@第34話 世界を変える準備が整った。
@第34話 「世界を変える準備が整った。」
・・・この俺、陽遊 基は
専用アーマー、夢幻貴王アリエス・ギャランティアーを装備し、
森の奥にあると思われるバーバレスの基地へと単独で接近していた。
アリエスにはジェットパックで飛行する機能が付いているため、
地面の状況を気にせず森の中を進行する事ができるが、
左右から生い茂る木々が邪魔で快適にフライトを楽しめない・・・。
しかも、普通に考えて、
俺はこれから単独でバーバレスの基地に乗り込む事になるから
ちょっとは身の危険を考える必要もある。
・・・さすがの俺でも少し冷や汗をかく程度には
緊張感が増してきたその時、
視界に、違和感を覚えるものが映り込んだ。
「何だ!?」
思わず一人で叫んでいた。
目の前に現れたものは、木々を踏み倒しながら
森の中を進行する高さ10mほどの化け物・・・。
赤い体色で、上半身は怪獣のような容姿。
クモの様な6本脚を動作させ、
地響きを伴いながら進んでいく。
・・・どう考えてもバーバレスの兵器である事に違いない。
もしや・・・これがラスボス戦という事か?
普通のバトル漫画の展開だと、
俺があのデカブツと戦って、惜しいところまでいって、
デカブツが突如覚醒し、その時俺の仲間たちが駆け付け、
みんなで倒してめでたしって感じか。
・・・いや、何もテンプレに乗っかる必要はない!
ここで俺があのデカブツを1人で倒してしまえば
ここに1つの例外を生み出す事ができる!!
さすがに恐怖はある。
でも、それ以上に、ラスボスに挑めるワクワクの方がデカい気がする。
もうここまで来たら多少おかしくならないと
やってられないようだ。
「オラッ!!」
俺は腰の6本槍のうち1本を引き抜き、
ブーメランの様に放り投げる。
機械を操るフォーサーの能力を駆使し、
その回転する槍を自在に操り、前方50mほどのデカブツへと命中させた。
しかし、その槍は堅そうなボディに擦り傷程度の傷を刻んだのみで、
すぐに跳ね返され、こちらに戻ってきた。
俺が槍を掴むとほぼ同時にそのデカブツは進行を中止し、
ゆっくりと上半身を回転させて俺の方へと向き返る。
もはや隠れる意味なんてないから、
俺はジェットパックで木々の上まで飛行して
自分の姿を直で見せ付けた。
「・・・私の邪魔をする気なの?」
そのゴツい機械から響く様に流れてきた声は
あまりにも可愛らしい女性のものだった。
普通に考えるとアレを操作しているのが今の女性なんだろうか?
「フッ、俺はこの世界を変える者!!
夢幻貴王アリエス・ギャランティアーだ!!」
「・・・私はアンブレラ。
今からこの世界を跡形もなく消滅させるための行動に出る。」
・・・消滅だって?
「バーバレスは世界を救うための組織なんだろ?
なんで消滅させるんだよ。」
「バーバレスの意向なんてどうでもいい。
今の私はどの組織にも属さず、
自分の意思で行動する。」
・・・つまり”裏切り者”って事か?
「何があったか知らないけど、
俺の目的の邪魔になりそうなお前は
始末する必要がありそうだな。」
俺は、元のローズ・ブレイカーがいなかった、
皆が平和ボケして、安心して中二病でいられる世界を創る。
そのためにここまで来たんだ。
「目的があるだけ、あなたは立派なんでしょうね。
私にはもう何もない・・・何も・・・」
アンブレラと名乗った女性は
だんだんと元気が無くなっていくのが分かった。
何か大切なものを失ったっていうのは分かったけど、
それで世界を消滅とかキチガイすぎる。
「私は本能で気晴らしをしているだけ・・・。
ここであなたが私を殺せば、世界を救えるだけでなく
私も救われる。
さぁ、早くこのGMギガンテスを倒してみなさい。」
そう言うが早く、GMギガンテスという怪獣型メカは
口を開き、中に搭載された多量のマシンガンを掃射し始めた。
・・・この女はやっぱりおかしい!!
ラスボス戦って言ったら
最初は口論になってから「それでも俺は戦う!!」
みたいな感じで戦いが始まるのに、
こんないい加減な始め方は勘弁してほしい。
「俺は手加減しないし、
お前を助けようとも思ってないからな!
後悔するなよッ!」
俺に向かって飛んでくる大量の銃弾に向け、
6本の槍を次々と放つ。
―――――その頃―――――
「くっ!!」
伊集院が変身するドミクロン、
及び岡本が変身するクリエイターノヴァイは、
バーバレス最強の敵、時柳宋 衛久守こと
ノウベタザンとの戦闘を繰り広げていた。
ドミクロンはノウベタザンの2本の槍の連撃に跳ね飛ばされ、
草木の地面を転がった。
それを見てノヴァイが両手の剣を構え、斬り付けるが、
高速移動で背後に回ったノウベタザンの蹴りを背中に食らい、
ドミクロンと同じように倒れる。
「・・・このままでは勝ち目が無いか・・・。」
伊集院は圧倒的なノウベタザンの強さの前に
畏怖している。
しかし、岡本は諦める様子などなく、
すぐに立ち上がり、前方の敵を見据えた。
「俺にはいくつかの手がある。」
「そのうちの一つはクリエイターノヴァイの専用武器か?」
ドミクロンは立ち上がってノヴァイと並んだ。
「あぁ。アンタの開発したアレだ。」
「邪双神剣DPリゲイナー。
使用者の精神に干渉し、多大な負担を掛ける代償の代わりに
反応速度を一時的に、大幅に引き上げる。
・・・確かに、可能性はあるだろう。」
かつて、ゲーム内の話ではあるが、
岡本はこの体感速度を低下させるスキルを使用し、
開発者である伊集院を破った事がある。
「お前たち、いつまでゴチャゴチャと話している?
こちらから攻めるのは無慈悲であるから
こうして倒れるのを待っているというのに・・・。」
岡本も、伊集院も、
ノウベタザンが手加減をしているという事は気付いていた。
あくまでもノウベタザンの狙いは伊集院を殺害する事であり、
岡本はその加担者であるという認識なのだろう。
戦い方を見ているに、ノウベタザンは岡本を殺害する気がない。
「その余裕が無くなる程度には追い込んでやるぞ?」
岡本はそう言い、地面を蹴り放った。
2本の漆黒の槍を構えるノウベタザンへ向かって
まっすぐに突き進んでいく。
岡本のノヴァイが装備している2本の剣は
片方がノヴァイ用の武器である白い剣、ストライクブレード、
もう片方がピスケスのウオ・ザ・ソードである。
ある程度まで接近すると、
ノヴァイは持っていたピスケスの剣を
目の前のノウベタザンへと向けて放り投げた。
当たり前のようにノウベタザンはその剣を避けると、
高速移動でノヴァイのすぐ背後へと移動し、
右手に握った槍を突き出した。
そのあまりの速さにノヴァイは
背後を振り返る余裕すら残されていないように見えたが、
彼の空いた左手には奇妙なものが握られていた。
「掛かったな?」
次の瞬間、槍を突き出す姿勢のノウベタザンは
その場でバランスを崩し、やや後退した。
背中を取った相手から不意打ちを食らうとは
さすがのノウベタザンでも予測できなかったようである。
「・・・何だこれは?」
ノウベタザンは、自分の腹部に刺さった一本の針を握り、
やおら引き抜いた。
出血などはないが、奇妙な武器である事に変わりはない。
「・・・毒矢か?」
「いや、それは体内に打ち込まれたHR細胞を破壊する
ウイルスが含まれている。」
「何!?」
岡本ことノヴァイがそう言うと同時に、
ノウベタザンは慌てた様子で全身を確認し始めた。
「お前はアメリカのZZZZZ社によって生み出され、
バーバレスによって様々な手を尽くされ戦士となった。
その過程でHR細胞を注入されていない、とは限らない。」
岡本が続けると、ノウベタザンはますます焦り、
全身を撫で回すように感覚を確かめている。
・・・時柳宋 衛久守は
自分にどのような処置が施されているかを正確には知らない。
それは岡本の予想通りであった。
しかし、事態はそう上手く運ぶものでもなかったようだ。
「俺様を脅かしやがって・・・何も起こらないぞ?」
ノウベタザンは20秒ほど経過しても
一切の変化が起きない自分の身体を確認すると、
まっすぐに視線を岡本たちの方へと戻し、
再び戦闘体勢に突入する。
「チッ・・・効果なしか。」
HR細胞というのは、打ち込む事で
身体の特定の一部を意図的に増強できるものである。
・・・こんな便利なアイテムを
万能の戦闘兵士に組み込まない訳がない。
それが岡本の考えであった。
しかし、今の実験で
時柳宋 衛久守の身体には
HR細胞が含まれていない事が判明したのだった。
「ZZZZZの情報は詳細には知らぬが、
受精卵に他の人間から採取した優性遺伝子を多数融合させ、
より優秀な人間を作る技術がある事は掴んでいた。
その優性人間に対し、下手に他の強化材料を詰め込む事は
結果の想定できない危険な検証ではある。」
ドミクロンこと伊集院が岡本の後ろから口を挟んだ。
岡本は当然の事、そういった事態は想定済みであったが、
いざ、自分の秘密兵器の一つが無効だと思い知らされてみると、
現場の緊張感は違う。
「無駄な抵抗とはこざかしい・・・。
戦いを引き延ばす意味もないか。」
ノウベタザンはそうこぼすが早く、
2本の槍を握り、地を蹴り放った。
高く跳躍し、木々の茂る上空から
2本槍を構えた姿勢でドミクロンへと襲い掛かる。
「・・・!?」
自分の背後にいる伊集院を殺す事が
ノウベタザンの目的だと知っている岡本は
自分の頭上を越えていく敵を妨害するはずであったが、
突然の衝撃に身の動きを封じられた。
「グッ!!」
岡本の背後にいたドミクロンは
手にした斬馬刀で片方の槍を受け止めたが、
もう片方の槍による追撃を腹部へと食らった。
痛みに耐えられず、その場に倒れ込む。
ドミクロンの隙を突こうと剣を振るうノヴァイの横を高速で通り抜け、
彼は元の定位置へと一瞬で戻った。
「・・・大丈夫か?」
ノヴァイがドミクロンに手を貸し、起き上がらせたが、
ドミクロンが瀕死寸前まで追い詰められている事を見抜くのは
容易であった。
「・・・私を殺せ。
ここで私が死ねばノウベタザンは撤退するだろう。
そうすれば、お前は命を繋げる。」
ドミクロンこと伊集院は苦しそうにそう告げた。
しかし、ノヴァイこと岡本がそれを聞く耳を持つ事はなかった。
「・・・今、ヤツを倒す方法を見つけた。」
「何?」
死にそうな掠れ声を上げていた伊集院は生気を取り戻し、
驚いた様子で訊き返す。
「あの化け物を倒せるとでも言うのか!?」
聞き取られないように声を抑えているが、
伊集院は完全に動揺している。
「あぁ。だが、それにはアンタの協力が必要だ。
それも、その配役は生死に関わる危険な役だが。」
岡本がそう言うと、伊集院は短い笑い声を漏らした。
「どうせすぐに死ぬ身だ。
気にするな。」
「いや・・・アンタはここで死ぬには惜しい存在だ。
どうにかして生き残ってもらう。」
「・・・フッ、良いだろう。
もし生きて帰る事ができれば、お前にカラオケでも奢ってやろう。」
「・・・変なフラグを立てないでもらおう。
それに、カラオケを悪用したアンタには誘われたくない。」
岡本の返しに短い笑いを漏らした伊集院は
さらに声を抑えて小声で問う。
「手短に作戦を話せ。」
―――――その頃―――――
「クソッ!!」
「さっさとこの世から消えろ!!」
基を先に行かせるため、
12体のコマンダーを敵に回した仲間たちは、
たった5人でその戦いに臨む事となった。
5対12、ともなれば、
勝敗は明白とも取れるが、
そうあっさりと決まるほど生温い戦いではなかった。
5人の中でも、伊集院が開発したDEADを装着する戦士、
“モガナオメガ”と”シュレディンガーニュー”は戦闘能力が特に高く、
それぞれ複数のコマンダーを相手にしても
引けを取らない。
モガナオメガは両肩から伸びるガトリング砲と
両手に備えた自動回転カッターで敵をけん制し、
2体のコマンダーを翻弄している。
シュレディンガーニューは背中のマジックハンドを自在に利用し、
3体のコマンダーを平等に相手する。
それに加え、ブラックマイスターの技術で戦うアトラクター、
“閉神ターミネイト・ロキ”は
上下ダボダボの黒い服を纏った容姿からは想像もできないほど俊敏な移動を見せ、
『目にした武器を自分の手元に生成する』という特殊能力を駆使し、
コマンダーたちの中で最も強そうな巨大な鎌と
マシンガンのような銃を左脇に抱えるようにして
3体のコマンダーを同時に相手していた。
戦闘能力的にはDEAD装着者と大差ないだろう。
そして、アブソリュート・アーツ社の裏中二宮Xレア、
“滅裂銃士ディコンポーズ・レオ”は
専用バイクを変形させた巨大なランチャーを連発し、
1体のコマンダーを集中狙いしている。
その連発される銃弾のあまりの威力に、
なかなかコマンダーは接近を許されないようだ。
最後の1人、フォーサーである”グラビティロード”は、
5人の中では最も戦闘能力が低い事を見抜かれ、
3体のコマンダーからリンチに遭っていた。
岩を模した堅い表皮のお陰で防御性能は高いが、
もはや防戦一方となり、やられるのを待つだけの状態に陥っている。
敵の数が数だけに、他の仲間が助けに来る暇もなく、
グラビティロードの命は時間の問題となっていた。
「くッ!!」
グラビティロードは草木の地面を転がり、
仰向けの姿勢で倒れ込んだ。
「・・・お前だけ明らかに弱すぎだ。」
クワガタムシを模したようなコマンダーが近寄り、
グラビティロードの腹を踏み付けた。
「私は・・・私は弱くても良い!!
私が死んでも・・・基が目的を達成すればそれで良い!!」
苦しそうにロードは言葉を吐き出すが、
もう掠れ声しか出せなくなっていたロードの声が
クワガタムシに届く事はなかった。
「私は・・・私は・・・過去のトラウマで
基を上戸鎖に売った・・・。
教え子に尽くしても・・・結局自分は損をすると知っていた。
・・・でもな・・・その基を見ていて気付いた。
教え子が必死で何かを求めるなら、
自分の利害関係なんて気にしないで手を貸す。
それが・・・教師の役目だと!
教師の幸福だと!」
グラビティロードこと、藤原 玲二は
ここで殺される事に不満を感じてはいなかった。
・・・最後に少しでも教え子の役に立てたというならば、
彼にとっては満足以外の何でもなかった。
掠れた藤原の声が届かないクワガタムシは
容赦なく右手に備えたクワガタの角のようなウェポンを
突き刺すように繰り出した。
・・・しかし、その手応えは恐ろしいほど呆気なかった。
次の瞬間、何者かに腹部を強打されたクワガタ怪人が
うずくまるように何歩か後退した。
「ハッハッハッ・・・ハアアアハッハッハッ!!」
クワガタ怪人の腹部に不意に拳を突き入れた謎のデカブツは、
なぜか人間の姿へと戻った。
・・・その人間は藤原たちの仲間ではない上に、
藤原にとっては見た事もない男子だった。
年齢は見たところ20歳前後、
服はグレーの皮ジャンに黒いスラックスを履いている。
頭髪は黒いが、ワックスでキンキンに尖らせている。
「楽しそうじゃねぇか・・・この俺も、
瀬柳 陣も混ぜてくれよォ?
戦いたくて仕方がねぇんだよォ・・・。」
グラビィティロードは起き上がり、
よくその男子の顔を見ると、
まだ高校生のような若い顔立ちである事に気が付いた。
不良生徒、といった具合だろうか。
「お前、私たちをつけてきたのか・・・?」
「は?知らねェな。
俺は・・・あの時から”対戦相手”を本能的に察知できるようになった。
楽しいんだよ・・・楽しすぎるんだよォ!!」
そう言うと、男子生徒はその場で勢いよく両手を広げた。
「超強化ああああああッッ!!」
男子生徒の叫び声が森中にこだますると、
彼の全身が銀色の鋭い毛皮で覆われ始めた。
一見、人間サイズの熊のように見えるが、
まるで、戦闘に特化したような刺々しいシルエット。
そして、両腕の手首からは
獲物を突き刺すような太い針が
指が伸びる方向に向かって生えている。
「見た事ない・・・フォーサー?」
グラビティロードは、目の前の熊の言動や、
威圧感や、見た目に恐怖し、
本人も気付かぬまま自然と後退していた。
銀色の針の毛皮を持つ熊は
そんなロードには目もくれず、
前方の3体のコマンダーを見据えた。
「データベースに載っていた”ザフラストレイター”か?
いや、多少形状が変化している?」
3体のコマンダーは短い会話を交わし、
熊怪人の情報を交換する。
どうやら、何かしらの見覚えはあるようだ。
「俺はァ・・・ザフラストレイターじゃねェ!!
俺は・・・”ジイグゼキューショナー”だアアアア!!」
熊は両手を目いっぱいに広げ、咆哮を轟かせる。
「俺は1週間前、カエルに殺害直前まで追い込まれ、
生死を彷徨っていた。
・・・だが!!
俺は自分の欲望を思い出したァ!!
戦いが楽しくて楽しくて楽しくてェェェ!!
たまらねェんだよォ・・・。
死にそうな自分がいた事が嬉しくてたまらなかったァ・・・。」
完全に声量を間違った熊は、
悠然と自分のエピソードを語り始めるが、
コマンダーたちが
隙だらけのはずの熊を攻撃する様子は見られない。
その熊の圧倒的な狂気は、
コマンダーたちも感じ取っていた。
・・・明らかに狂っている。
しかし、それでも自分たちへの戦意はむき出しにしたまま、
となるとそれは尋常ではない恐怖でしかない。
「そしたらよォ、俺は身体の異変に気付いた。
有り余る力を自分でも制御できない・・・。
もっと戦いたくて・・・仕方がなくなったァ・・・。
ほらよォォォ!!早く始めるぞォォォ!!」
「コイツ・・・狂って”レベルX”化したのか!?」
コマンダーたちは瞬時に戦闘体勢に移り、
3人掛かりで目の前の熊と対峙する。
熊は欲望を抑えられないように走り出し、
一番前のクワガタムシをモチーフとしたコマンダーに向けて右腕を突き上げた。
腹部を支点として宙へと打ち上げられたコマンダーは
呻き声を上げながら、そのまま叩き付けられ、
地面を転がりながらもがく。
「に、逃げろ!
コイツは本当にヤバい化け物だ!!」
残りの2体のコマンダーは
熊の圧倒的なパワーに驚愕し、同時に背中を向けて走り出したが、
それをジイグゼキューショナーが黙って見逃す訳がない。
熊はすぐに四つん這いでその2体の獲物を追い掛け、
ある程度の距離まで迫ると2本立ちの姿勢に戻り、
両手首から伸びた長いトゲを獲物へと繰り出した。
2体のコマンダーは同時に背中からの追い討ちで
正確に心臓を貫かれ、
そのまま水色の溶液を撒き散らしながら地面へと転がり、
絶命してしまった。
「逃げるんじゃねェよ・・・。
俺の対戦相手に”降参”は許されない!!」
・・・これまでに、
フォーサーレベルX態への進化を遂げたフォーサーは
カオティックフロッグ、ブラッディ・オーバーキラーが存在したが、
いずれも全身の筋力の発達が凄まじい傾向にあった。
今回のジイグゼキューショナーもその例に漏れず、
進化前のザフラストレイターとは比較できないほどのパワーを誇る。
なお、フォーサーレベルX態への進化には
内に秘めた欲望をもう制御できないほどまでに爆発させ、
それを体内のHR細胞に把握させて、
自身の感情とシンクロさせる必要があるため、
レベルX化した時点でそのフォーサーの自我は消え去り、
欲望を果たすためだけに生存する怪物と化す。
しかし、前例の2体は自我を維持し続けていた。
後者は不明であるが、カオティックフロッグは
疑似的にでも、抱いていた大きな欲望を果たしたために
自分を制御可能な状態でレベルX化する事に成功した。
・・・だが、今回の熊はそのような過程を踏んでいない。
「戦う」という欲が消えるのは自分が死ぬ時であり、
すなわち死ぬまでは欲望のままに、
敵を見れば戦い続ける化け物と化した訳である。
「・・・随分と野蛮な猛獣ですね。」
脇から聞こえてきた聞き慣れない声に、熊は素早く反応した。
木陰で腕組みをしながら観戦していたその声の持ち主は、
先ほどまでの悲惨な光景を目にした後とは思えないほど
堂々とした様子で歩み出てきた。
紺色のスーツに上下を包んだ、
スラッとした体付きの長身男性であり、
見ただけでは普通のジェントルマンといった感じであるが
出会った場所が場所だけに不審者にしか見えない。
「お前も俺の対戦相手かァ?」
「私はバーバレス日本支部、武力開発担当幹部、
加賀屋 尊と申します。
立場上、あなたを黙って放っておく事はできない。」
そう言うと、加賀屋と名乗ったジェントルマンは
右手の拳を固く握り、パンチするように正面へと突き出した。
「ローズ・・・ブレイク。」
加賀屋の声が発せられると共に、
彼の身体は黒い皮膚に覆われ、
水色の血管が張り巡らされる。
そして、その身体を防護するように、
複雑な模様の入った金色に光るプロテクターが装着された。
まるで、武士の羽織袴のような見た目である。
さらに、腰には鞘に収められた刀らしきものがぶら下がっている。
「私はコマンダー、”アンダノサーカムスタンス”。
お前のその欲望を・・・ここで途切れさせてみせましょう。」
サーカムスタンスは腰の刀を引き抜き、
両手で目の前の熊に向けて構えた。
その姿は金色の一本角を頭部に備えた武士である。
「面白ええええェェ・・・。
俺を楽しませろッ!!」
そう言い、ジイグゼキューショナーは四つん這いの姿勢で
金色の武士へと急接近を始めた。
・・・・・武士と熊の激戦の隙を見て、
岩のフォーサー、グラビティロードは
怪人態の変身を解き、人間態の藤原 玲二へと戻って
森の中を苦しそうに歩いていた。
彼の仲間たちは周囲で他のコマンダーと戦っているため、
敵が自分に攻撃を仕掛けてくる様子は見られない。
正直、もう藤原は戦える身体ではなかったが、
その森の先に辿り着かなければならない場所があった。
・・・それは彼が生きるための糧とも言える、自らの教え子の居場所。
自分がフォーサーとして下位に位置する事は承知していた。
例え、行って何もできないと分かっていても、
それでもその足を止める事はできなかった。
両手で腹部を抑えながら、
一歩、また一歩と草木を踏みしめ、
10分ほど前に教え子が通り抜けていった森を進んでいく。
―――――その頃―――――
「世界変革に伴う最後の警告ッッ!!」
この俺、陽遊 基ことアリエスは、
全長10m越えの怪獣メカを相手に空中戦を繰り広げている。
さっきから、なるべく接近は控え、
6本の自動槍で怪獣ボディへの攻撃を繰り返しているため、
なかなか戦況は変わらない。
怪獣の上半身に、6本脚の下半身という、
明らかにヤバそうな見た目の巨大モンスターに
致命傷を負わせる事はマジで難しい・・・。
しかも、全身のありとあらゆる場所に兵器が仕込んであり、
何食わぬ様子でガトリング砲やロケット弾などが飛んでくる。
恐ろしいほどの総火力を持つモンスターである事に間違いない。
・・・アリエスの放った自動槍こと
無双夢想六槍が
一斉に同じ軌道を描き、モンスターの頭部へと迫る。
銃弾の装填の隙を突かれたモンスターは
その6連撃を頭部に食らい、傷口から白煙を上げ始めた。
「・・・やるわね。」
モンスターを操作するアンブレラという女性の声が響く。
バランスを崩した怪獣は
フラついた様子で、6本脚を持ちの木々の中に踏み入れる。
・・・もしや、コントロール系の破壊に成功したのか?
「その人間サイズの鎧で、
よくこのGMギガンテスと対等に戦えるわね・・・。
いや、むしろこちらが押されている・・・。」
アンブレラは焦った様子で、
息を弾ませながら言葉を吐き出すが、
決して感情的にならない様が、俺にとってはどこか不気味だった。
「俺のアーマーはパワーに特化したモデルだ。
相手が巨大モンスターとは言えども、
力押しだけのバトルなら勝機はある。」
俺自身、このアリエス・ギャランティアーの本当の力を見たのは、
今回のモンスター戦が初めてだった。
・・・自分が10mを越える兵器と対等に渡り合っている。
冷静に考えればおかしい。
いくら俺がラスボスと戦う物語の主人公だからって
補正が掛かり過ぎてる・・・。
「・・・あなたなら、私を楽にできる。
さぁ、早く止めを刺しなさい。」
アンブレラの優しそうな声とは裏腹に、
頭部を負傷したメカは再び銃弾の発砲を開始する。
「この・・・ツンデレ&メンヘラ野郎が!」
俺は6本の槍を自分の周囲へと集合させると、
回転させながらそれをシールドに利用し、
自分は必殺技のモーションへと移行する。
「まさか、コレを出す事になるとはなぁ!
俺をここまで本気にさせる事を後悔しろ!」
・・・ここまで来たらさすがに迷いはない。
普通のよくいる主人公なら
アンブレラを殺さずに保護するんだろうけど、
俺はそんな設定は考慮していない。
つまり、あのモンスターと共に搭乗者の女が死のうと関係ない。
「完成された世界の兆候と、
それに基づく絶対的制裁ッッ!!」
俺が叫ぶと、盾になっていた槍たちが
俺を囲むように周囲をグルグルと周回し始める。
そこで背中のブースターをフル起動させ、
俺はまるで仮面ライダーがキックを決めるように、
右足の裏をモンスターに向けて、
高速で接近していく。
俺の後に続くように、
6本の槍は円を描きながらついてくる。
「はああああああああッ!!」
無数の銃弾を跳ね飛ばしながら、
まっすぐにモンスターの腹部を狙う。
・・・正直、これでアーマーが無事だという保証はない。
でもこのまま長期戦に持ち込まれたら
スタミナ切れが懸念される俺の方が不利だ。
だから、決めるしかない!
この必殺キックで終わらせなければ、
俺が死ぬ可能性もある。
見る見るうちにモンスターとの距離が縮んでいく。
どの遊園地のアトラクションでも、
今のこのスリルを味わう事はできないだろう。
あと20m、10m・・・。
その瞬間は、知覚するにはあまりにも短かった。
俺の視界は一瞬だけ暗闇に飲み込まれ、
再び元の森林へと映った。
そして、そんな俺のすぐ背後では
6本の槍がより広範囲の金属パーツを切り裂く音が聞こえる。
「お見事・・・。」
搭乗者であるアンブレラの声が一瞬だけ聞こえた気がした。
でも、ちゃんと聞く暇なんてなかった。
俺がラスボスを倒した後のゲームのエンディングを
勝手に頭の中で流し始めようとした次の瞬間、
けたたましい爆音が連続で響き渡り、
アリエスの身体は白い光に包み込まれた。
思えば、火薬庫みたいな塊を切り裂けば、
十分危険な事は承知するべきだった・・・。
・・・不意の出来事で視界と聴覚がやられ、
周囲がよく見えない。
でも、確かな事は1つ。
俺は今、「落下している」。
その感覚は確かにあった。
それこそ、ジェットコースターで味わうような
あの落ちるような感覚。
わりかし俺は好きな方だけど、
今それを楽しむような余裕はない。
・・・この落下した先に待っているのは・・・?
自分の身体を探るように触ると、
アリエスのアーマーは先ほどの爆発で部分的にパーツが弾け飛んでいる。
言うまでもなく、背中のブースターも破壊されている。
つまり、今の俺を防護する装備はない。
一応、俺はフォーサーであるため、
強化皮膚を持つメカニクス・マグニファイアーへと変身する事もできる。
・・・はずだけど、思うように身体が動かず、
怪人態への変身も自分の意思ではままならない。
・・・詰んだのか?
俺は空中で目を閉じた。
恐ろしいまでに心地良い風を身体に受けながら、
うつ伏せの姿勢で落下していく。
「・・・死にたくねぇよ・・・」
俺は自然と、そう口にしていた。
「まだ俺にはやる事があるんだよおおおおお!!」
何のために・・・。
俺は何のためにここまで来た?
何のためにアーマーを貰って、
何のためにフォーサーになって、
何のためにテロ組織に喧嘩を吹っ掛けたんだ・・・?
・・・そのまま落下していった俺の身体は、
地面にぽっかりと空いた半径50mほどの穴に吸い込まれた。
内部は金属質な壁面になっており、
そこがバーバレスの基地であると判断するまでに
そう長くは掛からなかったけど、
理解した次の瞬間には、
俺の身体は堅い床面へと叩き付けられていた。
・・・血が噴き出し、臓器が飛び出し、
見る見るうちに感覚がなくなっていく。
しかし、なぜか痛覚だけが激しく抵抗を続ける。
痛い・・・痛い・・・痛い!!
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!!!
痛い痛い!!痛い痛い!!
・・・生きたい・・・!!!
生きたい!!生きたい!!
まだ、生きたい!!!
生きたい!!!
「死にたくないんだよォォォォォォ・・・。」
自分の身体を見る事はできないけど、
さぞかしグロテスクな事になっているのは分かった。
おそらく、5分ほどで死ぬ状態であるが、
自分の本能的な意思は
このまま楽になる事を許してはくれなかった。
「どうかァァァァァァ・・・俺に・・・・・」
自分の意思とは関係なく、
勝手に言葉が漏れ出す。
そればかりか、勝手に視界を操作される。
・・・かろうじて残っている視覚に捉えたものは、
何やら開発途中にも思える「ポット」のようなものだった。
それも、人間が乗るサイズで、
洗濯機を3倍くらいに大きくしたようなもの。
「タイム・・・マシン・・・?」
岡本さんがブラッディ・オーバーキラーから聞いた話だと、
バーバレスではタイムマシン開発が極秘裏に進められており、
将来的にはその第一号ができるという事だった。
「がはああッ!!」
激しく喀血して頭を垂れた俺は、
いよいよ自分の最期を悟る。
もう自力で頭を上げる事はできなさそうだ。
「ハァハァハァ・・・まだ・・・死なねぇよ・・・。」
俺の口は、まだ諦めずに苦し紛れの言葉を吐き出す。
・・・と、ここで俺は気付いた。
自分はまだ死にたくないと思っている事。
まだやり残した未練が残っているという事。
その言葉を発しているのは誰でもない、
俺だという事。
「まだ・・・まだ・・・まだアアアアアアアアアア!!」
停止しかかっていた俺の心臓が
ドクンドクン、と急激に息を吹き返した。
それに伴い、身体も熱くなる。
そして、なぜかは分からないが、
さっきまでの激しい痛みも、どんどん引いていく。
・・・何が起こっているかは分からない。
油断していたその時、
さっきまでの痛みとは違う、
“苦しみ”のようなものに咄嗟に襲われた。
「うがあああああああああ!!」
気付けば、俺はあろう事かその場で立ち上がり、
両手で頭を押さえて苦しんでいた。
「何なんだ・・・コレは・・・?」
俺の身体を見渡すと、
いつの間にか元の健常者の身体に戻っている。
血が噴き出た跡は残っているから、
夢ではなかったんだろうけど、
明らかにおかしい。
「あ、アレ・・・?」
ふと前を見据えると、
先ほどまでタイムマシンがあった場所から
ポットが消えているのが分かった。
・・・やっぱり夢だったのか?
となると、俺はもう死んで・・・。
そう思いながら、
俺はめいっぱいに拳で自分の頬を殴り飛ばした。
・・・痛い。
確かに痛い。
夢なんかじゃない。
そして、俺はそこで更なる発見をする。
自分の右腕がドクンドクンという激しい鼓動を打っている。
・・・これは、俺がフォーサーになるためのHR細胞が打ち込まれている場所。
・・・そこで俺は全てを理解した。
俺はHR細胞の修復効果によって
奇跡的な生還を遂げたのだと。
そして、メカニクス・マグニファイアーは
周囲の”機械を取り込む”事で進化するフォーサーであると。
「フッ・・・これはヤバいな・・・。
まさか開発途中のタイムマシンを取り込む事になるなんて。」
俺は鼓動が止まらない右手を握り締め、
口元を歪ませる。
・・・これって・・・俺、勝ち組じゃないの?
タイムマシン取り込んだら普通に考えてチートだろ。
・・・もしかして、俺単独で世界を変えられる・・・?
他の仲間に頼らなくても。
俺一人の力さえあれば、歴史も変えられるのか?
「・・・俺は・・・何のためにここに来た?」
もう一度、自分自身に問い詰める。
その答えは出ているにも関わらず。
「世界を・・・この世界を変えるためにここに来たんだ!」
俺の声が誰もいない基地内に響き渡ると、
すぐに俺の身体は変化を始めた。
全身が紫色の硬質な表皮に覆われ、
金色のカールした角が頭部から2本伸びる。
配色はアリエスのアーマーのそれに似ているが、
モチーフは羊ではなく、ヤギだろう。
そして、背中からはよくイラストで見る「悪魔」のような
黒い大型の翼が2枚生え揃った。
「俺は世界を変える・・・。
そのための身体を手に入れたんだ・・・。」
俺は自分の全身を見渡し終わると、
その背中に生える巨大な翼をはためかせ、
自分が落ちてきた穴に向かって飛び立った。
・・・速い。
アリエスのジェットパックは人工物だけど、
この背中の羽は身体の一部であり、
使いこなせるまでにそう時間を要さなかった。
見る見るうちに地上の光が眩くなり、
遂に、境界線を突っ切る。
・・・地上に出るとすぐ視界に飛び込んできたものは、
辺り一面に飛び散ったGMギガンテスを構成する各々のパーツで、
爆発に伴う山火事も燃え広がっていた。
「やってみるか・・・。」
俺は翼で羽ばたきながら
悪魔の右手をまっすぐに前へと差し出す。
・・・開発途中とは言えども、
タイムマシンを吸収したフォーサーならば
もはや何でもできる。
その結論を、俺は勝手に出していた。
視界が揺れたかと思うと、
瞬時に燃え広がっていた火は消滅し、
白い煙を上げ始めた。
・・・自分でも、俺の身体が何をしたのかが分からない。
ただ1つ言える事は、頭の中がパンクしそうなくらい
勝手に色々な思考が駆け巡っているという事。
でもそれは完全にメリットでしかない。
「お前が、バーバレスの首領様か?」
突如、地上にいる者から話し掛けられ、
見下ろす形で声のした方を確認する。
そこには、中仙道 武雅こと、
世刑海獣ディザイヤー・リヴァイアサンが
立っていた。
ここは任せてお前らは先を急げ、と言い残し
結局生き残ってここまで進んできたって事だろう。
「いや、俺は陽遊 基だ。」
「ほう、確かにその声はお前だな。
ならばその姿は何だ?」
「・・・”ヴァイス・ゼロ”。
それが俺の名前だ。」
不意に頭の中に思い浮かんだ名がそれであった。
「貴様、俺たちに手駒を隠していたという事か?
あれほどの緊張感でそんな事ができるとは。」
「いや、俺はついさっき、
最強のフォーサーに進化した。
だから、もうお前らの協力を得る必要はない。
俺一人で世界を変えてみせる。」
俺はもう、バーバレスとかっていう区別はどうでも良かった。
・・・ローズ・ブレイカーを全滅させる。
その真の目的の遂行を、始める頃合いが来ていた。
「随分と勝手な理由付けだ。
となると、俺とお前は敵同士という解釈で間違いないか?」
リヴァイアサンは巨大な拳を握り締め、
ファイティングポーズを取った。
「まったく問題ない。」
俺はそう言うと同時に、
リヴァイアサンとは反対方向に何者かの気配を感じて振り向いた。
「残念ながら、あなたの行動は少々勝手が過ぎる。
その理由では同盟を解除する言い訳にはなりません。」
そう言ったのは、
上戸鎖 祐樹こと
トランセンデンタル・オーガナイザーであった。
コイツもしぶとく生き残って
ここまでやってきたらしい。
「じゃあ、2人掛かりで倒してみろよ。
この進化した俺を!」
この2体の相手がどちらもラスボス級の性能を誇る
ヤバいローズ・ブレイカーである事は知っている。
でも、今の俺になら、
このヴァイス・ゼロになら、
ヤツらを同時に相手しても勝てるような気がしてならない。
・・・ますは、コイツらを処理しよう。
そして、俺はいずれ全世界のローズ・ブレイカーを始末する。
それが俺の当初の目的であり、
俺が自分を犠牲にして戦う理由でもあるんだ。
俺が望む、
皆が何も考えずに"中二病"でいられる世界のために。
@第34話 「世界を変える準備が整った。」 完結
次回、ブレイキング・ローズ最終回




