は余裕の様子だ。

表情はガイコツのために見えないが、動作に焦りがない。

この野郎・・・今すぐぶっ殺してぇ!!




「そろそろいい加減理解しろ!」

そう言うが早く、死神は持っていた鎌の柄を俺の腹部へと突き付ける。

それと同時に俺は姿勢を崩されたが、

死神の反撃を恐れ、すぐさま後方へと3mほど距離を取る。

が、死神はその場から動かないようだ。


「気付いているとは思うが、

 俺のスピードに君はついて来られていない。

 しかも、俺はまだ背中にもう一本の鎌を備えている。

 つまりこの勝敗は決まったも同然だ。」

余裕がにじみ出たかのような口調で死神がほざく。

確かに、死神の武器であるオミノスサイズは

ヤツが振り回しているものの他にもう一本が背中に付いている。

それはヤツが本気ではない事の現れだろうが、

それでも俺にはどうも勝敗が決まったようには見えない。


「・・・だってさ、お前は確かに速いけど、

 見たところ、俺に攻撃を当てたところでこのアリエスの全身の装甲は破れない。

 俺はお前のスピードには付いていけてないかもしれないけど、

 お前は俺の防御に対抗できない。

 これじゃあ泥試合確定だろうが・・・。

 いつまでも終わらねぇよ・・・。」

「な、何だと!ふざけるな!

 ならば今から本気でアリエスを潰し、

 このインステスキムの真の怖さを思い知らせてやろう。」

そう言うと死神は背中のもう一本の鎌を素早く取り外し、

鎌の二刀流モードと化した。


両手に巨大な鎌を持ったガイコツの死神・・・。

その気迫は十分だけど、

俺はそれを見て吹き出さずにはいられなかった。




「ブフッ!!お前ッ・・・それ・・・!!」

「ん?何が面白いんだ?

 そうか、死ぬ前にせいぜい笑っておこうかという意思か。

 良いだろう、すぐ楽にしてやるよ!」

「はいはーい、じゃあ続けましょうねー。」

死神はイラッとしたのか、これまで以上のスピードで素早く俺との距離を縮め、

両手の鎌がほぼ同時に俺に斬りかかってきた。


俺は素早く左手に槍を持ち替え、

空いた右手の拳で死神の腹に向けて右フックを繰り出そうとする。

と同時に死神は走りながら2本の鎌をクロスさせ、それを防ぐかのような動作を取る。

それを見た俺は拳を解き、左手の槍を死神に向け思いっきり振り上げた。


「な、何!?」

死神はそれに反応できず身体の真正面で受け止める格好になる。

そして、そのまま槍の先端はまっすぐに死神の頭部を通り宙まで切り上げ、

死神の身体を覆っていた藍色の布が一部切り裂かれた。

俺は容赦せずに再び死神へと右の拳を突き出すと、

それは焦る死神の顔面に直撃した。

俺はすぐに右手に槍を持ち替え、

その死神の頭部を狙ってそれを突き出す。

死神は瞬時に2本の鎌で防御を試みるが、

やはり槍に集中し過ぎていて隙が出ている。


「おらよッ!」

俺は手加減せずに死神の腹部へと右足裏をめり込ませた。

俺が足を上げる隙は十分あったが、

頭部を守っていた2本の鎌でそれを防ぐには時間が足りなかったようだ。

気持ち良いほどにアリエスの攻撃が次々と死神へとヒットしていくから、

これはマジで楽しい・・・。


「ぐはっ!!」

死神は、最初のように勢いでアスファルトを滑走し、

仰向けのまま3mほど引きずられた。




・・・俺の攻撃が突然命中し出したのには理由がある。


それは、ヤツが本気の"二刀流"をやり始めたからだ。


なぜかって?

アリエスを越える死神の素早い鎌さばきは、

両手で1本の鎌を操るからこそ実現できる技であり、

体全体の質量は変わらずとも、

それが2本になればどうしても鎌さばきという面では1本の時よりも劣る。

いや、スピードに限らず、俺の攻撃を受ける防御の正確性もだろうな。

そのせいで攻撃が当たるようになったんだ。




どうしてこんな事が言えるのかというと、俺が実際に経験済みだからだ。




俺は「ペン回し」が好きで日々練習に励んでいる。

基本は利き手である右手をベースに練習をするけど、

両手で行う技の時には左手を右手と同時に使う事もある。


こういう時、利き手であるはずの右手の感覚、技の成功率、キレは、

明らかに右手『だけ』の時よりも劣っているんだ。

いくら慣れているとは言え、両手で何かを同時にこなすとすれば、

片手の注意は必ず疎かになる。




もちろん、鎌が2本になれば

ヤツが繰り出す攻撃の頻度は上がるかもしれない。

だけど、もともと

このアリエスの装甲を突破できない程度の腕力しか持たない死神は

例え鎌を1本増やしたところでは何の変化もない。

そう読んでいたけど、まんざらの間違いでもなかったらしい。

しかも、向こうは俺の攻撃が当たり始めた理由をたぶん理解できていないから

焦って更にガードが甘くなっているんだ。






「ハッハッハッハッ!!

 この永遠幻槍えいえんげんそうゲイヴォルグには手も足も出ないかぁ!!」

俺は高らかに笑ってやった。


いやぁ、めっちゃ爽快だなあ!

まるで全身を使うアクションゲームしてるみたいだよ。

んで、相手のHPは残りわずか的な展開かな?




「な、なぜだ・・・俺の本気モードが通用しない!?」

死神はやおら起き上がり、再び2本の鎌を持つ。

やっぱりな・・・。

アイツは自分が負けている理由を知らない。

この勝負、もらっただろ!


「さぁ、じゃあそろそろ俺の必殺技を受けてみろ!」

・・・調子乗ってそう言ったは良いけど、さて、何をしようかな。

この槍が光って飛んでいくとか、

身体から光線が出るとか、

必殺技っぽい必殺技はおそらく準備されてない。

まぁ、それも良いだろう、この場でつくってやるぜ!


「うーん・・・。」

「一体何を悩んでいる!!切り刻んでやる!!」

懲りない死神は、再び2本の鎌を振り上げながらこちらに向かってくる。

あぁもう・・・コイツ本当に空気読めないな。

ヒーローが必殺技出す準備中に攻撃してくるアホがいるか?


「あ、そうだ!」

俺は思わずつぶやいた。

確か、アリエス使用者の専用バイクSHFは、

自動運転システムを採用していたはずだ。

これにより、俺が乗っていなくても

変身用のタブレット端末をいじる事で

使用者である俺がいる場所に近付いてきてくれる。

こんな近未来システム・・・必殺技に使わない手は無い!


「死ねぇぇぇ!!」

「お前さっきからうるさいんだけどッ!?」

鎌を持って近付いてきた死神に向かって、右肩からのタックルを繰り出した。

俺のイライラも込めた渾身のタックルだ。

1人で考え込む様子を見せた俺を見て油断していたらしく、

死神は防御の姿勢も取らないまま再び元いた場所へと吹っ飛んでいった。

さて・・・この隙を利用すれば

実践投入が多少無謀な必殺技でも当てられる!




「来い!我がシープ・ホーン・フィース!!」

俺はベルトのバックル部分に取り付けられたタブレットを

そのまま指で操作し、専用バイクを呼び寄せるコマンドを入力する。

と、同時に、俺の背後に停車していたバイクのタイヤが突然凄い音を立てて回り出し、

紫色を基調とするボディを光らせながらこちらに向かってきた。

そのバイクの後ろに隠れていた吹雪ちゃんが驚いているのが見える。


「行くぞぉ!えーと・・・名前名前・・・。」

まずい!早く必殺技の名前を考えないと!

バイクはもう俺のところへと到着してしまう。


「よし、食らえ!永遠なる究極の悲劇を!

 フェローシャス・ディスカッサー!!」

俺のすぐ後ろで急停止しそうになるバイクに飛び乗り、

すぐにアクセルを全開にし、持っていた槍をバイクの前方収納部へと急いで押し込む。

だけど、先端だけは尖るように出しておく。

これで突撃型SHFの完成だ!


「な、何事だッ!?」

ゆらゆらと起き上がった死神は

前から突然高速で向かってくるバイクに驚き大声を上げる。

俺は加速の勢いを緩めず、そのまま死神に向かって一直線にバイクを進める。

次の瞬間、バイクの前方からはみ出した1mほどの槍の先端が

加速の勢いを纏いながら死神の腹部へと直撃したのだった。


俺はその直後、急いでブレーキをかけると、

乗っているバイクは夜の住宅街に凄まじいブレーキ音を響かせながら

やっとのことで停止した。

しかし、今の俺の中には敵を倒した安心感というよりも

目の前に展開された予想外の状況に対する不満しかない。




「・・・お前は・・・爆発しないのかよオイ!

 計画が台無しじゃねぇか!」

たった今、俺の必殺技を食らった死神は

俺が乗っているバイクの先端に突き刺さったまま

そこに寄り掛かるようにうなだれている。


重傷を負ったとは言え絶命は逃れたらしく、

自らの腹部に刺さった槍を両手で掴み、やおらそこから体を引き離す。

コイツ・・・もともとの見た目も不気味であったけど

やられる時まで妙に気持ち悪い演出が続くな・・・。




「クッ・・・これほどのダメージを負うとは・・・。

 俺とした事が・・・。」

死神はふらふらしながらある程度後退すると、

その場で立ち止まり、自分の腹部の損傷状況を確かめるように触り始めた。

あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、

死神の腹から出血の様子はなく、ただ肩から垂れている布に穴が開いているだけだ。

つまり、本体には致命的なダメージを与えられていないという事なのか?

俺的には結構完成度の高い必殺技だったんだけどなぁ・・・。


「・・・やはりそうか。」

死神は苦しそうに声を発するが、どことなく余裕が感じられる。

相変わらずムカつく野郎だ。


「何がやはりそうか、だよ。」

「この身体は『出血をしない』ようだ。

 フォーサー全員に共通する性質なのかは分からないが、

 自分の血を見なくても良いというのは精神的に楽だ。」

血が出ない・・・だと?

まぁ、生態系がほぼ不明なフォーサーについて

そういう点があるのは全然アリかもしれない。

アレ・・・でもダメージは食らってるんだよな?




「残念ながら、このフィースネス・アリエスの勝利は確定だ!

 弱りきってよれよれのお前には負ける訳がない!」

俺はバイクにまたがったまま目の前の今にも倒れそうな死神に指を立てる。

さすがに必殺技で倒しきれなかった弱っている敵を叩きのめすのは

卑怯な気もしないでもないが、

フォーサー退治は俺の仕事だ。

今は卑怯も何も関係ないんだよ!


「・・・悔しいが、その通りだ。

 だから俺はここから引かせてもらおう!」

そう言うが早く、死にそうだった死神は突然地面を蹴り放った。

その場で空高く跳躍し、すぐ横にあった電柱のてっぺんへと降り立つ。


「また機会があれば戦おう!羊よ!」

死神は電柱から電柱、民家の屋根と素早く跳躍を続け、

戦闘を離脱しようとしている。

とても死にかけた敵の動きではない。

バイクで追い掛けて見失う前に追いつけるかどうか・・・。




「待ちやがれぇ!!」

俺は急いでエンジンを蒸かし、アクセルを踏み放った。

バイクはその場で急発進し、高所を逃げる死神の後を追う。

せっかく・・・せっかく倒せるところだったのによ!

どこまで空気読めないんだ、アイツは!


音もなく静かに跳躍を繰り返す死神に対して、

俺のSHFは凄まじい騒音を響かせながら夜の民家街を走る。


「クソッ!これじゃあ見失う・・・。」

メーターは既に時速80kmを振り切ったが、

それでも死神の姿はだんだんと小さくなっていく。

時間帯が夜という事もあり、追跡をするのには限界が出てくる。

早く追い付かないと・・・。




ん?でも追い付いたところで

俺はどうやってアイツをあんな高いところから落とすんだ?

このフィースネス・アリエスの戦闘手段は格闘か槍のみ。

バイクにもビームが発射されたりする機能はない。

つまり、どうしようがあんな高いところにいる死神を落とせない!

しかも、この先の道路は直線構造が終わり曲がり道が続くはずだ。

俺の帰り道ではないけど、

この辺まで歩いてきた事が何度かあるから分かる。

・・・完全に詰んだやないかーい!!




諦めた俺は、軽くブレーキを踏み始め、

その場で右足を支えにしてUターンをした。

結局、死神を追って1分ほどは走ってきたけど、

今回はすっぱりと諦めるのが良さそうだ・・・。

このまま変身を解いてまっすぐに帰宅しても良いけど、

元々の戦闘場所で吹雪ちゃんが待ってたはずだ。

とりあえず、家まで送り届けるぐらいの事はしてあげよう。

ついでに俺の株も上げたいしね。

絶対、夏景かけいなんかよりも俺の方が人間的に良いって!

何であんなナルシストと付き合ってるんだよ吹雪ちゃーん!!


・・・そんな不純な事を考えていると、

さきほど死神と争っていた場所が目前に見えてきた。

こちらに向かって両手を振っている吹雪ちゃんが見えるが、

他に人影は無く、状況はさっきまでのままだ。

あれだけ激しい戦闘を繰り広げたというのに、

周囲の住民は何も気付かなかったらしい。




はじめ君!やったね!」

俺が吹雪ちゃんの前にバイクを停めると、

すぐさま彼女は俺に走り寄ってきた。


「凄いじゃん!本当に撃退しちゃったね!」

これほど喜ぶ吹雪ちゃんの笑顔は教室では見た事がない。

俺はこんな貴重なものを見る権利を得てしまったというのか・・・。


「いや、まぁ、この俺の実力の前では、

 あの死神も無力だったという事だろうな。

 あ、でも、俺がこのアリエスに変身できるって事は秘密にしておいてね。

 そういう約束になってるんだ。」

「へぇ・・・そうなんだ。」

次の瞬間、俺はまたがっていたバイクから立ち上がり、

急いで吹雪ちゃんの両肩を掴んですぐさま俺の背後へと回した。

吹雪ちゃんはよろめきながら驚いた顔でアリエスの顔を見つめていたけど、

すぐその視線は吹雪ちゃんの背後から現れた謎の男へと移った。

そう、さっきの俺の言葉に返答した人は

吹雪ちゃんじゃなかったんだ。

明らかに声が男性のものだったけど、

その声の主が今現れた、という事だ。


「何者だ・・・お前?」

俺は恐る恐るその男に尋ねる。




見ると、その男は俺と同じぐらいの高校生だろうか・・・?

いや、こんな平日に私服を着ているからもしかして大学生か?

目付きがキツくて身長は170cm程度。

髪はワックスで整えられて不規則に盛り上がっている。

黒いジーンズと皮ジャン、と

顔からも分かる通り、いかにも不良っぽい恰好をしている。




「お前ぇ・・・強いんだろ?

 さっきのバトル見せてもらった。」

「・・・お前はフォーサーだろ?」

俺は瞬時にその男子がフォーサーであると察した。

このアリエスの姿である俺に対して

「強いだろ」と質問をしてくるような変人は

一般人の中にはいない。

それにアイツの目から発されている殺気はただものではない。

コイツは・・・どんなフォーサーなんだ?


「ほう、物分かりが良いなァ。ならば黙って俺と戦え。」

目をギラギラとさせながら口に不敵な笑みを浮かべる。

これはもうヤバいヤツ確定だな・・・。


「お前はさっきの死神・・・インステスキムの仲間なのか?」

「誰だ、ソイツは?

 俺はなァ、戦う事しか興味が無いんだ・・・。

 他のフォーサーも俺にとってはただの対戦相手でしかない。

 が、相手が強くなければァ、バトルはつまらん。

 だからお前らのバトルを監視し、

 勝った方と戦う事で俺の欲求を満たそうとした。

 それだけの事だァ・・・。」

コイツさ、漫画でよくいる戦闘バカじゃん。

戦うのが楽しいっていう変態だろ?

んで、大抵の場合こういうヤツら初戦で強いんだよなぁ・・・。

困ったわー。


「あぁ、分かった分かった。

 相手してやっからさっさと来い!」

「そう来なくてはなァ!変身ッ!!」

不良男子が勢いよくそう発すると、

突然、彼の身体が銀色の獣の皮のようなもので次々と覆われ始め、

その表皮は針の先端のようにチクチクと尖り出す。

顔までその鋭利な皮で覆われた男子の見た目は、

「熊」そのものだった。


「さぁ、このザフラストレイターと戦えッ!!」

チクチク熊のサイズは変身前の不良男子とほぼ変わりないが、

見た目はいかにも戦闘に特化したような様子だな。

普通の熊よりも余裕で怖い!


熊は直立の姿勢から四つん這いになり、

まっすぐにこちらへと向かってくる。

本物の熊は平地での足の速さがヤバいと聞くが、

こっちの熊もなかなかのスピードだ。

見た目通りケンカ速いヤツめ・・・!


「吹雪ちゃん!向こうの道路の角に隠れてて!!」

肩越しに背後の吹雪ちゃんに急いで指示を出す。

あの熊の突進をこの場から動かずに止めるのはどう考えても不可能だから、

少なくとも俺の半径5m以内は危険域。

非難させないと悲惨な事になりそう。

ってか、俺自身も大丈夫かな・・・?

とりあえず、中二単語をもう一度叫んで

チューニドパワーシステムを起動させた方が良いかな。

前回使ってから結構時間経ってるし。

あぁ、しかも決め台詞も言い直しじゃん!

あの熊、ちょっと待ってろよ!


次の瞬間、俺は思ったよりも余裕がない事に気が付いた。

というのは、熊がもう俺の目の前で道路を蹴り放ち、

掴みかかるように飛んできていたからだ。






@第5話 「中二病の力を見よ!!」 完結




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