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ブレイキング・ローズ  作者: まるマル太
第5章 何が正しくて、何が間違いなのか
36/42

@第31話 言えなかった"ありがとう"

@第31話 「言えなかった”ありがとう”」






・・・あの会合からちょうど1週間が経過していた。


結局、皆で集まる集会は2回ほど行い、

できる限り詳細な作戦を立てていたが、

敵の勢力が不明である以上、限界があった。


そこで、この私、伊集院いじゅういん 雷人らいと

事前調査も含めた偵察のため、

長野県の森林地帯にあるというバーバレス日本支部へ続く道を進んでいた。


私が開発したDEADデッドは、

専用ビークルに変身用アーマーを収納しているため、

戦闘に備えてバイクで森の中を進む必要があったが、

そこまで道幅も狭くないのが幸いだった。




・・・現在時刻は18時を過ぎたところだ。

夕方とは言え、ビークルを用いた私の接近に

バーバレスが気付いていない訳がない。


しかし、この場所が彼らの日本支部であるという情報は、

怪しげなフォーサー、ブラッディ・オーバーキラーから

聞き出した情報であるのみで、

正確である保証はない。

それでも、オーバーキラーがバーバレスに命を狙われていた、となれば、

ここでヤツが嘘を流すメリットはないだろう。


あらかじめバイクのモニターに設定しておいた目標地点まで

残り1kmを切った。

が、周囲に映るのは森の木々のみで

一向に施設の様な建築物は見当たらない。

・・・となると、”地下”か?




バーバレスは世界的に隠蔽される必要のある組織である。

地上に基地を作るほどの度胸はないだろう。


地下への入り口を探すというのが正攻法であろうが、

私にはそれがどうにも億劫に感じられる。

手っ取り早い方法は簡単に思い付くのだが・・・。




私はサイドカー付きバイク、

無双瞬行むそうしゅんこうインフェルノ・チェイサーを木々の間に停め、

被っていたヘルメットを収納した。


・・・神経を研ぎ澄まし、

周囲の生物の気配を感じ取る。

が、聞こえるのは虫やカラスの鳴き声のみで、

人間が立てる物音は聞こえない。


・・・いや、何者かの視線を感じる。


私は瞬時にその方向を向き、

目を凝らすと、200mほど先に人影が見える。

しかも、その人影は草木をかき分け、

ゆっくりとこちらに歩を進めてくる。


・・・見たところ、紺色のスーツを着用しており、

武装はしていない。

それでも、警戒しない訳にはいかない。

私はいつでも変身できるようにDEADデッドチェンジャーを構え、

腰に巻いた変身用ベルトのバックルを確認する。


背後やサイドからの不意打ちも警戒するが、

前方のスーツ男以外に人気はない。




「・・・いらっしゃいませ、伊集院いじゅういん 雷人らいとさん?」

スーツ男は私の20mほど手前で立ち止まり、

丁寧に礼をする。

この場で私の名を知っているという事が分かれば、

バーバレス団員である事を疑う余地はない。


「ほう、自ら出迎えとは感心だ。

 バーバレスよ。」

「・・・私がバーバレス首領、ドラスティックです。」

・・・いきなり敵の前に首領が単独で姿を現すとは驚きであるが、

それほど私を倒す自信があるのだろう。


「私の目的は分かっているな?

 ならば倒してみよ、この私を。」

私はそう言いながらDEADチェンジャーにコマンドを入力するが、

そこでドラスティックが笑い始めた事に気付き、

手を止めた。


「・・・ハッハッハッハッハアアア!!

 伊集院さん?あなたがここに立ち入った時点で、

 もうあなたに勝ち目はないですよ。」

「それはどういう意味だ?

 時柳宋じりゅうそう 衛久守えくすの事か?」

「いえ、私はあなたを倒すためにわざわざ日本に来ました。

 それほどあなたは、伊集院いじゅういん 雷人らいと

 倒す価値のある人物です。」

・・・この男にはそれほどの余裕があるという事か?


「ほう、ならば見せてみろ。

 お前のその余裕の正体を。」

私をそう言い終わる前に、

僅かな異変に気付いていた。

・・・重圧か?空気が重い?


「フッ・・・この程度か?」

やや、自分の身体が重くなるような感覚に襲われるが、

毒ガスなどを巻かれたような様子はない。

それに、この程度ならば戦闘に支障は出ない。


「フフフフフ・・・私はまだ攻撃を仕掛けていませんよ?」

そう言うと、ドラスティックと名乗る男の全身に

水色のラインが発光し、すぐさま黒い肌が身体を覆い尽くす。

・・・この男も怪人である事は予想できていたが。


・・・身体には、上からまっすぐに何本もの水色のラインが通り、

ストライプ状の模様になっている。

頭部は頭の頂点まで無数の複眼で覆われ、

そのふちが水色のラインで区切られている。

背中にはボロボロになった蝶の羽のようなものが2枚生えており、

その羽の中の規則的な模様も水色の線で描かれている。

更には、両肩部分からは寄生虫のようなワームが何匹も顔を出してうごめき、

そのグロテスクなイメージを更に加速させる。


全体的に、黒と水色という配色は

時柳宋じりゅうそう 衛久守えくすのノウベタザンと同じだが、

その姿は全くと言って良いほど違う。




「フェロシャス・リゾルバー・・・私がバーバレスの長です!」

ちょう怪人の全身の水色ラインが眩く発光し、

薄暗い森の中を照らす。


「その怪人で、この私を倒せると?」

私は奇妙な感覚に襲われながらも、

DEADデッドチェンジャーにコマンドを入力。


《Hello world!! Excuse me?

 Answer、Answer、Answer、Answer・・・》


「シング・アゲイン!」

《Certified!!》


そのままバックルにチェンジャーをセット。


《Forcible execution!!

 Identify your identity!!》


木々の間に停めておいた専用バイクのサイドカー部分から

無数のアーマーパーツが飛び出し、

私の身体へと装着されていく。

すぐに、サイドに赤いラインが入った漆黒のロングコートを纏った

ドミクロンが出現する。




「フッ、準備はできたようですね?」

怪人特有のくぐもった声をちょう怪人が発した。


「悪いが、手加減する気分ではないものでな。

 好き勝手にやらせてもらう。」

私は意識を集中させ、

いつものように高速処理が可能となる

ツヴァイブレインの起動準備に入る。


「・・・何?」

・・・身体の様子がおかしい。

先ほどから少し身体が重くなったような感覚に襲われてはいたが、

動く分には支障がないほどだ。

しかし、ツヴァイブレインは一向に起動しない。


「・・・リゾルバー、貴様の能力か?」

「フフフフ・・・その通りです。

 いつ気付くかと不思議に思っていましたが、

 ようやくですか。」

気のせいか、やや耳が遠くなった気がする。

それに、先ほどよりも体が重い。




「・・・しかし、あなたはまだ気付いていません。

 自分の身に何が起こっているのか。」

「何だと?」

「あなたの精神は、私の出現で警戒状態にあります。

 しかし、脳は”慣れる”。」

奇妙な事を口走るリゾルバーを

早めに始末しようと腰の斬馬刀へ手を伸ばす。


・・・が、私の視界には彼以外の人間が突然映り込む。




「・・・何なのだ?これは?」

私の目には、見覚えのある中学生らしき学生服を着た男子と

数人の人間が映し出された。

・・・間違いなかった。

その男子は中学生の頃の”自分”である。


まるで夢の中で自身が映像化されて表現されるように、

私の前には、幼い頃の私がいる。


「精神干渉か・・・。」

ドラスティックがバーバレスの首領となった経緯は不明だが、

そこに何らかの理由がある事は予想できていた。

・・・それはおそらく、”精神干渉”能力の所持に関する。


「その通りです。

 私はこの周囲に展開する精神フィールド内の対象に向け、

 幻覚、幻聴を引き起こさせる事ができます。

 あなたが近いうちに、ここに来る事は読めていましたので

 あらかじめフィールドを張っておいたのです。」

次の瞬間、突如襲われた激しい頭痛に耐え切れず、

私はその場に両膝をついた。


「くっ・・・やめろ・・・やめろ!!」




・・・かつて、私は孤独だった。

ツヴァイブレインの影響で勉強や運動など何でもこなせる私は、

多くの同級生から妬まれた。


その中でも唯一、自分に寄り添ってくれた女子、

天海あまみ 千春ちはる

私の犯したミスで愉快犯に殺害された・・・。




それらの思い出したくもない、

無駄な過去が、私の前に走馬灯のように展開されていく。

激しい吐き気を催し、

草木の地面へとうつ伏せに倒れ込んだ。

頭が割れるかのように、何者かに引き裂かれるかのように、

痛む。

・・・このままでは確実に耐えられない。




「ディクライニング・ライブズ・・・。

 対象に過去のトラウマを引き起こさせ、

 その当時と同じ重みのストレスを一瞬のうちに全て負担させる。

 私の、パラサイトを超えた最強武器ですよ。」

「やめろッッ!!やめろおおおおおッッ!!」




・・・私は過去を捨てたつもりであった。


かつては天海あまみのために、

不要な人間を処理するためのゲーム製作を行ったりもしていたが、

死んだ人間の思考を汲み取る事がいかに愚かなのか気付き、

私は、その瞬間から天海あまみ 千春ちはる

自分の中から跡形もなく消し去ったはずであった。


しかし、人間の記憶は自分で管理する事ができない。


どう足掻いても、私が天海あまみ 千春ちはる

完全に喪失する事はできなかった、という訳だろう。


これだから人間は・・・「空虚」なのだ。


この場で精神的に朽ち果てた私は、

あの怪人にいとも容易く殺害される。

それも選択肢の一つとしては有り得る。

そして、今の私自身は、それすら是と認めている気がする。

この目の前の人間の過去をえぐる怪人に・・・「私は勝てない」。




「フフフフ・・・あなたは愚かですよ。

 たった一人でこのバーバレスを倒そうと試みるなど、

 あの天才、伊集院いじゅういん 雷人らいとらしくない。」

・・・敵の声を聞く余裕はほとんど残されていなかったが、

蝶怪人が接近してきているのは分かっていた。

しかし、私の幻覚、幻聴は目まぐるしく変化し、

見る見るうちに私をむしばんでゆく。


・・・私はその時、

トラウマの走馬灯から聞こえてきた声に、

つい耳を傾けたのだった。




『俺は自分の大切な人を失う、辛い経験をしました。

 だから、他の人にはそんな思いをしてほしくない。

 そう思っただけです。』

・・・誰の声だ?

聞き覚えはあるが、すぐには出てこない。




『・・・俺は自分の”過去”を活かすために、

 そして自分のような者を出さないために、

 この身を捧げたい。』

・・・思い出した。

約10年前、私がアブソリュート・アーツ社に務めていた頃に、

開発者である私を見事に破った高校生の声。

私と、最大の思想対立シンキング・ウォーズを繰り広げた者の声。




私にとって、天海あまみは大事な人間だった事実は

絶対に消える事はない。

・・・過去は絶対に変わらない。


・・・私がかつて単独でシンギング・ウォーズを開発し、

アブソリュート・アーツ社に持ち込んだのは

天海あまみのためであった。


・・・確かに、死んだ人間の意思を知るすべはない。

しかし、死んだ人間を”大切に思う”のは

残された人間の勝手だ。


・・・そうだったのか、天海あまみ

私は天海あまみの意思を継ぐ必要は無かったのだ。

私がすべきであった事は・・・。

私の”アイデンティティー”は・・・!






「・・・ん?」

うつ伏せの状態から

やおら起き上がった私を見て、

リゾルバーは傍観の姿勢を崩した。


「・・・貴様ら”ゴミ”を始末する事だ!!」

私は斬馬刀を引き抜き、

すぐ目の前で私を観察していたリゾルバーを切り裂いた。


「ぐっ!?」

リゾルバーが不意打ちに対応できず、

真正面から斬激を受け、何歩か後退する。


「なぜ・・・なぜ私の精神フィールドで

 平常心を保っていられる!?」

「フッ・・・強制的に過去を振り返させられた事で気付いたのだ。

 私が無意味な苦痛を負っていたと。」

私はおそらく、無意識の中では

天海のいない世界を自分の意思で”浄化”する、

という行為を続けていた。

しかし、それに気付く事なく、

謎の欲望に身を委ね、私は殺人を繰り返してきた。


・・・私は今、自分の欲望の”正体”をようやく知る事ができたのだ。




「誰にでも・・・思い出したくない過去があるはずです!

 私は他人のそれを強制的に引き起こす事ができる!

 それなのに・・・あなたはなぜ普通に立っていられる?」

「・・・過去の最大の未練が晴れた、と言えば分かるか?」

私は腰のDEADチェンジャーを開き、

コマンドを入力する。




《Customize your DEAD!!

 Answer, Answer, Answer, Answer・・・》




「過去は変わらない!!

 何をしても死んだ人間が救われる事はないのですよ!

 未練がそう簡単に晴れる訳がない!!

 しかも、何年間も孤独に呪われたあなたがッ!!」

・・・このドラスティックという男には、

何か辛い記憶がある事は直感で理解できた。

おそらく、精神干渉能力も

自分の思い出したくもない過去を動力源にして編み出した技なのであろう。

私には同情している暇など残されていないが。




「生憎であるが、今の私は

 自分を”孤独”と呼ぶには適さぬ。

 目的を同じくした同志がいるものでな。」

「・・・伊集院いじゅういん・・・ライトおおおおおお!!!」


「”ツヴァイアンサー”、起動。」

《Certified!!》


私は入力が完了したDEADチェンジャーを

再びバックルへとセットした。


《Call your Answer!

Call your true Answer!!》


専用バイクから、追加のパーツが次々と飛び出し、

私へと装着される。


・・・ロングコートのサイドに入った赤いラインは

血管のように細かく分かれ、コート全体を駆け巡る。

両腕の前腕には、腕にぶら下がるように小型の四角い武器庫が装着され、

重装備のドミクロンが誕生した。




「”ドミクロン・ツヴァイアンサー”。

 私がリヴァイアサンとの戦闘から

 パワー不足を懸念してチューンした新型アーマーだ。」

「・・・私をこの場で葬る事ができますか?」

蝶怪人の両腕がまるで熊の腕のように一瞬で肥大化し、

鋭い爪を開閉させる。


「・・・お前のアイデンティティーを確立せよ。」


先ほどの過剰なストレス攻撃により、

おそらく私の脳部に打ち込まれたHR細胞は死滅した。

そのせいで先ほどから物凄い頭痛が収まらない。


・・・確実に、これが私の最後の戦いになるだろう。


目の前の敵を倒し、バーバレス日本支部の規模を知るまでは

死ぬ訳にはいかない。


それまでは・・・自分を信じて戦う他なさそうだ。



























―――――その頃、岩手県では―――――




「・・・だから、何というか。

 微妙な気持ちなんだよね。」


・・・この俺、陽遊ようゆう はじめ

高沢たかさわ れつが入院している

緑野病院へと来ていた。




糖尿病で目が見えなくなっていたはずのれつ

なぜかこの1週間で完全に回復し、

身体の麻痺どころか視力も完全に元に戻っていた。

・・・どう考えても誰かが何かしたに違いないんだけど、

れつには手術の記憶がないらしい。


その人物を探すにあたり、ヒントになるのは

緑野病院のすぐ近くにある

川岸で見つかった坂本さかもと 荘乃そうのの死体。

それに加えて、一週間前から行方不明となった

蔵本くらもと 秀人ひでとの存在。


でも、そのヒントだけじゃ正解には辿り着けない・・・。


たぶん、俺の予想だと”HR細胞”が絡んでいると思うんだけど、

担当医は診察を曖昧にして、事実を隠蔽しているらしい。

そうこうしているうちに、

様子を見るという理由で入院し続けるのも

今日が最後だった。


俺も前に両腕の怪我で緑野病院に入院してたけど、

その時もちゃっかり元気になった俺を

医者は言及してこなかったんだよね。

たぶんニュースにされて面倒な事になるのを防ぐためだと思う。




ちなみに、れつ本人は別に

警察とかに連絡する事は考えていないらしい。

もう視力を失うのを黙って待つだけだった彼女にとって、

以前のように健康な体に戻れた事は、

間違いなく得しかないはず。


・・・でも、れつの感想は

俺の予想していたものとは違った。




「・・・え、じゃあれつは前の目見えない方が良かったの?」

「・・・。」

ベッドに腰掛けて話していたれつ

不快そうな顔で床に視線を落とした。

・・・だって普通に考えれば、

車いす生活から元気になって嬉しくないヤツなんていないだろ?


「確かにさ、健康な生活は何よりだよ。

 でも・・・あの夜の事、全然思い出せなくて・・・。

 誰に何をされたのか分からないって凄い気持ち悪いし、

 それに・・・。」

「それに?」

「・・・私は目が見えないからこそ、

 何の制約もなく色々な場所に行けた。

 妄想だけで本当にそこに行った気になれた。

 でも、現実がハッキリ見えるようになった今の目は

 私にとってはあんまり良いものじゃないんだよね・・・。」

言いたい事はまぁ分かる。

でも、彼女が一般人通りの考え方じゃないのも分かった。


「あーそうなんだね。

 ところで、秀人ひでとの行方不明について何か知ってる?」

元はと言えば、俺はそれが謎すぎてここに来たんだ。

俺はこの一週間は学校に行ってたけど、

前の席の秀人ひでとはその間、1日も来ていない。


「うーん・・・。

 最後にお見舞いに来てくれたのは

 先週の土曜日、1週間前だね。

 私のお見舞いから帰った後に行方不明になったって・・・。」

「さすがに、いくらバカなアイツでも、

 1週間消えたら事件だよな・・・。」

正直、俺はバーバレスの件で今は忙しいから

秀人探しをしている暇は無い。

・・・でも、それなりに心配ではある。

アイツはフォーサーだ。

厄介事に巻き込まれる確率は一般人よりも高い。


「でもね、よく分からないんだけど、

 なぜか秀人ひでと君はすぐ傍にいるような気がするんだよね。」

「いや、それ最終回で、死んだ主人公を懐かしむ台詞だから!

 まだアイツ死んでないかもだし・・・。」

「・・・何か、言葉では説明できないんだけどね。

 健康になってからずっと、

 秀人君がお見舞いに来てくれた時みたいな感じがするの。」

「もしかしてれつはアイツの事好きなのー?」

俺は必死のツンデレ返答を求めて

彼女をからかったつもりだった。

でも、彼女はまっすぐに俺を見つめて笑顔を見せてきた。


秀人ひでと君が許してくれるなら、

 私はああいう優しい男子と結婚したいよ。」

正直、これには俺もビックリだ!

たぶん、今、驚いて凄い顔になってる。


「・・・でも、糖尿病で車いす生活の相手なんて嫌でしょ。」

「いや、だってお前治ったじゃん!」

「前の話だよ!

 だから今、そこにいるのがはじめ君じゃなくて秀人君だったら

 ちょっと頑張ってみようって思ったと思う。」

それはじめ君いる前で言うなよ・・・。

いやマジで傷付くからさ・・・。


「私の事、すごく心配してくれて、

 何度もお見舞いに来てくれて、

 楽しい話をしてくれて・・・。

 本当にあんな男子、生まれて初めて会ったよ・・・。」

秀人ひでとが良心でお見舞いに来ていたのか、

元かられつに気があって、

アタックしに来ていたのかは分からない。


・・・分からないから、気になるから、

どっちか教えてくれよ・・・秀人ひでと

・・・まぁ、何となく俺には分かるけどね。


れつの事になると泣き目になって、

自分の家族の事みたいに本気で相談してきたっけ。


・・・たぶん、お前の努力は実ったよ。

今はまだれつは健康な体に慣れてないけど、

お前はたぶん、ちゃんとれつの事を救えたよ。


しかも副産物でリア充化かよ・・・羨ましいな。お前は。




「あ、アレ?」

俺は気付けば涙を流していた。

慌てて目にゴミが入った事にしようとしたが、

目の前の女子も全く同じ状況だったのを見て、

俺は黙って自分の涙を袖で拭いた。


・・・バトル作品の中での”行方不明”は

だいたい後から出てくるフラグなんだよ。

忘れるなよ・・・秀人ひでと


絶対に・・・戻って来いよ。





























―――――その頃、都内では―――――




「・・・という事で、バーバレス本拠地へと乗り込む事になりました。」

この私、上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうき

長らく使っている都内のビルの一室に1人の客を招き、

2人で今後の計画を話し合っていた。


「なるほどな。

 しかし、そのバーバレス解体で私が直接的に協力できる事はないぞ?」

その客とは、元レボリューショナイズ社の研究員で

現医者である、太斉だざい たける


「私も、変な組織に目を付けられるのはごめんだ。

 不必要な危険を孕む行為は慎んでいる。」

「それは分かっています。

 あくまでも、報告のみです。」

「・・・そのローズ・ブレイカーとやらの

 戦闘には興味があるがな。

 上戸鎖かみとくさり、お前もせっかくの

 新しい力を存分に試す事ができるであろう?」

私はフォーサーゼイアー態となり、

以前のトレディシオン・ルイナーを超越する力を手に入れた。


この1週間でフォーサーたちとの戦闘を何度か経験しているが、

通常のフォーサー相手であれば負ける事はない。

それどころか、敵の攻撃を食らう事もなかった。

それは長所とも取れるのだが、

私は自分の力を存分に見せ付けて支配するのを好むために、

殺す直前まで追い詰める事を理想としている。

しかし、パワーの計算を間違い、

今週中に相手したフォーサーは全員殺害してしまっている。


「そうですね。

 しかし、この力はあまりにも強力過ぎて

 私自身でも怖いほどですよ・・・。」

「まさか机上の空論でしかなかった”ゼイアー”を実現するとはな。

 本音を言えば、お前を解剖して研究材料にしたいところではあるが、

 更なる面白そうな検証は、お前が生きていなくてはできぬ、」

私は苦笑し、椅子から立ち上がった。


「・・・例の面倒なヤツらですか。」

私は会議室の入り口をまっすぐに見る。




・・・私はこの1週間ほど、

他のフォーサーたちに戦闘を挑まれる事が多かった。

それは訓練用の相手などではなく、正真正銘、敵組織の回し者である。


メンバーは不明であるのだが、

どうやら、レボリューショナイズ社の

じょうがさき派の研究チームが

密かに活動を続けているらしく、

その方針として私を始末すべく動いているらしい。


かつて、城ヶ崎が、

適用者がフォーサーになりやすいという

“HR細胞の亜種”の話をしていたが、

おそらく城ヶ崎と組んでそのHR細胞を製作したグループであろう。




「まったく、騒がしいものだな・・・。」

不快そうに太斉だざい氏が呟くと、

会議室のドアが開け放たれ、5人ほどの白衣を着た連中が入り込んできた。


上戸鎖かみとくさり 祐樹ゆうき

 我々はお前の居場所がここだと突き止めた。

 だからこうして訪れてやったのだ!」

一番背の高い、メガネを掛けた男が説明する。


「フッ・・・どうやって調べたのかは分かりませんが、

 招かれざる客を接待するつもりはありません。」

私はそう言いながら全身に力を込める。


「ジェネレイト!」

叫ぶと同時に全身に漆黒の薄い装甲が張り巡らされ、

両肩から白いDNA構造の模様が刻印されたローブ、

ドミネイトが生えてくる。


トランセンデンタル・オーガナイザーへと変身を完了すると同時に、

視界に映るもの以上の情報が私の脳内へと流れ込んでくる。

未だにこの情報を最大限には利用し切れない私がいるという事に、

多少ながら劣等感を抱いているが、

現状、それを利用しなくては勝てない相手とは戦った事が無い。




「私たちの同志を奪った・・・フォーサーゼイアー。

 こうして戦える事を喜ばしく思うぞ!」

メガネの男は瞬時にカマキリを模したような怪人へと変身した。

怪人態へと移行するスピードが異常に高い。

これも、城ヶ崎が生み出したフォーサー用HR細胞の影響か?


「ここではのんびり戦えませんので、

 あなた方には悪いですが、瞬殺させていただく事にします。」

私はそう言い、両脚に力を入れ、

床を蹴り放とうとした、その瞬間だった。


「ぐっ!?」

そのカマキリのような姿をしたフォーサーは

突然自分の喉元を押さえ、うつ伏せに倒れ込んだ。


「がああああ!!くそっ!!」

苦しそうにもがくその男は、

いつの間にか人間態へと戻る。




「・・・ん?」

私はまだ何もしていない。

死ぬのは勝手であるが、

謎の死を遂げられる事は気持ちが悪い。


私はそこで、白衣姿の他の4人の視線につられ、

自分の背後を見やった。

と、そこには、水鉄砲のようなものを構えた

太斉だざい氏が立っていた。


「・・・目の前で騒がしくされるのは好きじゃない。」

それを見て逃げ去ろうとする白衣たちは

不自然に次々と床に倒れ、苦しみ始める。




私はそれを確認すると変身を解き、

背後で水鉄砲をいじっている太斉だざい氏へと近付く。

よく見るとそれは水鉄砲ではなく、

金属質な銃身に、タンクを装備した奇妙な銃だった。


「今のは、何をしたのですか?」

「あぁ、前々から研究してはいたのだが、

 体内のHR細胞を強制的に破壊するウイルスの開発に成功した。」

・・・HR細胞を・・・破壊?


「HR細胞は打ち込まれる部分が人によって異なる。

 しかし、私の開発したHR細胞破壊ウイルスは

 対象の身体中に散乱し、その内部のHR細胞を壊す。」

「・・・それは、場合によっては、その対象が死ぬという事でしょうか?」

「その通りだ。

 HR細胞には成長具合に応じたレベルが設定されているが、

 そのレベルが高いほど、細胞の破壊は重大な影響を及ぼす。」

・・・まさか、これほどまで有効的な

フォーサーの殺害道具を単独で開発するとは・・・。

元研究員とは言え、太斉だざい氏の技術は

現在のレボリューショナイズ社直属の研究員を超えている。


上戸鎖かみとくさり、私はお前を脅すつもりはない。

 しかし、このウイルス銃を所持するのは私のみではないと覚えておけ。」

「・・・誰かに譲渡したという事ですか?」

「あぁ、岡本おかもと 龍星りゅうせいという男だ。

 私の噂を聞き付けて病院を訪れた。」

・・・対バーバレス同盟を組んだ時にいた男か。


「直接バーバレスとの戦いには関わりたくないが、

 私でもちょっとした支援は可能だ。

 じょうがさきがバーバレスと関わっていた以上、

 敵組織にフォーサーがいる事は十分想定できるであろう?」

確かに、それには頷ける。

しかし、あの岡本という男は

今週中に二度開かれた会合に顔を出さなかった。

私は彼の素性が分からないために、油断ができない。


「・・・そして、このウイルスはバーバレスを倒した後の戦いにも有効だ。

 圧倒的にバーバレスの方が手強い敵であろうが、

 城ヶ崎の手下たちも、なかなかに面倒な事には違いないからな。」

城ヶ崎はHR細胞を改造し、意図的にフォーサーを創り出す実験をしていた。

そのせいで、私を殺害しようとするはえどもは

数があまりに多いのだ。


・・・そう。

太斉だざい氏が言う通り、バーバレスを倒すだけでは、

私の戦いは終わりそうにないのだ。

フォーサーという存在に進化してしまった以上、

戦いの果てはまだ見えない。


しかし、それは私にとっては願ったり叶ったりでもある。

元々、”支配欲”が異常に高い私は、

戦闘で敵を制する事に快感を覚える。


死なない限りは、

このフォーサー生活もまだまだ楽しめそうだ。






























―――――その頃、バーバレス日本支部周辺では―――――




「グッ・・・!!」

ちょう怪人ことフェロシャス・リゾルバーが

爆撃を受けて草木の地面を転がる。


ドミクロン・ツヴァイアンサーの両腕に装着された

アーミーナイフのような武器庫には

ブレードやマシンガンなどの様々な武器が自在に換装され、

圧倒的優位性でリゾルバーを追い詰めていた。


「ツヴァイブレインを失くしても、

 お前を倒すぐらいの余力は残っているようだな。」

ドミクロンが挑発する。


「バカな・・・私の精神攻撃を受けた相手に

 勝てないなんて・・・。」

「それが貴様の限界だ。

 貴様らバーバレスのな。」

そう言うと、ドミクロンは両手の武器庫からブレードパーツを換装し、

リゾルバーへと接近していく。


リゾルバーはたくましい両腕でそれを防御しようと試みるが、

タイミングが遅れ、胸部に斬撃を見舞う。


すかさずドミクロンは

ビーム砲の銃口を右手の武器庫へと換装し、

そのまま零距離射撃に近い距離で撃ち放つ。

そのあまりの威力にリゾルバーは宙へと舞い、

背中から地面を滑走した。




「くっ・・・まさか伊集院いじゅういん

 これほどまでの脅威となるとは・・・。」

蝶怪人はやおら起き上がり、

息を弾ませながら独り言つ。


「そろそろ良いだろう。

 まだ生き残りたいと言うならば、私を基地内に案内しろ。」

そう言いながら、ドミクロンは獲物へとビーム砲を向ける。

が、その時だった。


・・・ドミクロンは背後からの殺気を感じ、

瞬時に身体をひねった。

しかし、その反応速度では間に合わず、

打撃の衝撃と共に何歩か後退する。


ドミクロンを襲った筋肉質な黒い身体を持つ怪人は、

両手に握った漆黒の槍を振り回し、威嚇して見せる。




時柳宋じりゅうそう 衛久守えくす!?」

そう叫んだのは弱り切った蝶怪人ことリゾルバーである。


「お前の命令を無視して観戦に来たら、このザマだ。

 やはり、俺様がいなければこの男は倒せないようだが?」

「・・・ノウベタザンか。」

ドミクロンは両腕の武器庫へとブレードパーツを換装し、

防御の構えを取る。

・・・もはやツヴァイブレインを失った伊集院にとって、

衛久守えくすことノウベタザンはあまりにも強過ぎる敵であった。


「悪いが、お前がいくら不利な状況でも

 俺様は手加減などしない。

 正々堂々の勝負には興味がないものでな。」

ドミクロンのアーマーの中で伊集院は口元を歪めたが、

それは自分の欲望を電気信号として取り込んだ衛久守えくすが、

自分と全く同じ思考を披露した事に対する皮肉である。


「・・・構わぬ。

 私は最後まで・・・抵抗するがな。」

実のところ、伊集院はもう限界であった。

ツヴァイブレインを破壊された事による激しい頭痛は絶頂へと達し、

視界は既に揺らいでいる。




―――――――――――――――――――――――――――――――――




時柳宋じりゅうそう 衛久守えくす・・・。

通常の私が唯一、本気を出しても勝てる確証のない存在。

体調が限界を迎えた今の私が、

衛久守えくすとの戦闘を行い、

勝てる確率はほぼ0%に等しいであろう。


しかし、この場から逃げられないのも事実だ。


そうなれば、バーバレス攻略のヒントを残し、

後は仲間に託すのが望ましい行動となる。




・・・次の瞬間、私は短時間に

槍による恐るべき速度の連続突きを食らい、

いとも簡単に地へと崩れ落ちた。


仰向けに倒れた私から

だんだんと自分の意識が遠退いていくのが分かる。


突きを食らった箇所は何故か痛む事なく、

目の前は真っ暗になり、聴覚も急激に衰えていく。

先ほどまでの頭痛も、まるで気のせいだったかのように治まっていた。




・・・あぁ、これが人間の”最期”の姿なのか。


・・・私は結局、自分の役目を果たせずに終わってしまった。

仲間を裏切る事になってしまったのかもしれない。

"ゴミ"となってしまったのかもしれない。

だからこそ、ここで裁かれるべきなのかもしれない。




・・・しかし、私の本当のアイデンティティーは確立できたように思える。


天海あまみ・・・私は、お前の声を聞けない代わりに、

お前のような運命を辿ったはずの人間を、少しでも守れたのだろうか。


いや、そう問う事はやめておこう。

私は、自分の満足が得られた時点で幸せ者なのだから。




『・・・後は・・・頼んだぞ・・・。

 この世界を・・・頼んだぞ!!』


暗闇の中で私は、

最後に声にならない願いを唱える事ができたように感じた。











@第31話 「言えなかった”ありがとう”」 完結




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