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ブレイキング・ローズ  作者: まるマル太
第5章 何が正しくて、何が間違いなのか
40/42

@最終話 掟破りの終焉

@最終話 「掟破りの終焉」





伊集院いじゅういん岡本おかもとは、

バーバレス最強の戦士、時柳宋じりゅうそう 衛久守えくすとの

戦闘を繰り広げていた。


しかし、戦況はあまりに一方的で

伊集院いじゅういん岡本おかもと

高さ50mはあるであろう崖の淵まで

あともう少しといった地点まで追い込まれている。




「もはやここまでだ。

 俺様は、伊集院いじゅういん、貴様が死ねば

 もう片方は生きて帰すぞ?」

時柳宋じりゅうそうこと漆黒の狂戦士、ノウベタザンは

2本の槍を振り回して威嚇する。

もはや、彼の勝利は揺るぎない。

それは双方が認知する事実だった。


「フッ・・・もう選択肢は残されていないようだ。」

伊集院が変身した、処刑人、ドミクロンは、

強化形態であるドミクロン・ツヴァイアンサーに変形しているが、

その圧倒的な火力でも今は不足に当たる。

何せ、敵は攻撃を必ず回避できるチート戦士なのだから。


伊集院いじゅういん、流されるな。

 アンタが死ねばこの世界はどうなる?」

岡本が変身する黄金の龍を模したクリエイター・ノヴァイは

諦めかけた伊集院を止めようと試みるが、

見ただけで彼が瀕死直前である事は明白だった。


一方的に攻撃を受け続け、

それを防ぐ手段がないばかりか、

こちらからは攻撃を仕掛けることさえできない・・・。


目の前の光景は、死を待つだけの、

実に理不尽な惨状であった。




「フッ、世界に伴う責任を私に押し付けるか?

 なぜ・・・なぜ私を、休ませてはくれぬのだ?」

「安心しろ。

 この時柳宋じりゅうそう 衛久守えくす

 この世界を浄化する役割を担う。」

ノウベタザンが口を挟む。


「”二番煎じ”は黙ってろ!」

岡本はノウベタザンへと吐き捨てる。


「アンタの思想は・・・完璧だった。

 俺はそれに気付くのが遅かったんだ・・・。」

「・・・私の思想に対抗し、

 10年前に戦いを挑んできたのはどこの誰だ?」

ドミクロンはそう言いながら、

敵に背を向け、崖の方にゆっくりと歩き始めた。


「私の思想はこの10年間で、

 いや・・・このたった数か月間、

 フォーサーらと戦う事で180度転換された。

 正しくは、周囲の人物の影響によって、だが。」

あと一歩踏み出せば崖から転落する、といったところまで歩み、

ドミクロンは目の前を遠く見据えるようにして

そう呟いた。

まるで、自分に言い聞かせるように。




「やめろ!伊集院いじゅういん 雷人らいと!!」

ノヴァイこと岡本の叫びが発せられるとほぼ同時に、

ドミクロンこと伊集院は右足を踏み出し、

瞬時に姿を消した。


「くそっ!!フザけやがって!!」

岡本は急いで崖の方へと駆け寄る。


・・・と、それを見たノウベタザンは

自慢の高速移動で岡本のすぐ脇を走り抜け、

崖のすぐ手前まで移動すると、

伊集院と同じようにその足を踏み出した。




伊集院いじゅういん 雷人らいとォォォォ!!

 お前は・・・俺様の手で最期を飾ってやる!!」

今までの落ち着いた様子を乱すノウベタザンは、

2本の漆黒の槍を構え、崖から飛び降りた。


「・・・何ッ!?」

そこで驚きの声を上げたのは、

後から飛び降りたノウベタザンであった。




・・・それには無理もない。

先に身体を宙に預けたドミクロンは、

なんと、後から落下してくるノウベタザンへと向けて

両手に備えられたビーム砲を構えていたのだった。


「もしや・・・演技だと!?」

崖から飛び降りる直前のノウベタザンには、

心のどこかに余裕があった。

彼に攻撃を当てられる敵は限られていて、

言わば常に「無敵状態」にある。


・・・しかし、それは発達した脚の筋力による

地での高速移動が前提条件。


落下中のノウベタザンは、

高速移動の能力を一時的に失っている状態にあるのだ。




「・・・砕け散れええええええ!!」

ドミクロン・ツヴァイアンサーの両腕には

武器庫の様なパーツがぶら下がっており、

様々な武器を瞬時に調達できる。


彼は落下の直前に

チャージ方式のビーム砲を両手に装着し、

発射の体勢を整えていた。


ドミクロンもつられて飛び降りる事は、

岡本も、伊集院も読んでいたのだった。




「くそぉ・・・キサマアアアアアアアア!!」




空中で対峙する2人の凄まじい叫び声が響き渡った次の瞬間、

眩い光が崖の中腹を中心に広がり、

周囲を包み込んだ。


その様子を崖の上から見守っていた岡本は、

無数の肉片に分裂する無敵の戦士を目測した。


・・・全ては計算通り。

そのはずであった。

しかし、彼は1つだけ計算外である事象に気付いた。




ドミクロンにつられてノウベタザンが飛び降りるまでに

要した時間が、想定よりも3秒ほど早かったのだ。


つまり、ビーム砲の着弾点が、

想定よりも発射地点に近いという事になる。




・・・岡本の頭には、突発的に伊集院の顔が浮かんだ。


「まさか・・・失敗だったのか・・・?」

岡本は高さ50mの崖を見下ろしつつ、

近辺に待機させておいた自分の専用ヘリをオートで呼び寄せ、

自らも崖の下に広がる密林へとロープ伝いで降り立った。




・・・草木が生い茂る森の中でも、

仰向けに倒れる伊集院いじゅういんはすぐに見つけられた。


それは、彼が異常に目立っているためである。


そこにいたのは、

装着していたアーマーが砕け散った、ほぼ生身の伊集院。

さらに、全身から焦げたような匂いを発し、

今にも死にそうな様子で宙を見据えている。


・・・もはや手遅れである事を、

岡本は一目で分かった。




「・・・全ては・・・俺の立てた無茶な作戦のせいだ。

 あれほど躊躇いなく、衛久守えくすが飛び降りるとは思わなかった・・・。」

岡本はアーマーの変身を解き、

伊集院のすぐ横に膝立ちで寄り添う。


「いや・・・私はこうなる事を・・・ある程度は見抜いていた。

 何より、私は放っておいても・・・数時間で、死ぬ状態であったのだ。

 そんなヤツを、おとりに、使うのは・・・有効な作戦に違いない。」

「違う!!・・・俺がアンタを・・・伊集院いじゅういん 雷人らいと

 殺したんだ・・・。」

岡本が悔やむようにそう言うと、

伊集院は短い笑いを漏らした。


「・・・ならば、それはお前に、感謝すべき事だ。

 私はこれまで人を裁き続け、ようやくその義務を果たす事ができた。

 最後に、私自身が裁かれる事によって・・・な。」

「アンタが正しかったよ・・・。

 人を裁く事なしでは、誰も助けられない。

 10年前の俺は、そんな事にも気付けなかったんだ!」

岡本は、悔しそうに拳を地面に叩き付けた。


「いや・・・裁きは、結果として、”悲しみ”しか呼ばない。

 私が身を以て経験したのだ。

 人は、神、などではない。

 しょせん・・・人は人だ。

 人間同士で裁き合う事自体・・・無意味な事なのかもしれぬ。

 何が悪で、何が善か。

 それは人間が決められる事ではないのかもしれない。」

岡本は返す言葉に詰まり、

視線を落とした。


が、伊集院は返答が来る前に再び口を開いた。




「お前が・・・岡本おかもと 龍星りゅうせいが、

 10年前に求めた世界。

 顔も知らない人間の幸福を・・・皆が願うような世界!

 それこそ、人間が辿り着くべき目的地、なのかもしれない。

 ・・・私の代わりに・・・お前が人類を導け。

 皆が望む、理想の世界へと・・・!!」

伊集院の言葉はそこで途切れ、

彼は静かに息を引き取ったのだった。




・・・岡本はそのまま目を閉じ、膝立ちのまま5分ほど硬直した。

その間、彼の身体は小刻みに震えており、

必死に悲しみに耐えているような、

そんな雰囲気を醸し出していた。




その後、ゆっくりと立ち上がり、

両手の拳を強く握り締めた。




「・・・人が人を裁けないのなら、

 特定の人間が”神”になれば良い話だ・・・。」

そう呟き、岡本は伊集院の亡骸なきがらを見据えた。


「アンタの思想は俺が引き継ぐ。

 いや・・・俺が”完成”させてみせる!

 だから、もう安心して眠ってくれ・・・伊集院いじゅういん 雷人らいと。」

岡本は伊集院に向かって頭を垂れた。


彼は30秒ほどで姿勢を元に戻すと、

踵を返して森の中を進み始めた。




・・・運命へと対抗し、突き進む鋭い眼差しは、

彼が生まれてから初めて見せたそれであった。


そして、それは彼自身の"新たな存在意味"を主張する、

確かなものだった。

























―――――その頃―――――




「くそっ!!」

俊足の蹴りを叩き込まれ、

紫色の悪魔の姿をしたフォーサーが焼け野原の地面へと落下する。

2枚の翼を操る悪魔の化身、ヴァイス・ゼロ。

陽遊ようゆう はじめが手に入れた

究極の最終形態。




「フッ・・・甘すぎる。

 こんなもので最強を誇るのは浅はかですよ?」

漆黒の細身のボディを持ち、肩から生えるローブでその身を包むのは

具現化した果て無き支配欲、トランセンデンタル・オーガナイザー。

上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうきの支配を実現するため、

彼の体内の5つのHR細胞が結集した禍々しい強化形態。




そんな2人の戦いを背後で観戦しているのは、

ブラックマイスターの長、中仙道なかせんどう 武雅むが


ヴァイス・ゼロは2人を同時に相手する事を望んだが、

上戸鎖かみとくさりことオーガナイザーはそれを拒んだのであった。

・・・彼が1人で戦いたいと。


その意味を、中仙道なかせんどうはすぐに知る事となった。




「・・・圧倒的すぎるな。

 いつの間にこれほどのパワーアップを・・・?」

中仙道なかせんどうが驚いたのは、

突如現れた謎のフォーサー、ヴァイス・ゼロではなく、

オーガナイザーの方であった。


先ほどから、オーガナイザーの一方的な攻撃で、

ゼロはもはや手出しができないほどにまで追い詰められていた。




「お前・・・まだ本気出してないだろ?」

中仙道なかせんどうは5mほど前方で

敵の出方を待っているオーガナイザーへと問う。


「本気、ですか?

 フッ・・・本気を仮に100%だとすれば、

 私はまだ30%といったところでしょうかね。」

「とんでもないな・・・。」


オーガナイザーが右手の指を弾くと、

彼の背後、数平方メートルを覆い尽くすように、

1000本を越えるであろう大量のプロパンブレードが出現した。

その刃先は規律正しく前方のゼロに向けられ、

空中で静止している。




先ほど地面へと叩き付けられたゼロが

再び羽ばたこうとした次の瞬間、

オーガナイザーの背後に用意された無数のブレードが

一斉に射出された。




オーガナイザーの両脚は、

打ち込まれたHR細胞により筋肉が発達しており、

それによる高速移動が可能である。

もはやそれだけで戦闘では優位になるが、

オーガナイザーには自在に前形態の武器を生成、

射出または操作できる能力が備わっている。




・・・射出された無数のブレードを目の前にし、

ヴァイス・ゼロは脚を地に付けたまま

その巨大な翼をはためかせた。

と、同時に、凄まじい風量の風が周囲を駆け巡る。


彼目掛けて放たれたブレードは

その風をものともせずに矢の如く突き進むが、

ゼロの身体の周囲3mほど手前に入ったものから、

次々と地面に落下していく。

おそらく、サイドからの強風で、

刃身が四角いプロパンブレードは

射出時の威力を弱められてしまうのだろう。




「・・・俺にはそんな攻撃は無効だ!!」

ゼロは最後の一本のブレード手でを叩き落すと同時に、

宙へと舞い、まっすぐに前方のオーガナイザーへと急接近する。


「ほう、アレを防いだのは認めましょう。

 しかし!」

ゼロが加速の勢いを乗せた右手の拳を突き出し、

あと少しでオーガナイザーを捕える、というその時、

瞬時にオーガナイザーが姿をくらます。


「何!?」

「黙って・・・私の支配下に収まっていなさい!!」

消えたはずのオーガナイザーの声が頭上から聞こえ、

ゼロは思わず見上げるが、もはや遅かった。


オーガナイザーの強力な踵落としが

ゼロの背中を捕える。

と、同時に、加速の勢いも相まって、

ゼロは焼け野原の地面をうつ伏せの姿勢で滑走した。




「いくら何でも、スピードが速すぎる・・・。」

ゼロは急いで立ち上がり、背後を振り返ると、

腕を組んだ状態で棒立ちしているオーガナイザーを目にする。


「火力も武器で補填し、瞬間移動並みの加速能力も持つ。

 下手すれば、俺が今まで出会ってきた

 どのローズ・ブレイカーよりも強いな・・・。」

「フッ、それは当たり前の事ですよ。

 私が、今の私が、負ける訳がない。」

しかし、溢れる自信を隠さないオーガナイザーは、

とある”異変”に気付いていた。


・・・本来であれば、ゼロがここまで耐えられる訳がないが、

先ほどからオーガナイザーがいくら攻撃を仕掛けようとも、

ゼロは弱っている素振りを見せない。




オーガナイザーはその特性から、

敵の耐久値やスタミナなどを、ある程度は目視で測る事ができるが、

ゼロからは、もはやその限界を感じられなかった。


いくらオーガナイザーがスペック差で優勢だとは言え、

攻撃を仕掛け続けても倒れない敵が相手ともなると

勝敗が一方的に決まる、という事はない。




「負けなくても、お前が勝つ事は無さそうだけどな!」

「・・・特異体質か何か、なのでしょうか?

 非物質的な何らかの影響がゼロに及ぼされているとしか考えられない。」

「悪いけど、俺もよく分からない。

 でもお前に負ける気はない!」

ゼロはそう言いながら、

再び羽ばたくと、オーガナイザー目掛けて

一直線に突き進んでくる。


オーガナイザーが突進を避けようと

跳躍を試みたその時、

オーガナイザーの目の前に巨大な壁の如く

“海獣”が立ち塞がった。


観戦していた中仙道なかせんどう 武雅むがが変身した

世刑海獣せいけいかいじゅうディザイヤー・リヴァイアサン。

青、緑系の色がぐちゃぐちゃに混ぜられた体色を持ち、

頭部には巨大な白い一本角が生えている。

身長は角抜きで2.5mにまで達し、また、横幅もそれに伴い広い。




リヴァイアサンは身体の正面で

そのゼロの突進を難なくその場で受け止めると、

ゼロの首を右手で掴み、軽々と持ち上げた。




「・・・あなたは黙って見ていれば良いのです。

 ディザイヤー・リヴァイアサン!」

「いや、今回の相手は特別だ。

 とっくに死ぬレベルの攻撃を受け続けても生きている。

 これは何らかの理由があるに違いない。

 俺様が自分で試させてもらう。」

そう言うと、リヴァイアサンは

ゼロの首を握った右手へと力を込め、

そのまま捻り潰そうと試みる。


しかし、その様子を背後から見ていたオーガナイザーは

すぐにリヴァイアサンの異常に気付いた。




「どうしましたか?なぜ手加減をしているのです?」

「いや・・・なぜかは知らないが、

 右手に・・・力が入らない!」

リヴァイアサンが隙を見せると、

ゼロはそのまま両足で蹴りを放ち、

拘束を解き、瞬時に背後へと下がり、距離をおいた。


「力が入らない・・・?

 ここに辿り着くまでの戦闘で負傷でもしたのですか?」

「いや、難なく突破できたが・・・。

 ん?右手の調子が戻った・・・?」

右手を左手でさすっていたリヴァイアサンはふと

右手の感覚を確かめるように

手を開閉し出した。


何も問題はないようだ。




「・・・もはや、戦況が自動的にヴァイス・ゼロの

 優位に動く様に設定されている、としか考えられませんね。」

「俺は・・・俺はバーバレスで研究されていたタイムマシンを吸収したんだ。

 そして、無敵の存在となった!!

 俺を倒す事は、この世界が存在する限り不可能なんだよ!」

ゼロはそう言いながら、のけ反るように高らかに笑い出した。


「タイムマシンを吸収・・・だと?

 しかし、それだけであんな特殊能力を持ったというのか?」

「私たちが現存するタイムマシンを見た事がないという時点で、

 それによってどのような影響が及ぼされるのかは

 測定不能である、と考えるのが一般的です。

 そして、現に、ヴァイス・ゼロは私達の即死級の攻撃を受けても

 生き延びています。」

「どんな概念かは分からないが、

 “世界”がヴァイス・ゼロに味方している、と考えるしかないのか?

 しかし・・・そうなると・・・」

「えぇ、私たちがヴァイス・ゼロを”殺す”手段はないでしょうね。

 言わば、彼は超・強運の持ち主なのですから。」


オーガナイザーはそう言い、

考え込む様に左手を顎部分に添えた。


その恐るべき思考能力で

ヴァイス・ゼロを排除するためのあらゆる構想を練るが、

とてつもなく運が良いような敵を倒すような手段は

さすがのオーガナイザーでも思い付かない。




「リヴァイアサン、”強運”を無効化するスキルは持っていませんか?」

「フンッ、笑わせるな。

 俺様にできるのは周囲の人間に対しての精神干渉くらいだな。」


・・・リヴァイアサンの特殊能力として、

周囲の人間へと精神干渉を及ぼし、

自身のスピード不足を補強するものがある。


しかし、強運の前に、

そういった通常の攻撃を仕掛けても無意味であろう。




「ハッハッハッハッハアアアアア!!

 お前たちは俺に勝てないんだよ!

 俺の世界変革を黙って見てるんだなぁ!!」

ヴァイス・ゼロは執拗に攻撃を仕掛ける様子もなく、

ただ高笑いを繰り返す。


「俺は・・・俺はこの力で望む世界を創る!!」

「そうはさせないぞ。」


対峙している2人以外の声が聞こえ、

ヴァイス・ゼロは周囲を見回すと、

オーガナイザーとリヴァイアサンの背後から

静かに歩を進めてくる存在に気付いた。


・・・黒いライダースジャケットに身を包み、

ボトムスは灰色のスラックスを履いている。


その姿は、その場にいた3人とも、見覚えのある人物だった。




「岡本・・・さん?」

最初に呟いたのはヴァイス・ゼロであった。


「勝手に我々とは別行動した挙げ句に、

 こんな無謀な戦闘に参加してくるとはな・・・。

 岡本おかもと 龍星りゅうせいよ!」

リヴァイアサンは苛立ちを隠さない。


岡本おかもと 龍星りゅうせいさん、これまでどこに?」

「バーバレス最強兵士、時柳宋じりゅうそう 衛久守えくすは死んだ。」

その淡々とした発言に、他の3人が驚きを隠さない。


「何があったのでしょうかね?」

「詳しい事は後だ。

 今は目の前の”敵”に集中しろ。」

岡本、オーガナイザー、リヴァイアサンの

3人の視線が、一斉にヴァイス・ゼロへと向けられる。


「あれは我々を裏切った陽遊ようゆう はじめだ。

 ヴァイス・ゼロというフザけた形態に進化している。

 俺様とオーガナイザーで倒せる程度のスペックだが、

 強運がヤツの味方をし、全く死ぬ様子がない。」

リヴァイアサンがくぐもった声で状況を手短に説明した。


「なるほど。

 ならばヴァイス・ゼロは俺が始末する。」

岡本がそう言うと、

どこからともなく無人の青いバイク、

PPSパーマネント・ピスケス・スラッシャーが現れ、

岡本の背後まで来て急停止した。


「オート走行の不安はあったが、

 タイミング的にはちょうど良かったな。」

岡本はそう言い終わるが早く

ジャケットから金色をした電子辞書型の変身機器、

DEADチェンジャーを取り出し、構えた。




《Hello world!! Excuse me?

 Answer、Answer、Answer、Answer・・・》


「シング・アゲイン!」

《Certified!!》


岡本はすかさず腰の専用バックルにチェンジャーをセット。


《Forcible execution!!

 Identify your identity!!》




専用バイクから無数のアーマーパーツが飛び出し、

岡本を金色の龍を模した戦士、

クリエイター・ノヴァイへと変身させた。




陽遊ようゆう はじめ

 悪く思うなよ?」

ノヴァイは腰の鞘から白く細い剣を、

バイクのハンドル横部から刃が四角い形状の

青い剣をそれぞれ引き抜き、

二刀流の構えを取る。


「岡本さん、このヴァイス・ゼロを倒せるんですか?

 最強のローズ・ブレイカーを!!」

ゼロは羽ばたき、宙から足が離れた次の瞬間、

金色の戦士ノヴァイへと向けて一直線に接近を開始した。


「最強のローズ・ブレイカー・・・か。」

岡本は両手の剣を握り締め、

宙から迫り来る紫色の悪魔を見据える。


ゼロは拳に加速の勢いを乗せ、

ノヴァイへと迫るが、

ノヴァイは身体を捻りながら、手にした剣で円の軌跡を描き、

受け流すようにゼロを切り裂いた。




「くっ・・・!!」

片翼を切り裂かれたゼロはバランスを崩し、

不慣れな様子で地へと降り立った。


「甘いッ!!」

ノヴァイは背後に降り立ったゼロへと急接近し、

2本の剣を連続で叩き込む。

剣は不規則な軌跡を描き、

次々とゼロの正面へと刻まれていく。


ゼロは両手の拳で数回は斬激を跳ね返したが、

想像以上の威力に戸惑い、

両手を交差させて防御に徹している。




「・・・これは?」

その様子を観戦していたオーガナイザーは

不可思議そうな呟きを漏らした。


「俺様たちが攻撃を仕掛けた時同様、

 これではおそらくヴァイス・ゼロは倒せないな・・・。」

「いえ、ヴァイス・ゼロは体力を消耗しています。」

「何?」

リヴァイアサンはオーガナイザーの方を向き返る。


「原因は不明ですが、

 ヴァイス・ゼロは追い詰められています。

 ・・・岡本おかもと 龍星りゅうせいは一体どんな手を?」




「くそっ!!俺にはお前に負けない力があるはずだ!

 何で、何でこんなにダメージを感じているんだ!?」

「その理由は・・・」

ノヴァイの斬撃が一瞬だけ止んだと思いきや、

彼は2本の剣で同時に敵を斬り付け、

ゼロを衝撃で突き飛ばした。


「俺の方が”特別な存在”だから、だろうな!!」

ノヴァイは瞬時に腰のバックルに取り付けていた電子辞書型機器を開き、

コマンドを入力した。


すると、数秒ほどで上空に彼の専用ヘリコプター、

邪双空機じゃそうくうきハイ・ビブラートが到着し、

何やら棒状のアイテムを落下させた。




ノヴァイは手にしていた2本の剣を投げ捨てると、

頭の上から落ちてきた長さ2mほどのウェポンを握り締めた。


「これが、伊集院いじゅういんが俺のために開発した専用武器、

 邪双神剣じゃそうしんけんDPリゲイナーだ!!」

棒の両端に剣先が付いた”長刀なぎなた”という武器を模した武器。

持ち手部分が黒く、刃部は紫色という、

禍々しい配色になっている。


「それが・・・それが何だって言うんだよ!!

 世界が味方する俺はもはや最強なんだあああ!!」

叫びながら突進してくるゼロを、

ノヴァイは無情にも静かに切り裂いた。


「この野郎ッ!!」

必死に拳を突き付けるゼロであるが、

ノヴァイは華麗な動きでそれらを全て避け、

確実に攻撃を打ち込んでいく。


ノヴァイは隙を見抜き、

腰のDEADチェンジャーにコマンドを打ち込んだ。

と、再び、彼の頭上のヘリコプターから

黒い塊が落下してきたのだった。




「あ、アレは・・・!」

その声をあげたのはゼロの方であったが、

彼を突き飛ばしてその武器を手にしたのはノヴァイであった。


その武器とは、漆黒の斬馬刀ざんばとう

無双神刀むそうしんとうDSアゲイン。

何を隠そう、伊集院いじゅういんの武器である。




ノヴァイは長刀なぎなた斬馬刀ざんばとうをそれぞれ左手、右手に握り、

既に弱り切ったゼロを見据えた。


「なんで・・・なんでお前は俺に攻撃できるんだ!?

 おかしい!!この神にも等しい俺にいいい!!」

陽遊ようゆう はじめ。お前にも分かるように言えば、

 ”特異点”とでも言っておこう。」




・・・衝撃的な光景を前に、

黙って観戦していたオーガナイザーは

なるほど、というような様子で腕組みを解いた。


「そういう事ですか・・・。」

上戸鎖かみとくさり、どういう事だ?」

リヴァイアサンが問う。


「かつて世間を賑わせたブラッディ・オーバーキラー、

 すなわち改木かいき 宏太こうたは未来人でした。

 しかし、彼はこの時代で息を引き取りました。

 あの岡本おかもと 龍星りゅうせいに世界を託して。

 ・・・もしも、仮に、”世界”という概念的な意思が存在するとすれば、

 未来を知っている改木かいきを失った世界は

 新たにその”未来を知っている”という特性を持った人間を

 代理人として承認しなければ成り立たない・・・。

 改木かいきから未来の様々な情報を得た岡本おかもと

 その代理人、すなわち”特異点”として承認されるに値する・・・。」

「何を言っているのかさっぱりだが、

 要は、岡本おかもと 龍星りゅうせいの存在は、

 この世界において一般人とは異なる、特例的なものとなった。

 そういう解釈で問題ないか?」

「まぁそんなところで良いでしょう。

 あくまでも、私の仮説ですが。」






「ぐああああッ!!」

ゼロは連撃によるダメージに耐えられなくなり、

近くに生えていた太い木に寄り掛かった。


「単純スペックの殴り合いであれば、

 ゼロでは俺に勝つ事はできない。

 逆に、お前がアリエス・ギャランティアーなら負けていたがな。」

そう言いながらノヴァイはゼロにゆっくりと歩み寄る。


「・・・俺は・・・俺は・・・ただ平和な世界を・・・。

 元の、平和な世界を望んだだけなのに!!

 それなのに・・・。」

ゼロは木を殴り付けるが、もはや粉砕する力すら残っていない。

今の彼の身体能力は普通の人間と同じくらいだろう。


「平和な世界は俺が創り上げる。

 必要不可欠な”排除”を以て。」

ゼロこと、陽遊ようゆう はじめには、

岡本の思想が大きく変動しているという事実に

気付く余裕はなかった。


「お前のアイデンティティーを・・・」

ノヴァイは長刀なぎなたを振り上げると、

何かを呟いた。

が、彼の意思は決して揺らぐ事など無かった。


「・・・確立しろ!!」




長刀が振り下ろされた次の瞬間、

一瞬だけ世界が真っ白に変色し、

周囲の生物たちにとっては時間が止まるような感覚に襲われた。


だが、その拘束も瞬間的であり、

世界はすぐに元の色を取り戻した。








「・・・一体、何が・・・?」

オーガナイザー、リヴァイアサンは周囲を見渡すが、

特に異常な様子は見られない。


「何が起きたかは分からないが、

 何かが起きたのは事実、だな。」

「・・・そのようですね。

 しかし、何やら記憶が曖昧な感覚が心地悪いです。

 私たちは先ほどまで何と戦っていた・・・?」

リヴァイアサンは言葉に詰まる。


「・・・俺様たちはバーバレス日本支部を消すために

 ここに来たんだろう?

 ならば、バーバレスの何者か、に違いないが、

 それに関しての情報が頭の中から消えている錯覚に陥る。」

「奇遇ですね・・・。

 私も同じ状況ですよ。」

「・・・岡本おかもと 龍星りゅうせいも同じ場にいたよな?

 ヤツはどこへ?」

周囲を見ても、岡本の姿は見当たらない。




「岡本は”特異点”という解釈までは終わっていたはずですね。

 しかし・・・その力でどんな敵を倒したのか、という事は不明。」

「・・・一度、道を戻って皆と合流すべきだろう。

 その前に、バーバレス基地の内部くらいは確認しといてやるか。」

リヴァイアサンはそう言い、

草木に紛れて空いている巨大な穴を指差す。


「これだけの騒ぎになっていて

 内部に残っている団員はいないでしょうけど、まぁ念には念を、ですか。」


2人はそのまま、

数メートル先の大穴へと向けて歩き始めた。






・・・先ほどまでの”悪魔”との戦いを

記憶から完全に抹消され。















@最終話 「掟破りの終焉」 完結









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