@第3話 中二力、解放!!
@第3話 「中二力、解放!!」
「ほ、本日、案内をさせていただく事になっている
中田 改と申します。
よ、よろしくお願いします!」
受付の指示通りアブソリュート・アーツ社のエレベーターで
8階まで上ったところ、
開いたドアの前に随分とオドオドしていて、
おそらく身長180cmはあるだろうと思われる
長身で白衣姿の男が突っ立っていたからビックリさせられた・・・。
「あ、はい、よろしくです。」
「早速だが、私の知人でもあるその研究室長に会わせてくれないか。」
藤原先生が切り出す。
「か、彼は僕と同じ「フォーサー対策関連研究室」の研究室長なんですけど、
今は・・・不在です・・・。」
え・・・?
呼んでおいて自分がいないの!?
・・・しかもその「フォーサー対策関連研究室」って何?
もしかして、人違いってヤツか?
「あの~、その研究室長さんが
面会を求めている人間の名前って分かりますか?」
「えっと・・・・・た、確か「陽遊 基」君でした。
岩手県の山村高等学校の生徒さんの。」
ばっちり合ってる・・・。
じゃあ、そのフォーサーなんちゃらの事で俺に用があるって事か?
・・・フォーサーってさっき新幹線の中で見たような
HR細胞で進化した怪人の事だろう・・・?
対策って一体何するんだ?
「ぼ、僕は今日もう1人のお客様の接待係にもなっていますので、
もう1人の方にお茶とか出してきますね・・・すみません・・」
オドオドノッポの中田さんが終りが見えない長い廊下を
小走りで進んでいった。
「・・・・・私達はここで立ちっぱなしか・・・?」
「とりあえず、中田さん追いかけてみましょうか。」
中田さんが進んでいった方向に俺達も急ぐ。
長い廊下には規則的にドアが並び、各々の中からは
打ち合わせをするような話し声や、
PCのキーボードをタイプする音が聞こえてくる。
これが大会社の仕事場・・・。
いずれも楽しげな様子は感じられず、殺伐としている。
「ちょっと!」
「あ、すみません・・・・」
俺たちが進んでいった先にあるドアの一つから中田さんの声が聞こえてきた。
ここの部屋内にいるらしい。
直接は見えないけど、中の様子が鮮明に伝わってくる。
「普通、お客様には「お茶」と「和菓子」でしょ?」
「す、すみません!」
・・・贅沢なお客様だな・・・。
外部から来ておいてからに自分で指定するなんて。
「「インスタント味噌汁」と「ご飯」持ってくるバカいるの!?」
「す、すみません・・・お茶が見当たらなかったので
お腹の足しになるものが良いと判断し・・・・」
何だ・・・?
中で何が起こっているんだ?
「・・・んで、龍星は?」
「い、いません・・。」
「ちょっ、私は何のためにここ来たのよ!?
しかもこの緊急事態に・・・。
まさか・・・あの試作を早速起動させたの?」
「し、試作って『究極海神アバランチ・ピスケス』の事ですか?」
「当たり前でしょ。
私のジュエルエレメンツとアブソリュート・アーツ社共同開発の。」
部屋の中では、中田さんの声と高い女性の会話が交互に聞こえてくる。
異常に仲が良さそうだから、お得意様ってヤツ?
「と、とりあえずその件で例の
陽遊 基君に来ていただいています。
あ、会いますか?」
「そうね。出来るだけ早いほうが良いから。
・・・早速、さっき青森発の新幹線で何かあったみたいだし。」
「・・・あ!!しまった!!
エレベーター前に彼らを取り残してきました・・・。」
「何やってんのよ!?」
「い、今すぐに連れ」
「大丈夫です。ここにいます。」
俺は木製の高級そうなドアを右手で押し、中に入った。
室内には案の定、接客用の高そうな長机、椅子が並べられ、
そこに足を組んだ小柄な女性が深く腰掛けているのが目に入った。
白いスーツに上下を包み、ピアスや髪飾りなど、
全身にアクセサリーを散りばめている。
「よ、良かった・・・。
こ、こちらが陽遊 基君と
先生の藤原 玲二さんです。」
「・・・ちょっと!私の紹介は?」
「あ、すみません・・・。
こちらの女性は『株式会社ジュエルエレメンツ』社長の
瑠璃川 琥珀さんです。」
ジュエルエレメンツと言えば、
約1年前に中国で発見された新種の鉱石を精錬して得られる新素材、
パーフェクトメタルを日本で唯一独占輸入している有名な大会社だ。
その社長が今ここにいるのか!?
「どうも初めまして。基と申します。」
「あぁ、よろしくね~」
「・・・ってかジュエルエレメンツさんも俺に用があるんですか?
一体何の用で・・・?」
「な、なら僕の方から説明させ」
「いえ、私が説明してあげましょう。
・・・まぁ、一言でまとめると
変身してフォーサーと戦って!ってこと。」
・・・ちょっと待て。
つまり俺が仮○ライダーにでもなって
フォーサー達と戦闘しろという事か?
・・・わざわざ俺が岩手から東京まで呼ばれる必要があったのだろうか。
俺はペン回しの公式テスターになるためにここに来たはず。
そんなの答えはノーに決まっている。
どう考えても危険だろう。
「まぁ、それはまとめすぎな訳でして、最初から話すと、
6ヶ月前のあの赤いフォーサーの大量虐殺事件の直後、
ある人の提案でこのアブソリュート・アーツ社に
『フォーサー対策関連研究室』っていうのが設置されて、
どうにかしてフォーサーに対抗しようって話になったんだけど・・・。」
フォーサーに・・・対抗?
「どうやってその「動力源」を作ろうかって事になったのね。
ジュエルエレメンツがパーフェクトメタルを使って提供出来る
非常に強固なアーマーがあったところで
普通の人間の力だけではフォーサーに対抗するのは難しい。」
そりゃあそうだろう。
並みの人間の力しかないヒーローなんていないからな。
そんなのヒーローじゃない。
「そこでここの研究室長が、ほぼ独自で新しい開発をした。
その動力源問題を解決するためのね。」
・・・それは、なんだ?
言わば、人間にヒーローのような力を与えてくれるという事か?
「本人曰く、『チューニドパワーシステム』。
本来、人間は神経によって常に力を抑制された状態にある。
・・・火事場の馬鹿力っていうじゃん?
アレは緊急事態のために脳がうまく力を抑制できなくなる現象なの。
そのおかげでお婆さんがピアノを持ち上げちゃったりもできるって訳。」
なんかどっかで聞いた事がある話だ。
教養番組っぽい感じのTVだろうか。
「チューニドパワーシステムは、その名のとおり、
『中二病』を戦闘に活かそうとするシステム。」
・・・中二病?まさか・・・。
「中二病患者・・・っていうか単にカッコ良い言葉が大好きな人は、
その言葉に対して持つイメージが人一倍大きい・・・らしいよ。
研究室長ってヤツが言うには。
そのカッコ良い言葉を聞いただけで脳が興奮するっていう特性、
つまりは「簡単に脳の抑制を無効化する」
ことができる特性を活かし使用者を攻め込んで、
人間とは思えない力を発揮させる事ができるシステム。
それが『チューニドパワーシステム』!らしいよ・・・。」
・・・なるほどな。
要は中二病効果で本来掛かっている身体のリミッターを解除し、
それによって解放された力でフォーサーと戦うって事だな。
「別にレボリューショナイズ社のHRSみたいに
体に対しての特別な治療とかは要らない。
特殊な加工をしたヘルメットをかぶるだけで、
後は中二単語をイメージすれば簡単に力が出せる・・・らしい。
そもそも、このシステムは『極度な』中二病患者じゃないと
うまく起動出来ないらしくて、
私も試作品で試してみたんだけど全く普通と変わらなかった。
ここの他の研究員の人も同じ。
ただ・・・まったくの皆無ってわけではない。
これまでにも全国からごく数人、その選ばれた中二病の人はいる。」
・・・やはり。
ロイヤル・ハイパワード・チューニクス(RHC)は
周囲を見渡せば俺だけではない。
が、俺ほどの力を引き出せる人間は・・・。
「フッ、まさに俺のためにあるシステムじゃないですか!」
「え?」
「俺のロイヤル・ハイパワード・チューニクス(RHC)としての素質を
社会に知らしめる・・・そのためにはこの上なく好都合な状況!!
この重大なチャンスを逃すとお思いですか!?」
俺はついつい意気込んでしまい、立ち位置から一歩踏み出し叫んだ。
するとちょうどその右足がテーブルに命中し、
先ほど中田さんが瑠璃川さんへと用意したご飯とみそ汁の器が
危うく机から落ちそうになった。
「・・・ま、まぁいいんじゃないかしら・・・。
あなたならチューニドパワーシステムに適応出来そうだわ。
見た感じはね。」
「ならば、早速試させてください。」
「じゃあここからは専門の中田君に頼もうかしらね。」
「は、はい。
で、では地下の実験施設でテストプレイを開始します。」
そう言って中田さんが俺に突き出してきたのは
・・・動物の顔を模したヘルメット?
紫を基調とし、大きく曲がった2本の金色の角が
額ら辺からバックまで長く伸びている。
これは・・・羊・・・かな?
「こ、これが黄道12星座をモチーフとする
『中二宮Xレア』シリーズとなる
『幻想覇者フィースネス・アリエス』の頭部分です。」
「あ、ちなみに『中二宮Xレア』っていうのは、
そのチューニドパワーシステムの技術と
私の会社のパーフェクトメタルを使って作られた
対フォーサー用パワードスーツのことね。」
ちょっと俺さぁ・・・『射手座』なんだけど・・・。
どうせならその位は合わせてほしかったな。
もうちょっと頑張れよ!
「こ、このヘルメットをかぶってもらい
詳細なデータ測定を実施します。」
―――――そして、数分後―――――
「で、ではスーツの準備が出来ましたので、
こちらをバックルへと装填してください。」
アブソリュート・アーツ社地下の実験ルームへと移動した後、
俺は腰へとバックルの部分が妙に大きいベルトを巻かされた。
中田さんが持ってきたのは、そのバックルへと装填するための
専用タブレットだった。
画面の大きさは5インチ程度、だろうか。
俺のスマホとほぼ同じ大きさだ。
「これで・・・変身が出来るんですか?」
「は、はい。バックルへと装填すると自動で
基さんの身体を一時的に守るための対物理障壁が展開され、
その瞬間、全身にアリエスのアーマーが装着されます。
ちなみに・・・。」
中田さんは先ほどから俺の背後にあった紫色のバイクを指差す。
「こ、こちらが幻想覇者フィースネス・アリエス使用者専用マシン、
『シープ・ホーン・フィース(SHF)』です。」
見るところ大型二輪だろうか。かなりデカい。
色は全体的に、さっき見たヘルメットと同じ紫と金色の配色で、
あちこちが何だかゴツい。
どう見ても異様なデザインになっている。
・・・アレ?
こっちのバイクの方から出ている角は羊っぽくなくて、
何故か真っ直ぐだな?
「ま、前部分には専用武器、
『オヒツジ・ザ・ランス』が収納されておりまして、
引き抜く事で槍へと変形して戦闘に用いることが可能となります。
ちなみに、この武器はバイクの見えないところまで
押し込んで完全に内部へと収納する事も可能です。」
なるほど!
槍になるから真っ直ぐなのか!
ちなみに、俺は現17歳でバイクの免許をちゃんと取得している。
5年以上前だったら出来なかったが、
現在は15歳から全種バイク免許が取得可能となっているため、
俺も親に指摘されて一応高校1年生の春休みに取っておいた。
日々の山村高等学校への通学にもAT小型の普通二輪を愛用している。
「へ、変身の際、対物理障壁内にあるこのバイクの
シート下部分に入っているアーマーを自動で装着する、
という形になるので、
このバイクが近くにないと変身そのものが出来ません。」
アーマーのパーツはバイクに収納されている、という事か。
何だか面倒臭そうだね・・・。
「で、ではそろそろアーマーを装着してください。
タブレットをディスプレイが前になるように
右側からそのバックルに装填すると、
全身がアーマーで覆われます。」
ついに・・・試す時が来たのだな。
俺の、RHCとしての真の実力を・・・!!
「分かりました。」
俺はそのタブレットを左手に持ち、
そのまま左腕を体の真横に伸ばした。
そして、すぐに左腕を縮め、タブレットを顔の右横に持っていき、
自分側にタブレットの背面が見えるように構える。
ここで変身の決め台詞を忘れずに。
「・・・パワード・オンッ!!」
タブレットの向きを変えずにそのまま左手をバックルのすぐ右横へ。
そこで空いていた右手の平で素早くタブレットを弾き、
バックルへの装填が完了。
・・・ここで油断してはならない。
すぐに爪を立てるかのように両手の指を曲げ、
そのまま両手の平が上になるように両腕を気持ち軽く上げる。
首は視線ごと上に上げ、まるで天を見上げるかのようなポーズを取る。
その時、俺の体にアーマーが装着され・・・・・。
「あ、すみません・・・。
それは僕の私物のスマホでした・・。
盗難などの対策で外見を一般のタブレット端末に似せているんですよ。」
中田さんが慌てて背後の作業用机を探索しだした。
俺は何の変化も無いまま変身後のポーズで固まっている・・・。
「あ、これです!い、今すぐに装填し直しますよ!」
中田さんは固まった俺の腰に付いているタブレットを取り外し、
本物らしきものと素早く摩り替えた。
すると、突然、背後に停めてあったバイクのシートが勢いよく開き、
中からジュースのアルミ缶のふたサイズのユニットが4つ飛び出してきた。
中田さんは慌てた様子で俺との距離を取る。
すると、その4つの飛行ユニットは俺の体の前に不思議な形に並び始め、
すぐにその各々から電撃のようなものが出力されて
4つのユニットが相互に繋げられた状態となった。
・・・これは、俺とは逆の方から見たら牡羊座の形になる。
さすがに、なかなか凝っているな。
すると、その電撃は俺の体を包み込むように広がり、
やがて俺の体に次々とアーマーが装着され始めた。
みるみるうちに身体が重くなっていく。
そして先ほど8階の応接室で見せられた
羊の顔の形をしたヘルメットが前方から顔に被さった。
「ん?これで完成か?」
俺が周囲を見回すと同時に、俺を囲んでいた電磁バリアが消滅し、
4枚の飛行ユニットはバイクのシート内部へと帰っていった。
「そ、そうです!基さんが今装着しているアーマーが、
フィースネス・アリエスですよ!」
「すみません、鏡は無いですか?」
ヘルメットをかぶっているために視覚は
ヘルメット内部のモニターへと変更され、何だか慣れない。
しかもそのモニターには何やら色々な情報が並んでいて、
更に視界が狭まっているような気がする・・・。
大丈夫なのかこれは?
「えっと・・・か、鏡はこちらになります。」
中田さんが室内の壁の一部分を触ると、
そこには水面のように輝くエリアが一部出現した。
壁と一体化した鏡なんてものがあるとは、いかにも研究室っぽいな。
「・・・これが、アリエスですか。」
俺が自らを鏡へと映してまず思った事は、
予想よりもかなり本格的で立派な装備だという事だ。
某戦隊のような全身タイツとは比べ物にならない。
全身が堅そうな装甲で覆われ、
肩や胸の辺りからは羊の角のような金色の湾曲したパーツが伸びている。
・・・よく見れば、両肩と胸に羊の顔がデザインされている。
頭部のヘルメットも細部まで作りこまれており、
外見だけ見るとまるで自分がフォーサーになったように思えた。
「い、今はアーマーのせいで体が重いはずですが、
チューニドパワーシステムによって脳を中二力で活性化させれば
軽快に動けるようになりますよ。」
そう言えば、そういう話だったな。
さて、では、手始めに・・・。
最強クラスの中二単語of地理。
「グレート・・・ディヴァイディング山脈ううううう!!」
俺の声はスピーカーを通して外部へと聞こえるらしく、
目の前の中田さんが俺の声量に驚いているのが見えた。
そして声を張り上げると同時に、何だか体に異常な力が入ってきた。
・・・一番は、腕の震えが止まらない。
近くにあるものを何でもかんでもぶん殴りたくなってくる。
ちょっとヤバくねぇか、これは?
「中田さん、何か思いっきりパンチして良いものありますか?
ちょっとヤバいっす!」
「え、えっと、それは困ります!
そ、そのアーマーは対フォーサー用につくられているので、
おそらくパンチ一発でビルの外壁も壊れちゃう威力ですよ!」
それはマズいな・・・。
しかし、この破壊衝動は何だ?
身体が言う事を聞かないとはこういう事か?
身体が・・・疼く!!
「とりあえず変身解除しないと何かしら壊しちゃいそうです!
早く解除方法を教えてください!」
「ば、バックルのタブレットを抜いてください!
それで変身が解除されます!」
俺は急いで腰のバックルに手を掛けた。
どうせなら変身を解く時のカッコ良いポーズも欲しいが、
今はそんなものを考える暇はない。
このままでは、下手すればこのビルを倒壊させてしまいかねない。
「あれ?取れないんですけど!」
手が腕ごと痙攣してうまく引き抜けない。
中田さんに抜いてもらっても良いが、
今あの人を俺に近付けると極めて危険だ!
フォーサー退治の前に中田退治をしてしまったら
笑い話では済まされない。
「え、えっと、えっと・・・。」
中田さんが頭を両手で押さえて悩み出す。
・・・これはマズい!
その時、俺はふと背後に何かの気配を感じた。
後ろを振り向くと、
中田さんと同じように白衣を着た天然パーマの男性が立っていた。
いつの間に後ろに居たのかな?
「・・・・・。」
その男性は無言で小型リモコンのようなものをこちらに向けた。
・・・なるほど。
次の瞬間、俺の腕に掛かっていた力が抜けた。
同時に全身が元の状態へと落ち着くような感じがした。
やっぱり、緊急停止装置か。
「中田、この程度でパニックに陥るとは、呆れるぞ。」
「か、蔭山さん!」
蔭山と呼ばれた男はため息をつき、すぐに俺の方を見る。
「私は蔭山 神門。
フォーサー関連対策研究室のメンバーだ。
お前は基と言ったな。
このアブソリュート・アーツ社は国防省から許可を得て
対フォーサー用アーマーを開発している。
つまりお前が着ているそのアーマーは危険物、
他人を簡単に殺す事ができる凶器に他ならない。
決して、使い方を間違えるな。」
「あ、はい・・・。」
そう言い、俺は黙ってバックルの端末を抜いた。
すると、再び俺のすぐ横のバイクのシートが開き、
中から例のふたが4枚飛んできて、俺の前に整列する。
すぐさま俺の身体を覆っていたアーマーは消え去り、
ふたごとバイクのシート部分へと収納された。
「このバイクはアーマーごとお前に預ける事になっている。
が、現在の力を制御できない状態では
当然ながら一般人をも危険に晒す事になるだろう。
とりあえずは、練習が必要だな。」
蔭山さんという人が腕組みをしながら俺を鋭い視線を向ける。
「で、でもさっきの身体を突き動かそうとする凄い力・・・。
基君の中二力は本物ですよ!
あ、安心して幻想覇者フィースネス・アリエスを預けられる・・・。」
あれ?
気付いたら俺がフォーサーとの命懸けの戦いに参加することが
勝手に決定してるんだけど・・・?
「あの俺は・・・」
「そ、そうでした!
こ、ここからバイクで数分移動したところに戦闘訓練場があるんです。
そこでとりあえずアリエスの特訓をしましょう!」
「ちょっと!」
・・・ぶっちゃけそんな
皆の代表で俺が犠牲になって戦うっていうのは・・・。
「あの・・・俺が戦いたくないって言ったらどうしますか?」
「え?」
「・・・だってこれって俺が犠牲になってフォーサーと戦えって事ですよね?
もしかしたら死んじゃうかもしれないんですよね?」
「そ、それは誤解ですよ!」
「だって・・・あんな怪人達と戦うなんて!」
「あ、あくまでも基さんには自分の身を守るための「護身道具」として
中二宮Xレア、フィースネス・アリエスを使ってほしいのです!
ほ、本日岩手でもフォーサーの存在が確認されたところですよね?
も、もしも基君がフォーサーと遭遇した際に
ヤツらと戦える手段があったとしたら・・・。」
・・・あ、そうなの?
だったらむしろ逆に俺の生存確率が上がるんじゃないか?
「だったら、俺に関係ない人が殺されそうになっているのを見過ごしたとしても
文句は言えないですよね?」
「ま、まぁそうなりますね・・・。」
「・・・よし!今回の件、引き受けましょう!」
「あ、ありがとうございます!
こ、これで研究室長も喜びますよ!」
「早速詳細な使い方とかを教えてください。
その戦闘訓練とやらで。」
―――――その頃、岩手の北川高校では―――――
「クッ!これほどまでの戦闘能力を誇るとは・・・。
しかもあの毛皮のせいで
俺の化学物質攻撃が本体にまで届かない・・・。」
全身が黄と朱の液体が混ざったような容姿をしているフォーサー、
バルガインタリ13が怯む。
「この、ザフラストレイター様にはそんなヘボい攻撃は効かないぞ!」
ザフラストレイター、と名乗るフォーサーは、
銀色の熊の毛皮が鋭く長い針状になったような容姿をしている。
時折、自在に全身の毛皮を起伏させ、
バルガインタリ13が飛ばす溶液をその針で受け止める。
「・・・やはり「戦い」は最高だなァ。
どうだ?俺のこの全身刃体は?
全身の刃で対戦相手の攻撃を防ぎつつ距離を取り、
自身もその刃を使った遠距離攻撃が可能。」
「・・・これ以上、俺に手はない。
大人しく負けを認めようか・・・。」
「あァ?俺の対戦相手になったヤツに降参は許されないぞ?」
銀色の熊はバルガインタリ13へとじわりじわりと近付く。
「何!?
降参は許されないって、まさか・・・?」
「当たり前だろ?
お前が「死ぬ」まで戦い続けてやる。」
「な、ならば俺様達の仲間になれよ!
フォーサー同士で殺しあうなんてみっともないだろ!?
それならば仲間になって「ヤツ」に協力を申し出たほうが・・・」
「みっともない・・・だとォ?
フォーサーってのは皆戦うのが本望だろ?」
「ち、違う!!今すぐ考え直せ!」
「あんまり俺を「イライラ」させるなよ・・・?」
「や、やめろぉぉぉぉ!!」
―――――その日の夜―――――
都内某所では、1人の男が薄暗い部屋で
何者かと通話を行っている。
「・・・本日、私の指示により、我が配下にある計5体のフォーサーを
全国で自由に暴れさせました。
これによりレボリューショナイズ社の評価はさらに下がる事でしょう。
私がレボリューショナイズ社を乗っ取るのも時間の問題です。」
『・・・いや、そうもいかないかもしれん。』
「・・・なぜですか?」
『新たな『ローズ・ブレイカー』の出現が確認された。』
「人間の力を超える、つまり「掟(Laws)」を「破る者(Breaker)」ですか。
私のフォーサー以外にもこの日本でローズ・ブレイカーが発生したと?」
『その情報がまだお前に入っていなかったとでも言うか?』
「・・・情けないながら、そうですね。
しかも、今日、
暴動を起こさせたフォーサーのうち3人は連絡が取れず、
困っていたところではありましたが・・・。」
『我々の掴んだ情報によると、
自称『究極海神アバランチ・ピスケス』という
ローズ・ブレイカーが出現したらしい。
それにより、少なくともお前の部下1人は倒されたと考えた方が良い。
しかし・・・お前ももう少し情報収集能力を上げたらどうだ?』
「・・・今後は気を付けます。」
『お前たちフォーサーの技術には期待しているのだ、分かるか?
上戸鎖?』
「・・・いずれ時は来ます・・・。
私がいかにあなた方にとって有用か、よく理解できる時が。」
『それはよろしい。楽しみにしておこうか。
では今日はこの辺で失礼しよう。』
その直後に電話は切られた。
@第3話 「中二力、解放!!」 完結